不明熱、熱が好きなひとたちとのつながりが濃い編集部のためバイアスが大きくかかりますが、「不明熱」話は日常的によくききます。
必ずしも感染症というわけではないところも皆をアツくします。
もし、お金と人手がたくさんあって、不明熱の人の血液について「ありとあらゆる病原体を調べてみよう。何かでてくるかな!」的に検査をしたら、そこそこデングは見つかるだろうと思います。
ただ、「なんだろう」といっているうちに症状がおさまるパターンも多いわけで、治ってしまった人に検査をする理由は(研究や調査の目的以外では)ありません。患者さんも早く帰りたいし退院したいしお金を払いたくない。
臨床では改善したあとにわざわざ追加で検査をする理由がなく、また、今回話題になっているデングの検査は通常病院ではできない、行政にお願いをしてしていただくものであり(もちろん税金で)、そんな簡単ではありません。
研究者に予算をたくさん提供すればそういったこともできるのかもしれません。
その場合の投資の根拠、個人に血液提供等をお願いできる正当性や妥当性は、「その結果をもとに対策 actionを変える」シナリオがたっているかということになります。
一人の患者さんの周辺のひとたち50人をしらべたら、本人は気づいていないけどあと10人は感染していたよ!ということはわかるかもしれません。が、そのうえで何か出てくるんでしょうか?ということです。
デングは症状のない(自覚しなかった)という人も一定数いますので。
今ある情報が一般の方の不安を十分軽減できていないとしたら、もう少し丁寧なコミュニケーションをするとしたら「忌避剤」という用語をわかりやすくして伝えるとか、塗布じゃなく、どのようにぬるのか(家を出る時点から塗るのかキャンプ場についてからなのか、ぬったあとは放置でいいのか、どの部位にぬるときに注意がいるのかなど)などの理解を助ける工夫がいるのだとおもいます。
プライマリの医療機関向けには、どんな問診をしてどんな時に検査を考え、そして検査を実際に依頼するにはどうすればいいかということの大枠の情報が必要になっています。
ここの検査依頼までの判断のところが誤解されると大混乱をしますので、適切な情報提供が重要になります。
現在、厚労省が出している診療系の情報には各方面から疑問の声があがっていますので(関心ある方は読みましょう)、(案)から標準的な資料に差し替えられることを期待しています。
「よく知っている」医師は"いまさら読む必要がない"のであまり読んでもらえていないかもですが…
で、メディアがわくわくしている「い、いったい、どれくらいいるんでしょうねっ!こわいですねっ!」的な情報につながる積極的疫学調査ですが、それ自体は公衆衛生的には意味があることではあります。
米国でのサマリーをみてみましょう。
Lessons Learned during Dengue Outbreaks in the United States, 2001–2011
Hawaii (2001); Brownsville, Texas (2005); and southern Florida (2009–2011).
2001年のハワイでの事例について。
IASR 世界におけるデング熱・デング出血熱
"ブラジルにおける2001年、2002年の大流行である。また、台湾における流行(2002、2003年)とハワイにおける60年ぶりの流行(2001~2002年)は、わが国にとってはそれぞれ重要な事例であったと思われれる。
台湾における流行は、デングウイルスの侵淫地域の拡大を示す一例である。2002年に発生した2型による流行では、患者数は15,000人を超え、過去最大の流行となり、その流行の中心は高雄、屏東、台南の台湾南部であった。台北市で発生した患者は、海外からの輸入症例や台湾の流行地域を訪問した症例であった。台湾では2003年もSARSが沈静化した後、デング熱が流行した。
一方、米国ハワイ州における流行は、タヒチとのダンスチームの交流の結果、タヒチで感染したマウイ島の住民が持ち帰ったウイルス(1型)による60年ぶりの流行であった。
日本においてはデング熱が1942~1945年にかけて西日本の諸都市で流行したが、同年代にハワイ州でもデング熱の流行があった。その後、ハワイ州でもわが国同様にデング熱の流行はなかったわけである。
今回のこの流行では117例のデング熱患者が発生した。117例中88例がマウイ島であり、25例がオアフ島で、4例がカウアイ島で発生した。
カウアイ島の4例はいずれもマウイ島からの輸入症例であったが、オアフ島の場合は、マウイ島からの輸入症例からウイルスが侵入・定着し、流行が発生したものであった。これらの島では、ネッタイシマカは生息しておらず、ヒトスジシマカによって媒介された流行であった。ハワイ諸島の中でネッタイシマカが生息するハワイ島では、今回デング熱の流行はみられなかった。この流行は2002年3月には終息し、その後は流行をみていない。"
当時も地元メディアで当然報じられていましたが(記事リンクもまださがせます)、こういった情報が流れたときに「タヒチの人がー」とか、
「マウイの人がー」的な反応がおこったりするのか。
(日本では「●●ナンバーの人はくるな」とか、「見た目がアフリカ人ぽいひとはエボラがこわいから陰性証明だして」的な偏見差別などの人権問題につながっていたりするのでそう考えた次第です。。。。)
なので、(案)として出ている「デング熱国内感染事例発生時の対応・対策の手引き 地方公共団体向け(案) 」の6ページには
