碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

「レンタルなんもしない人」の“特定の誰か”ではない距離感

2020年04月30日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「レンタルなんもしない人」は

“特定の誰か”ではない距離感が救い

 

テレビ東京の深夜ドラマ「レンタルなんもしない人」の主人公、森山将太(増田貴久)の「なんもしない」は、家の中でボーッとしているという意味ではない。

たとえば、一人では入りにくい店に一緒に行く。ゲームの人数あわせ。今年はダメだったけど花見の場所取りとか。つまり「誰か一人分」の存在が必要な時に利用できるサービスだ。しかも交通費と飲食代以外は無料。ただし、ごく簡単な受け答えしかしない。そこにいるだけ。なんもしない。

原作は実在の「レンタルさん」が書いたノンフィクション。ドラマでは、契約を切られた雑誌編集者(志田未来)から、故郷に帰る前の「東京最後の日」を一緒に過ごして欲しいと頼まれる。

また仕事でトラブルを抱えて出社するのが怖いという青年(岡山天音)につき合って、会社の周囲を2人で歩き回る。誕生日を一人で迎えたくないという女子大生(福原遥)とは、彼女の部屋でケーキを食べることに。

報酬を得るための仕事ではなく、あくまでもサービスだ。相手の事情には踏み込まないが、「簡単な受け答え」をしてくれる人が目の前にいることで、利用者は自分の思いを整理できたりする。「特定の誰か」ではないからこその距離感が逆に救いとなるのだ。

他者との接触が禁忌となった昨今、実物のレンタルさんはどこで何をしているだろう。

(日刊ゲンダイ 2020.04.29)


言葉の備忘録147 天って・・・

2020年04月29日 | 言葉の備忘録

春のもみじ 2020.04.29

 

 

 

天って

そういう存在なんだ。

許してもらいたいから

いつも祈ってる。

そうすると

だいたいものごとが

うまくいくという、

そういう知恵なんだと思うけど。

 

 

細野晴臣『とまっていた時計がまたうごきはじめた』

 

 

 


言葉の備忘録146 万有引力とは・・・

2020年04月28日 | 言葉の備忘録

 

 

 

万有引力とは

ひき合う孤独の力である

 

 

谷川俊太郎 「二十億光年の孤独」

 

 


週刊朝日で、「新型コロナとテレビ界」について解説

2020年04月27日 | メディアでのコメント・論評


マツコも声だけ、再放送連発 
コロナで開くテレビ界「パンドラの箱」


4月13日に放送された人気バラエティー「月曜から夜ふかし」(日本テレビ系)の2時間スペシャルで、MCの村上信五とマツコ・デラックスの、「音声」での出演というスタイルが話題を集めた。番組収録に携わるカメラマンやメイク、スタイリストなどのスタッフの人数を最小限にするという意味だとされた。

番組は世の中の気になる事柄を調べたVTRに2人がコメントしていくのが基本的な構成。音声のみとはいえ、番組はおもしろく「成立」して見えた。

これについて「大げさに言えば、パンドラの箱を開けてしまったのかもしれません」と指摘するのはメディア文化評論家の碓井広義さんだ。

「視聴者が番組の流れをわかっているという前提はありましたが、メイン出演者の姿がなくても番組ができてしまったことで、何十年かけて築き上げてきたテレビのスタイルが全て変わってしまうかもしれません」


今後、テレビ番組が「もうコロナ以前には戻れないのでは」と、ある放送作家は言う。

「今まではスタジオにたくさん出演者がいてワイワイすることで楽しいものができると思われてきましたが、コロナ終息後、大勢がひな壇に座るシーンなどは『密』を感じて安心して楽しめない状態になってしまうのでは。出演者を減らすことで経費を省くことができますし、無駄を削ぎ落とし切った『夜ふかし』のスペシャル、あれは一つの究極の番組スタイルなのかもしれません」(放送作家)

4月スタート予定の新ドラマも、無事放送できているのはわずかで、「野ブタ。をプロデュース」(日テレ系)や「下町ロケット」(TBS系)など、過去のヒットドラマの再放送や特別編などでしのいでいる状況だ。

一方、現時点では、従来どおりの活動ができなくなったタレントやアーティストが動画サイトやSNS上で発信する機会がどんどん増えてきている。

碓井さんは言う。

「テレビ局が機能不全になりかけている今も、ネットでは情報の発信を続けられている。いよいよメディアの優先順位が変わるかもしれません。これまではテレビ放送ありきで、『ネットでも配信』となっていたのが、ネットありきで、『電波でも流れます』となる可能性も十分ありますね(笑)。その先に、テレビがどんな形でおもしろい番組づくりを見いだしてくれるか、そこは気になります」


【本誌・太田サトル】

(週刊朝日  2020年5月1日号)

【書評した本】 春日太一 『時代劇入門』

2020年04月26日 | 書評した本たち

週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。


決闘はラブシーン? 時代劇を楽しむ“コツ”

春日太一 『時代劇入門』

角川新書 990円

演出家の源孝志が、文化庁主催「芸術選奨」の放送部門で文部科学大臣賞を受賞した。代表作は内野聖陽主演『スローな武士にしてくれ』(NHK)である。

斜陽と言われて久しい時代劇を守り続けるスタッフや俳優たち。狂気と紙一重のような彼らの情熱、そして矜持と哀歓を描いた秀作だ。このドラマの最後に、登場人物である映画監督、国重五郎(石橋蓮司)の言葉が表示される。「二人の男と二本の刀さえあれば映画は撮れる」と。

