hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

今野敏『天を測る』を読む

2023年11月09日 | 読書2

 

今野敏著『天を測る』(2020年12月21日講談社発行)を読んだ。

 

講談社の内容紹介

『隠蔽捜査』の著者・今野敏、初の幕末小説!激動のさなか、ただ一点を見据えて正道を進む幕臣がいた。これまで誰も描かなかった、もう一つの近現代史がここにある。

 

小野友五郎は、和算や測量術を、さらに39歳の時、海軍伝習所で航海術を学んだ。計算能力に優れた彼は安政7(1860)年、咸臨丸の測量方として、アメリカへ向け浦賀を出発した。

咸臨丸には、軍艦奉行・木村摂津守善毅、その従者・福沢諭吉、艦長・勝麟太郎、通節通弁・中浜(ジョン)万次郎たちと、アメリカ測量艦の元館長・ブルックと10人のアメリカ人乗組員が乗船していた。

測量は、月を星の位置から複雑な計算をして船の位置を割り出し、航路を定める大切な仕事で、他に4人居たが、友五郎ははるかに年長で、もっとも優秀だった。経験豊富なブルックからも友五郎の測量の腕前は熱い信頼を得ることになった。

 

無事江戸にもどると、牧野家の家来でありながら、上様に拝謁可能な御目見得(旗本)となった。すぐに蒸気軍艦の建造の建言書作りを始めた。しかし、実務家に徹する友五郎も、戦乱の世に、兵站の計算技術を発揮するが、攘夷と、幕府崩壊の嵐に巻き込まれて行く。

 

 

初出:「小説現代」2020年11月号

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)

 

優れた技術を持つ技術官僚に徹する小野友五郎の凛とした姿を明快に描き出していて、わかりやすい。せっかくの戦乱の世、ダイナミックな変化に時代なのに、ロマンがなく、地味だ。
しかしながら、世界の列強が狙う日本を、江戸から明治へ無事に日本が変換できたのも、先見性ある政治家の他に、このような優れた技術を持つ実務家たちの役割も大きかったのだろう。

 

登場する歴史上の有名人として、中浜万次郎、小栗忠順、榎本武揚などが高く評価されているのだが、勝麟太郎と福沢諭吉、坂本龍馬はどうしようもなくいい加減な人物で、ぼろくそに書かれているのが面白い。まあ、この本は、小野友五郎が極めて優秀な実務家であるという本なので、お三方は口八丁で、内容のない人物として描いたのだろう

 

「『天を測る』刊行記念対談」で今野は語っている。

ある人物の視点を通して物語を語るのが現代的な小説だと思っているので、作家の視点が入ったり、歴史を解説したりする書き方には違和感がありました。歴史小説は天の声が語るのが主流かもしれませんが、私はそのスタイルに慣れていないので、視点にこだわるミステリの手法で書きました。

 

著者は、参考文献に藤井哲博『咸臨丸航海長 小野友五郎の生涯』(中公新書)を挙げて感謝をささげている。

 

 

今野敏の略歴と既読本リスト

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする