旧統一教会、名称変更の謎 前川元文科次官が証言 (2022年728日 中日新聞)

2022-07-28 10:14:02 | 桜ヶ丘9条の会

旧統一教会、名称変更の謎 前川元文科次官が証言

2022年7月28日 中日新聞
 安倍晋三元首相銃撃事件にからみ、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と政治の関連が問題化する中、そもそもなぜ「旧」統一教会となったのか、をめぐる疑問が浮上した。旧統一教会側は1997年に名称変更を当時の文部省(現文部科学省)文化庁に相談したものの、同庁は水際で拒否。以降、名称変更は認められてこなかったが、2015年の下村博文文科相時代に突如、変更が認められた。いったい何があったのか。 (宮畑譲、中山岳)
 九七年、旧統一教会が求めた名称の変更を断ったのが、当時、文化庁で宗務課長を務めていた元文科次官の前川喜平氏だ。その前川氏が二十五日、本紙の取材に応じた。
 「いくつも訴訟を起こされ、社会的に問題がある宗教法人。そして、その実態は変わっていなかった。『申請されても認められない。申請しないでください』と伝えて断った」。前川氏が振り返る。名称を変更するには、社団法人などの定款に当たる規則を変えなければならない。申請があり、問題がなければ、文化庁が認める形を取る。
 この申請拒否が前例になり、そのまま十八年が過ぎた二〇一五年に突如、旧統一教会の名称変更が持ち上がった。文科審議官に就いていた前川氏は、文化庁の宗務課長が報告に来たことを覚えている。規則の変更は文化部長が決裁する。しかし、これまでの判断を覆して名称変更を認めるとは尋常ではない。
 前川氏によれば、日本の官僚は「官僚は間違ったことをしない」との前提に立つ。従って前例踏襲となる。それを覆すには強い動機が必要となる。
 「それまで何年も続いてきたことが変わる。これは役所にとっては大変に大きな出来事。それに教団は多くの問題があった。名称変更は官僚の『慣性の法則』から言えば、官僚の側から出てくる理由はない。政治の強い意図が働いているのがわかったが、駄目だと言っても無理だろうと、抵抗できなかった」
 この文化庁の対応に疑問を突きつけたのが当時、民主党の参院議員だった有田芳生氏だ。有田氏の質問に対し、文化庁は「本件(名称変更)については大臣に事前に説明いたしました」と回答。教団の過去や現状についても「周辺情報」として伝えていたという。
 前川氏は「これは役人としては大臣に判断を仰いでいることと同義だ。どうでもよいことなら報告しないし、前例を覆すこともしない。少なくとも大臣は名称変更にストップをかけられたはずだ」と考える。
 名称変更があった当時、大臣だったのが下村氏。どんな経緯があったのか。
 既に取材のあった週刊誌への回答として、下村氏は十三日、ツイッターに「文化庁によれば『通常、名称変更については、書類が揃(そろ)い、内容の確認が出来れば、事務的に承認を出す仕組みであり、大臣に伺いを立てることはしていない』」とする文書を載せた。
 しかし、あらためて本紙が事務所に問い合わせると、「事務方から事前に説明があったことは二十一日に会見して説明した。名称変更について指示をした事実はなく、したがって本件に『全く関わっていない』のは事実です」との回答があった。
 前川氏は「まさに『通常、大臣に伺いを立てることはしない』が、官僚は報告した。それは政治的な圧力があった証拠。語るに落ちる。それに、報告を受けた上司が『全く関わっていない』と言える組織はどこにもない」と批判する。

