おばあちゃん

　「叔母が亡くなりそうなので、急に休むかもしれません」と先々週、ある社員から報告があった。先週は別の社員から「同居の祖母が亡くなりそうなので、急に休みをもらうことになるかもしれません」と。いずれも３０代前半の社員の親族で、８０代後半から９０代の方が危険な状況だという。

　第２次世界大戦の最中に１０代後半を過ごし、戦後の混乱の中、最も食糧事情が悪い時期にお子さんを生んで育てた女性達ということになる。

　息子や娘達に食べさせるため、戦争で傷付いた男達に報いるため、自分のことは後回しにして頑張ってきた女性達だったろう。厳しい生活ながらも戦争が終わって世の中に活気があふれ夢が形になっていく様を見て、負けてはいられないと頑張って来たに違いない。実際に、頑張れば頑張った甲斐があった。夫も少しずつ出世し、あれこれいろいろあったけれど子供達も自分達の力で生活できるようになって、いつしか孫もできた。苦しい時代を、みんなで協力し、支えあって生きて来たからこそここまで来れたのだ。しかし、子供達や孫は、なぜみんなで声をかけあって助け合わないのだろう。そんなに大変なことではないのに、そう思って来られたかもしれない。助け合わなければ生きて来れなかった貧しい時代を過ぎると、競争の時代に入り、競争の時代が過ぎると、他人に関心を持たない時代に入った。こんな今だからこそ、彼女達の力が必要だ、と切実に思う。

　「トイレの神様」という歌をご存知だろうか。植村花菜という女性の歌だ。澄んだ声でおばあちゃんの思い出を歌う。独立し一人で生きて行こうと言う段になると、人は誰も本当のことを強く優しく伝えてくれる誰かを必要とする。支えになる笑顔と言葉が必要だ。

　強く優しい女性達が教えてくれた人生のヒントを次の世代へ次の世代へと聖火のように伝えて行きたい。それが、ずっと支えてくれた人への恩返しでもある。
　

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