遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『QED 伊勢の曙光』 高田崇史 講談社NOVELS

2012-07-24 10:29:22 | レビュー
 本書はQEDシリーズの最終話だった。このシリーズを愛読してきた私には最終話ということを最後の最後に読んで、残念に思う。
 さて、この最終話には、例によって二つの謎がある。一つは伊勢にまつわる歴史的事実に潜む謎。もう一つは、伊勢の八岐村所在の「海風神社」秘宝にからまる殺人事件の謎である。伊勢の歴史的事実及び伝承に、フィクションの殺人事件が絡められ、その謎解きに接点を持たせつつストーリーが展開していく。

 海風神社の神主である日祀栄嗣、30歳は関係者とともに銀座で開かれる予定の「伊勢の秘宝展」に出展するために、神社に伝わる秘宝である真珠「海の雫」を持って上京する。だが、古いビジネスホテルの5階ベランダから落下して、即死。両手の親指が母指基部から小刀で切り落とされていた。なぜ、両親指が・・・。勿論、秘宝は盗まれていた。
 一緒に上京した関係者4人は同じ村の住民だった。御蔭敬二郎48歳、連下勝彦とその妻・麗奈。外城田小夜子(被害者栄嗣の姉)である。栄嗣は村の住民が半ば離散し寒村化が進む中で、村おこしを狙い出展に積極的だった。しかし、敬二郎はじめ、最後まで秘宝の出展に反対意見を持つ者もいた。麗奈のように出展に賛成する者と反対するものが共に関係者として栄嗣に同行してきたのだ。事件を担当するのは、警視庁捜査一課警部・岩築竹松警部と堂本素直巡査部長だ。事件は、関係者のアリバイ捜査から始まる。
 そして、その後再び事件が起こる。外城田小夜子がホテル自室で首を吊っているのを発見される。遺書もあった。だが、今度は彼女の両手の小指が切り落とされていた。事件は思わぬ形で深みに入って行く。

 一方、桑原崇は、友人の小松崎から連絡を受け、先輩にあたる三重県警の刑事から呼び出されて、伊勢に同行するよう頼まれる。桑原は伊勢神宮にそろそろ行こうと思っていたところなので、この申し出に同意する。ホテルの手配の都合までした小松崎が仕事の都合で遅れることになり、部屋のキャンセルが無駄なので、棚旗奈々を誘って先行するように小松崎は崇に持ちかける。ということで、奈々も伊勢に行くことになる。そこで今回も、崇と奈々の対話という形で、伊勢神宮の謎解きが始まっていく。

 この強盗殺人事件に別の関わりが出来てくる。一つは、小松崎に対して、神山禮子が協力依頼を働きかけていく。彼女の同級生がこの事件に巻き込まれているというのだ。連下麗奈である。この麗奈は毒草師御名形史紋の従兄妹でもあった。
 もう一つは、今や尼僧となっている五十嵐弥生の依頼である。こちらは三重県警の刑事から小松崎を経由した形で、崇が伊勢に出向くことになった原因でもあった。弥生は昔、理科の教師で崇の恩師だったのだ。弥生の娘がこの事件に関わり出したので、娘を守るために崇に事件の謎解きを娘よりも先にして欲しいというもの。弥生の娘・彩子にとって大学の2年先輩が連下麗奈だったのだ。彩子は事件に巻き込まれた麗奈のために、一人でこの事件の調査を弥生が留めるのも聞かずに始めそうなので、親として先手を打とうという思いからである。崇なら海風神社と伊勢神宮との関わりを含めた伊勢の謎を解明できると信じているからだという。崇は、殺人事件は警察の持つ科学力で解決できることだと弥生に言う。それに対して弥生はハッキリと断言する。警察はこの世のことの範囲でしかわからない。だから、その謎解きに崇の力がいるのだと。
 
