日米安保体制 一体化の度が過ぎる (2019年5月30日 中日新聞)

2019-05-30 08:52:15 | 桜ヶ丘9条の会
日米安保体制 一体化の度が過ぎる 
2019/5/30 中日新聞
 トランプ米大統領の四日間にわたる日本訪問。安倍晋三首相は日米「同盟」関係の緊密さをアピールしたが、自衛隊と米軍の軍事的一体化の度が過ぎれば、専守防衛の憲法九条を逸脱する。
 大統領の日本での最後の日程は海上自衛隊横須賀基地(神奈川県横須賀市)に停泊中のヘリコプター搭載型護衛艦「かが」を、首相とともに視察することだった。
 海自や米海軍の隊員ら約五百人を前に訓示した大統領は「日米両国の軍隊は、世界中で一緒に訓練し、活動している」と述べた。まるで自衛隊があらゆる地域に派遣され、米軍と一緒に戦っているかのような口ぶりだ。
 トランプ氏の目に、自衛隊がそう映ったとしても無理はない。
 歴代内閣は、戦争放棄と戦力不保持の憲法九条の下、専守防衛に徹し、節度ある防衛力整備に努めてきたが、安倍内閣は、違憲とされてきた「集団的自衛権の行使」を一転可能としたり、専守防衛逸脱の恐れありとして保有してこなかった航空母艦や長距離巡航ミサイルを持とうとしているからだ。
 「かが」は全長二百四十八メートル。通常はヘリコプターを載せる「いずも」型の二番艦だが、政府は昨年、「いずも」型を改修し、米国製の最新鋭ステルス戦闘機F35Bを運用する方針を閣議決定した。
 米空母ロナルド・レーガン(全長三百三十三メートル)や、中国の遼寧(同三百五メートル)などと比べれば小型だが、事実上の空母化である。
 専守防衛の逸脱が指摘される状況での「かが」乗艦には、中国けん制の狙いに加え、事実上の空母化や、一機百億円以上という高額な米国製戦闘機の大量購入を既成事実化する意図もあるのだろう。
 不安定さが残る東アジア情勢を考えれば、日米安全保障条約に基づいて米軍がこの地域に警察力として展開することは当面認めざるを得ないとしても、自衛隊が憲法を逸脱してまで米軍と軍事的に一体化していいわけはない。
 安倍内閣は米国製の地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の導入も進めるが、配備候補地である秋田、山口両県の地元住民から、強力な電磁波による健康被害や攻撃対象になることを心配する声が上がる。沖縄県民の過重な米軍基地負担も深刻だ。
 高額な米国製武器の大量購入によるのではなく、専守防衛という日本の国家戦略への国際理解を求め、また基地負担に苦しむ住民の思いに応えてこそ、真に緊密な関係と言えるのではないか。
















