波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

波紋   第19回

2008-09-01 15:48:33 | Weblog
やがて、その宴も終わりに近づき社長と専務は少し早めに失礼すると挨拶をして立ち上がった。大分お酒が入っていたが専務は若いこともあってしっかりしていた。
山を下り車のある場所へ移動した。ここから社長の自宅までは僅か2キロ足らずのところである。勿論専務も飲んでいたので、酔ってはいたので「大丈夫ですか」と見送りの人に声を掛けられていたが「すぐそこですから、心配ありませんよ」と答えて社長を助手席に乗せて走り出していた。
暗い夜道ではあるが、なれた道筋であり、迷うことも無く家が見える近くまで帰ってきた。「もうすぐですよ。社長そろそろ起きてくださいよ。」とうとうとし始めていた社長に声を掛けた瞬間だった。
車は社長の自宅前の道路端にある電柱に激突した。それはほんの一瞬、目を離したときであった。助手席の社長は眠ったまま胸を打ち、そのまま即死状態になり、救急車での手当ても空しく帰らぬ人となってしまった。
専務もハンドルを持ったまま気を失い、病院へ運ばれた。専務は顔面に軽い怪我を負ったが軽症で助かったのである。すべてがあっという間の出来事であり、手の施しようの無い状態でもあった。しかし、この事件は公けにされることもなく新聞にも地方版に小さく掲載されただけで大げさに広まることもなく、葬儀も密葬として終わった。
知らせは、小林のところにも入ったが本社から密葬なので来るに及ばず、対外的にも内々にするようにとの指示があり、殆ど、関係者以外には知らされることはなかった。そして本社では緊急の役員会議が開かれ「次期社長をどうするか」について検討を開始した。
順番からすれば当然次席の専務が着任するところだが、事件の当事者でもあり、年齢も若く、経験も浅かったこともあり、本人から辞退したいとの申し入れもあり、断念せざるを得なかった。会社は専務の持ち株会社として実質オーナーでもあったが、数年前に将来を見越して資本参加をしてもらっていたD社とT社へ相談することになった。どちらも上場会社でもあり、人材、社格とも申し分は無かった。
使者が立ち、事情説明、承諾してもらった場合、当社としても申し入れ条件などを
説明し検討を依頼したのであった。
D社とT社では相互に相談もあったようで、会社への回答はD社にて受け入れることを両社にて承諾したとのことであった。
経営権の譲渡に関しての条件として提示していた、現在の社員の身分保障を初めとした処々の条件も承認され契約はスムーズに終わる事が出来た

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