春日太一『時代劇入門』は、時代劇という桃源郷を世に再認識させる「触れ太鼓」であり、迷宮へといざなう「招待状」だ。

では、そもそも時代劇とは何なのか。著者が挙げる成立要件は、新しい表現手段と現代の空気を取り込むこと。過去の舞台設定に現代的な問題意識を盛り込み、そこにチャンバラを加えたのが時代劇だという。

本書は時代劇の歴史にはじまり、基礎知識、重要テーマ、さらにチャンバラの愉しみと続くが、随所で展開される著者の持論が刺激的だ。

例えば、「どれだけ荒唐無稽でめちゃくちゃなことをやっても、そこに説得力があれば、面白くてエンターテイメントとして成り立っていれば、それでOKなのが時代劇です」。

またチャンバラの魅力をリアルファイト以上に迫力のある映像に求め、「決闘はラブシーンだ!」と言い切る。この思い入れこそが著者の真骨頂であり、本書は時代劇への熱烈な「ラブレター」となっている。

(週刊新潮 2020年4月16日号)


週刊新潮で、『半沢直樹』について解説

2020年04月25日 | メディアでのコメント・論評

 

 

またも延期 『半沢直樹』

コロナに倍返しされた3蜜ロケ現場

 

待望の続編。TBSの社長も年頭会見で、「今年は『半沢直樹』に尽きます!」と吠えたほどである。コロナ騒動によって、放映延期を余儀なくされたが、進んでいたロケ現場では、「3密」状態も生じていた。

前作が最高視聴率40%超の大ヒットを記録したのは2013年夏のこと。通常なら翌年にも続編となるところ、再開に7年もの月日を要したのは、さまざまな”事情”があったという。

「主演の堺雅人が所属する田辺エージェンシー側が、堺に『半沢』の色が付くことを嫌がった」

とは、さるスポーツ紙の芸能デスク。

「また、堺と、演出を務めたTBSの福澤克雄監督との間に、演技のことで溝が生まれていたんです。福澤さんは福澤諭吉の玄孫で、学生時代、慶応のラグビー部で日本一になったこともある『体育会系』。ジャイアンにちなんであだ名は『ジャイさん』です。過去、『GOOD LUCK?』や『華麗なる一族』などでヒットを飛ばし、堺同様”こだわり”が強い。揉めに揉めたのでその”和解”にも時間がかかりました」

とは言え、堺もあまりにドラマにご無沙汰していれば、視聴者から忘れられる。局側も局側で再開の機会を失う。ようやく折り合いが付いたのがここ数年のことだった。

”マスクが壊れた”

だから、このドラマに賭けるTBSサイドの力の入れ方は並大抵ではない。

ロケ現場ではコロナなんて物ともしない、こんな光景が見られていたという。

「私が参加したのは、3月19日のことですが……」

とは、エキストラで出演した40代の男性である。

「参加に当たっては、マスクの着用と、事前の体温測定を求められたのできちんと測っていったのですが、朝、品川の現場に着いても確認されることなく、撮影に入ったんです。”あれっ”と思いましたよ。その日は及川光博さん扮する半沢の同期の銀行員が喫茶店で話をするシーンの撮影で、スタッフはみなマスクを着用していましたが、中にただ一人、ずっとマスクを付けていなかった人がいました。監督の福澤さんです! で、大声で指示を出していたものだから、唾がかからないかどうか不安でたまりませんでした」

付言すれば、この3月19日は、その夜、政府の専門家会議によって「オーバーシュートが起こることが懸念される」と警告が発せられたように、警戒感は日に日に強まっていた。むろん小中高校も休校のまま。監督、つい力が入って、ウイルスの存在を失念してしまったのか。

撮影終了後も、

「”記念写真を撮りましょう”と言われて、エキストラが40~50人”密集”させられた。で、監督が”『ハイ、チーズ!』の代わりに、『倍返しだ!』で行きましょう”と音頭を取って、ガッツポーズをさせられました。2~3回は撮ったかな。写真はHPに番宣のために載せられました。その後、熱が出ることもなかったから良かったですが、ちょっと怖かったですね」(同)

コロナからの「倍返し」が気になる。

制作スタッフによると、

「福澤さんはガタイがデカく、身長が190センチもある。顔もデカくて窮屈なんでしょう。”マスクが壊れちゃった”と言って、現場で付けないこともありました」

当のTBSは、

「感染の防止に配慮して行っておりました」

と言うのみ。

「TBSにとって、『半沢直樹』は満を持して送り出した、今年の目玉。視聴率争いで復活のカギとなるドラマでした。開始時期によっては夏クールの冒頭まで食い込ませて放送するか。あるいは、回数を減らして放映するか……」(メディア文化評論家の碓井広義氏)

延期のショックも倍返し。

(週刊新潮 2020.04.23号)


中日新聞などで、アーティストの「ライブ動画配信」について解説

2020年04月24日 | メディアでのコメント・論評


 双方向で新しいつながり 
アーティストとファン
ライブ動画配信


新型コロナウイルスの影響で在宅時間が長くなる中、写真・動画投稿アプリ「インスタグラム」で歌手や俳優らのライブ動画配信が活発だ。視聴者はスマートフォンなどで配信中にコメントを送れるなど双方向性が魅力で、アーティストとファンが新たな関係を築きつつある。

