銀河戦決勝トーナメント1回戦・2回戦。

2007-09-15 | 対局

当初は全部まとめての予定でしたが準決勝に進出することが出来たので、とりあえず1回戦と2回戦を解説します。放送済みの棋譜は囲碁・将棋チャンネル:銀河戦ページにてご覧になれますので、ぜひご利用下さい。

決勝トーナメント1回戦は片上五段と。なんと和服での登場。1回戦での和服着用は珍しく、並々ならぬ気合いを感じました。

              

振り駒で先手になって相矢倉。▲4六銀型の定跡形に。この形は昔から指されていますが、なかなか結論が出ません。良い勝負ということなのでしょう。

              

激しい攻め合いに。この▲2四銀が厳しいかと思いましたが△3五歩がしぶとい受け。▲同角ならば△3四金と当てて▲1三銀成と香は取れますが△3三玉と逃げられて角取りが残って後手を引いてしまいます。

これに対して残り4回の考慮時間から3回を使って▲8五香。△8八歩成と成り捨てる、もしくは△8八銀と打ち込めば△8四歩で香は取れるのですが(現状は二歩)取らせる間に何かしようという「手稼ぎ」の一着。やっている時は確信はありませんでしたが、この手で少し残していたようです。

              

平凡に▲2三歩等と攻めると、銀を渡してしまい自玉が詰んでしまいます。

図で▲6一飛が▲2三歩以下の詰めろ。△8八銀から怖い形になりましたが、正確に指すことが出来ました。辛勝の一局。

 

トーナメント2回戦(準々決勝)は丸山九段と。実は昨年の銀河戦も同じ位置で対戦しています。2年連続、同じ位置で同じ相手に敗退は悲しいので、勝ちたい一局でした。振り駒で先手番に。

              

丸山九段の作戦は流行の「端突き越しダイレクト向飛車」でした。ダイレクトって何?という方のために説明します。

図で▲6五角の両取りがあるので、従来は一反△4二飛と回り、△7二玉と8三をカバーしてから△2二飛と振り直していました。このダイレクト向飛車は佐藤二冠の考案で▲6五角には△7四角(参考図)と合わせて

              

▲4三角成には△5二金右で馬を捕獲する狙い。角金交換は一応駒得ですが、歩を1枚損していますし、陣形はバラバラなので今まで誰も指さなかった手順。と言うか△7四角は浮かびませんね、普通。

今年の初めに佐藤二冠が指してからブレークし「端突き越しダイレクト向飛車」は密かなブームになっています。実戦は▲6五角を見送って▲7九玉から持急戦→お決まりの穴熊への組み換えを目指したのですが、△3二金から素早い動きで来られたのには意表を突かれました。              

                 

この桂香に期待しました。▲4一角もあって受けにくいと思ったのですが△5一金と寄ったのが好手で困りました。▲8三香成としても△6二玉で大したことがありません。

対して、こちらは△6九銀▲7九金・▲6八金に△3八竜であっという間に寄ってしまいます。負けたかと思いましたが▲3八金さえいなければ△6九銀には▲6八金と寄って△5八銀成▲7八金で攻めがないことに気が付きました。よって▲2七金と逃げました。本譜も金は取られましたが、竜が二段目ではなく三段目なので手を稼ぐことに成功。この△5一金▲2七金はなかなかの応酬だと思います。

                    

大駒は3枚保持していますが、金銀6枚保持も大きく、苦しい形勢。「△5四竜に▲8四成香と引いて粘れば(△同竜には▲6三角成がある)もう1回くらいはチャンスが来るかな・・・」と考えていたら丸山九段は△6四竜。これには必殺の一手があると思っていたので、ビックリしました。▲8二成香△同銀に駒音高く▲8四飛

              

1.△同竜は▲6三角成△6一玉▲7二馬△5二玉▲6三角成で詰み。

2.△5四Xと馬&角を遮断するのは▲8二飛成△7二金▲8一竜と駒を補充して必勝形。

3.△7二金は▲6四飛で△同歩と取り返せない(飛がタダ)取れない。

僕自身も勝ったと思いこの日一番の駒音でピシッと▲8四飛と打ち、丸山九段も負けたと思って図で投了。感想戦でも△6四竜が一手バッタリで大技が決まった、という感じで閉めました。

気持ちの良い手が決まったとルンルン気分で解説の鈴木八段と昼食に行く。

鈴木「最後はビックリしました」

渡辺「確かに。あんなに綺麗に決まるとは」

鈴木「でも、投了はもっとビックリしましたよ。私だったら投げ切れなくてもう少し粘っちゃうけど」

渡辺「あー、そうですねぇ。指すなら△8三歩とかですか?」

鈴木「そうだね、あれっ、香なかったっけ。どうせなら香のほうが良いんじゃない?」

渡辺「ありますね。△8三香▲6四飛に△5四銀か。んっ?・・・」

鈴木「あれっ?大変って言うか、むしろ?(後手が良い)(笑)」

連盟に戻って検証してみると投了図から△8三香▲6四飛△5四銀

             

飛はタダで取られてしまいますが、元が駒得なのに加えて△5四銀で飛か角が取れます。飛を助けるしかないので、角を取られることは確定。すると、駒の損得は飛と金桂の交換なのですが、後手の△1一香が△8三にワープしている勘定なので、実質は飛と金桂香の交換。

参考図以下▲6六飛に△7四桂が絶好。△8三香、△7四桂と設置され、大駒を入手されては先手玉はすぐに寄ってしまいそうです。負けとまでは言えませんが、先手を持って自信がない形勢。すなわち、投了図はこちらが不利な形勢だった、ということになります。

丸山九段は、せっかく優勢になったところで、ひどい一手バッタリをしてしまい、こちらの自信満々な態度も手伝って、思わず投了してしまったのだと思います。逆に追い上げムードだったら△8三香以下の手を指していたはず。勝負の流れが勝敗を分けた、ということでしょうか。 

不利な局面で投了してもらう、というのはおそらく初めてのことで、とても珍しい出来事でした。

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コメント
 
 
 
「端突き越しダイレクト向飛車」 (安達辰)
2007-09-15 22:41:53
佐藤さんが初めてとは、06年度のNHK杯決勝戦のことですかね・・・?

