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HPVワクチンとその周辺 2016年5月

2016-05-31 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)
5月も終わり。HPVワクチン関連情報定期サマリーです。

報道関係の問い合わせや取材の内容がだいぶかわってきました。
市販後10年のデータが蓄積され、また各国の政策/取り組み状況等をみて、日本の状況がたいへん特殊であること、接種後の体調不良を"被害者"として説明するための症例定義の不確かさからくる混乱、その背景にある動きにも気づいたということなのかもしれません。

5月23日には厚生労働省の副反応/安全部会の会議も開かれ、7カ月分の副反応報告データが公開されています。
最近は接種じたいが減っていますので、この期間に報告されたのは「以前接種した」人での体調不良の有害事象でありますが、会議の中では「特定の医師からまとめて報告されたもの」であるという補足説明があったので、この時期に皆が一斉に発症!というような疫学データ上のシグナルではないとのことです。

(詳しい人によると多くが3名の医師からの報告)

今回の会議資料の中に、1例、2価HPVワクチン接種して2年数ヶ月後の死亡例報告がありました。ステイタスは「調査中」ですが、心室細動との診断がついているためか、ワクチン「で」死亡といった完全なる誤報記事はみかけませんし、「接種後の死亡がまたひとり!」というような煽り記事もみかけていません。

実はTwitterではみかけました。会議に参加して補足となる情報を聞いていない人が推論で書くには無理があるレベルなので、ずいぶん雑な発言ですね。ひたすらこのワクチンの悪口を言い続けることが目的のアカウントも存在しますので、全体の流れとあわせて見ておくとよいとおもいます。
これは英語アカウントでもあるのですが、ソースとなっているニュース媒体(natural newsなど)と反ワクチンサイト(sane.vaxなど)と一定の傾向があります。

ブログ、FacebookやTwitterでの専門家コメントも常に報道関係者からウォッチされていますので、地道に情報発信をしていくことの重要性を感じます。

さて。4月以降の情報を見渡してみたいとおもいます。

2016年4月19日 予防接種推進専門協議会ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン(子宮頸がん予防ワクチン)接種推進に向けた関連学術団体の見解を公開。

17団体が並び、社会的にはインパクトがあります。
これは複数の媒体がニュースでとりあげていました。

最近あまり動きがないなかで、
4月19日 キャリアブレイン 子宮頸がんワクチン推奨の再開を
「これ以上の勧奨の中止は、(国内の女性ががん予防の恩恵を受けられず)極めて憂慮すべき事態」
はインパクトがありました。

そして春の学会シーズンです。
他のどの学会よりも予防接種に関わる専門家がつらなる小児科の専門団体の学会でも特別なセッションがありました。

2016年5月13-15日 札幌 第199回 日本小児科学会学術集会

ここでの情報はさまざまな形で意見や情報がでています。とてもいいことです。専門家が真剣に取り組んでいる姿は信頼の元です。隠したり口止めすようなことではありません。(そもそも学会は共有の場であり内緒にしないと不都合ならばクローズドの会議にすべきですから)

関連の学会や研究会でも、ぜひ教育セッションやシンポジウム等を企画されてはいかがでしょうか。
(メーカー共催無しで)

さて。速報的にまとめられていたのは Togetterhの記事。参加できなかった人にはとてもありがたい情報でした。

日本小児科学会:日本におけるヒトパピローマウイルスワクチンの現状と課題 #HPVワクチン

村中さんのwedge記事 子宮頸がんワクチン論争
はっきり示された専門家の総意 小児科学会が投じた決着への一石


かけつけたら会場は立ち見なほどで後ろから見ていた看護職のブログ記事
小児科学会シンポジウム「日本におけるHPVワクチンの現状と課題」

札幌におでかけ かたおか先生の記事
札幌の小児科学会

お留守番でしたが、の かるがもクリニックの先生の記事
HPVワクチンのお話3



こちらは別の学会
2016年5月18-21日 神戸 第57回 日本神経学会学術大会

日本神経学会速報2016年5月19日ポスターpart1
日本神経学会速報2016年5月19日ポスター2

そして、今日は横浜で開催されていた国際臨床細胞学会でもHPVワクチンのセッションがありました。

細胞士、臨床検査医学の知人も参加。その内容のメモ。
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・パシフィコ横浜で開催
・シンポジウム17
・内容
オーストリアの医師が9価HPVワクチンの話を、信州大学の池田先生がワクチン接種後に受診した自験例の話を、北大のハンリー先生が疫学の立場から日本のHPVワクチンの現況の問題を、国立成育医療センターの森先生がGlobalとJapanの状況について話をされました。
フロアの日本人、外国人から質問やコメントも出ていました。

