波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

     白百合を愛した男    第60回 

2011-01-17 13:05:50 | Weblog
大きな身体を丸めるようにして坐っている役員と小さな身体に背筋をきちんと伸ばした社長の体勢は対照的であり、都会で生活している軟弱さと田舎での質素な生活をそのまま表しているように見えた。秘書の女性が顔を出し、「飲み物は何にしましょうか」と聞いてくる。そして暫くすると手拭と高級な日本茶がテーブルの上におかれた。「どうぞごゆっくり」と出て行くと、其処には都会の喧騒を忘れさせる静寂さがあった。
「ところで、場所は決まっているのかね。一度海外へ遊びに行きたいと思っているので
楽しみにしているんだよ。」役員は仕事のことには関心がないようで海外旅行を考えている風である。「まだ決まっていません。これから調査に行きたいと思っているのです。候補としてはマレーシア、シンガポール、インドネシア、タイなどを考えていますが、現地を見てみないとなんとも言えません。私どものお客さんはタイ、マレーシアへ出ている所が多いのですが、もう結構タイトになっているという噂になっているので、分りません。
人の問題、インフラの問題などいろいろ条件もあり、その条件が満足できるところであることが大事なので、決めるのに時間がかかりそうです。」
「分った。いずれにせよ。決まったらすぐ連絡してくれ。ところで、大事な資金のことだが、どのくらいを見込んでいるんだね。まあ、私の出来る範囲で支援したいと思っているから、遠慮なく言ってみたまえ。」「ありがとうございます。何分地方の小さな会社なので、今回の海外進出についての投資資金については一番頭の痛いところです。地元の財務の役員がそのことで、今回の計画に反対をしていまして先日の会議でも決めることが出来なかったのですが、この件はぜひとも本社のご協力をお願いしたいと思っています。
今考えている製造規模で試算すると、最低でも10億円を要するかと思います。後は現地での税金や、規定の法律なりで、変わってくることもあり未知の問題が多いので、これ以上は現時点では申し上げられません。」「そうか。まあ、その程度ならあまり問題にもならないだろう。わが社が海外へ出たときの投資金額はそんなものではすまないケースが多いのでね。私から下話をして内諾を取り、スムーズに承認が出るようにしておくから、君の方はしっかり準備と計画を練って進めるようにしなさい。」「ありがとうございす。よろしくお願いします。」二人の話は当に暗黙に近いものであり、公式なものは何も無かったが、既に既成事実があるかのような話になっていた。

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