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続報 ワクチン関連報道

2012-11-03 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)
新聞社に就職すると最初は○○を担当するんですよ、という話はよく聞きます。なんでも事件のように書きたくなる、どこかに誰か悪人がいる、という前提ような思考回路、その“初期教育”がその後の記事に影響を与えているんじゃないかというような認知心理学の研究があったら読んでみたいですね。

MSN産経に面白い記事がありました。それをもとにTwitterでコメントがあったのであわせて紹介したいと思います。

まず先にコメント:
Tweet(1) 「この取材方法だと、発表する研究者だけの言い分を伝えるだけになってしまって、客観的な評価はできませんよね。辛口ですが、これでは森口氏の主張を鵜呑みにして記事にしてしまった二の舞は防げません。先にツイートした様な裏取り作業がないと心配です」

Tweet(2)
「直近のリツイートだけど、マスメディアは、「非専門家にも分かりやすい記事を書くこと」と、「自分が素人で居続けること」を(意図的に?)混同しているようである。「素人で居続けるほうが素人に分かりやすい記事が書ける」と本気で思っているのか?」

Twitterでなるほど、と思って読んだ記事はコチラ。長いので部分的に紹介。ぜひ全文読んでください。

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MSN産経2012年10月30日若手記者が行く「科学取材…専門用語飛び交い理解不能の世界、頭が真っ白に」

「記者って凡人のプロ」

 入社前、在学していた大学のマスコミに関する講義に招かれた新聞記者が、こう話していた。新聞は子供からお年寄りまで、専門知識を持たないたくさんの“普通”の人が読むものだから、普通の人に伝わるよう、普通の人が感じる疑問を専門家に質問し、普通の言葉で文章にしていくのが記者の仕事だという意味。

 その言葉を痛感した出来事がある。(中略)初めての科学取材だった。

(中略)

それまで取材してきたのは主に事件、事故。学者の研究などというものは初めてだった。

 ただ、お隣の京都から出稿される京都大の「研究もの」の記事は、よく目にしていたから、研究の概要と意義づけ▽開発の経緯▽研究の詳細▽研究者のコメント-などという流れで、記事を組み立てればいいと思っていた。事件取材や人物紹介の取材で身につけた要領でやれば大丈夫だろうと思い、特に構えることもなく草津市役所で行われた記者発表に臨んだ。

(中断)

淡々と専門用語を使って説明する助教。単語の意味が分からず、言葉というより機関銃の弾のようにも感じた。私大文系卒の私にはほとんど理解不能の世界だった

■「何がわからないのか」分からない

説明が終わり質疑応答に入った。質問したいのだが、「何がわからないのか」が、わからず声をあげることができない。頭が真っ白になった。

 他社の先輩記者や同期の記者も難しそうな表情だが、「要は、(何々)ですか?」などと見当を付けて質問している。1時間余りが過ぎた。社会面に掲載することを上司と検討していたので、そろそろ内容を報告したいところだった。でも何と報告すればいいのか…。

 先のマスコミに関する講義で、学生が「記者になるにはどんな専門知識が必要か」と、講師の新聞記者に質問していたのを思い出した。
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基礎レクなしに体で覚えろ的に科学記事を書かせられるなら、詳しい人が指導や赤入れをたくさんするのではないかと思うのですが。

あと、事件でいうなら「裏をとる」、科学報道なら1次情報に当たる、、、ということも大事ですね。
また行先を間違えると危険です。

骨折の話なら整形外科の先生に、中耳炎の話なら耳鼻科の先生に、子どもの話なら小児科医に、、、、と取材先を間違えないことも大事ですね。

最近のワクチンの記事でも「ワクチンに詳しい」といって書かれている人が、え?接種してないんじゃ?とか、ワクチンに詳しいひとだったの?的疑問符がついたりもします。調べるとわかりますが、小児科医でもワクチンにまったく興味のない(他のご専門のことにはモチロン超詳しいんですよ)方もいますし、情報は詳しいけど仕事では接種したことあまりないです、という経験知は大きくない人もいます。

海外には特定の感染症やワクチンに特化した専門家もいますし、安全性や流通含めたロジ、コミュニケーションの専門家もいます。それくらい深い話ではあります。
全部を語れるほど毎日の仕事が予防接種という人も日本にはポジション的にはいないのでしょうけど。