大規模イベントの自粛要請を受け中止になった堂本光一主演のミュージカル「Endless SHOCK」は三月二十二日、東京・帝国劇場から舞台の一部を生配信、約二十一万人が視聴した。出演者同士の何げないやりとりなど、観劇とはひと味違う楽しみを提供した。フォロワーが九百万人超えの渡辺直美らタレントやスポーツ選手らも多数ライブ動画を発信する。

星野源は、生配信ではないが「家でじっとしていたらこんな曲ができました」と「うちで踊ろう」を歌う動画を公開。

「楽器の伴奏やコーラスやダンスを重ねてくれないかな?」という星野の呼びかけに芸能人、国内外のファンも続々と呼応し豊かな“セッション”を繰り広げている。

インスタグラムは二〇一〇年十月創業、一二年にフェイスブック傘下に入った無料アプリ。近年はスマホで「インスタ映え」する風景やスイーツなどを撮影、投稿するブームも起きた。

ライブ動画機能は日本では一七年に導入。インスタグラム広報の市村怜子さんによると、新型コロナ感染拡大が顕著になった今年三月、ライブ動画機能利用数は十一日からの一週間に比べ、十八日からの週は50%増加した。

ミュージシャンの坂本美雨もライブ動画を積極的に発信する一人。

「書き言葉は人によっていろいろな読み方ができて、場合によっては傷つけることもあるかもしれませんが、自分が生で話す言葉は、自分のキャラクターを含めて伝えられると思うんです」

今、会いたい人に会えず、孤独にさいなまれる人は多い。新型コロナが広がり始めて以降、坂本は二日に一回は生配信する。澄んだ歌声、時に友達とのおしゃべりも。

「夜中に配信しても見てくれる人の気配がする。そういう気配ってとても大切だと思うんです。人と関わることをやめない、ということも大切で、そのためにも生での配信を続けたいですね」

メディア文化評論家の碓井広義さんは「アーティストにとってライブ動画配信は新しいコミュニケーションの形。ファンはもちろん、幅広い世代に届けられ、見る側と双方向感を共有できるのも魅力だ。同じ空間、時間を共有するこれまでのライブの概念や仕組みが、コロナ禍を経て変わるのではないか」とみている。

(中日新聞 2020年4月22日)

*この記事は共同通信によって、
 京都新聞、岩手日報、熊本日日新聞、
 下野新聞、西日本新聞などにも配信されました。

ただのリメークドラマじゃない「SUITS/スーツ2」

2020年04月23日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「SUITS/スーツ2」

ただのリメークと敬遠することなかれ

 

フジテレビの月9に、織田裕二主演「SUITS/スーツ」が登場したのは一昨年の秋だった。同名海外ドラマの日本版。敏腕弁護士の甲斐(織田)と天才的記憶力の無資格弁護士、鈴木(中島裕翔)の「バディー物」だ。

この時話題になったのが法律事務所の代表、幸村を演じるのが鈴木保奈美だったことだ。織田と鈴木が並べば、どうしても往年の「東京ラブストーリー」を想起する。「何を今さら」と思った視聴者も多かったはずだ。

しかし、始まってみると、当たり前だが「カンチ、セックスしよッ!」といった話ではなく、企業案件を扱う法律事務所が舞台のドラマとして見応えがあった。もちろん、米国版という原型がよく出来ていたからではあるが。

そして今回のシーズン2だ。初回では航空技術開発会社の新システム売却、出版社が抱えたアイデア盗用疑惑、事務所の共同代表である上杉(吉田鋼太郎)の復帰問題の3つを同時進行でさばき、新シーズンの開幕を鮮やかに宣言していた。

不思議なもので、見る側がテレてしまう甲斐の尊大な態度も、甲斐のライバル弁護士、蟹江(小手伸也)のオーバーアクションも、慣れてきたのか気にならない。純粋に物語展開を楽しめるのだ。

「ただのリメークじゃん」と敬遠する人も一度見てみるといい。延期ドラマの穴を埋める再放送も悪くないが、新作のパワーはやはり魅力だ。

※編集部注=4月27日に放送予定だった「SUITS/スーツ2」第3話以降については放送を遅らせることを、フジテレビが20日に発表しました。第1話と第2話は、ネットの見逃し配信等で視聴が可能です。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!」2020年4月21日)


女性セブンで、Netflix&YouTubeについて解説

2020年04月22日 | メディアでのコメント・論評

 

 

衰退する地上波ドラマと

Netflix等ネットドラマの根本的な違い

 

2兆1048億円と1兆8612億円。これは、3月に発表された2019年のネット広告費とテレビメディア広告費の数字だ。長らく「娯楽の王様」として君臨してきたテレビが、「広告収入」という目に見える数字によって、その座から引きずり下ろされる結果となっている。奇しくも時を同じくして、テレビが生んだ天才コメディアンの志村けんさん(享年70)がこの世を去った。1人1台スマホを持つ時代、有名芸能人がYouTubeに進出してゆくいま、テレビの未来は、どうなるのか?

