感染症診療の原則

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メディアと多剤耐性○○○

2010-09-03 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)
感染症関連記者会見。多剤耐性という、またメディアの好きそうな話が。

帝京大病院で多剤耐性菌、死亡9人は院内感染か(読売新聞 9月3日)

夕方のNHKの報道の仕方がファンキーでしたので、それをネタにしてみたいとおもいます。

論調は、帝京大学病院が多剤耐性という大問題の菌が院内で広まっていたのに、適切な対応をしなかったんじゃね? で、死んじゃった人もいるらしいね。しかも報告してなかったってどういうこと?
多剤耐性菌は調べたら複数のフロアの患者から検出されて、それがさ、どれも内科系。内科の医師が運んだ可能性があるんじゃ・・・「厚生労働省が注意をしていたにもかかわらず・・・」

・・といったニュアンスでした。

B型肝炎ワクチンにしてもそうですが、感染症関係の情報の適否を確認する部署や機能、原稿がおかしくないかどうかをチェックするフィルターがメディアにはないのかもしれませんね。(CNNのGupta医師のような人がいればいいのにね)
市民が誤解するようなことを言う前に、専門家に確認しないとダメですよ。

まず、耐性菌がいるくらいでこのような騒ぎにはなりません。耐性菌がいても不思議はない施設がたくさんあるから、というとほほな状況があるから、ともいえますが。

しかし、ナンの話でも死亡した人がいる、というのは大きなインパクトがあります。

感染症について少しでも学べば、アシネトバクターがいたから死んだというような説明よりも、もともとの疾患、その合併症などで厳しい状況にあったからの結果の死亡であって、そのときたまた調べたら菌がいました、というようなことがほとんどであることがわかります。

青木編集長の講義では、「このような菌はスナイパーではなく葬儀屋」という説明があります。

「2009年8月以降に46人が感染、このうち27人が死亡したと発表。都は、少なくとも9人については死亡と感染の因果関係が否定できず、6人は因果関係が不明で、残る12人は因果関係がないとみなせるという。」

(都が判断するんですか?)

院内でアウトブレイクかな?ということになると、確かめるためにスクリーニング検査がおこなわれることがあります。
広い対象を検査をするために、把握される分子も増えます。検査を増やしたから増えたように見えるということです。

そのうち、臨床的に何かアウトカムに関連しているのか?を考えると、菌はいたけど特に関係なしということもあるわけです。死因だ、とまでいうにはとても厳密な検討が必要になります。

また、大きな病院には、転院症例も多いので、この病院の中のシステムやスタッフの手技がおかしいのだ、あやまれれ的な論調での話は事実とはずれていきますね。

今回の記者会見ニュースでは、厚生労働省や保健所への報告が遅れた!なってない!といった話になっていますが、死亡例with耐性菌をいちいち報告されたら保健所も困るでしょうし、例えば3人いました、といったら何か助言をしてくれるのか、現場視察までするのか、というような問題もおきます。

そもそも、何らかの対応とか、適切な対応をしたとしてもこういった問題はゼロにはならない問題だという認識の欠ける報道でしたね。
反論できない人達をサンドバッグにして発散し、根本的な問題には目を向けずに終わる風潮のほうが耐性菌よりよっぽど危険。


アシネトバクターには「コリスチンとリファンピシン」がいいよという話がワシントンDCのセミナーの中でもでていたそうですが、このような事例をもとにコリスチンの承認が早くなるようならニュースは意味があるのかもしれません。

多剤耐性菌をつくらないようにしよう(皆で適正使用だ~)
スタンダードプリコーションを再度意識しよう(最近ゆるんでませんか?)
過剰反応で患者さんへの不適切な対応をしないようにしよう(過去に学ぼう)
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2 コメント

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Unknown (yamagen)
2010-09-03 23:50:06
アシネトバクターの多剤耐性菌が一度爆発的に
増えてしまえばかなり難しい対応が要求される
でしょう。印象的なのは、病院幹部が数十秒
頭を下げるという儀式です。あれをしないと
メディアで火だるまになる、ということがこの
国では常識になっており、何はともあれお詫び
する、気持ちがなくともメディアの前ではお詫びするのが得策、ということが定番になってし
まったことを、メディアの人間はどう考える
のか、今度機会があるので聞いてみようと
思います。

去年は、超多剤耐性菌と言って報道していたも
のと、今回は違うのか?
昨年は、アシネトバクター耐性菌は海外由来
とされていたが今回は違うのか?

都からも厚労省からも何も現場には警告は
未だありません。
いつも思うことですが、
東京都など公的機関は、少なくとも報道発表
同日には、報道機関への発表と同等以上の
内容を医療機関に公知すべきです。
医療従事者はすぐ直接聞かれるのですから。
こんな当たり前のことができていないので
医療現場の公務員不信を増幅させ、
役所と現場の連携がうまくいかなくなる
のだと思います。
返信する
厚労の通知 (編集部)
2010-09-07 22:07:37
9月7日のニュースによると、多剤耐性菌については報告をしろという流れになっていますね。
その報告の手間じたいが医療にかかる負荷ですし、その結果何をするのかということが明確でなければならないのですが。
返信する

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