・・・話はかわりまして、日本脳炎ワクチン報道の続きです。

根本的な誤解(期待)に、調べれればわかるはずだ!わからないのは厚労省や医者が隠しているからだ!という思い込み(認知の歪み)がありますね。

解剖したってすべてわかるわけではないし、「突然死」という言葉が示すように、その直前に食べたものとか、見た映画とか、飲んだ薬とか、乗った交通機関とか、キスした相手とか関係なくおこるときはおこるんですよ。

同じように、裁判などでも早くに抗菌薬を処方していたら助かったはずだという裁判所や弁護士の理屈も???ですね。

病原体に正しい薬を投与しても必ずうまくいくわけではなく、タイミングだけでなく、その人の年齢とかそもそも治療を始める時点での病態とか、肝臓とか腎臓の機能とかが決め手になるわけですしね。

「さらに詳細を調べる」とか「会議の数を増やす」に込められている期待が、本筋とはずれているあたり、書いている人はイマイチわかってないひとなのねと残念なのでありました。
Twitterで岩田先生が丁寧に指摘をされていたので関心ある方は是非よみにいってください(^^)。


31日の会議の第一報だけで終わっているメディアもありますが、その後に記事を載せているところもありました。
せっかくだから見渡してみましょう。

色や太字は編集部の気分・・・。

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MSN産経の続報(10月31日23時すぎの記事) 「死亡男児に併用禁止の薬 日本脳炎ワクチン接種後の急死」

日本脳炎ワクチン接種後に急死した岐阜県美濃市の男児(10)が、かかりつけ医の処方で日ごろ服用していた3種類の薬のうち2種類は、一緒に飲むと不整脈から死亡するリスクがあるとされ、併用が禁止されていたことが31日、厚生労働省への取材で分かった。同省はワクチン接種だけでなく、こうした薬の服用と死亡との関係についても慎重に調べている。

 関係者は「ワクチン接種の注射の痛みや恐怖が引き金になった可能性も考えられる」と指摘している。

 厚労省によると、男児は持病が夏ごろ以降に悪化し、かかりつけ医が薬を増やしたため、服用薬が計3種類となった。うち2種類の薬を一緒にのんでいる状態で精神的な緊張を強いられると、それが引き金となって脈が乱れ、立ちくらみを起こしたり意識を失ったりして、最悪の場合は死亡することもあったという。

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スポーツニッポン 11月1日6時
「脳炎ワクチン接種中止せず 死亡例報告で小委員会」

 日本脳炎ワクチン接種後の子供の死亡例や、脳脊髄(せきずい)炎発症が報告されたのを受け、厚生科学審議会(厚生労働相の諮問機関)予防接種部会の小委員会は31日、症例内容などを精査し「現時点で接種の中止は必要ない」と結論付けた。死亡例2件のうち7月のケースは「ワクチンとの因果関係が不明」、10月のケースは「因果関係がある可能性は低い」と判断した。

 10月17日に急死した岐阜県美濃市の小学5年男児(10)の父親(51)は31日、「自分はたまたま(接種後に)大事な息子を亡くしたが、日本脳炎にかかって亡くす命もある。何が原因だったか、はっきりさせてほしい」と話した。

★保護者のコメント
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朝日新聞11月1日 10時 「日本脳炎ワクチン、調査の課題浮き彫り 接種後死亡問題」

日本脳炎の予防接種を受けた子どもが相次ぎ死亡した問題は、ワクチンとの因果関係をめぐる調査の課題を浮き彫りにした。10月31日に開かれた厚生労働省の専門家委員会は接種の継続を決めたが、原因究明にはさらなる調査が必要とした。対応が遅れれば、親たちの不安は高まりかねない。情報収集や評価の仕組みの改善を求める声も相次いだ。

■専門委「接種中止せず」

  「ただちに接種を中止する必要はない」。2件の死亡例を評価した委員会は、現状維持の見解をまとめた。いずれもワクチンと死亡との関係を明確に示す情報がなかったためだ。 (記事の続きはリンク先で)