地上波テレビの衰退とともに台頭したのが「Netflix」「アマゾンプライム」「Hulu」といった定額制の動画配信サービスだ。

なかでもNetflixは、日本だけでも300万人が視聴するといわれ、“AVの帝王”と呼ばれた村西とおるを山田孝之が熱演した『全裸監督』や写真家の蜷川実花さんが初めて手がけた連続ドラマ『フォロワーズ』といったオリジナルドラマが大ヒットし、今年いっぱいで活動休止する嵐のドキュメンタリー配信も話題を集めた。

なぜ躍進が続くのか。まず指摘できるのは「予算」の大きさだ。

Netflixには会員から1人あたり800~1800円がひと月ごとに入ってくる。しかも会員は現在、世界に1億5000万人以上おり、その数は増え続けている。

メディア文化評論家の碓井広義さんはこう指摘する。

「地上波テレビとは圧倒的に予算規模が違います。一説によると、通常のテレビドラマの予算は1本2200万円ほどですが、『全裸監督』は3倍の7000万円だったとか。お金をたっぷりかけて制作できるのがNetflixの強みです」(碓井さん)

制作会社のネットドラマプロデューサーは「スポンサー不在の影響」を指摘する。

「実は撮影場所や方法にそれほど違いはなく、NetflixもTBSの緑山スタジオを借りることもあると聞いたことがあります。大きな違いはスポンサーがいないこと。その分、作り手の表現したいことが尊重されます。麻薬取締法違反で逮捕されたピエール瀧さんの復帰作はNetflixのドラマですし、沢尻エリカさんが出演した『フォロワーズ』も沢尻さんの登場場面がカットなしで放送されました。『全裸監督』なんて、地上波テレビならタイトルとテーマだけでNGです」

関係者の多くが口を揃えるのが「コンプライアンス問題」だ。昨今の地上波テレビはスポンサーはもちろんのこと、あらゆる視聴者や物事への配慮が先行して、「表現の幅」が狭くなった。元日本テレビエグゼクティブプロデューサーの吉川圭三さんはこう言う。

「たとえば昔の『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(日本テレビ系)はほとんど妄想に近い内容で、『佃島に半魚人が出た!』といってみんなでバカ騒ぎして楽しんでいましたが、いまならヤラセと捉えられかねない。(同番組で行った)“早朝バズーカ”(寝ている芸能人の部屋に入っていきなりバズーカで大音量をあげる)も同じですが、いまなら不謹慎だとひどく怒られるように思えます」

30年以上、「出る側」として地上波テレビにかかわってきたモト冬樹が演者の本音を明かす。

「本当は『批判が半分、絶賛が半分』がいちばん面白いのに、いまは何かやるとすぐ文句が来るし、みんなスポンサーの顔をうかがっている。おれがやっていた『THE夜もヒッパレ』(日本テレビ系)のように、良質な番組は何度もリハーサルを重ねるなど、作り込む必要があってお金はもちろん、手間暇がかかる。そういう番組もいま、減っているよね。だから自由で面白いネットドラマやYouTubeに視聴者が流れるのは当然だよね」

それでは、実際に制限のないNetflixの作品を手がけた人たちはどう感じたのか。又吉直樹の芥川賞受賞作『火花』の脚本を担当した高橋美幸さんが語る。

「確かにネットドラマは自由度が高く感じました。地上波テレビは視聴率を気にするのでCMの前はチャンネルを変えられないように起伏を作るなど、各話盛り上げなければならないポイントがあります。

しかし『火花』はゆったりとした作り方で、枠も気にせず作るため1話ずつの長さが違うことが特徴でした。日本の視聴者は最後に必ず印籠が出る『水戸黄門』のような、いい意味での予定調和を好むので番組が似通う一方、Netflixの作品にはエッジの効いた面白さがあります」

加えて、日本だけでなく世界で公開されるというメリットもある。しかし北九州連続監禁殺人事件からインスパイアされたサスペンス・スリラー『愛なき森で叫べ』を手がけた映画監督の園子温さんは、「Netflixに作品を載せただけで世界に通じると思うのは甘い」と語る。

「ネットドラマに挑戦するとすぐ“世界を見ている”といわれるけれど、そんなに生易しいものではありません。確かに世界中に配信されるものの、実際に見てもらえるかはわからない。日本人がNetflixに登録しても、インドのホラー映画を見る人は少ないでしょう。それが現実です」

とはいえ同作は、海外の映画賞にも出品されており、世界とつながる媒体であることは間違いない。

勢いづくのはネットドラマばかりでない。以前は売れない芸人やタレントが活路を見出すためYouTubeを利用することが多かったが、最近は佐藤健、よゐこ、川口春奈、渡辺直美などテレビで活躍している芸能人が続々とユーチューバーデビューを果たしている。

「YouTubeの魅力は主体性」と指摘するのは碓井さん。

「テレビはお呼びがかからないと出演できませんが、YouTubeは誰でも主体的にチャンネルを立ち上げられます。若者を中心に見られている媒体で魅力があってファンとリアルタイムの交流ができるし、大当たりすれば大金持ちになれる。今後も“参戦者”は増えるでしょうね」

(「女性セブン」2020年4月30日号)


女性セブンで、「広告費逆転」について解説

2020年04月21日 | メディアでのコメント・論評

 

 

志村けんさんの死が

TVの終わりの始まり」か 

広告費は逆転

 