13年ごろから自民文教族に接近 昔の名前隠し、被害拡大か

 こうなると、なぜ事前に下村氏に説明したのか、当時の下村氏の反応はどうだったかが問題となる。本紙は文化庁宗務課に尋ねたが、「当時の担当者がいないため分からない」と述べるに留(とど)まった。
 下村氏は一三〜一四年、旧統一教会系の日刊紙「世界日報」や、同紙の月刊誌「ビューポイント」にインタビュー記事などが複数、掲載された。また、発行元の世界日報社は一六年三月、下村氏が代表を務める「自民党東京都第十一選挙区支部」に六万円を寄付していた。こうした関係性も、名称変更の不可解さを増幅させている。
 それにしても、なぜ旧統一教会は十九年越しでも名称変更にこだわったのか。
 旧統一教会の動きに詳しいジャーナリストの鈴木エイト氏は「霊感商法で悪名高くなった統一教会の名称を変えることで、勧誘や伝道活動をしやすくなるからだ」とみる。
 鈴木氏によれば、旧統一教会は前川氏の「拒否」以降も、たびたび名称変更を文化庁に打診していたという。「当時は霊感商法などの問題から、文化庁は申請自体をさせないようにしていた。必要書類をそろえた申請書を受け取ると、認証せざるをえないからだ。そのため統一教会は一三年ごろから自民党の文教族ら政治家へ接近するようになった」と話す。
 政治家との結び付きの強さをうかがわせたのは、名称変更が認められた約二カ月後の一五年十月。旧統一教会が幕張メッセ(千葉市)で開いた「世界平和統一家庭連合出帆記念大会」だった。鈴木氏によると、国会議員たちから六十通以上の祝電が届き、与野党の衆院議員らも祝辞を述べた。
 文化庁は名称変更後一年間、世界平和統一家庭連合に「統一教会」の旧名も併記することを課したとされる。ただ、鈴木氏は被害拡大を抑えたとは言い難いとし「つぼや印鑑などを高額で売り付ける手法は一〇年以降はほぼなくなったものの、家系図作成の受講料として数十万円を要求することや、多額の献金集めは継続していた。名称変更の一年後には、街頭で勧誘活動をする信者たちが『もう統一教会と言わなくていい』と喜んでいた」と語る。
 全国霊感商法対策弁護士連絡会は文化庁に名称変更を認めないよう再三、求めていた。山口広代表世話人は、名称変更後、文化庁宗務課の担当者が「書類がそろっていたら受理せざるを得ない。それ以上の説明はできない」などと言っていたのを覚えている。「名称変更後に、統一教会とは知らずに深みにはまった被害者もいる」と問題視する。
 旧統一教会は、どう考えているのか。
 ユーチューブ上の公式チャンネルによれば、九七年四月八日に団体としては名称変更をしていたという。世界平和統一家庭連合日本本部(東京)広報部は、韓国の教団本部が個人の救済を目指す宗教活動から理想家庭の実現へと活動の軸足を移すため、世界各地の団体を名称変更すると発表したと説明。広報担当者は「信者に丁寧に説明して違和感なく理解してもらい、(法人名の変更で)国の許可を得たのが二〇一五年になった。下村氏に働きかけたことはない」と述べる。
 ただ、前出の有田氏は、名称変更の影響について「旧統一教会が霊感商法で巨額の資金集めをしていたのは日本だけだった。平和、家庭といった文言を使った名称に変わり、こうした問題点も消えてしまいがちになった」と指摘。山口氏も「名称変更によって被害の拡大につながったと言える。政治力が影響したのなら問題だ。今からでも経緯を検証すべきだ」と求める。
 
 

 


安倍氏の対韓姿勢を検証する 「歴史戦」「統一教会」、相反する姿勢 (2022年7月23日 中日新聞)

2022-07-26 22:41:06 | 桜ヶ丘9条の会

安倍氏の対韓姿勢を検証する 「歴史戦」「統一教会」、相反する姿勢

2022年7月23日 
 安倍晋三元首相の銃撃事件から2週間。急死を悼む声が今も上がる一方、同氏の足跡の検証を忘れてはならない。特に注目すべきは、対韓姿勢だ。韓国を突き放す態度を長らく取ったが、あの事件後には、韓国を拠点にしてきた旧統一教会との関係がクローズアップされた。浮かび上がったのは、「対立と近接」という矛盾を想起させる状況だ。これをどう受け止めたらいいのか。引き継ぐに値するのか。(山田祐一郎、北川成史)

靖国・慰安婦問題で反発買う言動 排外主義助長

 十九日、首相官邸。安倍氏の死去を受けて来日した韓国の朴振(パクチン)外相は岸田文雄首相と会談した際、弔意を伝えた上でこう述べた。「関係改善に取り組みたい」
 両国の関係は長く冷え込んできた。根底にあるのは、安倍氏の対韓姿勢だ。
 第一次安倍政権は二〇〇七年、従軍慰安婦問題を巡り「強制性を裏付けるものはなかった」とする答弁書を閣議決定した。旧日本軍の関与と強制性を認めて謝罪した「河野洋平官房長官談話」と距離を置き、一二年に再び首相に就くと談話の見直しに意欲を示した。そして一三年末には、A級戦犯が合祀(ごうし)されている靖国神社への参拝を強行した。
 韓国側の反発を買う言動を繰り返した安倍氏について、大阪公立大の明戸隆浩准教授(多文化社会論)は「首相になる前から、従軍慰安婦問題を取り上げたNHKの番組への介入が取り沙汰されるなど、日本の戦争責任について一貫して修正する立場を示してきた」と指摘する。「戦争を知らない世代ゆえ、いまの日本に誇りを持ちたいという気持ちが過去を美化する願望につながった」
 加害責任を巡る見解の隔たりから、日韓関係はこじれにこじれた。
 一五年には慰安婦問題に関する日韓合意を交わしたが、元慰安婦への「おわびの手紙」を求める韓国側に対し、安倍氏は「毛頭考えていない」と突き放した。
 韓国では一八年、戦時中の強制労働を巡る韓国人元徴用工訴訟で日本企業への賠償命令が確定したものの、同氏は「国際法に照らしあり得ない」と痛烈に批判。それにとどまらず、輸出規制の強化に踏み切った。
 対決姿勢は二〇年の首相退任後も続いた。「佐渡島(さど)の金山」の世界文化遺産登録を巡っては、韓国側から朝鮮半島出身者の強制労働が問題視されたが、安倍氏らの猛プッシュで岸田政権が推薦するに至った。
 両国間の関係悪化は数字にも顕著に表れた。
 一九年、韓国からの訪日客数は前年から25%余り減少。日韓の団体が継続的に行う世論調査では、二〇年に韓国の対日感情が急激に悪化。安倍氏に悪い印象を持つ韓国人は九割に上った。明戸さんは「当時、左派の文在寅(ムンジェイン)政権と右派の安倍政権が対比される構図が強調された」と解説する。
 見過ごせない問題は他にもある。安倍氏の首相在任中、韓国へのヘイトスピーチが横行するなど、排外主義が広まった。
 ノンフィクションライターの安田浩一さんは、歴史認識について安倍氏が使ってきた「歴史戦」という言葉に注目する。
 「歴史を戦いの道具としたことで、近隣国との過去を冷静に見ることを妨げた。その結果、ヘイトスピーチにはまり込む面々も過去を直視せず、憎悪の言葉を繰り返した」
 排外的な保守層は安倍氏の支持層に重なるといい、相互依存の関係を指摘する。「安倍氏は社会にナショナリズムの熱を与え、保守層は攻撃の矛先をマイノリティーに向けた。これは安倍氏の負の遺産だった」

旧統一教会系と接近 政治のタブー明るみに

 安倍氏には不可解なところもあった。韓国との対決姿勢が目立った半面、韓国と関わりが深い団体とつながりがあったからだ。昨年九月、安倍氏は「天宙平和連合(UPF)」の集会にビデオメッセージを送った。UPFは、韓国を拠点にしてきた旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の友好団体で、開祖の文鮮明(ムンソンミョン)氏(故人)と教団の現トップで妻の韓鶴子(ハンハクチャ)氏が設けたとされる。
 メッセージで安倍氏は「UPFが家庭の価値を強調する点を高く評価します」と表明。旧統一教会の保守的な家庭観との距離の近さを示した。
 ただし、釈然としない点も出てきている。「韓国の乙女を従軍慰安婦として蹂躙(じゅうりん)した日本人は、韓国の物乞いと結婚しても感謝すべきだという教えがある」。旧統一教会の元信者で、合同結婚式にも参加した日本人女性は今月十二日、記者会見で明かした。こうした教えに安倍氏が賛同したのだろうか。
 一方で十九日には、旧統一教会の郭錠煥(クァクジョンファン)元会長がソウルで会見し「文氏は(安倍氏の祖父の)岸信介元首相と近かった」と述べた。
 米国のソ連(現ロシア)との対決姿勢を背景に、反共産主義の文氏と結び付き、旧統一教会の日本進出や政治団体「国際勝共連合」の設立を後押ししたのが岸氏とされる。反共の名目でつながりが続いたのか。
 安倍氏が亡くなった今、彼の心中はうかがい知れない。それだけに、UPFと接触した背景は理解するのが難しい。
 では、安倍氏の支持層にいた嫌韓のネット右翼は、韓国と関わりがある団体との関係が事件後に表出したのをどう捉えているのか。
 「混乱している」
 ネット右翼に詳しい作家古谷経衡さんは交流サイト(SNS)の書き込みなどからそう語る。
 古谷さんによると、一九九〇年代以前の古い保守層は、反共を軸にした日韓の戦後史に知識がある。一方、二〇〇〇年代以降のネット右翼の世代の多くが「歴史に無知だった」。
 そのため事件後数日間はネット上で「旧統一教会との関係はデマ」との主張が出回った。ところが、情報の広がりとともに傾向が変化。安倍氏の葬儀が寺院を使って行われたことなどを引き合いに「宗教との関係を持つこと自体は悪くない」とすり替えが主流になった。
 ただし、安倍氏の対韓強硬姿勢と団体側との親密さのギャップについては「矛盾が大きいため、だんまり」(古谷さん)という。
 安倍氏とUPFの関係は疑問が消えない。東京造形大の前田朗名誉教授(人権論)は「旧統一教会は社会的に問題が指摘されてきた団体。教義についても『日本を取り戻す』という安倍氏の国家主義的な主張とも差がある。なぜ付き合いがあるのか、安倍氏には説明責任があった」と振り返る。同氏周辺が今後、事実関係を明らかにするように求める。
 元共同通信ソウル特派員でジャーナリストの青木理さんは「今回の事件で日本政治のタブーが明るみに出たのは事実だ」と語り、政治と宗教の関係について検証の必要性があると話す。では、安倍氏の対韓姿勢にはどう向き合うべきか。
 「東アジアで韓国は人権や民主主義という共通の価値観を持つ唯一の国。対北朝鮮を含め、日韓がいがみ合っていいことはない」
 安倍政権時代に悪化した日韓関係を念頭に、青木さんは力を込める。「事件を受け『教団側が拠点にしてきた韓国を許さない』となるのは愚か。韓国の新政権は友好のシグナルを送ってきている。冷静に日韓関係の改善に努力を積み重ねるべきだ」
 
 

 


安倍氏の対韓姿勢を検証する 「歴史戦」「統一教会」、相反する姿勢 (2022年7月23日 中日新聞)

2022-07-23 10:36:14 | 桜ヶ丘9条の会

安倍氏の対韓姿勢を検証する 「歴史戦」「統一教会」、相反する姿勢

2022年7月23日 
 安倍晋三元首相の銃撃事件から2週間。急死を悼む声が今も上がる一方、同氏の足跡の検証を忘れてはならない。特に注目すべきは、対韓姿勢だ。韓国を突き放す態度を長らく取ったが、あの事件後には、韓国を拠点にしてきた旧統一教会との関係がクローズアップされた。浮かび上がったのは、「対立と近接」という矛盾を想起させる状況だ。これをどう受け止めたらいいのか。引き継ぐに値するのか。(山田祐一郎、北川成史)

靖国・慰安婦問題で反発買う言動 排外主義助長

 十九日、首相官邸。安倍氏の死去を受けて来日した韓国の朴振(パクチン)外相は岸田文雄首相と会談した際、弔意を伝えた上でこう述べた。「関係改善に取り組みたい」
 両国の関係は長く冷え込んできた。根底にあるのは、安倍氏の対韓姿勢だ。
 第一次安倍政権は二〇〇七年、従軍慰安婦問題を巡り「強制性を裏付けるものはなかった」とする答弁書を閣議決定した。旧日本軍の関与と強制性を認めて謝罪した「河野洋平官房長官談話」と距離を置き、一二年に再び首相に就くと談話の見直しに意欲を示した。そして一三年末には、A級戦犯が合祀(ごうし)されている靖国神社への参拝を強行した。
 韓国側の反発を買う言動を繰り返した安倍氏について、大阪公立大の明戸隆浩准教授(多文化社会論)は「首相になる前から、従軍慰安婦問題を取り上げたNHKの番組への介入が取り沙汰されるなど、日本の戦争責任について一貫して修正する立場を示してきた」と指摘する。「戦争を知らない世代ゆえ、いまの日本に誇りを持ちたいという気持ちが過去を美化する願望につながった」
 加害責任を巡る見解の隔たりから、日韓関係はこじれにこじれた。
 一五年には慰安婦問題に関する日韓合意を交わしたが、元慰安婦への「おわびの手紙」を求める韓国側に対し、安倍氏は「毛頭考えていない」と突き放した。
 韓国では一八年、戦時中の強制労働を巡る韓国人元徴用工訴訟で日本企業への賠償命令が確定したものの、同氏は「国際法に照らしあり得ない」と痛烈に批判。それにとどまらず、輸出規制の強化に踏み切った。
 対決姿勢は二〇年の首相退任後も続いた。「佐渡島(さど)の金山」の世界文化遺産登録を巡っては、韓国側から朝鮮半島出身者の強制労働が問題視されたが、安倍氏らの猛プッシュで岸田政権が推薦するに至った。
 両国間の関係悪化は数字にも顕著に表れた。
 一九年、韓国からの訪日客数は前年から25%余り減少。日韓の団体が継続的に行う世論調査では、二〇年に韓国の対日感情が急激に悪化。安倍氏に悪い印象を持つ韓国人は九割に上った。明戸さんは「当時、左派の文在寅(ムンジェイン)政権と右派の安倍政権が対比される構図が強調された」と解説する。
 見過ごせない問題は他にもある。安倍氏の首相在任中、韓国へのヘイトスピーチが横行するなど、排外主義が広まった。
 ノンフィクションライターの安田浩一さんは、歴史認識について安倍氏が使ってきた「歴史戦」という言葉に注目する。
 「歴史を戦いの道具としたことで、近隣国との過去を冷静に見ることを妨げた。その結果、ヘイトスピーチにはまり込む面々も過去を直視せず、憎悪の言葉を繰り返した」
 排外的な保守層は安倍氏の支持層に重なるといい、相互依存の関係を指摘する。「安倍氏は社会にナショナリズムの熱を与え、保守層は攻撃の矛先をマイノリティーに向けた。これは安倍氏の負の遺産だった」

旧統一教会系と接近 政治のタブー明るみに

 安倍氏には不可解なところもあった。韓国との対決姿勢が目立った半面、韓国と関わりが深い団体とつながりがあったからだ。昨年九月、安倍氏は「天宙平和連合(UPF)」の集会にビデオメッセージを送った。UPFは、韓国を拠点にしてきた旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の友好団体で、開祖の文鮮明(ムンソンミョン)氏(故人)と教団の現トップで妻の韓鶴子(ハンハクチャ)氏が設けたとされる。
 メッセージで安倍氏は「UPFが家庭の価値を強調する点を高く評価します」と表明。旧統一教会の保守的な家庭観との距離の近さを示した。
 ただし、釈然としない点も出てきている。「韓国の乙女を従軍慰安婦として蹂躙(じゅうりん)した日本人は、韓国の物乞いと結婚しても感謝すべきだという教えがある」。旧統一教会の元信者で、合同結婚式にも参加した日本人女性は今月十二日、記者会見で明かした。こうした教えに安倍氏が賛同したのだろうか。
 一方で十九日には、旧統一教会の郭錠煥(クァクジョンファン)元会長がソウルで会見し「文氏は(安倍氏の祖父の)岸信介元首相と近かった」と述べた。
 米国のソ連(現ロシア)との対決姿勢を背景に、反共産主義の文氏と結び付き、旧統一教会の日本進出や政治団体「国際勝共連合」の設立を後押ししたのが岸氏とされる。反共の名目でつながりが続いたのか。
 安倍氏が亡くなった今、彼の心中はうかがい知れない。それだけに、UPFと接触した背景は理解するのが難しい。
 では、安倍氏の支持層にいた嫌韓のネット右翼は、韓国と関わりがある団体との関係が事件後に表出したのをどう捉えているのか。
 「混乱している」
 ネット右翼に詳しい作家古谷経衡さんは交流サイト(SNS)の書き込みなどからそう語る。
 古谷さんによると、一九九〇年代以前の古い保守層は、反共を軸にした日韓の戦後史に知識がある。一方、二〇〇〇年代以降のネット右翼の世代の多くが「歴史に無知だった」。
 そのため事件後数日間はネット上で「旧統一教会との関係はデマ」との主張が出回った。ところが、情報の広がりとともに傾向が変化。安倍氏の葬儀が寺院を使って行われたことなどを引き合いに「宗教との関係を持つこと自体は悪くない」とすり替えが主流になった。
 ただし、安倍氏の対韓強硬姿勢と団体側との親密さのギャップについては「矛盾が大きいため、だんまり」(古谷さん)という。
 安倍氏とUPFの関係は疑問が消えない。東京造形大の前田朗名誉教授(人権論)は「旧統一教会は社会的に問題が指摘されてきた団体。教義についても『日本を取り戻す』という安倍氏の国家主義的な主張とも差がある。なぜ付き合いがあるのか、安倍氏には説明責任があった」と振り返る。同氏周辺が今後、事実関係を明らかにするように求める。
 元共同通信ソウル特派員でジャーナリストの青木理さんは「今回の事件で日本政治のタブーが明るみに出たのは事実だ」と語り、政治と宗教の関係について検証の必要性があると話す。では、安倍氏の対韓姿勢にはどう向き合うべきか。
 「東アジアで韓国は人権や民主主義という共通の価値観を持つ唯一の国。対北朝鮮を含め、日韓がいがみ合っていいことはない」
 安倍政権時代に悪化した日韓関係を念頭に、青木さんは力を込める。「事件を受け『教団側が拠点にしてきた韓国を許さない』となるのは愚か。韓国の新政権は友好のシグナルを送ってきている。冷静に日韓関係の改善に努力を積み重ねるべきだ」
 
