自衛隊、内と外で違う顔(2018年4月24日中日新聞)

2018-04-24 09:54:36 | 桜ヶ丘9条の会
自衛隊、内と外で違う顔 

2018/4/24 朝刊

 防衛省・自衛隊の日報隠蔽(いんぺい)問題が再燃する中、イラク派遣の関連文書については改ざんの疑いが浮上してきた。防衛省が二〇〇九年七月、国会に提出したイラク派遣の報告書で、数値の一部が航空自衛隊の部内向け文書と食い違っていたからだ。本紙が過去に報じた自衛隊の別の案件でも、改ざんなどを疑う事例があった。こうした現実は文民統制(シビリアンコントロール)の危機を示している。

◆空輸中止回数など

 国会に提出された報告書の題名は「イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法に基づく対応措置の結果」。この文書とは別に、空自は部内向けに年度別の「イラク復興支援派遣輸送航空隊史」や派遣部隊の「活動成果報告」などをまとめていた。

 今回、改ざんが疑われているのは、輸送した人員や物資の量と空輸中止の回数について、数値が国会への報告書と部内向け文書で食い違っているためだ。

 人員や物資の量については、〇四年度の「航空隊史」には六千三百二十六人、六万六千四百七十一キロと記されているが、国会への報告書には六千三百四十九人、十四万四千四百三十八キロと書かれていた。同様の食い違いは〇五、〇六年度の「航空隊史」にもあった。

 空輸中止の回数については、〇八年四月から八月まで任務についた第十五期派遣部隊の「活動成果報告」には三十七回とあるが、国会への報告書では〇八年度全体で三十一回と書かれていた。つまり、部内文書に書かれていた半年弱の活動での空輸中止回数が、同年度の国会報告の数値を上回っていたことになる。

 部内でまとめた数値が、国会報告の段階で改ざんされた疑いがある。本紙はこの食い違いについて、防衛省に質問したが、約一週間の期限内に回答はなかった。同省は「イラク派遣の日報開示で多忙だったため」としている。

◆整合性とれずに?

 数値が変わった理由について、部内文書を情報公開請求した研究団体「軍事問題研究会」の桜井宏之代表は「政府は派遣部隊の撤収条件として、現地の治安状況回復を挙げていた。少なくとも空輸中止回数については、任務を終えた〇八年度に脅威などを理由とした空輸中止の回数が多いと撤収条件との整合性がとれず、そのために回数を減らしたのでは」と推測する。

 防衛省の文書について、改ざんなどを疑わざるを得ない理由がある。本紙は一五年九月、空自がイラク派遣で〇八年五月に「対空脅威」を理由に空輸を中止したことを部内文書に記しながらも、防衛省の国会報告書には〇八年度に「脅威情報に起因」する空輸中止はなかったと書かれていたことを報じた。防衛省は当時、取材に「関係書類はすでに廃棄され、確認は難しい」と答えた。

 さらに一三年八月には、空自のF15の編隊が米アラスカ州で米戦略爆撃機B52の爆撃援護訓練に参加していたことを伝えた。当時は安全保障関連法施行前で、集団的自衛権の行使を前提とした訓練は、政府見解でも認められていなかった。

 空自の月刊部内誌に訓練に参加した隊員の手記が掲載されていたことから分かったが、航空幕僚監部は取材に「訓練の事実はない」と虚偽の回答をした。

◆情報公開崩壊兆し

 情報開示は文民統制の土台ともいえるが、それが崩れかけている。

 ジャーナリストの布施祐仁さんは一六年、南スーダン国連平和維持活動(PKO)に派遣された自衛隊の日報を情報公開請求した。この際、防衛省は「廃棄した」と応じなかった。しかし、後に電子データがあったとして開示された。一度は「廃棄された」日報が後に出てきたのは、今月十六日に防衛省が公開したイラク派遣のケースでも同じだ。

 布施さんは「防衛省・自衛隊は『派遣ありき』の政府の姿勢を受け、憲法とつじつまが合わない現地情勢を隠してきた。政権の意向を優先し、現実を加工して済ませようとする構造がある」と指摘する。

 こうした文民統制の危機が深刻化する中、安倍晋三首相は昨年五月、憲法九条を維持した上で自衛隊の存在を明記する改憲案を打ち出し、今年三月の自民党大会でも強い意欲を示した。

 首相の意向を受けた自民党の憲法改正推進本部は、戦争放棄を定めた九条一項と戦力不保持の二項を残したうえ、新設の「九条の二」に「自衛隊を保持する」という条文を入れる案をまとめた。「九条の二」には、自衛隊の行動について「国会の承認その他の統制に服する」という条文を加えるとしている。

 この改憲案について、護憲を訴えている伊藤真弁護士は「国会以外の統制でも構わないということ。国会で承認とあっても、事前承認は必要としていない。民主的な統制の発想がうかがえない」と危ぶむ。

 そもそも憲法に明記されている組織は国会、内閣などわずか。そこに自衛隊が加わることは「単なる一行政機関とは別の独立性を認め、特別扱いすることを意味する。しかも国民投票で国民が直接選ぶことで、極めて強い民主的正統性が与えられる」と懸念する。

 伊藤弁護士は「ただでも市民が軍事情報を把握するのは難しい。自衛隊には政治家も含めて軍事の素人に判断されたくないという意識が強い。そうした下地に改憲が加われば、国会議員が情報を求めても『憲法上の組織なので、独自に責任を果たす』と拒絶しかねない」と語り、文民統制の破綻が決定的になるとみる。

 文民統制の機能しなくなった軍事組織が、いかに危険かは歴史が示している。明治大の山田朗教授(日本近現代史)は、戦前の旧日本軍の破綻を例示したうえ「自衛隊にもその反省はあったはずだが、次第に立法府(国会)を尊重しなくなってきている。実力部隊が暴走しない二大条件は情報の公開と文民統制。これが忘れられている中で憲法を変えたら、歯止めがなくなってしまう」と話す。

 「現時点でも文民統制は利いておらず、米国の意図をくみながら、軍備を増強している。改憲によってお墨付きを得れば、情報のブラックボックス化が進む」

 文民統制を欠いた改憲は論外だ。それと同時に、文民統制をどう再構築できるのかという課題が残る。

 山田教授は「市民が軍事について発言すること」を求め、布施さんは「そのためにも、自衛隊の活動状況が正確に開示されなくてはならない」と強調する。

 山田教授は「軍事は秘密が大前提といわれるが、その部分を最小にしなければならない。具体的に『こんな装備を持っていいのか』などと監視しつつ、市民が無視されないように意思表示することが大切だ。軍事組織は専門領域だから任せろと言うだろうが、国土防衛とは土地ではなく、国民の生命・財産を守ること。国民への情報公開はその前提といえる」と語った。

 (橋本誠、中沢佳子、田原牧)


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