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HPVワクチンとその周辺 2016年6月

2016-07-02 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)
はやいもので7月。もう今年の半分が終わってしまいました。

月に1回のHPV関連情報のまとめです。6月は国内外で新しい(困った)情報も出てきました。


厚生労働省の動き:定例会議で、定期的に報告される情報が共有され、大阪大学の疫学研究の結果を待つという低空飛行状態が続いています。


困っている人たちがいますので、もう少し早く何とかならないのか~と思うわけです。

1)2種類あるうちのどちらかのワクチン接種の後に、何らかの体調不良がある(続いている)人
2)国が調査するので積極的接種勧奨差し控えなら少し様子を見ようと、それに素直に従った人(保護者)
3)あれこれセンセーショナルなニュースがあるたびネットの情報を見て混乱。何を信じればいいのでしょうかな皆さん
4)3)のたびに説明や対応に追われる現場や専門家


さらに解説。

1)は一番重要な情報は、快復のための情報ですが、メディアはほとんど伝えていない状態が6月も続いています。
快復すると何かまずいことでもあるんでしょうか・・・・という指摘はネット上に複数みかけます。

発症の経過、治り方、個人差含め、よくなった情報は当事者にも医療者にも参考になるものです。

「治らない」「こんなにひどい」とメディアネガティブ情報だけを言い続けることは何のため誰のためなのでしょう。


2)は、
「待っているうちに娘が成長して彼氏ができたっぽいんですけど!?いつ結論が出るんですか?」
「待っているうちに無料接種期間がおわりそうなんですけど。国の動きに従ったのにまさか様子を見ていた家庭は有料ってことじゃあないでしょうね!?」
「家庭の自己決定・自己責任という厚労省の丸投げな態度に腹立つ!
なんとかしてくださいよ、、、、なご意見。

3)は検索してもまともな情報源がなかなか見つからないんですけど!?厚労省や感染研に国民向けの情報少ないんんじゃ?という怒り。



混乱や不幸な構造を作っている原因でもあるメディア。

よく、医薬品について副反応ばかり大騒ぎしやがって!という批判も聞きますが、えーそれ、メーカーの広告みたいですよ?な記事もみかけます。

「誰が」「何を」語っているのか。読み手の側のリテラシーも試されています。

6月にもっとも勉強になったのは毎日新聞が医療問題を掘り下げるシリーズで、太融寺町谷口医院の谷口先生が連載されてるなかでの記事。

実践!感染症講義 -命を救う5分の知識
2016年6月26日 「HPVワクチン不信が生じた過程

2016年6月19日 「HPVワクチンを理解するのに必要なこと

2016年6月12日 「HPV母子感染 知られざるリスク

やはり、現場で困っている人たちの側にいる先生の言葉はリアルですね。

子宮頸がんの話は、婦人科の先生からのお話しや、たくさんある患者さんのブログ記事などからも、病気や治療だけでなく、生活や仕事、家族、人生への影響などを学ぶことができます。

「なぜ予防が重要といわれているのか」「なぜこのワクチンが開発され、各国で大事にされているか」の背景を理解することができます。


勉強になりましたね。
しかし、次は 「ちょっと!なんですか、それ」な話にうつります。


雑誌「WEDGE」での村中さんの記事ですが、テーマがワクチンの話から、「その周辺」の問題に広がっています。

ワクチンそのものの話も重要ですが、国の研究費で行われる研究には厳しいルールがあり、そこから外れているとなると大問題です。また、行政が公費で行った調査結果を(簡単に言うと)投げ出したような形になっているなど、「尋常じゃない」「違和感」が続いています。

ワクチンそのものの話ではありませんが、「倫理」の重要性は言うまでもなく、また信頼関係が求められる中、「誠実」なコミュニケーションから遠ざかるような言動をする人の責任はとても大きいと思われます。

ちなみに、信州大学は研究倫理と教育のリーダー的な存在です。

対談「今求められる研究者の倫理観

厚生労働科学研究における研究不正への対応について


関係する人皆で早く疑惑を解明し、社会に対して説明を行い、研究班の今後の活動に支障をきたさないよう、医学研究についての信頼を回復できるようにと願っています。


Wedge記事の記事はこちら

2016年6月17日 子宮頸がんワクチン薬害研究班に捏造行為が発覚 利用される日本の科学報道(後篇)

2016年6月23日 子宮頸がんワクチン研究班が捏造  厚労省、信州大は調査委設置を  利用される日本の科学報道(続篇)