日米いびつな蜜月 首相、トランプ氏を「大歓迎」

2019-05-29 09:26:39 | 桜ヶ丘9条の会
日米いびつな蜜月 首相、トランプ氏を「大歓迎」 
2019/5/29 中日新聞

 来日していたトランプ米大統領は二十八日、四日間におよぶ長期滞在を終えた。安倍晋三首相の下にも置かぬ歓待に終始気分は上々の様子で、ツイッターの書き込みを連発し、二人の「蜜月」を強調した。安倍首相はこれまでも米国の兵器を大量に買うなどしてトランプ氏を喜ばせてきた。その姿勢はまるで朝貢(ちょうこう)外交と批判の声も。この機会に「爆買い」の数々を振り返ってみた。
 東京スカイツリーは星条旗にならって赤、白、青にライトアップされ、大統領専用車に歓声が飛ぶ。大相撲夏場所千秋楽が開かれた両国国技館では、大統領夫妻のために升席に椅子が置かれた。席に着くまで進行が滞り、御嶽海が「これではトランプ氏を見に来たのか、優勝した朝乃山を見に来たのかわからない」とこぼす狂騒ぶり-。
 「安倍晋三首相ほど大言壮語のトランプ氏におもねる首脳は世界にいないが、氏の訪問時に英国で起きたような抗議運動は日本では起こらないだろう」と米ワシントン・ポスト紙は書いたが、それは的中した。
 トランプ氏にとって、歓迎一色の日本はこの上なく過ごしやすかっただろう。自国の貿易赤字解消のためにいくら譲歩を迫っても、相手は反論せず、にこにこして耳を傾けるばかりだからだ。
 トランプ氏は二十六日、安倍首相と訪れたゴルフ場での昼食後にツイッターを更新。「貿易交渉で大きな進展があった。農産物と牛肉が中心だ。七月の選挙(参院選)後を待つ。大きな数字を期待している!」と、日本側の譲歩を得たかのような投稿をした。二十七日の記者会見では「八月に発表ができると思う」と交渉妥結の見通しまで語った。
 農産品関税の削減は日本の農家にとって大きな打撃。選挙までは譲歩を伏せ、選挙後に発表する筋書きを他国の首脳に公表されたような内容だ。
 「蜜月」と表現される両首脳。しかし、米国の利益を押しつけられ、同盟強化の口実のもと相手の言いなりになる関係は、そんな美辞とはほど遠い。日本が米国に買わされてきたものを振り返れば見えてくる。
 まずは最新鋭ステルス戦闘機F35。計百四十七機を導入する計画だ。民主党政権時に四十二機の自衛隊配備が決まり、昨年末の防衛計画の大綱などで百五機の追加購入を決めた。追加費用は機体だけで総額一兆二千億円。トランプ氏も「とても感謝している」。
 背景には昨年五月、トランプ氏が自動車の関税引き上げに言及したことがある。自動車に累が及ぶのを避けるため「(貿易不均衡の是正を主張する)トランプ氏に手土産を持たせる必要があり、追加購入となった」と防衛省幹部は本紙の取材に語った。
 武器取引反対ネットワークの杉原浩司代表は「これまで主力だったF15は対地・対艦攻撃力がないのに対し、F35は攻撃力が高く、長距離巡航ミサイルを搭載できる。事実上、専守防衛をやめることを意味し、憲法違反の敵地攻撃能力を保有することになる」と危機感を抱く。
 しかも、百四十七機という数は米国に次いで世界二位の保有数。杉原氏は「核保有国の大国すら上回る数で、そもそも値段設定の妥当性を検証できない」と批判する。
 続いて、地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」。いわばイージス艦のシステムを陸上に設置したもの。秋田県や山口県が配備候補地とされている。一基あたり八百億円と言われる代物で、防衛省は二基の取得関連費を二千四百四億円と試算。維持運用を含めると、計四千三百八十九億円になるとしている。
 イージス・アショアの購入は、F35と同様に「対外有償軍事援助(FMS)」という契約に基づく。米側の提示額や納期を日本が受け入れるもの。つまり相手の言いなりということだ。
 軍事評論家の前田哲男氏は「FMSだと日本の軍需産業は入れず、メンテナンスも米国が請け負う。米側に金が流れる仕組みだ。迎撃システムは日本にとって必要ない。果てしない軍拡につながる。危険な選択だ」と危惧する。
 爆買いの対象がなぜ兵器なのか。前田氏は「貿易問題は票に直結する。譲歩すると圧力団体が黙っていない。だが、日本の軍需産業の力は強くない。米側の言い値で買ってやり、国内の圧力もかわせるという点で材料にしやすい」と語る。
 陸上自衛隊が導入する垂直離着陸輸送機オスプレイもそうだ。一機百億円とも言われ、安倍政権は十七機購入する計画。単純計算で千七百億円になる。
 千葉県木更津市の陸自木更津駐屯地はオスプレイの整備拠点で、防衛省は暫定配備を目指している。地元の市民グループ「オスプレイ来るな いらない住民の会」の吉田勇悟会長は「オスプレイはもはや最新鋭の軍用機ではない。米国は製造した分を日本に押し付けたいのだろう」と憤る。
 さらに「日本に武装強化をさせ、いざという時は『自分で戦え』と言うつもりだろう。各地の紛争へ人や金を負担させようともしているのでは」と勘ぐる。
 メンテナンスやパイロットの訓練の費用もばかにならないと吉田氏は言う。「一機につき二百億円はかかるとみていい。軍拡にかける金があるなら、国民の平和な生活のために使うべきだ。言いなりで兵器買いなんて、とても独立国とは言えない」
 米国への「貢ぎ物」は軍事に限らない。カジノを含む統合型リゾート施設(IR)もその一つ。トランプ氏の有力支援者、米大手カジノ会社会長シェルドン・アデルソン氏も日本での参入を目指しているようだ。二〇一七年二月の日米首脳会談の時、安倍首相が出席した朝食会に同席していた。
 明治大の西川伸一教授(政治学)は「カジノ運営のノウハウは日本にない。米国など海外の業者が運営することになるだろう。そうなると、日本人の富が米国の巨大娯楽産業に吸い込まれる」と語る。
 カジノ構想は外国人観光客の誘致が目的ということになっているが、実際はほとんどの客が日本人と見込まれている。つまり、トランプ氏に差し出すのは日本人の財布。価格をあえて言うなら「プライスレス」か。
 西川氏は、夏の参院選後に妥結するという貿易交渉は日本にとって厳しいものになるとみる。「農産物か、自動車絡みか。いずれにしても選挙後まで待つということは米国に有利な内容だろう」。その上で、今回の首脳会談を「安倍首相は米国への従属が日本の国益にかなうという信念で、接待外交をしている。だが、一方だけがへりくだるのは主権国家同士の交渉として正常ではない。要求をのむだけなら交渉の意味はなく、外交にならない」と批判する。
 (皆川剛、中沢佳子)

