万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

英国民投票はEUとの合意案の是非を問うべきだった

2016年06月19日 15時00分34秒 | ヨーロッパ
英首相「不寛容排除」訴え=野党党首と議員殺害現場訪問―国民投票、残留派同情論も
 EUからの離脱を問う国民投票の投票日を23日に控え、イギリス国内では離脱派と残留派の間の対立が激化し、下院議員殺害事件も発生しました。投票結果に拘わらず、双方の間の感情的なしこりは長期的に残ると予測され、国民投票の実施は、国民の間の溝を深めています。

 悲劇的な展開とも言えますが、両派による対立の激化は、当国民投票が表面的にはEUからの離脱を問うていながら、その実、イギリスという国家の将来像を問うものであったからに他なりません。双方ともに譲れない問題であり、かつ、選択肢は”Yes”か”No”の何れしかないのです。およそ最終決定を意味し、かつ、二者択一化された状況では、両派の間で妥協点を見出すことも不可能となりますので、対立の先鋭化は必至であったとも言えます。それでは、こうした事態を避ける方法はあったのでしょうか。

 仮に方法があったとしますと、その一つは、国民投票のテーマを、2月に成立したEUとの妥協案に対する受入の是非に設定することではなかったかと思うのです。このテーマであれば、EU離脱を問う前に、もう一度、EU側と再交渉を行うチャンスが確保できます。国民投票で国民多数が受け入れを拒否すれば、イギリス政府は、その拒絶の投票結果をバックに、EUに対してさらなる譲歩を要求することができるのです。EU離脱の国民投票は、再交渉においてEU側が対英譲歩を拒絶した後でも遅くはなかったはずです。

 今般の国民投票におけるイギリスの状況を見ておりますと、より丁寧な手続きを踏んだ方が、国内の混乱は避けることができたかもしれません。国民投票を四日後に控え、もはや、”時すでに遅し”の状況ではありますが、今からでも国民投票のテーマを変更することはできないものか、と思案するところです。テーマが変更されれば、国内の緊張が緩和され、国民の心にも余裕が生まれるのではないかと思うのです。

 よろしければ、クリックをお願い申し上げます。



にほんブログ村

 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする