じわじわじわじわ 年の終わりに考える(2018年12月31日中日新聞)

2018-12-31 08:48:56 | 桜ヶ丘9条の会
じわじわじわじわ 年の終わりに考える 

2018/12/31 中日新聞
 「今年の漢字」は「災」でした。自然災害に、トランプ台風まで含めれば、世界も納得の一字かも。でも、ここでは「漸」を挙げてみたいのです。

 クリスマスまで一週間、ジングルベルに街が浮足立ったころでした。新たな防衛力整備の指針、いわゆる「防衛大綱」が閣議決定されたのは。いろいろ重いニュースも多かった一年も最終盤になって、またまた嘆息を禁じ得なかったのは、その中身です。

 ヘリ搭載型護衛艦の事実上の空母化、敵基地攻撃能力とみなされかねない長距離巡航ミサイルの配備などが盛り込まれました。改修した護衛艦には最新鋭ステルス機の搭載が想定されています。

戦争に近づく


 政府は、艦船には「戦闘機は常時搭載しない」から空母ではないといい、長距離巡航ミサイルもあくまで防衛のためだといいます。しかし、いずれも使い方によっては簡単に「攻撃型」に転じ得る。長く守ってきたわが国の原則、「専守防衛」が骨抜きにされていく印象が否めません。

 安倍政権は「専守防衛は逸脱しない。心配ない」と言いつつ、この国をまた少し、じわっと戦争に近づけたのではないか、と感じました。そして、思い起こせば、第二次安倍政権になってから、この「じわっ」が続いています。

 きなくさい情報が隠されてしまう面がある特定秘密保護法で、じわっ。過去の政権が「保持しているが行使できない」としてきた「集団的自衛権」を、閣議決定で「行使容認」し、じわっ。同盟国の戦争に加われるようにした安保関連法で、じわっ。反戦運動など市民の自由な行動を縛りかねない「共謀罪」法で、じわっ。そして、空母化や長距離巡航ミサイルで、また…。

 そのつど、「平和主義は堅持する。心配ない」と政権は言いながら、その実、原則を次々に変質させ、日本はじわじわじわじわと戦争へ近づいている-。そんな気がしてなりません。だから、「漸」の字が思い浮かんだのです。

 安倍晋三首相が念願とする九条に自衛隊を明記する改憲は、そのとりあえずの仕上げでしょうか。

 もし、政権が「平和主義も専守防衛の看板も下ろし、憲法九条を変え、戦争用の法整備もし、敵基地攻撃可能な軍備を強化して、いつでも戦争をできる国にします」と言ったら、どうでしょう。個々のことは「政権が『心配ない』と言うのだから」と許容した人も、考えを変えるかもしれません。

 いっぺんに大胆にことを進めるのではなく、漸進。まるで、歩哨の目を恐れる兵士の匍匐(ほふく)前進みたいに、じわじわ少しずつ…。

温暖化も人口減も


 この「じわじわ」というのは、本当に曲者(くせもの)です。

 話が桂馬筋に進むようですが、例えば地球温暖化。今月、温暖化防止の国際ルール・パリ協定の締約国会議で協定実施の指針が決まりましたが、世界が一枚岩で切迫感をもってこの問題に取り組む体制になったとは、言い難い。

 もし、いっぺんに五度も十度も平均気温が上がれば、さすがに「温暖化はでっち上げ」などという妄言も消えうせましょう。しかし、温暖化もじわじわ少しずつ進む。無論、まだそれで助かっているわけですが、ゆえに、真の脅威と実感しにくい面があるのは確かでしょう。

 わが国の人口減にも同じことが言える気がします。今から五十年足らず後、二〇六五年には現在より四千万人も減って八千万人台になると、ほかならぬ国が推計しているのに、まだ、政治は成長主義一辺倒。成長の限界の先、今より小ぶりな国として、それでも堂々、豊かに生き抜いていける道を模索する気概をほとんど感じません。人口も漸減、一挙にではなく、じわじわ少しずつ減っていくからでしょう。

 そういえば、私たちには、最悪のことはわが身には起こらないと考え、好ましくない兆候を過小評価する心の傾き、いわゆる「正常性バイアス」があるそうです。また、問題の当事者が多いほど、自分でなくても誰かがやるだろうと高をくくって行動しない、いわゆる「傍観者効果」も働くと、心理学は言います。