 

 


五輪利権、うごめくカネ 元理事へ資金提供疑惑、ロビー活動巡り国内外で進む捜査 (中日新聞 2022年7月21日)

2022-07-21 22:50:00 | 桜ヶ丘9条の会

五輪利権、うごめくカネ 元理事へ資金提供疑惑、ロビー活動巡り国内外で進む捜査

2022年7月21日 
 東京五輪・パラリンピックの大会スポンサーだった紳士服大手AOKIホールディングス側から、スポーツ界に影響力のある大会組織委員会の高橋治之元理事(78)への多額の資金提供疑惑が浮上した。高橋氏も関与したとされる大会招致のロビー活動を巡ってはフランス当局が捜査。巨額の利権を生む世界的なスポーツイベントの暗部に、国内外の捜査機関が厳しい目を向ける。
 ▽9億円超
 二億一千万円、一億七十八万円、四千七百二十五万円−。共同通信が入手した資料には、東京五輪招致委員会から高橋氏の会社「コモンズ」(東京)に振り込まれた多額の金額がずらりと並ぶ。二〇一三年二月〜一四年五月の総額は九億円超に上る。
 同じ資料には、一三年に招致委と契約を結んだシンガポールのコンサルタント会社「ブラックタイディングス(BT)社」に送金された計二億円余りの記載もある。
 BT社は、開催地選考に影響力のある国際オリンピック委員会(IOC)元委員の息子に多額の金を流し、フランス司法当局は贈収賄事件として招致委理事長だった日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和元会長を聴取。BT社と竹田氏の仲立ちをしたのが電通だった。
 ▽フィクサー
 「彼はフィクサーだ」。ある関係者は、電通社員としてスポーツ事業を担当し、専務にまで上り詰めた高橋氏をこう評する。別の関係者も「国際スポーツビジネスの経験で培った独自の人脈と情報で、辣腕(らつわん)を振るった」と証言。竹田氏とは同じ慶応大出身でじっこんとされ、招致活動に深く関わった。
 高橋氏は共同通信などが参加する国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)の取材に、招致活動の中で「一万数千円のデジタルカメラや数万円の時計を手土産にばらまいたりはした」と明かす一方で、IOCの倫理規定の範囲内か、それを大きく超えず問題はないと主張。今回もAOKIからの金銭受領の事実は認めた上で不正はないとする。
 ▽情報公開を
 「シリーズ累計三万着突破!」。メダルラッシュが続く昨年夏の東京五輪の期間中、AOKIが出したプレスリリースは五輪仕様のスーツの販売好調をアピールした。
 AOKI側はコモンズとコンサル契約を結んだ約一年後の一八年十月、東京大会の「オフィシャルサポーター」になったと発表した。別のスポンサー契約を結んだ企業関係者は「どの運営関係者が影響力があるか見極めて近づき、関連事業を認めてもらうことが大切」と明かす。
 スポーツ文化評論家の玉木正之さんは「五輪が巨大なグローバルビジネスとなり、その中で多くの人がカネに群がりうごめいている」と指摘。「組織委は税金を使っている。きちんと情報公開し、五輪を本来あるべき姿に戻さなければならない」と強調した。

冷戦時代に逆戻りか NATO新戦略 (2022年7月19日 中日新聞)