「デング熱症例の個人が特定されないように、また、地域に対する風評被害の発生を最小限にするように注意することが重要である」
と書かれています。どのように注意するのかは書かれていませんが。
上記、ハワイでは、いったんおさまったのですが(媒介する蚊が死んだからか、その後検査もへったからなのか、いろいろ議論はありますが)、2011年に再びアウトブレイクがありました。
Four hospitalised after outbreak of dengue fever in Hawaii
2010年9月のフランスの都市部の事例。
Eurosurveillance, Volume 15, Issue 39, 30 September 2010
FIRST TWO AUTOCHTHONOUS DENGUE VIRUS INFECTIONS IN METROPOLITAN FRANCE, SEPTEMBER 2010
感度をあげるための強化サーベイをしたら、把握される症例が増えました。
2例紹介しています。経過や予防策等の詳細がレポートにあります。
[1例目]
60代男性、ニース在住。2010年8月23日 fever, myalgia, asthenia で発症。
8月27日に入院。発症5日目の血小板48,000/µl 。その後回復して数日で退院。
[2例目]
18歳男性、 最近の渡航歴なし。住んでいる場所は上記1例目の症例と70mはなれたところ。
2010年9月11日にfever, myalgia, headache, astheniaで発症。
不明熱と7日目の血小板減少53,000/µL で入院。その後軽快。
患者さんの個別の診療には関係ありませんが、蚊媒介感染症のリスク評価のため、それぞれのウイルスが同じか(どの程度似ているか)を調べることもあります。
Molecular Epidemiology of Autochthonous Dengue Virus Strains Circulating in Mexico
J. Clin. Microbiol. September 2011 vol. 49 no. 9 3370-3374
アジアの病院で研修をしたときに、「デング病棟」がありました。
窓が開いていて蚊がぶんぶんとんでいました(- -;)。
暑かったのですが、長袖白衣、虫よけ持参で学びました。
せっかくですので、チクングニア、マラリア、ウエストナイルなど蚊でうつる病気をがっつり学びなおせるセミナーに参加することにします・・・。
必ずしも感染症というわけではないところも皆をアツくします。
もし、お金と人手がたくさんあって、不明熱の人の血液について「ありとあらゆる病原体を調べてみよう。何かでてくるかな!」的に検査をしたら、そこそこデングは見つかるだろうと思います。
ただ、「なんだろう」といっているうちに症状がおさまるパターンも多いわけで、治ってしまった人に検査をする理由は(研究や調査の目的以外では)ありません。患者さんも早く帰りたいし退院したいしお金を払いたくない。
臨床では改善したあとにわざわざ追加で検査をする理由がなく、また、今回話題になっているデングの検査は通常病院ではできない、行政にお願いをしてしていただくものであり(もちろん税金で)、そんな簡単ではありません。
研究者に予算をたくさん提供すればそういったこともできるのかもしれません。
その場合の投資の根拠、個人に血液提供等をお願いできる正当性や妥当性は、「その結果をもとに対策 actionを変える」シナリオがたっているかということになります。
一人の患者さんの周辺のひとたち50人をしらべたら、本人は気づいていないけどあと10人は感染していたよ!ということはわかるかもしれません。が、そのうえで何か出てくるんでしょうか?ということです。
デングは症状のない(自覚しなかった)という人も一定数いますので。
今ある情報が一般の方の不安を十分軽減できていないとしたら、もう少し丁寧なコミュニケーションをするとしたら「忌避剤」という用語をわかりやすくして伝えるとか、塗布じゃなく、どのようにぬるのか(家を出る時点から塗るのかキャンプ場についてからなのか、ぬったあとは放置でいいのか、どの部位にぬるときに注意がいるのかなど)などの理解を助ける工夫がいるのだとおもいます。
プライマリの医療機関向けには、どんな問診をしてどんな時に検査を考え、そして検査を実際に依頼するにはどうすればいいかということの大枠の情報が必要になっています。
ここの検査依頼までの判断のところが誤解されると大混乱をしますので、適切な情報提供が重要になります。
現在、厚労省が出している診療系の情報には各方面から疑問の声があがっていますので(関心ある方は読みましょう)、(案)から標準的な資料に差し替えられることを期待しています。
「よく知っている」医師は"いまさら読む必要がない"のであまり読んでもらえていないかもですが…
で、メディアがわくわくしている「い、いったい、どれくらいいるんでしょうねっ!こわいですねっ!」的な情報につながる積極的疫学調査ですが、それ自体は公衆衛生的には意味があることではあります。
米国でのサマリーをみてみましょう。
Lessons Learned during Dengue Outbreaks in the United States, 2001–2011
Hawaii (2001); Brownsville, Texas (2005); and southern Florida (2009–2011).
