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B型肝炎ワクチンはなぜネグレクトされてきたのか その6

2011-11-22 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)
厚生労働省の過去の資料は、定期的に誰かが責任をもって更新・改訂しているのかが不明なのですが、平成18年以後に国内外で新たに得られた知見などをもとに修正すべき点は複数あるように思われました。

その後も新しい資料が厚生労働省の名前で出ています。

2年くらいで担当の人が異動するので、そのときどきによって書いた人とか責任者ってちがうわけですが、掲載されている資料の更新の責任は誰にあるんでしょうね。

掲載されている内容は今も妥当だからそのままなのか、メンテナンスをしていないのか、各ページに最終更新日が入っていないのでよくわかりません。

とりあえず読む側としては、新しいものが出たら、そちらに見解を変えたんだな、と思うしかないでしょうか。(古い資料を信じてしまったら自己責任?)
なぜなら日々、新しい知見が国内外で発表され、それまでの考え方やデータが修正されているのですから。

・・・ということで、平成18年のQ&Aのあとの公的な文書として、『平成21年8月 厚生労働省 保育所における感染症対策ガイドライン』があります。

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乳幼児は、学童・生徒に比較して感染症に対する免疫を獲得しておらず、体力も微弱です。また一緒に遊んだり、隣り合って昼寝をしたりするなど、長時間にわたり、互いに接触する機会が多く、さらには手洗い、食事、おむつ替え等が日々行われています。このように保育所は、乳幼児にとって感染の危険性が高く、さらに種々の感染症の発症が起こりやすい場であるということを理解し、適切な感染症対策
が必要となります。

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保育所入所前に受けられる予防接種はできるだけ済ませておくことが必要ですが、保育所では入所児童の予防接種状況を把握し、年齢に応じた計画的な接種を保護者に勧奨します。また、保育所においては、職員の予防接種状況や抗体の有無等の把握と必要に応じての接種が求められます。

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① 定期接種と任意接種
○ 定期接種
病気の重さや社会的重要性を考慮し、接種の必要性の高い予防接種の種類が「予防接種法」(昭和 23 年 6 月 30 日法律第 68 号)で定められています。これが定期接種といわれるもので、百日咳、ジフテリア、破傷風、ポリオ、日本脳炎、麻しん、風しん、結核が該当します。

○ 任意接種
定期接種以外の予防接種、あるいは定期接種で決められた一定の期間の範囲外に行う予防接種で、本人あるいは保護者等の希望により行われる予防接種です。水痘、流行性耳下腺炎、インフルエンザ、ヒブワクチンなどが該当します。

(これは厚労省が定義する任意と定期の違の根拠文書でしょうか。これだとまったくの自由・自己責任のようにきこえます。)

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(2) 職員の衛生管理
・ 清潔な服装と頭髪
・ 爪は短く切る
・ 日々の体調管理
・ 発熱、咳、下痢、嘔吐がある場合の速やかな受診
・ 保育中及び保育前後の手洗いの徹底
・ 感染源となりうる物(糞便、吐物、血液等)の安全な処理方法の徹底
・ 給食室の衛生管理の徹底
・ 下痢、嘔吐の症状又は化膿創や感冒症状がある職員の食物の扱いの禁止

(ここに予防接種の記載が必要)

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そして、この資料の36ページにB型肝炎の記載があります。

まず、感染経路

「血液や体液を介して感染、針刺し母子垂直感染にてキャリア化することがある。キャリアとはHBs抗原陽性の慢性HBV感染者のこと」

とあります。

そして、集団保育において留意すべき事項

・新生児期を含め4歳頃までに感染を受けるとキャリア化する。
・HBV母子感染予防対策事業(HBsヒト免疫グロブリンとB型肝炎ワクチン)が開始され母子感
染による感染は激減した。
入園してくる乳幼児がキャリアであるか否かを事前に知ることは困難である。
・一般的な感染症対策を講じ、衛生的な日常生活の習慣を守っている限り、キャリアの児が集団生活の場で他人にウイルスを感染させることはない