「どんなに売れても副業には手を出さず、ひたすらコントをやり続けた昔気質の芸人。テレビの画面ではあんなに面白いのに、普段はすごくまじめで余計な口をきかない。くだらないことを必死で、一生懸命考えているから表情も暗いんだよ。

でもお笑いのネタを考えるときって、みんな真剣で暗いものなんだ。くだらないことをくだらないと思ってやっても、全然面白くないからね。だけどああやって、いい人から先に逝ってしまうような気がしてしょうがない。こればっかりは運命だと、受け入れるしかないけれど…」

こう寂しそうに語るのは、タレントのモト冬樹(68才)。3月29日に新型コロナウイルス感染による肺炎で亡くなった志村けんさん(享年70)とは、『志村けんはいかがでしょう』(フジテレビ系)など数々の番組で共演した仲だ。

テレビカメラの前に立ち続けた志村さんの死を悼む人は意外なところにも。ミュージシャンの山下達郎(67才)は4月5日放送のTOKYO FM『サンデー・ソングブック』でこう語っている。

《戦後日本の最高のコメディアンのお一方でございます。ぼくがなんで志村けんさんが好きかと言いますと、あのかたは絶対に文化人になろうとしなかったんです。いちコメディアンとしての人生を全うされようと努力されまして。やっぱりなんか先生になっていくかた、文化人、知識人の道を歩むかた、そういうかたもいらっしゃる中で徹底して志村さんはそういうことを拒否して生きられたかたで。ぼくはそれが本当に尊敬に値すると思いました》

芸人のなかの芸人と呼ばれた志村さんの死は、テレビ界に何をもたらすのか。

◆テレビを見ながらテレビを作る

志村さんはテレビが生んだ最後のスターだったと評する声は業界関係者にも多い。民放キー局の40代ドラマプロデューサーが語る。

「現在のようにネットがなく、テレビや映画が娯楽だった時代、ぼくらにとって志村さんは大スターでした。小学生の頃、実家近くの公会堂に『8時だョ!全員集合』(TBS系)の公開放送を見に行き『志村! うしろ! うしろ!』と絶叫したのを覚えています。ドリフのコントは工事現場や学校が舞台で、感情移入しながら楽しく見ることができました。自分の身近にいるようなキャラクターがたくさん出てきて、テレビを囲む人たちと“ああ、こういう人、いるいる”と盛り上がれるのも面白かった」

『8時だョ!全員集合』の放送開始は1969年。1973年から同番組に出演し始めた志村さんは半世紀にわたって、日本のエンターテインメントのど真ん中に立ち続けたことになる。あるときは、はちゃめちゃな殿様に、またあるときは「だっふんだ」が口癖のおじさん、震える手に耳の遠い、眼鏡をかけたおばあちゃん。日本中の誰もが親しみを覚えたであろうキャラクターに変身し、世代を超えて人々を笑わせ続けた。

4月4日に放送された『天才!志村どうぶつ園 特別編』(日本テレビ系)が視聴率27.3%を獲得するなど、志村さんの追悼番組は軒並み高視聴率だった。これも志村さんが世代を超えた多くの人に愛された証である。

 だがこの現象を「テレビの終わりの始まり」と見る向きも少なくない。映画監督の園子温さんもその1人だ。

「テレビが生んだいわゆる昭和のスターは志村さんで終わりでしょう。昭和の頃は家族の団らんの象徴がテレビだったかもしれないけれど、いまの小学生や中学生はテレビタレントよりもユーチューバーが好きですし、スマホさえあれば見たいものが見られる。地上波テレビがなくなることはないと思うけれど地方のシャッター街のようなもので、廃れるばかりだと思います」(園さん)

奇しくも志村さんが旅立つのと時を同じくして、それを裏付けるようなデータが発表された。電通が発表した2019年の広告収入の内訳で、インターネット広告費(2兆1048億円)がテレビメディア広告費(1兆8612億円)を上回ったのだ。

長らく「娯楽の王様」とされたテレビがその座から引きずり下ろされた現実は、テレビ関係者にも衝撃を与えた。

「とうとう来たか…という感じです。広告費の逆転は数年前から囁かれてはいましたが、スポンサー企業がテレビよりネットの方が広告を出す価値があると考えた結果が数字として表れてしまったわけで、非常に危機感があります。テレビの大きな収入源である広告収入が減れば、業界は先細りするしかありません」(民放キー局プロデューサー)

なぜ、テレビは王座を譲り渡すことになったのか。

「背景にあるのはコンテンツ力の低下です」

こう指摘するのは元日本テレビエグゼクティブプロデューサーの吉川圭三さん。日テレ時代、吉川さんは敏腕プロデューサーとして『世界まる見え!テレビ特捜部』『恋のから騒ぎ』『1億人の大質問!?笑ってコラえて!』など名だたる看板番組を手がけてきた。

「いまはどこの局にチャンネルを合わせても同じような番組が流れているイメージがある。バラエティーならひな壇があって、出演者がしゃべった言葉がスーパーで出て、VTR中はワイプで抜かれる。ドラマも恋愛や警察、ドクターものばかりで幅がない。要はテレビを見てテレビを作るような、番組のマネをする番組ばかりになってしまった。これでは面白いコンテンツは生まれません」(吉川さん)

