<碓井広義の放送時評>
12年間のテレビ業界を振り返って
2011年秋に始まったこの連載も今回が千秋楽となる。読者の皆さんに感謝しながら12年間のテレビを振り返ってみたい。
UHB「のりゆきのトークDE北海道」が終了したのは12年。自社制作を定着させ、視聴者と並走した功績は大きい。
13年は「あまちゃん」(NHK)と「半沢直樹」(TBS-HBC)の年だ。練られた脚本、熱い演技、メリハリのある演出で共通していた。
14年、NHKの籾井(もみい)勝人会長が特定秘密保護法などについて問題発言。「政府が右と言っているものを、左と言うわけにはいかない」という言葉は、権力を監視して必要な批判を行うジャーナリズムの使命の放棄だ。
15年の真打ちドラマが「下町ロケット」(TBS-HBC)。原作・池井戸潤、脚本・八津弘幸、演出・福沢克雄の「チーム半沢(直樹)」が本格ドラマに仕上げていた。
16年、国谷裕子キャスターの「クローズアップ現代」(NHK)が最終回を迎えた。「NEWS23」(TBS-HBC)の岸井成格、「報道ステーション」(テレビ朝日-HTB)の古舘伊知郎も退任。“もの言うキャスター”の不在はテレビの変容を感じさせた。
17年の倉本聰脚本「やすらぎの郷」(テレビ朝日-HTB)。テレビが冷遇してきた高齢者層に向けたドラマは一種の革命だった。
18年のドキュメンタリー「聞こえない声~アイヌ遺骨問題 もう一つの150年~」(HTB)は、現在も続く差別をアイヌの人たちの目線で描いて出色だった。
19年には「俺のスカート、どこ行った?」(日本テレビ-STV)や「きのう何食べた?」(テレビ東京-TVH)など男性同性愛者のドラマが多発。多様性社会を反映していた。
20年、新型コロナウイルスの影響で多くのドラマが放送延期や制作中断に。メインキャスター不在のニュース番組まで現れた。
21年は宮藤官九郎脚本「俺の家の話」(TBS-HBC)などのホームドラマが目立った。コロナ禍の中、大切な存在として家族が再認識されたのだ。この年、ネット広告費がマスコミ4媒体(新聞、雑誌、ラジオ、テレビ)の広告費総額を上回った。
22年、「ガッテン!」(NHK)や「バラエティー生活笑百科」(同)などの長寿番組が終了し、高齢視聴者の切り捨てが話題となった。
今年、テレビは放送開始70年を迎えた。メディア環境は激変したが、信頼できる報道と質の高いエンターテインメントはテレビの底力だ。楽しみながら見守っていきたい。
(北海道新聞「碓井広義の放送時評」2023.03.04)