感染症診療の原則

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「先に抗体検査」でいいのか

2013-06-30 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)
感染症の施策を決める時に専門家に相談をしているのかどうか、
その地域に専門家がいてちゃんと行政とつながっているのかわかりませんが、
でてきた「ごちそう」やそのタイミングをみて判断されてしまうのは事実。


風疹もそうですが、ある感染症が流行をしているときに、早く対処をしないと2次、3次、4次感染と感染のネットワークが拡大していくわけです。

専門用語(英語)では「地域でウイルスが循環している」といいます。
ウイルスのサーキュレーションです。

拡散してしまうと、そのフォローのために必要な労力も大きなものになっていきます。

あるレベルを超えるとそんな簡単には止められなくなる。それが感染症。

だから麻疹などは「1人でたらすぐ対処」として大騒ぎするのですが。

(まあ、借金だってすぐ返せば利息は小さいですが、長期に放置したら返すの大変!なじたいになりますし、肥満だって。。。以下略)

風疹は放置して感染させてしまっていい、、というウイルスではありません。
「いや~増えているね!」と眺めっぱなしでいいウイルスではありません。

対策もあります。

なぜかよくわかりませんが、抗体検査を先にしろという人たちがいるみたいですね。
素人がそんなこといったら?ですが、専門家がいうからには根拠と責任のロジを考えているのでしょう。

「先に検査→接種するかどうかきめる」が妥当なのは、周囲で流行がみられていない「平時」のときの対応です。

周囲で大流行をしていて(アウトブレイク時)、接種が遅れたら発症してしまうかもしれないときに、まず先に検査しましょ!というのは間違っています。

なので、その判断の最初にあるのは「うちはいたって平和。波も穏やか」という
Evidenceや周辺状況をふまえたリスクアセスメントが終わっていることが重要です。

この判断の責任者はだれか?であります。まさか事務方ではないでしょう。
医療関係の、感染症の訓練を受けた専門家のはずです。
責任を引き受ける人ですから。


地域の感染症発生動向の数字に責任を負っているのは地方感染症情報センターです。
どこが看板をかかげているかは自治体によります。

臨床医がFAXで保健所に発生届を提出
   ↓
保健所の担当者がNESIDに入力
   ↓
自治体の担当者が情報を確認(不明な点があったらこの時点で医療機関に確認)
    ※自治体によってはWeb速報として時差のない形で週報として公表
   ↓
感染研と厚労省結核感染症課が集約してIDWRで公表
   ↓
医療関係者やほかのひとが(時差のある、少し前の)感染症の状況を知る

です。見ている数字のタイムラグを知っておくことは非常に重要です。

SARSで学んだ台湾や中国が、電子カルテからリアルタイムでアウトブレイク情報を行政や中央政府が把握できるようなシステムに変えたときに、大きく差をつけられてしまいましたが、私たちが仕事をしている国は、このような情報システムであると知っておくことは大切です。

ぜひ一度、地元の「感染症情報センター」が出している(はずの)週報を読んでみてください。

読みにくい、情報が足りない、こういった情報が必要だという声をぜひ届けてください。

担当者は臨床経験がある人ばかりではありませんし、「どのようにフィードバックをすればいいのか」という決まりもないので、かなりその質に差があります。
内容がプアでも、その時の担当者個人のせいではありません。
皆で地域の正確な情報をつくっていこう、という仕組みを提案していくことが大切です。

また、情報の精度の大もとは臨床医の報告ですので、「報告しないもん」「面倒だもん」と後ろ向きにならずに、フィードバックへの提言とともに、地道に報告をお願いします。

何が全数報告なのか、自分の病院は定点指定になっているのかなどは、5分くらいで学べることなので、一回も一覧表をみたことないなーという方はぜひ見渡してみてください。


さて。
流行していないところではおきないかもしれませんが、流行しているところでは検査をしたり結果を待っている(外注だと数日かかりますよね)間に感染や発症のリスクがありますし、麻疹とちがって風疹はその効果を得るまでに2週間ほどかかりますから、「抗体検査を先に」と延期を遅らせた結果、発症してしまったときにおこりうる身体的および社会的リスク(デメリット)についての了解を得る必要があります。

万が一(ってワクチンでの副反応の100万分の1よりは確率的に高い流行地域がありますよ)
感染→奥さんや職場の女性に曝露させて問題化した、というような場合に生じる様々な問題についてその責任を問う・場合によっては賠償問題になるときに、「誰が」その責任を負うかを伝えておく必要があります。

「あんたが先に検査しろっていったんじゃないか!」といわれかねません。
(ちがうちがう。市だよ)


抗体検査を<誰に>すすめられて、
それは現在のアクションとして妥当であると<誰が>言っていて、そのメリットとデメリットの両方を説明して、患者さんが理解・同意したときに可能となります。

医療過誤事件 事例005
福岡高裁/麻疹後急性心筋炎死亡事故判決の意義(メモ)


この判例からの学びとして、コミュニケーションのなかで、

感染することや合併症に関する予見可能性の存在
適切な説明により合併症の重篤化という結果を回避する可能性の存在

などを伝えて、理解していただいて、同意をいただくということであります。


(この事例は多くの医療者が衝撃をうけたものでありました)
十分な説明とは何か?

はしか感染死訴訟

小児科医が逃げるはずだ


採血にきて、ワクチンにきて、、と2回受診する手間はご本人たちの負担でありますが、都心部のように医療機関アクセスがよいところだとしても、待合室での感染リスクなどもある地域では曝露機会を増やすことになります。

また、採血は試薬不足問題がおきたりしていますので、検査を一律化して大丈夫なのかという問題は確認済みなのかきいてみたいところであります。

行政はワクチン代と検査代を比較したのかもしれませんが、医療者の手間暇という間接経費はどうみているのでしょうね。

採血は簡単なことだと考えている人がいたらそれも怖いです。
ワクチンで皮下注射や筋肉注射をするのと、静脈からの採血と技術的にはどちらがシンプルで事故がないと思いますか?
日常行われている採血は必要があって、その先の利益が多いことで容認される医療行為ですが、今回のような風疹対策の一環として妥当なのかどうかは地域やその人個人の状況に依存してくるように思います。

医療安全推進者ネットワーク資料:
No.158「健康診断の採血時に患者の神経が損傷され、RSD又はカウザルギーが発症。患者の損害賠償請求を棄却した一審判決を破棄して、請求を認めた高裁判決」
仙台高裁秋田支部平成18年5月31日判決 判例タイムズ1260号309頁



少なくとも、ご本人がさっさとワクチン接種したいんですけど?
何回も病院に来るのたいへんなんですよ、という状況の中で、医療者サイドから、杓子定規にまず検査なんですよ、、、とはいえないということです。

抗体検査しないとワクチン代が無料にならないというような事務的な問題についてのクレームまで病院が受けたらたいへんですので、ぜひ自治体には「風疹対策ホットライン」などを設置していただき(新型インフルエンザのときのような)、接種希望者への一元的な相談対応をしていただければと思います。

ワクチン接種・公費補助のロジを複雑にしている自治体の皆様よろしくお願いします。


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