吉川さんが番組制作に携わっていた頃、テレビマンはスタジオから出てたくさんの映画や本に接し、街を歩いて「ネタ」を探した。

『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(日本テレビ系)や『浅草橋ヤング洋品店』(テレビ東京系)などの総合演出として異彩を発揮したテリー伊藤の例がわかりやすい。

オスマン・サンコンや稲川淳二が寝静まった早朝に高田純次らがこっそりと部屋を訪れ、目覚まし時計の代わりにバズーカ砲をぶっ放す人気企画の「早朝バズーカ」は、電車の中吊り広告から生まれた。

「なんであんなにぶっ飛んだ企画を思いついたのかテリーさんに聞いたら、朝、電車に乗っているときに、『早朝ソープ』の中吊り広告を見かけたことがきっかけだったと話してくれました。それで『“早朝”という単語は面白いな』と気づいて、早朝に何か当てはめて企画を作ろうと思って思いついたのがバズーカだったそうです」(吉川さん)

吉川さんが手がけた人気番組も街歩きから生まれた。

「銀座の数寄屋橋を歩くと会社帰りのOLがいっぱいいて、『この人たちは何を考えているんだろう。本音を聞きたいな』と思って、一般の女性をスタジオに呼んで明石家さんまさんが話を聞く『恋のから騒ぎ』を思いつきました。当時はバラエティー番組に一般女性をあんなにたくさん出演させるような例がなかったため局内で反対されましたが、女性タレントだと『幼稚園のときに好きな人がいました』なんてつまらないことしか言わない。でも素人なら、収録の前日に彼氏と別れたと言って、さんまさんの前で本気で泣いたりする」(吉川さん)

吉川さんのもくろみ通り、街を歩いていたOLや女子大生はテレビのスタジオでさんまにいじられ、個性を発揮した。フリーアナウンサーの小林麻耶(40才)など、番組をきっかけに誕生した人気者も多い。

メディア文化評論家の碓井広義さんが指摘する。

「それまで独自性を求めてテレビを見ていた人たちが『どのチャンネルも同じでつまんないな』と気づいたときと、テレビ広告が減少してネット広告が増えていった時期はちょうどリンクしていると考えられます」

(「女性セブン」2020年4月30日号)


大ヒットドラマ『半沢直樹』とは何だったのか?

2020年04月20日 | 「現代ビジネス」掲載のコラム

 

 

新作が放送延期

大ヒットドラマ『半沢直樹』とは

何だったのか?

 

痛快だった「現代の時代劇」

 

4月クールのドラマに異変が生じている。始まるはずの作品の多くが、なかなか開始されないのだ。軒並み、放送延期や撮影の中断が伝えられている。原因はもちろん、新型コロナウイルスである。

今期ドラマの注目作のひとつ、日曜劇場『半沢直樹』(TBS系)も、初回の放送が延期されたままだ。大ヒットドラマの続編であり、多くの視聴者が開始を待っていることだろう。

とはいえ、前回から何と7年の歳月が流れているのも事実。始まるのを待つだけでなく、その間に、おさらいというか、復習というか、記憶を呼び戻しておきたい。それによって、待望の放送開始となった際、一気にドラマの世界へと入っていけるはずだからだ。

では、そもそもあのドラマ、堺雅人主演『半沢直樹』とは、一体何だったのか。

それは2013年夏のことだった

もう大半の人は覚えていないと思うが、『半沢直樹』が放送された2013年の夏は暑かった。そう、毎日ひたすら暑かったのだ。

夜になっても気温は下がらず、外で遊ぶ気にもならない。できれば早く仕事を終えて家に帰りたい。クーラーの効いた部屋に避難したい。そんなふうに思いながら暮らした人が多かった夏だ。

7月に各局の夏ドラマが始まった時、「初回視聴率」の高さに驚いた。テレビ朝日『DOCTORS 2』19.6%。フジテレビ『ショムニ2013』18.3%。そしてTBS『半沢直樹』が19.4%と、スタートから横並びで、高い数字をたたき出したのだ。

一瞬、「高視聴率の原因は連日の猛暑か!」と半分本気で思ったものだ。その後、『半沢直樹』は、単独でモンスター級のドラマへと成長していく。

初回の放送直後、『半沢直樹』を次のように分析した。そのポイントは2つだった。

まず主人公が、大量採用の「バブル世代」であること。企業内では、「楽をして禄(ろく)を食(は)む」などと、負のイメージで語られることの多い彼らにスポットを当てたストーリーが新鮮だった。

このドラマの原作は、池井戸潤の小説『オレたちバブル入行組』と『オレたち花のバブル組』の2作だが、どちらも優れた企業小説の例にもれず、内部にいる人間の生態を巧みに描いている。

第2のポイントは、主演の堺雅人である。前年、フジテレビ『リーガルハイ』とTBS『大奥』の演技で、ギャラクシー賞テレビ部門個人賞を受賞していた。シリアスとユーモアの絶妙なバランス、特に目ヂカラが群を抜いていた。当時、まさに旬の役者だったのだ。

「現代の時代劇」としての『半沢直樹』

8月に入っても、『半沢直樹』は順調に数字を伸ばしていく。銀行、そして金融業界が舞台の話となれば、背景が複雑なものになりがちだが、『半沢直樹』は物語の中に解説的要素を組み込み、実にわかりやすくできていた。

銀行内部のドロドロとした権力闘争やパワハラなどの人間ドラマをリアルに描きつつ、自然な形で銀行の業務や金融業界全体が見えるようにしていた。「平易」でありながら、「奥行」があったのだ。