 どちらも「じわじわ」の眩惑(げんわく)力を助長しかねず、心しておきたいところです。

ゆで上げられないよう


 よく言われるたとえで恐縮ですが、カエルの話を思い出します。

 熱い湯にカエルを入れたら、すぐに飛び出すが、水に入れてじわじわ温度を上げていくと、そのままゆで上がってしまう-。

 来る年には、うれしい出来事も多く待っておりましょう。ただ、よくない方にじわじわ進むこともあるはず。“温度変化”に敏感でいたいものです。

昭和と格闘した日々 平成と経済(2018年12月30日中日新聞)

2018-12-30 08:34:56 | 桜ヶ丘9条の会
昭和と格闘した日々 平成と経済 

2018/12/30 中日新聞
 平成はバブル経済と共に幕が開きました。虚構の繁栄は間もなく崩壊し模索の時代が始まりました。平成経済は昭和を残したまま終わろうとしています。

 「日本人はバイタリティー(活力)がある。だから大丈夫だ」

 平成が始まった一九八九年暮れに日銀総裁となった三重野康氏(故人)から、取材中に何度も聞いた言葉です。

 当時、低金利が原因で金が野放図に駆けめぐり、株価や地価が異常に高騰。一部の人々は投資に酔いしれていました。

バブル退治の鬼平

 いびつな時代に終止符を打ったのが三重野氏です。バブル退治を掲げ、国が嫌がる金利引き上げを何度も断行しました。「平成の鬼平」と呼ばれました。

 この利上げが効き過ぎ、デフレを引き起こしたとの指摘があります。しかしバブルを退治しなかったら、日本は闇資金がうごめく破綻国家になっていたのではないか。三重野氏はやはり正しい選択をしたのでしょう。

 戦後復興の活力があれば、バブル最大の負の遺産、不良債権を片付け景気は上昇軌道に戻る。三重野氏は、こう確信していたのではないか。

 だが、政府・日銀は、公共投資による景気刺激と、金融緩和による円安で輸出企業を支援する従来の経済政策を繰り返す。古い産業を捨て新たなビジネスを生み出すには、バブルの傷は深すぎたのです。

広がる将来への不安

 不安に拍車をかけたのは少子高齢化です。この問題は平成初期にすでに指摘されていました。少ない働き手が高齢層の年金を負担する近未来図が、逆三角形型のグラフを用いて説明されていました。

 平成六(一九九四)年二月、細川護熙内閣が国民福祉税構想を打ち出す。消費税を廃止し、新たな税収は年金の原資を念頭に福祉に使うという計画でした。

 細川首相が旧官邸で未明に行った記者会見に出ました。首相が新税について「腰だめではありますが…」と言った直後、質問が噴出。首相は説明不足を露呈し、数日後には構想自体を撤回せざるを得なかった。

 平成は消費税という大型付加価値税と向き合った時代でした。国民は、年金の財源として消費税率を上げざるを得ない現状を認識しています。ただアップした税収が本当に年金に使われるのか疑念を持ち続けています。

 消費税をやめて使い道を年金の原資と限定した税が創設されていたら、今どうなっていたのか。好機を逸してしまったという思いはぬぐえません。

 米国の著名な経済専門家であるグレン・ハバードとティム・ケイン両氏は共著「なぜ大国は衰退するのか」(日本経済新聞出版社)で日本経済について、「起業家精神や革新を重視し、個人の失敗にきわめて寛容で、資本市場が小規模なベンチャー企業にも開かれている制度を、まったく新しい形で創造しなければならない」と指摘する。

 しかし起業家を過度に警戒し、個人の失敗に不寛容で、資本市場では依然大企業が幅を利かせているのが現状ではないか。

 平成の三十年はすでに色あせてしまった昭和の成長モデルと格闘し、結局、そのかなりの部分を残存させました。

 この間、世界各国ではグローバル経済が広がりました。その象徴的な存在が巨大な金融資本とIT企業です。

 この二大勢力は国境を無効化しつつあります。多くは巧妙に巨額の節税をします。納税者はこうした資本家たちに怒っています。

 米国のトランプ政権の誕生や英国の欧州連合(EU)離脱、フランスのマクロン政権への反発は、グローバル化による分断が背景にあります。日本でも格差による分断は進行しています。ただ大きな社会不安には至っていない。

 それは戦後経済が生み出した果実が、金融資産や社会基盤という形で残っているからです。日本経済には、まだ少し余力があるといえます。

民を救う日々は続く

 経済という言葉は経世済民を略したとされます。「世を治めて民を救う」との意味です。世界では「救われていない」と感じた人々が、国家や資本家に憤り、無力感さえ漂っています。

 国内でも同様です。少子化に伴う働き手不足、ブラック企業の広がり、増える非正規労働…。足元の課題に加え、人工知能(AI)の発達による職場激変の波も押し寄せるでしょう。