HPV9の話の演者はGSKとMSDの両方の開発やアドバイザーに関わっているというCOI開示がありました。
2価と4価の市販後の観察データは10年、9価はPhaseⅢからだと4.5年。
9価は米国FDAが2014年12月、ヨーロッパEMAが2015年6月に承認。
承認までの臨床試験データの概観、4価→9価でアジュバント量も増えているが有害事象報告が増えているというわけではない、というのが印象的でした。
今後の流れとしては、現在は9価HPVを2回接種が当事者も保護者も、医療費も負担が少なくてよいのではないか、という話かもしれません。


信州大の池田先生はなぜかスライドの多くが日本語で、外国からの参加者に詳細が伝わらなかったかもしれない点が残念でした。報道でしか知らなかった内容を直接聞けたのはよかったです。
2013年6月から2016年3月までに受診した123人(13-36歳)このうち25人は、てんかんやSLEなど他の診断がついており、残りの98例についての分析。これまでに発表されたものと概要は同じ。
地域的には北海道から沖縄まで受診者はばらつきがあると質問への回答で補足がありました。

98例のうち最も多い症状は頭痛で69%、疲労が60%。
「代表例」(という表現でしたが)というかご覧になっている症例の一部を紹介されていました。
例えば2012年9月ー2013年3月と接種した人が2013年7月に受診。POTSだった。
その他、36人のうち15人がカテコラミン分泌不足、下肢の温度がとても低い患者がいる。
計算力が落ちた事例ついて、保護者が「バカになった」と言っている。
という記述が続きます。(会場ザワザワ)
それぞれ示される症状や数字でのバックグラウンドデータや分母の説明がないので、解釈しようがないのですが、印象に残った説明は「学校にいけない」「複数の医療機関で検査や説明を受けているが、(本人ではなく)保護者がHPVワクチン接種が原因だと強く主張している」でした。
他の事例が写真入りで紹介されていました。もともと歩けなかった患者が今は杖無しで歩けるが、問題として「気力が出ない・学習意欲が戻らない」ということがある、ということでした。
症状や状況はどれも事実だとして、これがどうHPVワクチンと関連しているのか、どうしてそのように診断したかについては、マーカーもないし、直接のエビデンスにもとづいた診断ではなく、3年前に研究グループに症状を選択して決めたカテゴリーという説明でした。

参考:Neurologic Complications in HPV Vaccination Brain Nerve. 2015 Jul;67(7):835-43.



ハンリー先生はepidemiologyの立場で、日本でのHPVワクチンの認可から現在までの経緯、その都度どのような問題点があったかの整理、最終的には複数の疫学データを集められ安全性についての検証をされていました。
印象的であった話としては、厚労省が積極的勧奨の差し控えの時にだしたチラシ(ピンクの)にリスクとベネフィットを各自(家庭)で考えてくださいというメッセージがあるが、そもそもワクチンの導入前に国が検討をして導入している、点がありました。
チラシはもっともなことを書いているようで、情報が十分に与えられていない一般の人に自己責任だとおしつけているような不親切なコミュニケーションといえるわけです。ワクチンそのものへの疑義だけでなく、厚労省がこれまでにとってきた対応の一部は専門家からも批判をされていますが、対象が安心して接種できるようにするための努力がところどころで残念な状況にあることがよくわかりました。
もうひとつ印象に残ったのは、因果関係等が不明なまま、体調不良者に対してharmful treatmentが行われている問題指摘です(ステロイドパルス、IGセラピー、アルツハイマー治療薬の投与等)。
  (会場、というか外国からの参加者がザワザワしてました)
HPVワクチンの騒動の中で、体調不良の人が良くなる方向、改善している人たちの事例から学ぶセッション等が今後必要なのではないかと思いました。小児科学会と同じようなお話をされていたようです。

参考:HPV vaccination crisis in Japan Lancet 385, June 2015



森臨太郎先生は小児科医→オーストラリア留学→英国留学(疫学)、NICEでもお仕事をされていたということで、研究結果や疫学データを臨床にフィードバックするコミュニケーション作業にも関わってこられた先生です。各国の健診やワクチン接種の状況を元に、最新情報の整理がありました。
総論的なお話だったので一番最初でもよかったかなという印象です。
座長の東大の川名先生と一緒にHPVワクチンについての調査もされたことがあるとのことです。

参考「英国のガイドライン作成に関与、その経験を日本に生かしたい」
日経メディカル2012年4月号「特集 日本の医療は私が変える」転載 Vol.10

会場が広かった割に参加者はそう多くなかったです。100名弱くらいだったとおもいます。
小児科学会は立ち見だったそうですので、分野でだいぶちがうのかもしれません。

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その他にも専門家の語りは増えています。

小児科の先生
子宮頸がんワクチンをキッチリ再開しないとダメ

中村先生
HPVワクチン問題 医者の上下関係破壊 学会としてGJ マスコミさん報道お願いします

岩田先生
「子宮頸がん」ワクチンを総括する

いろいろ意見は増えていますが、厚労省が昨年あらたに立ち上げた研究グループ(大阪大学の先生が中心)が比較対照群を含めたシグナルとなるような有害事象発生があるのかという研究がまとまるまで厚労省は現況を基本維持するということが23日の会議あとの正林課長のコメントとして報道されていました。