解説の島さんも 唾を飛ばして「6五角はどぉするんでしょうかっ!」って w

あの局は、そのまま銀冠になったんでしたっけね

とにかくw
"。・:*:・゜☆ ネ兄 月劵 禾り ,。・:*:・゜☆"
 
 
 
すごい^^ ()
2007-09-16 00:00:34
対丸山戦、すごかったんですね!
しかし最後の局面で後手有利とは…w 大山先生の言葉を
思い出しました^^
「助からないと思っても、助かっている」
まさにこの局面にピッタリの言葉^^ やはり最後まで
諦めてはいけないのですね!
途中の金の受けの応酬も、なんとなく大山先生を思い出し
ました^^

それにしても この銀河戦の解説書くの相当時間がかかった
んではないですかw ほんとファン想いで頭が上がりません
渡辺竜王は棋士の鑑(かがみ)です!!
 
 
 
祝!準決勝進出 (spinoza05)
2007-09-16 03:34:59
相手が投了してしまえば勝ちですからね。
準決勝進出,おめでとうございます。

片上五段戦なのですが,▲6一飛に△2三歩と受けた場合は
どのような手順で先手が勝つのでしょうか。
 
 
 
Unknown (ildjarn)
2007-09-16 09:28:44
11角から33角成りぐらいでいいのではないでしょうか。
 
 
 
初級者 (将棋好き)
2007-09-16 09:50:22
前回の解説は、初級者には少し難しかったけど、今回の解説はなんとか理解でしました。何時もありがとうございます。ところでプロの場合最後まで指すのは、どうも潔しとしない指しても無駄だという風潮があり途中で投了するわけですが、初級者の場合なぜここで投了なのだろう、この後どうやって詰ませるのだろうという釈然としない投了が多々あります。今回のようなことはまれなのでしょうが、将棋の魅力は碁と相違して「どうだもう逃げる場所はないだろう」というのが最大の魅力なのですから、将棋界普及のためにも、初級者にもわかりやすい場面まで指して投了してもらいたいものです。
 
 
 
おはようございます。 (あきら)
2007-09-16 10:22:13
△2三歩は手強い手で、それが一番難しかったような記憶があります。確か、銀一枚だけなら渡しても先手玉が詰まないので(さらに歩を1枚渡すとアウト)▲1一角~▲3三歩成で先手勝ちのようです。
 
 
 
ツキが廻ってきましたね (渡辺竜王ファンです)
2007-09-16 14:15:03
「不利な局面で相手が投了!」これ以上のツキはありません

某棋戦での大活躍おめでとうございました

まだ公表してないのでしたっけ?

これからは、対丸山戦のツキをきっかけに「いつもの渡辺竜王」に戻って、竜王戦防衛 + 棋王奪取 + B級1組順位戦2位にてA級昇級

引越は「人生の1大事件」なので、さぞ疲れたことと思います。これからは将棋1本に絞れますね。

竜王戦は、2人共強豪ですから、気を引き締めて下さい。渡辺竜王の将棋を1局でも多く堪能したいので
昨年と同じく『4勝3敗での防衛』をよろしくお願いします
 
 
 
Unknown (lss)
2007-09-17 08:47:52
面白いですね。何気ない棋譜にも
これだけの駆け引き、ドラマが隠されているのなら
随分読み方が違ってきます。

思うのですが、アマにわかりにくいプロ棋譜は
本人の解説が必須だと思うのです。
プロ棋士の皆さんは、給料の源が我々素人の関心に
あるのだということを理解し、毎局簡単に
解説を付するべきではないでしょうか。

これまでの膨大な棋譜がもったいないと思うのです。
解説は定期的に冊子にして売るか、webで公表するか。

いつまでもプロ将棋棋士様ではいられないと思うんですよね。
竜王の丁寧な解説に感動したあまりの戯言でした。
(;><)
 
 
 
プロの投了した局面 (ハマー)
2007-09-17 11:22:07
は、24の初段程度になれば理由はほぼわかるようになるよ。初段程度になればプロの観戦が格段に面白くなる。まずは自助努力を。。。
 
 
 
幼稚園 (こくりつさん)
2007-09-17 13:28:50
それは大変ですね、奥様。
タイトル戦も大変だけど、面接の方も頑張ってください。まあ、まず深呼吸してみましょう
では。
 
 
 
解説が難解 (niwa)
2007-09-17 13:55:12
そうですか、ハマーさん、
24で初段位が必要ですか。
竜王の貴重な解説を楽しめるよう、
夙に将棋に丹念にして研鑽を怠らず努力しようと思います。
 
 
 
勝ちました! (日曜TC)
2007-09-17 19:01:52
私は社台とシルクの会員です。
我が愛馬のシルクチャプターが今日勝ちました。
超気持ちいい~(古っ)。
愛馬の勝利は一口馬主最大の喜びです。
 
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