2001年のハワイでの事例について。
IASR 世界におけるデング熱・デング出血熱
"ブラジルにおける2001年、2002年の大流行である。また、台湾における流行(2002、2003年)とハワイにおける60年ぶりの流行(2001~2002年)は、わが国にとってはそれぞれ重要な事例であったと思われれる。
台湾における流行は、デングウイルスの侵淫地域の拡大を示す一例である。2002年に発生した2型による流行では、患者数は15,000人を超え、過去最大の流行となり、その流行の中心は高雄、屏東、台南の台湾南部であった。台北市で発生した患者は、海外からの輸入症例や台湾の流行地域を訪問した症例であった。台湾では2003年もSARSが沈静化した後、デング熱が流行した。
一方、米国ハワイ州における流行は、タヒチとのダンスチームの交流の結果、タヒチで感染したマウイ島の住民が持ち帰ったウイルス(1型)による60年ぶりの流行であった。
日本においてはデング熱が1942~1945年にかけて西日本の諸都市で流行したが、同年代にハワイ州でもデング熱の流行があった。その後、ハワイ州でもわが国同様にデング熱の流行はなかったわけである。
今回のこの流行では117例のデング熱患者が発生した。117例中88例がマウイ島であり、25例がオアフ島で、4例がカウアイ島で発生した。
カウアイ島の4例はいずれもマウイ島からの輸入症例であったが、オアフ島の場合は、マウイ島からの輸入症例からウイルスが侵入・定着し、流行が発生したものであった。これらの島では、ネッタイシマカは生息しておらず、ヒトスジシマカによって媒介された流行であった。ハワイ諸島の中でネッタイシマカが生息するハワイ島では、今回デング熱の流行はみられなかった。この流行は2002年3月には終息し、その後は流行をみていない。"
当時も地元メディアで当然報じられていましたが(記事リンクもまださがせます)、こういった情報が流れたときに「タヒチの人がー」とか、
「マウイの人がー」的な反応がおこったりするのか。
(日本では「●●ナンバーの人はくるな」とか、「見た目がアフリカ人ぽいひとはエボラがこわいから陰性証明だして」的な偏見差別などの人権問題につながっていたりするのでそう考えた次第です。。。。)
なので、(案)として出ている「デング熱国内感染事例発生時の対応・対策の手引き 地方公共団体向け(案) 」の6ページには
「デング熱症例の個人が特定されないように、また、地域に対する風評被害の発生を最小限にするように注意することが重要である」
と書かれています。どのように注意するのかは書かれていませんが。
上記、ハワイでは、いったんおさまったのですが(媒介する蚊が死んだからか、その後検査もへったからなのか、いろいろ議論はありますが)、2011年に再びアウトブレイクがありました。
Four hospitalised after outbreak of dengue fever in Hawaii
2010年9月のフランスの都市部の事例。
Eurosurveillance, Volume 15, Issue 39, 30 September 2010
FIRST TWO AUTOCHTHONOUS DENGUE VIRUS INFECTIONS IN METROPOLITAN FRANCE, SEPTEMBER 2010
感度をあげるための強化サーベイをしたら、把握される症例が増えました。
2例紹介しています。経過や予防策等の詳細がレポートにあります。
[1例目]
60代男性、ニース在住。2010年8月23日 fever, myalgia, asthenia で発症。
8月27日に入院。発症5日目の血小板48,000/µl 。その後回復して数日で退院。
[2例目]
18歳男性、 最近の渡航歴なし。住んでいる場所は上記1例目の症例と70mはなれたところ。
2010年9月11日にfever, myalgia, headache, astheniaで発症。
不明熱と7日目の血小板減少53,000/µL で入院。その後軽快。
患者さんの個別の診療には関係ありませんが、蚊媒介感染症のリスク評価のため、それぞれのウイルスが同じか(どの程度似ているか)を調べることもあります。
Molecular Epidemiology of Autochthonous Dengue Virus Strains Circulating in Mexico
J. Clin. Microbiol. September 2011 vol. 49 no. 9 3370-3374
アジアの病院で研修をしたときに、「デング病棟」がありました。
窓が開いていて蚊がぶんぶんとんでいました(- -;)。
暑かったのですが、長袖白衣、虫よけ持参で学びました。
せっかくですので、チクングニア、マラリア、ウエストナイルなど蚊でうつる病気をがっつり学びなおせるセミナーに参加することにします・・・。