廃プラ処理もう限界 分別しても7割焼却
2019/5/28 中日新聞
環境省は全国の自治体に対し、企業から出るプラスチックごみ(廃プラ)を焼却炉で燃やす検討をするよう通知した。これまで大量に廃プラを輸入していた中国が一昨年末から禁輸とした影響で、国内に大量の廃プラがたまっているためだ。一般には、プラスチックは分別収集・リサイクルという感覚があるため「燃やしていいの?」と思うが、実は国内廃プラの七割は焼却処分。廃プラを巡る国内外の状況を探った。
東京湾岸に浮かぶ東京都大田区の人工島・京浜島。ダンプカーが行き交う道路に面したヤードに、廃プラの塊がうずたかく積み上げられている。高さ約五メートルの壁だ。
「これでも少なくなった。一月ごろは搬入が多すぎて、もう一段高かった。強風で倒れてくる恐れもあり、客と従業員の安全を確保するのに大変だった」
産業廃棄物のリサイクル会社、東港金属の工場長ラハモン・メヘラッデさんは振り返る。イラン出身で勤続二十年以上だが、初めての出来事だという。
ここに運び込まれるのは、工場や建築現場から出た産業廃棄物。壁に近づくと、ブルーシートやゴム板の切れ端、引っ越しで使う養生材などが確認できた。すべての廃プラがプラスチック原料として再利用できるわけではない。汚れた廃プラは、大量の熱を使う国内のセメント会社や製鉄会社に燃料として販売したり、「RPF」と呼ばれる固形燃料などに利用される。同社の福田隆社長は「滞留しているのは品質状態の良くない廃プラ」と説明する。
福田社長によれば、これまで日本の廃プラリサイクル体制は中国への輸出に依存してきた。人件費が安いからだ。だが、中国は「人の身体健康と生活環境に重大な危害をもたらしている」として二〇一三年に規制を強化。以降、製品の製造工程で出る高品質の「きれいな廃プラ」しか受け入れなくなった。一七年末にはこれも禁輸になった。
「行き場をなくした中国向けの廃プラが、国内のセメント会社やRPF製造会社などに入るようになった。そこから押し出された汚れた廃プラが、どんどんうちなどに入ってきている」
処理能力を超える量が運び込まれ、廃プラが滞留する結果、別の問題も起きている。東港金属のような中間処理業者はプラスチックを使ったOA機器も受け入れるが、内蔵のリチウムイオン電池が発火し、廃プラに引火する大規模火災が全国各地で相次いでいる。
福田社長は「このままの状態が続けば、受け入れを断らざるを得ない。企業はごみを出せなくなる。特に、企業が多い東京や名古屋、大阪では大変なことになる」と懸念する。
この逼迫(ひっぱく)した状況を受け、環境省は二十日、全国の市町村の焼却施設で、廃プラを積極的に受け入れるよう要請する通知を各都道府県に出した。ただ、市町村の焼却施設は、住民の家庭から出るごみを燃やすためのもので、処理能力もその量に合わせて造られている。また、そもそもリサイクルを推進する立場の環境省が、燃やすことを推奨する点に矛盾はないのか。
同省廃棄物規制課の加茂慎課長補佐は「あくまで緊急避難的な措置で、それだけ逼迫しているということ。リサイクル推進の姿勢は変えていない。一番恐れているのは不法投棄による生活環境の悪化だ」と説明。「緊急避難」の期間は「国内のリサイクル体制が整ってくるまで」と語る。
廃プラはこれまでどう処理されてきたのか。容器包装リサイクル法が制定されたのが一九九五年。分別収集、再商品化の開始はペットボトルは九七年、プラスチック製容器包装は二〇〇〇年だった。
ペットボトルの分別収集は一七年度末の時点で全市町村の98・7%、プラスチック製容器包装は75・8%が実施している。この数字からは住民の協力を得て取り組む分別収集が、相当進んでいることがうかがえる。単純に考えれば、廃プラの大多数がリサイクルされているように思えるが、実際はそうではない。
環境省の公表資料によると、廃プラは年間九百四十万トン(一三年)に上る。このうち、リサイクルは二百三十三万トンで全体の25%。一方、焼却による発電や固形燃料化など、燃やすことを前提に活用する「サーマルリサイクル」が57%の五百三十四万トン、単純な焼却が10%の九十八万トン、埋め立てが8%の七十四万トンとなっている。つまり、廃プラの行く末は七割が「燃やす」なのだ。
家庭から出る分が多くを占める一般廃棄物のプラスチックはどうなのか。洗浄など手間の掛かる分別の成果は出ているのか。
関連する数字は一般社団法人プラスチック循環利用協会が公表している。一七年の総量は四百二十万トン。同協会調査研究部長の半場雅志氏は「資源ごみとして分別されてくるのは約二割。燃えるごみとして回収されるのは七割で、残りが不燃ごみ扱い」と語る。
廃プラの分別が進むといっても、資源ごみに区分けされる割合が少ない上、全量が再生利用される訳ではなく、汚れなどの理由から何割かはサーマルリサイクルに回されるという。その量を具体的に知りたいところだが、半場氏は「関係機関で数字が一致せず、説明が難しい」と話す。
例えば本紙の取材では、東京二十三区内で廃プラを可燃ごみとする区は十一区に上るが、東京都も、実際に処理にあたる二十三区一部事務組合も「どこの区が可燃としているか把握していない」と答えるありさまだ。
一方、世界的には廃プラへの抵抗感が広がる。中国で禁輸となったことについて、環境NGO「グリーンピース・ジャパン」の大舘弘昌氏は「輸入分は野焼きされてしまうケースがあるほか、埋め立てて魚介類の養殖施設に影響が出ることもある」と指摘する。
レジ袋やストローといったプラスチック製品の製造や販売、使用を規制する動きも欧州を中心に強まる。東京農工大の高田秀重教授(環境化学)は「原料の石油は有限で、使い続けられない意識が欧州にはある。何でも問題を先送りする日本とは対照的」と話す。
今月には、有害廃棄物の輸出入を制限する「バーゼル条約」が改正され、汚れた廃プラが規制対象に加わった。発効する二一年以降は中国以外への廃プラ輸出も難しくなる。今後の対応が問われるが、日本化学工業協会の淡輪敏(たんのわつとむ)会長は今月十四日の会見で「ペットボトル以外の廃プラはいろいろな素材が混ざっており、(リサイクルの)難易度が高い」と述べた。要するに燃やそうということだ。
しかし、高田教授は「焼却すれば二酸化炭素が出て温暖化が進む。高温で燃やすとダイオキシンは出なくても、地下水汚染などの原因となる窒素化合物が出る。焼却炉建設も巨額の費用がかかる。環境や財政に多大な負担を強いるのが焼却だ」とくぎを刺す。
「一番の解決策はごみの量を減らすこと。分別を通じて市民が高めた環境保全の意識が役立つ。安易に『プラごみは燃やせばいい』と触れ回ると、大切なその意識を崩してしまう」
(石井紀代美、榊原崇仁)