廃プラ処理もう限界 分別しても7割焼却 (2019年5月28日 中日新聞)

2019-05-28 09:35:43 | 桜ヶ丘9条の会
廃プラ処理もう限界 分別しても7割焼却 
2019/5/28 中日新聞

 環境省は全国の自治体に対し、企業から出るプラスチックごみ(廃プラ)を焼却炉で燃やす検討をするよう通知した。これまで大量に廃プラを輸入していた中国が一昨年末から禁輸とした影響で、国内に大量の廃プラがたまっているためだ。一般には、プラスチックは分別収集・リサイクルという感覚があるため「燃やしていいの?」と思うが、実は国内廃プラの七割は焼却処分。廃プラを巡る国内外の状況を探った。
 東京湾岸に浮かぶ東京都大田区の人工島・京浜島。ダンプカーが行き交う道路に面したヤードに、廃プラの塊がうずたかく積み上げられている。高さ約五メートルの壁だ。
 「これでも少なくなった。一月ごろは搬入が多すぎて、もう一段高かった。強風で倒れてくる恐れもあり、客と従業員の安全を確保するのに大変だった」
 産業廃棄物のリサイクル会社、東港金属の工場長ラハモン・メヘラッデさんは振り返る。イラン出身で勤続二十年以上だが、初めての出来事だという。
 ここに運び込まれるのは、工場や建築現場から出た産業廃棄物。壁に近づくと、ブルーシートやゴム板の切れ端、引っ越しで使う養生材などが確認できた。すべての廃プラがプラスチック原料として再利用できるわけではない。汚れた廃プラは、大量の熱を使う国内のセメント会社や製鉄会社に燃料として販売したり、「RPF」と呼ばれる固形燃料などに利用される。同社の福田隆社長は「滞留しているのは品質状態の良くない廃プラ」と説明する。
 福田社長によれば、これまで日本の廃プラリサイクル体制は中国への輸出に依存してきた。人件費が安いからだ。だが、中国は「人の身体健康と生活環境に重大な危害をもたらしている」として二〇一三年に規制を強化。以降、製品の製造工程で出る高品質の「きれいな廃プラ」しか受け入れなくなった。一七年末にはこれも禁輸になった。
 「行き場をなくした中国向けの廃プラが、国内のセメント会社やRPF製造会社などに入るようになった。そこから押し出された汚れた廃プラが、どんどんうちなどに入ってきている」
 処理能力を超える量が運び込まれ、廃プラが滞留する結果、別の問題も起きている。東港金属のような中間処理業者はプラスチックを使ったOA機器も受け入れるが、内蔵のリチウムイオン電池が発火し、廃プラに引火する大規模火災が全国各地で相次いでいる。
 福田社長は「このままの状態が続けば、受け入れを断らざるを得ない。企業はごみを出せなくなる。特に、企業が多い東京や名古屋、大阪では大変なことになる」と懸念する。
 この逼迫(ひっぱく)した状況を受け、環境省は二十日、全国の市町村の焼却施設で、廃プラを積極的に受け入れるよう要請する通知を各都道府県に出した。ただ、市町村の焼却施設は、住民の家庭から出るごみを燃やすためのもので、処理能力もその量に合わせて造られている。また、そもそもリサイクルを推進する立場の環境省が、燃やすことを推奨する点に矛盾はないのか。
 同省廃棄物規制課の加茂慎課長補佐は「あくまで緊急避難的な措置で、それだけ逼迫しているということ。リサイクル推進の姿勢は変えていない。一番恐れているのは不法投棄による生活環境の悪化だ」と説明。「緊急避難」の期間は「国内のリサイクル体制が整ってくるまで」と語る。
 廃プラはこれまでどう処理されてきたのか。容器包装リサイクル法が制定されたのが一九九五年。分別収集、再商品化の開始はペットボトルは九七年、プラスチック製容器包装は二〇〇〇年だった。
 ペットボトルの分別収集は一七年度末の時点で全市町村の98・7%、プラスチック製容器包装は75・8%が実施している。この数字からは住民の協力を得て取り組む分別収集が、相当進んでいることがうかがえる。単純に考えれば、廃プラの大多数がリサイクルされているように思えるが、実際はそうではない。
 環境省の公表資料によると、廃プラは年間九百四十万トン(一三年)に上る。このうち、リサイクルは二百三十三万トンで全体の25%。一方、焼却による発電や固形燃料化など、燃やすことを前提に活用する「サーマルリサイクル」が57%の五百三十四万トン、単純な焼却が10%の九十八万トン、埋め立てが8%の七十四万トンとなっている。つまり、廃プラの行く末は七割が「燃やす」なのだ。
 家庭から出る分が多くを占める一般廃棄物のプラスチックはどうなのか。洗浄など手間の掛かる分別の成果は出ているのか。
 関連する数字は一般社団法人プラスチック循環利用協会が公表している。一七年の総量は四百二十万トン。同協会調査研究部長の半場雅志氏は「資源ごみとして分別されてくるのは約二割。燃えるごみとして回収されるのは七割で、残りが不燃ごみ扱い」と語る。
 廃プラの分別が進むといっても、資源ごみに区分けされる割合が少ない上、全量が再生利用される訳ではなく、汚れなどの理由から何割かはサーマルリサイクルに回されるという。その量を具体的に知りたいところだが、半場氏は「関係機関で数字が一致せず、説明が難しい」と話す。
 例えば本紙の取材では、東京二十三区内で廃プラを可燃ごみとする区は十一区に上るが、東京都も、実際に処理にあたる二十三区一部事務組合も「どこの区が可燃としているか把握していない」と答えるありさまだ。
 一方、世界的には廃プラへの抵抗感が広がる。中国で禁輸となったことについて、環境NGO「グリーンピース・ジャパン」の大舘弘昌氏は「輸入分は野焼きされてしまうケースがあるほか、埋め立てて魚介類の養殖施設に影響が出ることもある」と指摘する。
 レジ袋やストローといったプラスチック製品の製造や販売、使用を規制する動きも欧州を中心に強まる。東京農工大の高田秀重教授(環境化学)は「原料の石油は有限で、使い続けられない意識が欧州にはある。何でも問題を先送りする日本とは対照的」と話す。
 今月には、有害廃棄物の輸出入を制限する「バーゼル条約」が改正され、汚れた廃プラが規制対象に加わった。発効する二一年以降は中国以外への廃プラ輸出も難しくなる。今後の対応が問われるが、日本化学工業協会の淡輪敏(たんのわつとむ)会長は今月十四日の会見で「ペットボトル以外の廃プラはいろいろな素材が混ざっており、(リサイクルの)難易度が高い」と述べた。要するに燃やそうということだ。
 しかし、高田教授は「焼却すれば二酸化炭素が出て温暖化が進む。高温で燃やすとダイオキシンは出なくても、地下水汚染などの原因となる窒素化合物が出る。焼却炉建設も巨額の費用がかかる。環境や財政に多大な負担を強いるのが焼却だ」とくぎを刺す。
 「一番の解決策はごみの量を減らすこと。分別を通じて市民が高めた環境保全の意識が役立つ。安易に『プラごみは燃やせばいい』と触れ回ると、大切なその意識を崩してしまう」
 (石井紀代美、榊原崇仁)

不公平は消費者が正す (2019年5月27日 中日新聞) 巨大IT規制

2019-05-27 09:31:37 | 桜ヶ丘9条の会
不公平は消費者が正す 巨大巨大IT規制
2019/5/27 中日新聞
 独占禁止法で巨大IT企業を規制する動きが出ている。底流に富やネット情報独占への不信がある。現行規制が追いついていないなら変えねばならない。
 政府が規制対象として念頭に置いているのは、GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)と呼ばれる米国の巨大IT企業や国内の楽天、ヤフーなどだ。いずれもネット空間の取引で大きな収入を得ている。
 公正取引委員会はIT五社(グーグル、アマゾン、ヤフー、アップル、楽天)との取引業者や利用者を対象に調査を実施。九割超の業者が、五社のうちの一社との取引について「規約を一方的に変更された」と回答した。

優越的地位の乱用か

 その数値は最も低いケースでも約五割だった。一方、取引業者の約八~九割が各IT大手との取引を続けざるを得ないとした。
 公取委は現行の取引実態が、独禁法で規定されている強い立場にある企業による「優越的地位の乱用」にあたるか見極めている。この乱用規制は日本や韓国などに限られた独特のルールだ。違反すると排除措置命令や課徴金を課すといった罰則がある。適用すれば世界に先駆けた実効性の高い対策となるはずだ。
 IT大手による個人情報の収集も問題だ。スマートフォンを使うと、ひんぱんに利用者の好みに合う広告が優先的に画面に現れる。集めた個人情報を駆使した広告手法の典型例だ。
 フェイスブックでは昨年八千七百万人の個人情報の不正利用が発覚。グーグルは昨年、情報流出の可能性があったにもかかわらず約半年間公表を遅らせた。
 IT大手の最大の武器は蓄積された膨大な情報であり、巨額収入を得る基盤になっている。調査では約75%の利用者が、IT企業による個人情報や利用した際のデータ収集について「懸念がある」と回答している。

税の公平な徴収を

 どうやって個人情報を集めているかも不透明だ。不公正な情報独占につながっているならば、独禁法に強制的な開示義務の規定を設けるべきだろう。
 独禁法を活用した対策は現実的で政府の本気度が伝わる。しかし、取引手法やデータ収集に法の網をかけただけでは問題の核心を突いたとはいえない。
 ここで改めて指摘したいのは、規制の核心部の一つは、税の公平な徴収ということだ。巨大IT企業に対する不満の最大の温床だからだ。
 国際展開する企業への課税は原則として、進出国に工場や支店などの拠点があって利益を上げた場合に対象となる。
 だがIT企業の取引は、ネット空間で国境を自由に行き来するため必ずしも拠点は必要ない。複雑な手法を駆使して税率の低い国に利益を移すケースも多い。このため税の徴収には常に困難が付きまとう。
 独禁法による規制を軌道に乗せた上で、経営の透明化を促し課税強化につなげる必要がある。その際、必要不可欠なのが国を超えた連携だ。
 英国を含む欧州連合(EU)では課税強化に積極的で連携が図りやすい。問題はIT大手を多数抱え規制に消極的な米国だ。
 かぎを握るのは利用者の国際的な意識の共有である。米国でも消費者の不満は他国と共通しているはずだ。多くの利用者は有権者でもあり、その意志は政治と行政を動かす力を持つ。日本発の規制のうねりを起こし、国際世論を刺激してもいいだろう。
 国境を越えてビジネスを展開しているIT企業の経営者たちは、自国の公共性への意識がやや薄い印象を受ける。この姿勢が節税意欲に拍車を掛けているのではないだろうか。
 ただ経営者たちも教育を受け、道路や電力など社会基盤を使ってきたはずだ。税や個人情報をめぐる不信や情報漏えい事故を各国で生んでいる以上、公共性の欠如は許されない。

市民の意志が変える

 今、各国の利用者が連帯すればルールを変え巨大IT企業を動かせるはずだ。利用者は直接の支払いがない場合でも広告を通じた利益獲得の原動力であり、IT産業の消費者といえる。
 米国では消費者運動が自動車排ガス規制基準を実現。それは自動車産業発展にもつながった。ごみや温室効果ガス削減に向け、世界的に広がったマイバッグ運動も消費者が主役だ。
 IT大手は存在に見合うだけのコストを払うべきだ。それを促すための独禁法の活用は評価できる提案だ。だが大きな突破口になるかは、その内容を丹念に吟味しつつ後押しする利用者の強い意志にかかっている。








草も花も踏みつける 週のはじめに考える (2019年5月26日中日新聞)

2019-05-26 08:44:14 | 桜ヶ丘9条の会
草も花も踏みつける 週のはじめに考える 
2019/5/26 中日新聞
 来月、米国が新中東和平案を公表するそうです。今、来日中の大統領は「世紀の取引」になると自信満々のようですが、募るのは期待より恐怖の方で-。
 イスラエルが、国連決議にも国際法にも反して入植地を広げている占領地に、パレスチナ国家を樹立し、二国家が平和共存できるようにしよう、というのが中東和平の大枠。そのために歴代の米大統領もそれなりに腐心してきたのですが、一定の道筋となるかに見えた「オスロ合意」も二〇〇〇年を境に両者の衝突がエスカレートして、崩壊状態に陥ったままです。