また、銀行員の妻は夫の地位や身分で自らの序列が決まる。半沢の妻・花(上戸彩)を軸にして、社宅住まいの妻たちの苦労を見せることで女性視聴者も呼び込んだ。8月11日放送の第5回、視聴率は前週の27.6%を超えて29.0%に達する。この頃、すでに『半沢直樹』は堂々のブームとなっていた。

ところが、なんと次の日曜日、18日は『半沢直樹』を放送しないというではないか。その理由が『世界陸上』だ。独占生中継とはいえ、このタイミングで『半沢直樹』を1回休むのはもったいないという声も多かった。しかし、結果的には視聴者の飢餓感を刺激し、また話題のドラマを見てみようという、新たな層も呼び込むことになったのだ。

前半(大阪編)がクライマックスを迎える頃、このドラマが「現代の時代劇」であることに気づいた。

窮地に陥る主人公。損得抜きに彼の助太刀(すけだち)をする仲間たち。そして際立つ存在としての敵(かたき)役。勧善懲悪がはっきりしていて分かりやすい、まるで時代劇の構造だ。

威勢のいい「たんか」は、『水戸黄門』の印籠代わりである。主人公は我慢に我慢を重ね、最後には「倍返しだ!」とミエを切って勝負をひっくり返す。視聴者は痛快に感じ、溜飲が下がるというわけだ。

武器は「知恵」と「友情」

主人公の半沢は、「コネ」も「権力」も持たない代わりに、「知恵」と「友情」を武器にして内外の敵と戦う男だ。

しかもその戦いは、決して正義一辺倒ではない。政治的な動きもすれば裏技も使う。また巨額の債権を回収するためなら、手段を選ばない狡猾(こうかつ)さもある。そんな「清濁併せのむヒーロー像」が見る人の共感を呼んだのだ。

9月、東京編に移っても、その勢いは止まらない。半沢の父を死に追いやった、銀行常務役の香川照之はもちろん、金融庁検査官を演じた片岡愛之助など、クセのある脇役陣も自分たちの見せ場を作っていく。役柄が化けていくのだ。

そして最後に用意されていたのが、「運命の対決」だった。半沢を正面からとらえたアップを多用する演出も、ぞくぞくするような臨場感を生んでいた。最終回の視聴率は今世紀最高の42.2%を記録した。録画したものを見た人を加えると、その数は膨大なものになる。

密度とテンポの物語展開

こうして振り返ってみて、このドラマが、『オレたちバブル入行組』と『オレたち花のバブル組』という2つの小説を原作としていたことに、再度注目したい。

制作陣が「やろう!」と思えば、大阪編だけでもワンクールの放送は可能だったのだ。しかしそれだと、結果的に『半沢直樹』が実現した、あの密度とテンポの物語展開は無理だったろう。

それは、同じ2013年上期に放送された、NHKの朝ドラ『あまちゃん』が、北三陸編と東京編の二部構成で成功したことにも通じる。

1話分に詰め込まれている話の密度が極めて高く、またスピーディなのだ。それなのに、わかりづらくないし、見る側も置いてきぼりをくわない。

それを支えていたのは、八津弘幸のダイナミックな脚本と福澤克維をはじめとする演出陣の力技だ。

特にチーフ・ディレクターの福澤は、『半沢直樹』の前に、同じ日曜劇場の『南極大陸』や『華麗なる一族』なども手がけていた。こうした「男のドラマ」を作らせたら、ピカイチの演出家だ。

ワンカットの映像でも、一目見れば「福澤作品」とわかるほど個性が強い画(え)を撮る。往年の和田勉(NHK)を彷彿させる、極端なほどの人物のアップ。かと思うと、一転してカメラをドーンと引き、大群衆を入れ込んだロングショット。そのメリハリの利いた映像とテンポが心地いい。

忘れられないのは、『半沢直樹』の第1話の冒頭のシーン。まず、半沢の顔のアップ。そこからズームアウト(画角が広がり背景も見えてくる)していく長いワンカットが使われた。あのワンカットを敢行する思いきりのよさ、大胆さは見事だ。

その一方で、福澤の演出は細部にまでしっかりと及んでいる。登場人物たちのかすかな目の動きや表情。台詞のニュアンス。さらに大量のエキストラが登場するシーンでも、一人一人に気を配り、画面の隅にいる人物からも緊張感のある演技を引き出す。

大胆であること、そして繊細であること。オーバーな言い方をすれば、福澤には、「天使のように大胆に、悪魔のように細心に」の黒澤明監督と重なるものがある。

骨太なストーリーの原作小説。そのエッセンスを生かす形で、起伏に富んだ物語を再構築した脚本。大胆さと繊細さを併せ持つ、達意の演出。それに応えるキャストたちの熱演。それらの総合力が、このドラマを、見る側の気持ちを揺さぶる、また長く記憶に残る1本に押し上げたのである。