2016年6月27日 正しくは「速報と変わらず因果関係なし」 名古屋市子宮頸がんワクチン副反応疫学調査「事実上撤回」の真相


こちらは科学の問題のため、別途、報道機関も動いています。

6月26日 毎日新聞 子宮頸がんワクチン 信州大、研究内容で調査委設置
6月27日 日本テレビ 頸がんワクチン研究内容巡り 信州大調査へ
6月28日 産経新聞 HPVワクチン研究に疑義 信州大が調査へ
6月28日 朝日新聞 子宮頸がんワクチン副反応研究で信州大が調査委設置
6月28日 読売新聞 子宮頸がんワクチン、厚労省の副作用研究に「疑い」…信州大が調査へ
6月28日 日経新聞 子宮頸がんワクチン副作用、信州大が研究内容調査へ


ちなみに、研究不正関連については、これまでにも早期に問題指摘を行っているサイトがあります。関連の記事が公開されています。

【世界変動展望】
2016 年6月29日 子宮頸がんワクチン捏造事件はガイドライン上の調査対象である

2016年6月28日 子宮頸がんワクチン捏造報道、池田修一 副学長、医学部長を9月末に辞職  

2016年6月28日 子宮頸がんワクチンの安全性は科学的に正当性を判断すべき



この混乱状況の中、忙しい時間の合間をぬって、問題解決のために必要なことを解説・提案している専門家の記事/追記

Togetter HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)薬害研究班発表は薬害を全然実証していない

Togetter HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)に関する誤解について

EARLの医学ノート 「HPVV(子宮頸癌ワクチン)で脳障害」の根拠となる動物実験に捏造疑惑

simbelmynë :: diary HPVワクチンの副反応?に対する報道(2016/3/16)についての物言い









・・・と、日本独自の展開が続いていますが、海外は違う風景があります。以下参考までに。

【海外ニュース】
2016年6月1日 フィリピン 9-10歳に無料でHPVワクチン接種へ

2016年6月1日 米国 個人の自主報告の有害事象データの課題

2016年6月2日 香港 9価HPVワクチン導入へ

2016年6月3日 米国 侵襲性のない尿をもちいたHPV検査の可能性

2016年6月8日 ザンビア パイロットの評価が終わり、2017年よりHPVワクチンを広く点かい

2016年6月16日 韓国 6月20日より公費でのHPVワクチン接種スタート

2016年6月24日 米国 HPVワクチン2回接種を検討へ

2016年6月28日 カナダ オンタリオ州が無料HPVワクチン対象を拡大

2016年6月29日 台湾 国の癌予防対策に位置づけられている肝炎予防、HPV感染予防ワクチン

2016年6月30日 フィジー HPVワクチン未接種女子での高リスクHPV感染率は13%




【評価】
2016年6月 CID 4価HPVワクチンのインパクトと評価 リアルワールドでの10年 システマティックレビュー
Impact and Effectiveness of the Quadrivalent Human Papillomavirus Vaccine: A Systematic Review of 10 Years of Real-world Experience 


2016年6月 Vaccine. 2016 Jun 25
男性での9価HPVワクチン接種 免疫原性と安全性の比較 フェーズ3
A phase III clinical study to compare the immunogenicity and safety of the 9-valent and quadrivalent HPV vaccines in men.


2016年6月  Oncol Lett. 2016 Jul; 12(1): 601–610.
HPVワクチン時代の子宮頸がん検査でのHPV型のプレバレンス
Shift in prevalence of HPV types in cervical cytology specimens in the era of HPV vaccination


2016年6月 The Lancet Global Health Vol. 4, No. 7
HPVワクチン対象女性のうちどれくらいが接種を受けているか。グローバルな評価
Global estimates of human papillomavirus vaccination coverage by region and income level: a pooled analysis
2006~の2014年10-20歳女性1億1800万人を分母にみるとアクセスは1.4%。高所得国の女性で3回接種完了したのは33.6%。所得差が大きい。


2016年6月 Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2016 Jun 29.
子宮頸がん検診で高度の異常を指摘された人におけるがんの長期リスク(他の癌についての観察)
Long-Term Risk for Noncervical Anogenital Cancer in Women with Previously Diagnosed High-Grade Cervical Intraepithelial Neoplasia: A Danish Nationwide Cohort Study
デンマークの大規模コホート調査。ハイリスクHPVの持続感染による健康リスクの評価。

と、新しく勉強しなくてはいけないことは日々増えています。

日本語の情報はあまりよいソースがなくて、平成21-22年ごろの資料をもとにあーだこーだと言う人たちもいるみたいです・・・。お気の毒であります。

厚労省にも情報の更新をお願いしていきましょう。
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