感染症診療の原則

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妊婦、妊娠予定の人の周囲にいる人

2012-05-25 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)
2011年9月に書いた記事「20-50代男性で広がる風疹」ですが、、、その後もリンクはとぎれず、各地で風疹が増加中です。


そして、兵庫県と大阪が・・・。


朝日新聞の記事:『風疹注意 今年患者全国最多』2012年05月25日

「県は24日、今年の風疹の累計患者数(5/13時点)が51人にのぼり、全国最多になったと発表。2番目の大阪府は35人。」

発生動向調査における 「感染症の多い少ない」は、ベースラインとの比較になるので、例年どれくらいの数でどのようなパターンなのか(季節トレンドなど)と比べあす。昨年同時期は3例が、今年はすでに51例って、、、疫学担当者的にはびびります。

しかも、マイコ(プラズマ)のように、打つ手なしなのではなく、ワクチンが存在します。
「防げたはずの感染症」というのはたいへん当事者やご家族がショックを受けますし、風しんのように赤ちゃんに障害が残ったとか、死んでしまったというような場合、この怒りや悲しみはさらに大きなものとなります。

兵庫や大阪のどのあたりがホットゾーンなどかは公開されていないのかもしれませんが、中心部や主要公共機関ルートにあたると、それにそってひろがったりもします。

制度のはざまで免疫の不足している「20-50代男性」でブレイクする傾向がすでに指摘されていますので、現時点で周辺県や他の地域も、対策としてこの年代へのワクチン啓発をするなどが重要です。


記事にもどりましょう。
「風疹の症状は比較的軽いが、妊娠初期に感染すると、子どもに白内障や難聴などの障害が起こることがある。
県は妊婦や妊娠を考えている女性に、特に注意を呼びかけている。」

妊婦に何を呼びかけているのかは記事から伝わらず残念。


「県内で風疹が流行している理由は不明という。」

“・・・という”ってなんでしょう。不明って怖いです。専門家に意見とかきいいたのでしょうか。聞いたから「という」なんでしょうか。

「男女別では男性が38人で女性が13人。世代別では、30代が17人と最も多かった。」

国全体のサーベイランスと同じパターン。兵庫独特ということではないですね。


「20日時点の県内の累計患者数はさらに増えて62人。全国集計はまだ出ていない。
ワクチンを2回接種していたり、過去に感染していたりする人は感染のおそれは低いという。」


ワクチン2回接種したかどうか、免疫があるのか、既往があるのか、母子手帳で確認してください!!!
というのですが、20-50代の男性は「母子手帳ってなに?」「そんなのもうないよ」「親の記憶ももう曖昧」。


「インフルエンザと同じように、感染予防には、外出後の手洗いやうがい、マスクの着用が有効という。」

うがいとマスク?海外の啓発では全くみかけないフレーズ。
ワクチンでしょうワクチン。



兵庫と大阪、周辺地域はこれからどうなるのか。

昨年、増加がみられた福岡の報告。「福岡市における2011年の風疹の発生状況と対応」IASR Vol. 33 p. 43-44: 2012年2月号

そして、胎内死亡例報告。
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「風疹感染による胎内死亡例」IASR Vol. 32 p. 259-260: 2011年9月号

症例:20歳女性
主徴:胎児脳室拡大
妊娠分娩歴:2経妊1経産
風疹の既往歴・予防接種歴:不明(第一子妊娠時の風疹HI価は8倍未満)
渡航歴:無し
既往歴:特記事項無し
現病歴:妊娠6週に発熱、発疹、リンパ節腫脹の三徴候を認め近医皮膚科を受診したところ、風疹を疑い血清抗体価を測定した。初診時の風疹HI抗体価は8倍未満でIgM抗体、IgG抗体は陰性であったが、2週後のペア血清では、それぞれ、風疹HI価は256倍に上昇し、IgM抗体の陽転を認め、風疹の顕性感染と確定診断された。なお、家族や周囲に風疹感染者は認めなかった。その後も近医産婦人科で経過観察されていたが、妊娠17週1日に脳室拡大を指摘され、精査加療目的に当院紹介となった。

