東洋の文化は仏教や儒教などを背景に発生しているように、ヨーロッパ、アメリカ文化の背景にはキリスト教が根強く生きています。夏目漱石はイギリス文学を学んだことはよく知られていますが、イギリス文学の背景にイギリス国教が深く影響を与えていることに気付いた漱石は、イギリス文学を学ぶことに限界を感じ、「草枕」「こころ」「坊ちゃん」などの徘徊小説と言われる(自分に書ける)小説のみを書いたようです。イギリスのみならず、ドフトエフスキー小説のほとんどはロシア正教の素朴な信仰信念が土台になっています。
また、音楽においては言うに及ばず、バッハ、ヘンデル、モーツァルトをはじめクラシック音楽のほとんどが神へのオマージュ(賛歌)と言えるでしょう。文学、音楽、絵画、建築などの文化の分野のみならず、経済の分野にも影響を発見するのはたやすい。
近代経済学の祖アダム・スミスが唱える市場原理は「自由競争」の原理です。この自由競争は、まかり間違えば、強いもののみが弱いものを押しのけ、市場を弱肉強食の修羅の場と化してしまう可能性があるが、それを誰が、どのように、どうやってコントロールするかというと、「見えざる神の手」が操作すると説きました。つまり、人倫道徳に反するビジネス行為は人が裁かずとも、神の、御手が裁くであろうというヨーロッパの人々の信仰観から来ています。
マックス・ウェーバーの思想は近代経済に多くの影響を与えましたが、彼の言葉に、「多くを稼ぐことは悪ではない。また、多くを蓄えることも悪ではない。多くを社会に、そして神に還元するならば」とあります。実際にアメリカにおいては、多くの大学や病院などは、財団の援助によって成り立っているようです。ビルゲイツやタイガーウッズが巨額の寄付をするのも、こういう思想からです。
多くを施しているという自負心から、弱肉強食の修羅場を企業家たちはなんの後ろめたさも無しに、むしろ聖戦として苛烈な競争に立ち向かうことができるわけです。あたかも神からのミッションであるかのような使命感に立って、正々堂々とビジネスを展開し、アメリカのカーネギー、ハワードヒューズ等のように巨万の富を獲得してきました。
アメリカとイギリスから出発した成功哲学、自己啓発セミナー発祥の時期は、今から百年から百数十年まえといったところですが、雨後のたけのこのように同時発生した新興宗教の発祥時期と不思議に一致しています。まるで世界中で起こった宗教的インスピレーションの一つであるかのようです。これらの成功哲学、自己啓発セミナーの背景にはキリスト教の思想が根強く影響していると言って間違いはなく、どこかスピリッチュアルに感じるのはそのためでしょう。
日本家系調査会