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【パブコメ12】 本当の意味での日本版ACIPを

2010-05-19 | Aoki Office
実際にACIPに参加された神戸大学の岩田先生の包括的な提案。

※読みやすいように適宜改行をしています

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IDATEN 予防接種制度の見直しについて(パブリックコメント)


本当の意味での日本版ACIP を

予防接種制度の見直しの議論で、必ず取り上げられるのが「日本版」ACIP、すなわちアメリカのようなadvisory committee を作って 予防接種のあり方を決めていきましょう、というものです。このような論の進め方を行うと、「アメリカと日本は違う」「我が国独自の社会や文化に合致した制度を」という異論が生じます。逆に、ACIP の組織図や規約を翻訳するだけの「模倣」に堕してしまう可能性もあるでしょう。

アメリカと日本は違う、我が国独自の社会や文化に合致した制度。当たり前のことです。しかし、そのことはACIP(あるいはアメリカではダメだ、というのであればオランダなど別の国の制度を採っても良い)を参考にせずともよい、という誤った結論に導かれてはいけません。他国の良い制度を見習い、咀嚼し、自分の血肉として我が国の社会や文化に合致したスタイルを創出していくのはむしろ日本の得意とするところなのです。我が国独自の文化を大切にする、というのであれば是非積極的に他国の良い制度を参照すべきです。

むろん、組織図だけ模倣して「改革したつもり」になってはいけません。日本にもワクチン産業ビジョン委員会や公衆衛生審議会など、一見するとACIP に見えなくもない集団があります。が、それらが日本のあるべき予防接種のあり方を具現していない以上、これはACIP とは似て非なるものだと認識すべきでしょう。従って、輸入すべきはACIP の「形」ではなく、その根幹部分、魂の部分だと考えます。ACIP の魂にあたる部分は以下の4 点に集約されるでしょう。

多様性

ACIP 会議は投票権を持つ議長含む15 名、それにex-officio としての行政担当者、liaison として各関連機関の代表などが加わり議論を重ねます。その出自は多様で、小児科医、家庭医、内科医、医師会など現場の運用部門が参加しているのが特徴です。メンバーに
は実際に診察室でワクチンを接種している臨床医もいます。我が国では、ワクチン学会、ウイルス学会が予防接種に関する専門家集団として機能しますが、運用サイド、公衆衛生や臨床家の参加に乏しいです。これではエンジンやタイヤの専門家だけを集めて勝ち目のないレーシングチームを作るようなものです。米国もこれで一度失敗しています。1976 年に米国は豚インフルエンザワクチンの大量接種を行い、多くの方が副作用(ギラン・バレー症候群)に苦しみました。この大量接種を強く推奨した人物には、ポリオワクチンの開発者である高名なSalk 氏もいました。ワクチン学とウイルス学の英知だけでは正しい判断は下せるとは限らない、という証左です。
ACIP から学ぶべきは多様性です。ワクチンにまつわる全てのプレイヤーが参加すべきなのです。

継続性・迅速性

ACIP 会議は年3 回開催され、その決定は各学会などの診療ガイドラインに迅速に反映され、CDC や州政府の政策にも直接影響しています。我が国のように議論が始まってから意志決定に至るまでの冗長さがなく、より国民の利益に合致したシステムになっています。

透明性

ACIP メンバーの選抜プロセスは明示され、各メンバーの利益相反も開示されます。会議は一般に公開され、インターネットでの中継もあります。我が国のように「探せば見つけられなくもない」という申し訳程度の情報公開ではなく、積極的にACIP で行われた議論を人口に膾炙するよう尽力しています。この透明性が信頼性(credibility)の基盤となっています。

独立性

ACIP 会議での決議は最終言説となり、これが事実上の決定事項となります。我が国のように会議に会議を重ね、厚労省や財務省、政治家などの横やりが入って骨抜きになる可能性が完全に排除されています。この独立性もACIP における決定事項の責任の所在、わかりやすさを反映しています。
1964 年に設立されたACIP は無謬な存在ではありません。例えば、1976 年の豚インフルエンザ出現時には、副作用のある予防接種を大量に接種するという事態を引き起こしました。しかし、このときもACIP の多様性、継続性・迅速性、透明性、独立性の各属性の助けを得て迅速に問題に対応し、検証し、改善を行いました。我が国のように予防接種のリスクのみを喧伝して萎縮する、という判断停止状態に陥ることはありませんでした。日本版ACIP はワクチンにまつわる問題の全てを払拭する神的な存在ではありません。ワクチンにまつわる問題がゼロになるということはありえないのです。しかし、多様性、継続性・迅速性、透明性、独立性をもった予防接種に関する意志決定部門が日本にあれば、ワクチンにまつわる問題に、よりまっとうに対応できるはずなのです。

文責 岩田健太郎 神戸大学感染症内科
参考
1.Smith JC,et al. Immunization policy development in the United States:the role of the Advisory Committee on Immunization Practices. Ann Intern Med. 2009;150(1):45‐9.
2.横田俊平. アメリカの予防接種を決める仕組み Advisory Committee on Immunization
Practices について.小児内科.2007;39(10):1473‐77.
3. 横田俊平,他.米国「予防接種の実施に関する諮問委員会」Advisory Committee on Immunization Practices(ACIP)について わが国の予防接種プラン策定に新しいシステムの導入を.日本小児科学会雑 誌.2006;110(6):756‐61.
4. 岩田健太郎. 予防接種行政に必要なのは日本版ACIP 米国ACIP 会議に参加して
週間医学界新聞 第2857号 2009 年11 月30 日 医学書院
http://www.igakushoin. co.jp/paperDetail.do?id=PA02857_03
5. Richard E. Neustadt, and Harvey V. Fineberg. The Swine Flu Allair. Decision-making on a slippery disease. University Press of the Pacific. 1978. Reprinted in 2005

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以上でIDATENパブコメシリーズはおわりです。
みなさま情報発信ありがとうございました。
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