そして、2020年版『半沢直樹』は・・・

 今度の『半沢直樹』の原作は、前作と同じ池井戸潤の小説『ロスジェネの逆襲』と『銀翼のイカロス』の2作だ。おそらく前編、後編という二部構成になるのではないか。

原作の『ロスジェネの逆襲』をもとに、ドラマ前編を少しだけ想像してみたい。

この小説の舞台は、半沢が飛ばされた先の系列証券会社だ。IT企業の買収をめぐって、親会社の銀行と対立する半沢は、ロスジェネ世代との共闘を選ぶ。

「ITベンチャーの星」と呼ばれる電脳雑技集団が、ライバルである東京スパイラルの買収を企む。相談を持ちかけたのは銀行ではなく、半沢のいる証券会社だ。

ところが途中で親会社の一派が、この案件を横取りしようと仕掛けてくる。買収のアドバイザーは巨大な利益をもたらし、同時に半沢を潰すこともできるからだ。

半沢の部下、森山雅弘は典型的なロスジェネ世代。まさに「楽をして禄を食む」連中だと、バブル世代を目の敵(かたき)にしてきた。だが、半沢は森山の能力を評価し、一緒に反撃に出ようとする。「やられたら、倍返しだ」である。

物語の中で明かされる、企業買収の仕組み。特に銀行や証券会社の動きが興味深い。また優れた企業小説の例にもれず、本書も企業の中にいる人間の生態が巧みに描かれている。「組織対組織」、そして「組織対個人」の暗闘がスリリングだ。

何より、「正しいことを正しいと言えること」「世の中の常識と組織の常識を一致させること」を、愚直に目指す男の姿が清々しい。それはドラマ『半沢直樹』も同様だ。

2020年版『半沢直樹』は、TBSにとってだけでなく、今年のドラマ界全体の目玉となる作品である。

ただし今回は、新型コロナウイルスの影響で、放送の開始時期によっては、夏クールの冒頭まで食い込むことになるかもしれない。もしかしたら、放送回数を減らすという判断があってもおかしくない。いや、場合によっては、全体を夏クールに異動させることさえ考えられる。

いずれにしても、とにかく半沢には会いたい。「チーム半沢」と呼ばれる制作陣、そして堺雅人をはじめとする俳優陣が、どんな人間ドラマを見せてくれるのか。今は辛抱して、半沢との再会を待つのみだ。


言葉の備忘録145 この世には・・・

2020年04月19日 | 言葉の備忘録

 

 

THERE ARE SO MANY THINGS IN LIFE 
THAT WE CAN NEVER BE SURE ABOUT...

この世には

確かじゃないことが

いっぱいあるのよ・・

 

 

ルーシーの言葉

チャールズ M.シュルツ、谷川俊太郎:訳

『つまらない日も楽しくなるスヌーピー』

 

 


日本経済新聞に、『倉本聰の言葉』の書評

2020年04月18日 | 本・新聞・雑誌・活字

 

18日(土)の日本経済新聞に、

『倉本聰の言葉―ドラマの中の名言―』の書評が

掲載されました。

 

日経新聞さんに

感謝いたします。

 

 

『倉本聰の言葉』碓井広義編

「前略おふくろ様」や「北の国から」「やすらぎの郷」――。85歳にして現役の脚本家が生み出してきたテレビドラマの登場人物に、自らの青春や人生を重ねた人も多いだろう。リアルタイムで見た人にもそうでない人にも「人生のヒント」となる400の名ゼリフを収めた。編者は制作会社テレビマンユニオン出身。現場をともにして以来、「勝手に師事」してきた師への敬愛の念がにじむ。新潮新書・720

(日本経済新聞 朝刊 2020418日付)

 

 

 

 

 


言葉の備忘録144 なみだを・・・

2020年04月17日 | 言葉の備忘録

 

 

 

なみだを馬のたてがみに

こころは遠い草原に

 

寺山修司 『馬敗れて草原あり』

 

 


「ギルティ」の男どもは、女性陣の手のひらで踊る小人?

2020年04月16日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

不倫ドラマ「ギルティ」の男どもは

新川優愛ら女性陣の手のひらで踊る小人か?

 

放送開始が延期されたり、制作が中断したりしている4月クールの連ドラ。そんな中で最も早くスタートした一本が、木曜深夜の「ギルティ~この恋は罪ですか?~」だ。

ジャンルで言えば、バリバリの不倫ドラマである。ヒロインの荻野爽(新川優愛)は雑誌の編集者。夫の一真(小池徹平)は広告会社勤務だ。

子どもが欲しい爽だが、一真は受け入れてくれない。とはいえ他に大きな不満もなく、平穏な結婚生活を送っていた。

しかし実は一真が不倫中で、先週、相手が爽の友人である瑠衣(中村ゆりか)だと知ってしまった。

また爽自身も高校時代の初恋の相手、秋山慶一(町田啓太)と再会。当時、互いに好きなのに別れたという事情もあり、爽の気持ちは揺れ始める。

生真面目な美人妻がぴったりな新川。小悪魔的な愛人を大胆に演じる中村。この2人を眺めるだけでも十分楽しめるのに、この先にはまだまだ危ない仕掛けが用意されているようだ。

たとえば爽の高校時代からの親友、若菜(筧美和子)。さらに秋山の妻、美和子(徳永えり)。どちらも、かなりの「ワケあり感」を醸し出しており、爽や秋山の運命を左右する存在になりそうだ。

新川、中村、筧、そして徳永。今後、4人の女性が物語を引っぱっていくことは間違いない。男どもは彼女たちの手のひらの上で踊る小人か。だが、それでいいのだ!

(日刊ゲンダイ 2020.04.15