初診時経腹エコー:不均衡型子宮内胎児発育遅延(asymmetrical IUGR)(BPD:-0.6SD、AC:-2.4SD、FL:-3.4SD)、中等度脳室拡大、心臓の構造異常なし、羊水量正常、中大脳動脈・臍帯動脈・子宮動脈の血流異常なし。

妊娠経過:複数回にわたり十分なインフォームドコンセントを行ったところ、妊娠継続を希望された。その後は妊娠経過とともに羊水量が減少し、22週以降は胎児発育停止となり、24週には羊水量はほぼ消失した。26週2日には子宮内胎児死亡(IUFD)を確認し、27週1日に225gの男児を死産した。
(この後はリンク先で)


「先天性風疹症候群の1例 - 岡山県」Vol.24 p 59-60

"症例:母親は26歳。風疹の既往歴、 予防接種歴に関しては明らかではなかった
3回経妊2回経産。前2児は健常である。前回妊娠時(4年前)の風疹HI抗体価は8倍と低値であったが、 特に分娩後に予防接種は受けていない。在胎9週、 発疹が出現し前医を受診した。在胎10週1日の風疹HI抗体価は8であった。在胎11週5日には風疹HI抗体価が512と有意な上昇を認めた。また在胎12週5日の検査では風疹特異的IgM抗体陽性であった。風疹患者との接触は明らかではなく、 また周辺地区での明らかな風疹の流行も認められなかったが、 岡山市では5月末に小学校での集団発生が報告されている。前医でCRSの可能性について説明を受けた後、 両親が妊娠の継続を希望され当院紹介となった。在胎37週5日、 前児が帝王切開術にて出生したため、 患児も帝王切開術にて出生した。"

"先天性白内障・緑内障・網膜症などの眼科的異常、 先天性心疾患は認めなかった。聴性脳幹反応では右側では90dBにて反応を認めたが、 左側では無反応であり高度の感音性難聴が疑われた。頭部CT検査で両側脳室周囲に石灰化を認め、 脳波検査では異常(両側前頭~中心部にAbnormal 7~9Hz activity)を認めた"


「2000~2005年の風疹および先天性風疹症候群の発生動向とその関連性]」IASR Vol.27 p 94-96:2006年4月号 (中島先生のレポート)

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「風疹流行および先天性風疹症候群の発生抑制に関する緊急提言」 平成16年8月(研究班)

"わが国では、平成 6 年 10 月の予防接種法改正により、生後12~90 か月未満児への風疹ワクチン定期予防接種が開始され、風疹患者報告数は大幅に減少した。

しかし、その一方で、昨年から複数の地域で局地的な流行が認められ、今年、流行地域の数はさらに増加した。
また、患者報告数のうち 10 歳以上の者が占める割合の増加が認められる。
平成 14 年度感染症流行予測調査事業から得られた 20~30 代の風疹感受性者(風疹に対する免疫を持たない者)は推計 530 万人(うち女性は 78 万人)であり、妊婦の風疹罹患が懸念される

この時の提言;1. 妊婦の夫、子供及びその他の同居家族への風疹予防接種の勧奨
       2. 定期予防接種勧奨の強化
3. 定期接種対象者以外で風疹予防接種が勧奨される者への接種強化
1)10代後半から40代の女性、このうちことに妊娠の希望あるいはその可能性の高い女性
2)産褥早期の女性
については可能なところから早急に開始し、順次速やかに実施されることが必要である。"


周囲に30-50代のおにいさんおじさんがいる人は、ぜひアセスメントとワクチン接種勧奨をよろしくおねがいします。
妊娠希望女性もワクチンを。生ワクチンなので妊娠したら接種できませんので。
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