語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【原発】米国の原発の相次ぐ閉鎖 ~費用対効果~

2013年11月20日 | 震災・原発事故
 (1)今年8月下旬、電力大手エンタジー社は、その運営するバーモントヤンキー原発(米バーモント州)を閉鎖することを決めた。
 同原発は、1972年に運転開始し、2011年に米原子力統制委員会(NRC)から20年間の運転延長を認められたばかりだった。
 同社は、閉鎖の理由として、収益の厳しい見通しを挙げる。
 今年5月に運転停止したキォーニー原発(ウィスコンシン州)も、2011年に20年間の運転延長を認められたばかりだった。
 同原発を運営する電力会社は、「純粋に経済性に基づく判断」とする。

 (2)原発は、福島第一原発事故まで、建設まで多大なコストがかかるが、運転を始めれば、その後の経費は他のエネルギー源に比べて安い、とされてきた。
 その構図が崩れたのだ。

  (a)最大の要因・・・・シュールガス普及により、火力発電の燃料となる天然ガスの価格が下がっている。
    天然ガスの価格は、2008年ごろに比べて3分の1程度になった。
    加えて、原発は認可から建設まで5~10年かかるが、天然ガス発電所は数年ですむ。
    石炭に比べて温室効果ガスの排出が少ない点も、天然ガスへの追い風になっている。

  (b)老朽化した原発は、維持管理費に経費がかかる。
    加えて、福島第一原発事故以後、追加の安全対策を求められる。
    地域によっては、風力発電と比べてもコスト面での優位性を失いつつある。

 (3)来年、バーモントヤンキー原発が運転停止すれば、米国で稼働する原発は99基となる。
 さらにあと何基か、早期閉鎖を迫られる原発が出てくる、と目されている。

 (4)新規建設は進んでいない。
 ブッシュ前政権時代、原発建設のための資金調達をしやすくする推進策が導入され、オバマ政権も引き継いだ。2007~09年には、30基近くの新規申請が提出された。
 ところが、昨年、34年ぶりに2ヵ所4基で建設・運転が許可されたものの、後続の見通しはない。
 使用済み燃料の最終処分場計画も、一向に進んでいない。周辺住民の理解は、ますます得にくくなっている。計画の取り下げも出ている。

 (5)「シュール革命」のおかげで、米国は天然ガスの生産が、ロシアを抜いて世界一になった(2009年)。2020年ごろには、石油生産でも、サウジアラビアを抜いて世界一になる。2030年ごろには、中東への石油依存はゼロになる。
 オイルショック以降の念願だった「エネルギー自給」が実現する見通しだ。
 その陰で、安全保障が揺るぎつつある。これまで米国が世界における原子力の平和利用推進と核物質の管理を主導できたのは、厳密な核不拡散の条件の下、各国に信頼させる技術、核燃料、サービスを提供できる能力があったからだが、原発の退潮により、原子力技術や核物質管理に新たなリスクを抱えこむことになった。
 2030年までに、中国、インド、ロシアが世界の原子力発電の4割を占める、と予測されている。

□行方史郎(朝日新聞ワシントン総局)「米原発の相次ぐ閉鎖」(「AERA」2013年11月18日号)
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