「世紀の取引」への恐怖


 パレスチナの人々は今なお、壁と検問所によってガザとヨルダン川西岸の自治区に閉じ込められ、暮らしも自由も窒息寸前。そんな中、和平の最も繊細な部分に匕首(あいくち)を突き立てるような行動に出たのが、トランプ大統領でした。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教共通の聖地エルサレムをイスラエルの主張通り「首都」と認定し、昨年、大使館を移したのです。
 パレスチナは東エルサレムを将来の国家の首都と想定しており、エルサレムの帰属は交渉で決するというのが和平の根幹の一つ。日本など多数の国もイスラエルの首都とは認めておらず、大使館も商都テルアビブに置いています。無論、米国もずっとそうしてきました。その土台をひるがえされたパレスチナの怒りは当然ですが、抗議デモとイスラエル軍の衝突で多数の死者が出る悲劇につながってしまいました。
 実は米議会は一九九五年に、トランプ氏が今回やったのと同様の措置を政府に求める法案を可決しています。しかし、歴代の大統領は、それを半年ごとに延期し続けてきたのです。
 両者に配慮する微妙な折衷的態度で、どうにか「仲介者」の立場を守り、この複雑な問題に対処してきたとも言えます。いわば野道を行くに、ぽつりぽつりと咲いた小さな花は避けて歩くようなナイーブさがあった。対してトランプ氏は、草も花もドカドカと踏みつけにしていく印象です。
 大統領は、その後、やはりイスラエルが占領しているシリア・ゴラン高原にイスラエルの主権を認めるという、国連決議を無視した宣言にまで署名しました。
 道理をはずれた、この極端なまでのイスラエルへの肩入れが、再選対策で国内のユダヤ人や親イスラエルのキリスト教福音派にいい顔をしたいかららしいと聞けば、もう何をか言わんや、です。

イランてこにアラブかく乱


 パレスチナにとってさらに影響が大きいのは、イランをてこにしたトランプ政権の中東戦略です。
 急所は、オバマ政権時代に米欧など六カ国がイランと、経済制裁解除と核開発停止の交換で合意した核合意からの離脱。制裁も再発動し、最近は一層、イラン挑発を強めています。この転換は、イラン憎しのイスラエルは無論、やはりイランを敵視するアラブの雄サウジアラビアをも大いに満足させました。むしろ、そのための合意離脱だった節さえあります。
 パレスチナ問題を巡って敵対してきたはずのサウジとイスラエルは、敵の敵は味方とばかり、ともに親密な米国を介す形で近年、接近が顕著なのです。イスラエルの報道によれば、サウジのムハンマド皇太子は昨年、訪米中にユダヤ系団体と会談した際、「パレスチナ問題は最優先ではない」とさえ述べたといいます。
 サウジの変節は、オマーンなど他のアラブの国とイスラエルの接近をも促したようで、本紙記事でエジプトのある政治学者はこう指摘しています。「米国は、アラブの敵をイスラエルからイランに置き換えることに成功した。最大の敗者はパレスチナだ」
 米国は、イスラエルに一方的に肩入れしつつ、パレスチナが頼みとしてきたアラブの後ろ盾は切り崩し、窮地に追い込んだのと同じ顔で、今度は「仲介者」ぶって和平案を示すというのです。中身は不明ですが、策定者は、ユダヤ教徒でイスラエル首相とも親しい大統領の娘婿クシュナー氏…。
 この状況で、受け入れを迫られる身になってみてください。期待どころか、むしろ案を拒否した時に大統領がどう出るのか、それへの恐怖の方が大きいでしょう。

「被害者」パレスチナ


 強者が弱者を、理のない方が理のある方を追い詰める-。どうしても「いじめ」の言葉が思い浮かんでなりません。いじめ研究の泰斗森田洋司氏は「加害者」、「被害者」、はやしたてる「観客」、知らぬふりをする「傍観者」-という「いじめの四層構造」を指摘しています。もし前三者に米国、パレスチナ、イスラエルを重ねるならば、日本など国際社会が「傍観者」でいることは、いじめへの加担となる理屈でありましょう。