 新しい時代、まずは経世済民の言葉に恥じない「温かな資本主義」というべき、包摂型の経済運営の広がりを主張していかねばなりません。


特ダネ記者、古巣に警鐘 N H K森友報道の内幕本(2018年12月29日中日新聞)

2018-12-29 10:27:42 | 桜ヶ丘9条の会
特ダネ記者、古巣に警鐘 NHK森友報道の内幕本 

2018/12/29 朝刊

 森友学園問題でスクープを連発した元NHK大阪放送局記者の相沢冬樹さん(56)が書いた「安倍官邸VS.NHK」(文芸春秋)=写真=が発売された。政権に不都合な特ダネを抑えようとする上層部とのせめぎ合いを描くノンフィクション。記者職を外されたとして、現在は大阪の地方紙「大阪日日新聞」に転職。「本当に視聴者の方を向いた報道ができていますか?」と三十一年間在籍した古巣に問い掛ける。

 「森友問題では、かつてないような局内の圧力にさらされた」

 そう話す相沢さんが指摘するのが、二〇一七年七月二十六日、司法担当キャップとして書いた特ダネへの反応だ。財務省近畿財務局が森友学園に国有地を格安で売却する際、学園が支払える上限額を事前に聞き出していたという内容。夜の「ニュース7」で報じると、「私は聞いてない。なぜ出したんだ!」と大阪放送局の報道部長の携帯電話に何度も電話がかかった。

 電話の主は全国の報道部門トップにいる報道局長で、怒号がその場にいた相沢さんたちにも漏れ聞こえた。局長は政治部畑を歩み、官邸とも太いパイプがあるとされる。報道内容に細かく指示を出し、現場は萎縮していたという。

 「電話を受けた部長は『あなたの将来はないと思え、と言われちゃいました』と苦笑いした。取材した私にも、いずれ人事で跳ね返るとピンときた」。翌朝の続報は書き直され、「おはよう日本」での放映時間も目立たない後ろの時間帯に移った。

 今年三月、朝日新聞が「財務省が公文書書き換え」と報じた後も「圧力」があった。看板番組の一つ「クローズアップ現代+」で取り上げることになり、相沢さんは「問題発覚直後、財務省側が『トラック何千台もごみを搬出したことにしてほしい』と学園側に電話をかけていた」という特ダネを打つ。役所がうその「口裏合わせ」を求めていたという内容だ。

 ところが、午後七時と九時のニュースでは報じられたものの、「クロ現」での放送は見送られた。放送当日の四月四日、東京の社会部デスクが電話でこう話したという。「野党議員が『今日、NHKが森友の特ダネを出すから見ろ』と言い回っている。報道局長に伝わり『情報が漏れた』と激怒している」

 相沢さんは「なんで出さないんですか!」と抗議したが、覆らなかった。このニュースはNHK内での賞も受けたが、六月の異動で記者職を外され、番組の評価などをする考査部へ。八月末にNHKを退職した。

 「私たちの取材費は国民の受信料から出ている。だからこそ公共放送として高水準の報道が求められる。これまでNHKの政治報道は、国会に人事と金を握られる放送法の仕組みの中で、偏らないよう折り合いを付けてきた」

 ところが、それが最近変わったとみる。「クロ現」のキャスターが変更されたころから「政権べったり」と言われるようになった。自民党総裁選直前の九月の北海道地震では、死者数などを「首相発表」と強調するニュースが繰り返され、安倍晋三首相のPRのようだと批判された。

 NHK広報局は「報道機関としての自律的な編集判断に基づいて放送しており、報道局長の意向で報道内容を恣意(しい)的に歪(ゆが)めた事実はありません」としている。

 相沢さんは「メディアに忖度(そんたく)と自己保身がはびこっていないか」と疑問視。「森友問題はまだ終わっていない」と、今後もライフワークとして発信していくつもりだ。

 (安藤恭子)

9条俳句掲載 表現はまだ梅雨空の中(2018年12月28日中日新聞)

2018-12-28 09:18:31 | 桜ヶ丘9条の会
9条俳句掲載 表現はまだ梅雨空の中 

2018/12/28 中日新聞
 憲法九条を詠んだ俳句が公民館の月報に掲載されない-。この問題は司法判断を経て、やっと掲載になる。単なる市側の事なかれ主義だったのか。今も表現の自由は曇りの中にあるのではないか。

 <梅雨空に「九条守れ」の女性デモ>-。既にこんな俳句が世間で問題視される世の中になっていた。さいたま市の女性が二〇一四年に詠み、句会で優秀と認められた。慣例で月報「公民館だより」に掲載されるはずだった。