2022-07-19 20:10:02 | 桜ヶ丘9条の会

冷戦時代に逆戻りか NATO新戦略 

2022年7月19日 
 米欧の軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)が先月の首脳会議で「戦略概念」を十二年ぶりに改定。ロシアを「最大かつ直接の脅威」と位置付け、対決姿勢を鮮明にした。さながら冷戦時代への逆戻りだ。軍事衝突を招かぬよう自制を求める。
 戦略概念はNATOの行動指針となるもので、加盟国を「民主主義陣営」、中国やウクライナに侵攻したロシアを「権威主義陣営」に分類した上で、ロシアの脅威に対抗するため、東欧の部隊を増強▽現行四万人の即応部隊も三十万人以上に増員▽米国はポーランドに軍司令部を設置し、部隊を常駐させる−としている。
 ロシアの脅威から、フィンランド、スウェーデンが申請した加盟も認め、フィンランドとロシアとの約千三百キロの国境が新たにNATOの最前線に加わった。
 中国については「国際秩序に挑もうとしている」と初めて言及、警戒感を示した。

一時は対ロ共存を模索

 NATOは冷戦時代、旧ソ連率いる東側の軍事同盟、ワルシャワ条約機構と対峙(たいじ)していた。
 冷戦後は、ロシアとの間で武力行使を控えることなどを盛り込んだ基本議定書に合意。ロシアを「戦略的パートナー」と位置付け、協力関係を築いてきた。
 ロシアとの共存を続ける素地は一時あったのだが、NATOの東方拡大に不満を募らせていたロシアは二〇一四年、ウクライナ南部クリミア半島を併合する。
 これを機に、NATOはロシアとの協力関係を凍結し、警戒を強める一方、トランプ前米大統領が「時代遅れ」、マクロン仏大統領が「脳死」と指摘するなど存在意義が問われていた。
 NATOが連帯と自信を取り戻すきっかけとなったのは皮肉にもロシアのウクライナ侵攻だった。ロシアとの対峙こそが存在意義であることを想起させたのだ。
 新戦略はロシアを念頭に「抑止力と防衛力を大幅に強化する」と表明し、ドイツなどは防衛費増額の方針を相次いで表明した。
 しかし、NATOが軍備を増強し、ウクライナ支援を続ければロシアの反発を招き、緊張が高まるのは避けられない。
 今まさに火種となっているのがNATO加盟国のリトアニアとポーランドに囲まれたロシアの飛び地カリーニングラード州だ。
 リトアニアは先月、欧州連合(EU)によるロシア制裁の一環として、金属など制裁対象品を積んだロシア本土と結ぶ列車の自国内通過を禁止した。
 EUの行政機関、欧州委員会は軍用品以外の通過は可能との見解を示し、緊張緩和を図るが、反発するロシアは報復を警告し、軍事衝突も懸念される。
 カリーニングラードはかつてのドイツ領旧称ケーニヒスベルクで永遠平和を追求した哲学者カントが暮らした街だった。
 第二次世界大戦後に旧ソ連が奪取し、バルト三国の独立後はロシア領となり、軍事拠点として、核弾頭搭載可能なミサイル「イスカンデルM」を配備している。
 「平和状態は新たに創出すべきものである」と訴えたカントの夢は、故郷では見る影もない。

軍事以外の解決策こそ

 NATOはウクライナ侵攻への直接介入を避け、武器供与などの支援にとどめている。ウクライナ上空への飛行禁止区域設定を拒否し、警戒飛行も実施しない方針を貫いている。
 今のところ、慎重な対応を心掛けているようだ。
 ただNATO加盟国の衝撃は大きい。特に旧ソ連のバルト諸国や旧ソ連時代に弾圧を受けたポーランドなどの不安は増大している。
 抑止力と万が一に備えた反撃能力の強化は理解できるとしても、軍事力頼りではNATOとロシアとの対立は激化するばかりだ。
 ロシアに対しては、外交や経済制裁などの手法を駆使し、直接の衝突は回避しつつ、ウクライナでの戦争終結を模索すべきだ。
 NATO首脳会議には「民主主義陣営」の仲間として、日本などアジア太平洋地域の四カ国も招かれた。
 中国を念頭に置いた連携強化を確認するのが目的だろう。
 しかし、陣営を色分けして「権威主義国」をことさら排除すれば対立をあおり、分断を進めることにもなりかねない。
 アジアには地域特有の歴史や事情もある。
 民主主義国が連携しつつも、欧州での対立構図をそのまま持ち込むことなく、地域安定の道を探りたい。