ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

増尾兼房

2010-06-15 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
郷「(女の毒牙には)気をつけて…行ってらっしゃいませ」と義経から視線を逸らした。
理解されない男心で、視線すら合わせてもらない義経だった。
その時、ぼぉーーーん…と法螺吹きが響いた。
義隆「弁慶の法螺吹きっ!」
中尊寺周辺で見張りをしている弁慶が出立を急かしている。どうやら藤原泰衡軍勢が動き始めたようだ。郷は法螺の響きを聞いて、気を引き締めた。とうとう出立の時が来た。
義経らは藤原泰衡 軍勢を避けるために、裏道を通って平泉からの脱出を計る事になっていた。
郷「海尊の言うことだけは、しっかり聞くのよ」と義隆に言い聞かせ、くるりと義経に背を向けた。
義経「…あの、俺の言うことは聞かんでいいが?」と、郷に声を掛けたが、彼女は振り返りもしなかった。いつもの天然調子の郷ではなく、少々不安を覚えた義経は元気いっぱいに、
義経「郷っ!いつか一緒に金鶏、拝むぞぉ!なら、行って来るからなぁー!」と郷の背中に向って呼びかけた。が、それも逆効果だった。
それはそのはず、夫の浮気をじっと我慢し続て5年。郷には、義経が“元気いっぱい”で浮気旅に行って来るよぉ~♪と言っているようにしか思えない。そういう風に目に映っても然るべき。そんな郷の心に気が付かない義経だけが何も知らない。義経脱走計画の真相と郷の覚悟を…。
郷の肩は小さく揺れ、目からは大きな光の雫がポロポロと落ちていた。
しかし、義経からは郷が肩で笑って頷いている?ようにしか見えず、彼女の涙とその意味は義経には伝わっていなかった。
義経「おっ♪やっと機嫌が直った?」とのん気に思っただけだ。
そんな郷の強い覚悟を知っている白髪頭の御老体が「湧き水の所まで送ろう…」と、義経に歩み寄った。この白髪頭の老体は、増尾兼房(ますお かねふさ)という郷お付きの爺やである。義隆が生まれてからは義隆お付きの爺やとなっていた。年の功で知識が広く、幾度も義経の危機を救っている。郷が河越から嫁いだ時から義経に忠義を尽してくれる、郷にとっては亡き父 河越重頼のような存在で、さらに口が堅い事から郷の愚痴聞き役を担っていた。
白髪の爺やは、ポンと義経の肩を軽く叩き、
兼房「ほれ、行くぞ…」と出立を促した。もうここにいてはアッカーン!!と思ったのだろう。高館の西のほとりにある湧き水の所まで送ってくれた。その湧き水を竹水筒に入れて義隆に渡し、義経と海尊には同じく水を入れた瓢箪を持たせてくれた。


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