碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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週刊プレイボーイで、NHK「受信料問題」についてコメント

2012年09月25日 | メディアでのコメント・論評

「週刊プレイボーイ」が、NHKの「受信料問題」に関する記事を掲載。

この中で、コメントしています。



一般世帯への“強制執行通告”乱発に続き
ビジネスホテル「東横イン」に
約半年分の受信料として
5億5千万円を賠償請求!


NHKは
“受信料原理主義”を
撤回せよ!!


60年以上も前にできた、時代錯誤な「放送法」を錦の御旗のごとく掲げ、一般世帯や事業者の受信料未納者に対し、法に則った支払いを声高に求め続けるNHK。10月からの「最大120円値下げ」などどこ吹く風とばかりに“原理主義”を振りかざす、その姿勢にモノ申す!! (取材・文/コバタカヒト)


2011年度は過去最高の受信料収入!

7月末にNHKが、ホテルを経営する会社3社を相手取り受信料の支払いを求める訴訟を東京地裁に起こした。請求額は、実に約7億3600万円。ちなみに受信料の月額は地上契約のみで1345円、衛星契約を含んでも2290円だ。そのうち5億5210万円の支払いを求められたのが、ビジネスホテルチェーン大手の東横イン。

NHKは部屋にテレビが設置されているにもかかわらず未契約となっている約3万3700件分の受信料を請求しているが、東横イン側は今月10日の第1回口頭弁論で、「客室の稼働率」や「テレビを利用しない宿泊客も多い」ことを理由に「NHKの請求は妥当ではない」と述べるなど、真っ向から争う姿勢を示している。

東横イン側の弁護を担当する黒澤基弘弁護士はこういう。
「昨年末まで、NHKさん側の請求通り全室の25%分まで支払ってきました。しかし、今年1月から7月までの、全国の宿泊施設の未契約分を全額支払えということで提訴されたのです。我々としては、NHKさん側が25%分の請求書を送ってきているのだから契約は25%で成立しているものだと思っていたのですが、NHKさんはそんな契約自体なかった、という考えのようです」

つまり、「今までどおり25%分なら払うが、それ以上はおかしい。見ていない部屋のものまで払うのも納得いかない」というのが東横イン側の言い分。それに対し、NHK側は「粘り強くできる限りの対応をしてきたが、要請に応じてもらえず、やむなく提訴に至った」としている。要約すれば、「25%でいいわけないだろ! 今まで散々、お願いしても全額払わないのだから、いよいよ訴えさせてもらう」というわけだ。

そもそもの話、放送法ではテレビ(NHKの放送を受信できる受信設備)を設置すれば、受信契約を結ばなければならない(第64条)。また、ホテルの受信契約はテレビのある客室単位で計算しており、その“原理原則”から言うと、東横インは全客室分の契約を結ぶ必要がある。

しかし、受信料問題に詳しい弁護士の梓沢和幸氏はこう言う。
「放送法にある『契約強制』は、もともと双方の意思と意思の合致によって成立するもの。国家が強制して民事上の意思の合致を成立させることは、かなり無理のある理論をこしらえないと成り立たない。ですから未契約分にまで支払いをさせるのは、法的には厳しいと私は思います。ただ、今までの受信料裁判を見る限り、裁判所はNHKの訴えを認める可能性が高いのが実情です」

2010年から一般世帯への強制執行の申し立てを頻繁に行なうなど、受信料徴収に全力を挙げている最近のNHK。2011年度決算では過去最高を更新する6725億円もの受信料収入を得て、4年ぶりに増収増益としている。これなら10月から予定されている最大120円といういたって小幅な値下げなど痛くもかゆくもないだろうし、法的な後ろ盾があるとはいえ、ここまで巨額の訴訟を起こす必要があるかも疑わしい。



この点について、メディア論が専門である上智大学新聞学科の碓井広義教授はこう見る。

「この問題は難しくて、NHKだってなにも訴えたくて訴えているわけではないんです。NHKは国民の皆さまの『善意』で成り立っている組織。強制しているわけではないという立場なので、裁判沙汰にはしたくない。一方で、受信料の収入が落ちると、国会で叩かれる。ですから、個人であろうが事業者であろうが、こういうケースは放っておけないわけです」


さかのぼること6年前、NHKと東横インの受信料契約が部屋数のたった5%分のみを支払う内容だったことが、会計検査院の調べで判明したことがあった。その際、検査院は「85%支払っているホテルもある。他の事業者と比べて不公平」として契約率を上げるようNHKに改善を求め、報道でその事実を知った一般市民は「大口契約者には甘くて、一般からは厳しく取り立てるのか」と批判の矢を浴びせた。しかし今回、東横インに対して100%の受信料を請求したNHKには「やりすぎではないか」という声が上がっているのだ。

「払わせていないと叩かれ、払わせても叩かれる(苦笑)。もはやNHKからすれば、この問題に関しては完全に手詰まり状態とも言えます」(前出・碓井教授)

受信料問題に関して、八方ふさがりのNHK。ただ、「受信設備を設置した段階で受信契約が成立する」というNHKの原理原則は、現在の状況に恐ろしいほどマッチしていないのも事実だ。

とにかく「受信設備」の定義が広すぎるため、現状では仮にテレビは所有していなくても、ワンセグ機能が搭載されている携帯電話やカーナビ、ニンテンドーDSなどテレビを視聴可能な受信機を所有しているだけで、受信契約を結ばなければならない。こんな時代にそぐわない放送法に依って“原理主義”を振りかざし、法に則って受信料を払えと言われても、素直に同意できないのが普通の感覚ではないだろうか。

公共放送とは何かを議論すべき

ところで、NHKの現在の契約率は約75%。イギリスの公共放送であるBBCの契約率98%と比べると、明らかに低い数値にとどまっている。イギリスの場合、受信許可料(受信料)の支払いを拒否した場合は罰則規定が設けられているなど“強制力”に違いはあるが、両者の差はそのせいだけではないだろう。

「そもそもNHKの本来の使命は公共的な空間を国民に与えること。少数派にも意見の場を提供し、国からの情報公開について徹底したり……。一方、国民にはそういった公共空間を支えるため、受信料支払いの義務が課せられている。NHKにおいて放送の公共性が保たれている限りは契約強制の理屈も成り立つと思いますが、現在、NHKはそれを担保できているでしょうか? 甚だ疑問に感じています」(前出・梓沢弁護士)

規模が大きくなりすぎた等の批判はあるものの、イギリスでBBCは多くの国民から公共放送として認められている。果たして、NHKはどうだろうか。

「受信料を支払わない人には一部の情報のみ提供し、支払った人だけにすべての放送が見えるようにする『スクランブル化』も、選択肢のひとつとして考えるべきときに来ています。ただ、仮に今すぐ実行したら、NHKの経営は立ち行かなくなるでしょう。だったら見ないよ、という人が多いはずですから……。もちろん、それで淘汰されるような公共放送など存在意義がないとも言えますが、ただ現時点で我々が公共放送を失うと、本当に損をするのは誰なのかも考えるべきだとは思います」(前出・碓井教授)

公共放送とは何か。公共放送は必要なのか、そうではないのか。そろそろこの問題について、国民的議論が必要なのかもしれない。

(週刊プレイボーイ 2012.10.08号)




今週の表紙、誰かと思えば、さっしーでした(笑)

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