 ところが、公民館側は拒否。理由は「世論を二分する内容で、掲載は公民館の公平性、中立性を害する」だった。女性は裁判に持ち込み、東京高裁は「思想、信条を理由に不公正な取り扱いをし、女性の利益を侵害した」と市側に賠償を命じた。最高裁でも今月、慰謝料は減額されたが確定した。

 一四年とは政府が集団的自衛権の行使容認を閣議決定した年である。憲法学者から「違憲の疑い」が指摘された。誰もが危機を感じ、声を上げてよかった。その一人が俳人の故金子兜太氏だった。

 九条俳句問題は、金子氏らが選者となって、本紙の読者投稿「平和の俳句」(一五~一七年)が始まるきっかけになった。三年間に十三万句以上も寄せられた。

 戦時中を知る金子氏は真っ先に「新興俳句弾圧事件」を思い出したという。例えば渡辺白泉の句が治安維持法違反になった。

 <戦争が廊下の奥に立つてゐ(い)た>

 この句と比べてみてほしい。九条俳句が排斥されるならば、現代もまるで暗黒時代と同様になってしまう。表現の自由が憲法で保障されているはずが、役所の「公平性、中立性」の言葉で踏みつぶされるのだから…。

 しかし、政治的中立性に幻惑され排除されるのは、九条俳句ばかりではない。護憲集会で公的な会場を貸さなかったり、行政主催の講演会で、護憲派ゲストを取り消したり…。不合理な動きだ。

 反原発や政権批判、米軍基地問題でもしかり。行政があまりに政治問題に神経質になっている。モデルのローラさんが沖縄の辺野古埋め立て反対の署名を呼び掛ける投稿をしただけで物議をかもす。なぜなのか。

 自由社会でありえない横暴さがまかり通っている。公権力は政権の意向を忖度(そんたく)しているのか。それこそが問題なのに…。「戦争が廊下の奥に立っている」時代にも等しい空気が何とも息苦しい。
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101兆円予算案 納税者は裏切られた(2018年12月26日中日新聞)

2018-12-27 11:43:45 | 桜ヶ丘9条の会
101兆円予算案 納税者は裏切られた 

2018/12/26 中日新聞
 来年度の一般会計当初予算案は初めて百兆円を突破し、「消費税増税対策」に名を借りた膨張型となった。増税してバラまくという財政規律のなさである。これでは納税者の理解は到底得られまい。

 政府は景気の拡大期間が来年一月に戦後最長を超えると喧伝(けんでん)する。来年度の税収もバブル末期以来、二十九年ぶりに過去最大の約六二・五兆円と見込んでいる。

 景気は回復基調で、税収増を生かして財政再建に取り組む好機であった。だが、この政権は統一地方選や参院選を控え、公共事業の積み増しや防衛費増大など大盤振る舞いの予算を組んだ。

 この矛盾した横暴は、消費税増税を求められる国民の思いとは明らかに違うものだ。

 世論調査でも消費税増税対策の「ポイント還元」に対し、反対が賛成を上回る。安倍晋三首相の鶴の一声で決まったという5%ポイント還元は、中小小売店で軽減税率の対象をキャッシュレスで支払った場合、消費税は3%。今よりも大幅減税になる。

 2%還元となるコンビニもあり、この結果、3、5、6、8、10%と五種類もの消費税率が混在する可能性がある。

 さらに二〇二〇年の東京五輪までという期限が終われば、これまで例がない5%もの引き上げ幅となる。またぞろ期限の延長などの対策に迫られるのではないか。

 消費税増税による経済への影響は二兆円程度と見込むのに、その影響を乗り切るために二・三兆円もの巨額の対策を取る。

 野放図な歳出は並ぶ。公共事業費は前年度比15・6%伸び、リーマン・ショック前に近い七兆円規模の高水準だ。防衛関係費も五・三兆円超と五年連続で過去最大を更新する。米国から高額の防衛装備品を大量購入するためだ。

 予算規模こそ「大きな政府」だが、福祉に手厚いわけではない。消費税の軽減税率の財源確保のために社会保障費を削るという本末転倒のようなことが行われ、生活保護の引き下げも継続。格差や貧困が深刻化する中、帳尻合わせに福祉を後退させるのである。

 二五年には団塊世代がすべて七十五歳以上となり、医療や介護の費用が急増しかねない二〇二五年問題が控える。

 今回、消費税率を引き上げても国債残高は膨らむ。そんな財政運営では増税の先行きが見通せない。消費税収はすべて社会保障に充てるといった社会保障と税の一体改革の原点に立ち戻るべきだ。