 例によって、伊勢神宮の史実に関わる情報が崇と奈々の対話の中で徐々に整理されていき、謎のベースが固まっていく。そして、そこに海風神社の持つ謎が組み合わされていき、その謎解きが意外な展開となっていく。そこに、この海風神社の秘宝の出展問題を契機とした殺人事件解決の糸口があったのだ。伊勢神宮そのものの謎解きに大きなウエイトがかかっているのは、QEDシリーズ読者なら、お見通しであろう。だが、私にはそこが興味深いところでもある。
 崇が列挙する伊勢神宮の謎は次のとおりだ。
*何故、内宮より後に建てられた外宮から先にお参りするのか。
*何故、祭祀も外宮の方が先-外宮先祭なのか。
*何故、外宮の様式は『男千木』で、鰹木も奇数本なのか。これは男神を祀っていることになるが、祭神は豊受大神-明らかに女神である。
*何故、五十鈴川を渡ってから下りるのか。
*何故、外宮・内宮共に、参道が九十度折れているのか。天皇家の祖神が怨霊だというのか。
*何故、天皇は明治の御代まで公式参拝されなかったのか。
*何故、明治になって突然公式参拝されたのか。
*何故、鳥居に注連縄がないのか。
*何故、狛犬がいないのか。
*何故、賽銭箱がないのか。
*何故、神殿正面に鈴がないのか。
*何故、本殿正面に蕃塀が建てられているのか。
*何故、興玉神をそれほどまでに祀るのか。
   興玉神は、二見浦に祀られている猿田彦のことである。
*何故、倭姫巡幸で、二十四ヵ所も転々としたのか。
   その資金は一体どこから捻出されたのか。
*何故、当時あれほど住みづらかった伊勢の地に落ち着いたのか。
*何故、五百年も経ってから豊受大神が選ばれたのか。
*何故、二十年に一度、遷宮を行うのか。
*何故、伊勢参りにあれほど多くの人々が熱狂したのか。
*何故、伊勢白粉が梅毒に効くといわれるようになったのか。
そして、天照大神に関しての謎。
*天照大神は、本当に女神だったのか。
*天照大神は、蛇だったのか。
*天照大神は、『かはく』『河童』だったのか。
*天照大神は、天の岩戸で殺害されたのか。
*天照大神は、本当に天皇家の祖神だったのか。
*天照大神は、何者なのか。
*天照大神は、卑弥呼だったのか。
*天照大神と、天照国照彦天火明櫛玉ニギハヤヒノ命との関係は。
*天照大神と、持統天皇の関係は。
*天照大神は、本当に伊勢に祀られているのか。
*そもそも『神宮』とは何なのか?
これらがこの話の出発点になる。崇が長らく考えていた一群の謎。

 そして、海風神社の謎が絡んでくる。
五十嵐彩子は、母の弥生が崇と会うために出かけた隙を狙って、単独行動に出る。海風神社を直接訪れ、神社を拝見する。本殿のお参りをさせて貰って、昇殿したとき、正面左手奥にかかる軸を目に留める。
 そこには、「ゆめ忘るなよ、ひとよのさみだれ」と墨書され、その下に描かれた文様が描かれていた。それに目をとめたのだ。これを見た彩子は、その後自分に危険が訪れることを知らない。
 この軸の文言は何を意味するのか。
 その後、崇も海風神社を訪れたとき、この掛け軸の文言と文様に目をとめる。そして、謎解きが進展する。

 また、本書のプロローグである「伊勢」とエピローグである「瑠璃」の文の内容は、海風神社にまつわる殺人事件の謎が、崇により解明されて初めて、その意味が理解できるという構造になっている。それは海風神社のはるか昔と現在を結びつけるリンケージ。


ご一読ありがとうございます。

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 この最終話に関連し、関心を抱いた語句をネット検索してみた。

伊勢神宮のHP
  1年間の主な恒例祭典及び式一覧
  豊受大神宮(外宮) イラストマップ
  皇大神宮(内宮) イラストマップ
伊勢神宮  :ウィキペディア
天照大神  :ウィキペディア
猿田彦命 → サルタヒコ :ウィキペディア
天宇受賣命 → アメノウズメ :ウィキペディア
ニギハヤヒ :ウィキペディア
塞の神 → 岐の神 :ウィキペディア
道祖神 :ウィキペディア
道祖神の画像検索結果
元伊勢 籠神社のHP
斎宮 :ウィキペディア
斎王関係略年表  :斎宮歴史博物館のHP
大神神社のHP
十種神宝  :ウィキペディア
三種の神器 :ウィキペディア

筑紫申真 :ウィキペディア
斎藤英喜 :ウィキペディア


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