★「調査の課題うきぼり」というのはどうですかね。調べてもわからないこともあるという医学や科学の限界は、そもそも「前提」なのですから。1事例の調査の困難さよりは、今の予防接種制度を動かしている脆弱な仕組みを指摘するのが先ですね。なんとなく、誰かが悪い、怠慢であると書きたい空気を感じるんですが・・・(いや、大いに遅れてはいるんですが具体的に書かないとね)

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毎日新聞11月1日 12時 「日本脳炎予防接種:死亡男児、併用禁止薬を服用」

岐阜県美濃市の男児(10)が日本脳炎の予防接種直後に急死した問題で、男児がかかりつけの医師から併用が禁じられている薬を処方されていたことが、厚生労働省への取材で分かった。一緒に服用すると不整脈により死亡する危険性があるとされ、同省は薬の併用と死亡との関連について調べている。

 男児の母親によると、男児は広汎(こうはん)性発達障害による興奮を抑えるため2種類の薬を服用。今年9月からは夜尿症を抑える薬も処方され、3種類を毎日飲むように指示されていた。予防接種の前日夕にも服用し、当日は飲んでいなかったという。

 厚労省によると、興奮を抑える薬1種と夜尿症を抑える薬を併用すると脈が乱れて意識を失うことがあり、死亡する危険性もあるとされている。母親は「かかりつけ医を信頼しており、指示通りに飲ませていた。併用禁止とは知らなかった」と話している。

 男児は10月17日、美濃市内の小児科医院でワクチン接種を受け、約5分後に心肺停止となって約2時間後に死亡が確認された。かかりつけ医とこの小児科医院は別。岐阜県警も併用の危険性について把握しており、「処方した医師を含め関係先から事情を聴きたい」としている。【加藤沙波、三上剛輝】

★厚労省の取材で、、、というか委員会で公開された資料にも掲載されています(会議内で厚労省からの説明あり)。
今では、処方箋は医師が書き、処方箋をもって薬局にいくと薬剤師のところで問診や併用薬チェックがあって相互作用リスク等も確認されるのですが。ときに、クリニック内で渡すところもあります。医師一人が担当している場合は併用薬の確認はしやすいとおもいますが。そのような状況はまだわかっていないようです。


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QLifePRo医療ニュース 「日本脳炎ワクチン接種後急死の男児 併用禁忌薬を服用していたことが判明」


併用してはいけない薬を使用
日本脳炎接種後に、死亡した小学5年の男児(10)が、かかりつけ医の処方により、併用禁忌とされている2種類の薬を服用していたことが判明した。

日本脳炎ワクチンでの死亡例は2例報告されているが、どちらの子供も、てんかんや広汎性発達障害などに対する治療歴があったことが分かっている。

死亡例のうち、5~9歳未満の子供が急性脳症を起こし、1週間後に死亡した例は関連性の有無を判断する材料が不足しているが、2例目の男児(10)の場合は、平成24年6月からピモジド製剤とアリピプラゾール、9月から塩酸セルトラリンが追加され、3剤を服用していたが、アリピプラゾールと塩酸セルトラリンの併用は禁忌とされている。

予防接種中止の必要性はなし

厚生労働省では、この薬の服用と死亡との関係について、慎重に調査を行っているが、5~9歳未満の子供が急性脳症を起こした事例については、別のウイルスが急性脳症の原因となった可能性があるとしつつ、因果関係がないとも言えないことから、今後も調査を行っていくとしている。

なお、10月31日に行われた専門家委員会では、ワクチン自体との関連性は低く、予防接種の中止の必要性はないと判断をしている。

なお、かかりつけ医は、ワクチンを接種したクリニックの医師とは別である。

▼外部リンク

厚生労働省
感染症分科会予防接種部会日本脳炎に関する小委員会
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/

塩酸セルトラリン(ジェイゾロフト)添付文書
http://www.packageinsert.jp/search/2/塩酸セルトラリン

アリピプラゾール(エビリファイ)添付文書
http://www.packageinsert.jp/search/2/アリピプラゾール

ピモジド(オーラップ)添付文書
http://www.packageinsert.jp/search/2/ピモジド

★2日の記事なので、いろいろ確認したあとに書いたのだろうということは伝わる記事。最後に関連資料のリンクがあるのはGJ.

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