その他、各国の動き

5月にフィリピンがHPVワクチンを公費で導入開始。地域ごとに時期が異なるようですが、定期検診や高額な治療にアクセスが難しい、加えて島国で医療の均てん化じたいがもともと難しいような国では「ワクチンで1次予防」の効果はとても大きいです。
先進国では1本1万2千円ほどするワクチンですが、費用は日本円で1500円ほど、ブラジルでの公費プログラムと同じ条件で製薬会社が共有することにしたのでしょう。

(アフリカ等の貧困国では2価4価ともに1本5ドルで提供されています)

お隣の国の韓国も公費で導入することになりました。今までは経済的に余裕がある家の子しかできないじゃないかという批判がありました。

タイでも公費でのワクチン接種がはじまります。
2016年4月30日 Nations Promotion of HPV vaccine

子宮頸癌は毎年6500人が発症、3000人が死亡。分母(人口6700万人規模、女性はその半分)を考えると日本よりかなり多いんだなーと思いますし、ピルやインプラント等の避妊具アクセスもいいのでコンドーム使用率も日本より低い状況があります。このような状況下ではワクチンで広く予防できるメリットは大きいですね。

インドも公費で順次導入していく準備を進めています。
2016年5月7日 The Times of India Vaccination can help beat cervical cancer: Experts

中国(大陸)では導入されていないが香港では接種できるということで、女性が飛行機で香港にHPVワクチンを求めて移動をしているというニュース。こちらは経済格差をみます。
2016年5月23日 中新網 Women flock to Hong Kong for HPV inoculations

英国では男性に拡大しろという要求ががん患者団体やセクシュアルヘルス団体から出ていますが、全員にではなくゲイ/バイセクシュアル限定のプランでとりあえずパイロットで、、、ということに批判が出ているというニュースがありました。
UK to trial HPV vaccine in gay men but no plans yet for all boys

HPVワクチンを男子にも、という活動は英国とニュージーランドで活発です。
あまりアドボケイト活動がないわりに(人口が多くないからときいていますが)カナダで静かに採用されていくのとだいぶ状況が違うようです。

男子にも接種機会を、というインターネットを使ってのアドボケイトは実はかなり力をいれてされており、議員にもアプローチがありますが、現時点でも接種不可なのではなく希望者は接種ができる(ただし自費)ので、公費にスべきかというあたりの検討が厳しい国、疫学情報によっては難しい国もあるわけです。
英国のevidene based public healthのぶれなさぶりを知るissue。



これは企業主催なので余談なのですが、、、、最後に5月に開催されていたHPVワクチン関連のイベントとして、、4価を販売しているMSDが「女性=健康」があります。以前も開催されており、この時は美智子皇后がお出ましになったので参加者もりあがり、傍観者として「なんでまた」と疑問たっぷりな会だったのですが、今回は他の研究者に加えて前米国大統領のブッシュさんもきていたそうです。
国会議員も多数参加していたので、一般メディアでも報じられていたり、議員のブログ等にもツーショット写真が紹介されていて(そういうネタとして企画されたのでしょうが)、今この時期にするプロモーション?しかもこの人?という、関係者の地道な信頼回復の取り組みを台無しにするかのような企業の取り組みに脱力しました。
もっともこれはすごく政治的にインパクトがあって新しい動きが出てくるのかもしれませんが。
それはそれでまた予防接種全体の批判のネタにされるのではないかと考えています。

明るい話題としては、ワクチン接種後に体調不良になった人のうち、保護者含めて前向きにとりくんで快復しましたよ、というナラティブがインターネットでも増えていることです。
有害事象リストをみても、接種から発症までかなり長い時間経っているひともいるため、ワクチンが直接の原因かどうかわかりにくいひとも混在しているとおもいますが、いずれにしてもつらい症状実際にあるわけで、そしてそれが治るのはとてもいいことですので、全体の経過の中でこのような前向き情報を報道関係が(問題だ!と思っているなら)扱わないのはとても不思議です....。

放送されている事例を追記します。

仙台のクリニックで16人中13人が日常生活がおくれるようになったという紹介です。

※以下、当ブログで推奨しているわけではありません。発症のプロセス、症状、回復の仕方は、臨床関係者にいろいろなことを示唆するので、参考になればと考えています。

高2の症例。中1の時にワクチン接種。
頭痛、過呼吸、高1から痛み、全身に力が入らない。
慢性上咽頭炎→視床下部に影響というみたてで入院加療。

別の事例。
接種から8カ月後にめまい、脱力、車椅子。ステロイド治療の後に上咽頭炎治療→症状改善。

NHK仙台放送局 ウィークエンド東北 2016年4月2日放映 Youtube

"Bスポット療法"という方法で、各地でやっている医療機関があります。
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