という記載になっています。

この資料をもとに、保護者や園医が「ワクチンはいらないねー」という判断をすることになっているのでしょうか。

専門団体が作成した資料の記載

日本小児科学会 予防接種・感染対策委員会(平成23年)
「学校、幼稚園、保育所において予防すべき感染症の解説」(13ページ) 抜粋

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B型肝炎 :血液や体液を介して感染する肝炎のひとつで、以前は輸血に伴う感染や、出産に伴う母親からの垂直感染が問題となった。輸血用血液のスクリーニング検査や、母児感染防止事業によって発生数が減少しているが、対象児の約 10%で予防処置の脱落や胎内感染がみられ、また近年、水平感染(幼少時の家族内感染と思春期以降の性交渉感染)が増加している。

予防法;けがの処置などで、HBs抗原陽性キャリア児の血液に触れる場合は、感染予防のため、ゴム手袋をすることが大切である。
また、キャリア児が噛み付くことでも、リスクは低いものの感染がおこりうるため、噛まれた児に HBIV と HBV ワクチンによる感染予防を推奨する専門家もいる。

登校(園)基準:急性肝炎の極期でない限り、登校(園)は可能である。ただし、歯ブラシやカミソリ
などの共用は避ける。また、非常に攻撃的でよく噛み付く、全身性の皮膚炎がある、出血性疾患がある等、血液媒介感染を引き起こすリスクがある場合には、主治医、保育者、施設責任者が個別にそのリスクを評価して対応する必要がある。

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予防法のところに、集団生活を始める子どもを持つ保護者に対して予防ワクチンの存在を伝える、というような記載がないことは不思議です。
その子どもと保護者・主治医・施設の人の責任のように読めます。
事故がおきたらその人たちが責めをおわなければならないのでしょうか。
この感染症は、特にこどもにおいては個人の意図や努力だけでは予防が難しいからユニバーサルワクチンが推奨されているんですが。


さらに、こちらは国立感染症研究所の名前になっていますが、ワクチンについての平成22年7月の時点での「ファクト」を集めたものがあります。

『B型肝炎ワクチン ファクトシート 平成22年7月』

以下抜粋なんですが

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世界中の原発性肝がんの 60~80%は HBV によると推計されている 。
一過性感染の主な感染経路は輸血などの医療処置、感染者とのカミソリ等の共用、感染者との性行為など、持続感染は HBV に感染している母親からの垂直感染、小児期の水平感染などが挙げられる

WHO の報告では、世界全体での感染者(肝炎非発症者も含む)の年齢による持続感染化の割合は、感染者が1歳以下の場合 90%、1~5 歳の場合は25~50%、

また、幼尐時の水平感染も HBV キャリア化する危険性が高い。


感染症法の下で届け出られた急性B型肝炎の年間報告数は1999年(4~12月)の510例から減尐傾向にあり、2003~2006年は200~250例で推移していたが、2007年以降は200例を下回っている。

国立病院急性肝炎共同研究班では 1976 年以降、参加施設に入院した急性ウイルス肝炎を全例登録しており、年次推移を推定するためには貴重な情報源となっている。この報告によれば、最近 10 年間では急性B型肝炎は増加傾向を示している(表 4)20)。このデータから試算すると、日本全国で急性B型肝炎による新規の推定入院患者は 1,800 人程度と推測される。この矛盾からも急性B型肝炎調査の難しさが伺える。
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他のワクチン・感染症でもそうですが、Evidenceの基本となるサーベイランスや疫学調査が不足しています。
ファクトシートでも重ねて指摘されていますが、古くて限定的な子どもでの感染率が低いということでWHO推奨のユニバーサルワクチンをしなくていいという説明になるのでしょうか?

(だったらBCGはどうなんでしょうか)

「高齢者、中高年での有病率の高さを考えたら、まだまだBCGはいるんだよ。特に同居している場合はね」と主張する人たちがいます。

B型肝炎が家庭内で祖父母から孫や子どもが感染する事例の広がりを考えれば、今後のフェーズとしてはユニバーサル接種にということになっていくのではないかと思うのですが。 (つづく)

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