気候危機 想定外はありえない (2019年9月30日 中日新聞)

2019-09-30 08:23:40 | 桜ヶ丘9条の会
気候危機 想定外はあり得ない 
2019/9/30 紙面から
 太陽や風雨が世界中で人をあやめる時代、若者たちの未来には暗雲が垂れ込め、国連も「具体的なアクション(行動)」を求めている。もはや気候対策に先送りは許されず、想定外は、あり得ない。
 英紙ガーディアンは、激しさを増す異常気象への危機感を反映し、「地球温暖化」を「地球過熱化」と言い換えることにした。「気候変動」は「気候危機」とした。
 今月初め、カリブ海の島国バハマを襲ったハリケーン「ドリアン」の勢力は、五段階中三番目から最大の「カテゴリー5」へ、わずか二日で急成長を遂げている。米航空宇宙局(NASA)の観測によると、温暖化で米フロリダ沖の海水温が上昇し、「嵐の燃料」になっているという。
 温暖化による台風の異変は、ここ数年、日本でも明らかだ。
 日本近海の海水温も高くなり、上陸寸前に至ってなお、勢力を強める傾向がある。
 温暖化による台風の巨大化に関しては、かねて国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)などが警鐘を鳴らしてきた。
 ところが「災害大国」と言われながらもこの日本では、気候変動に対する危機感が欧州ほどに強くなく、共有も進んでいないのではないか。その象徴が停電だ。台風15号による停電は千葉など七都県九十万戸におよび、懸命な復旧作業にもかかわらず、長引いた。
 今回の被害で、送配電網のもろさが露呈した。強大化する台風への備えが甘かったということだ。
 東電は「台風の大きさを考慮に入れず、想定が過小だった」と釈明した。原発事故を起こした東電に「想定外」はあり得ないはずではなかったか。温暖化の加速による「命にかかわる暑さ」の時代。エアコンは命の綱だ。「気候危機」に対応する送配電網の強靱(きょうじん)化、電源の分散配置は急務だ。
 二十三日、ニューヨークで開かれた「国連気候行動サミット」は、過去二回の「気候変動サミット」とは違い、「行動」の二文字が強調されている。
 サミットを前に、日本を含む世界約百六十カ国の若者が、具体的な気候対策を求めるデモを展開した。政治や企業、大人たちの不作為が、今現に多くの人の命を危うくし、若者たちの未来を脅かしているからだ。怒っているのはスウェーデンの少女だけではない。
 「気候対策をサボるのは、学校をサボるより悪い」。若い世代の訴えに大人として向き合う時だ。










関電不正 原発マネーの闇を暴け (2019年9月28日 中日新聞)

2019-09-28 09:49:20 | 桜ヶ丘9条の会
関電不正 原発マネーの闇を暴け 
2019/9/28 中日新聞
 原発の立地対策にと、電力会社が地元に流した資金が、当の電力会社のトップのもとへ還流されていたという。本はといえば電気料金か。にわかには、信じ難い事件である。原発マネーの闇は深い。
 菅原一秀経済産業相のコメントを待つまでもなく「事実なら言語道断」の事件である。
 関西電力の八木誠会長、岩根茂樹社長らが、関電高浜原発が立地する福井県高浜町の元助役(故人)から二〇一八年までの七年間に総額約三億二千万円を受け取っていたことが金沢国税局の税務調査などで明らかになった。
 関電から高浜町内の建設会社に支払われた原発関連の工事費の一部が、「顔役」と呼ばれる元町助役の仲介で、還流されていたという。元助役には工事受注に絡む多額の手数料が渡っていたとみられている。電力会社から地域に流れた「原発マネー」が、巡り巡って電力会社の経営トップのもとへ-。ならば前代未聞の不祥事だ。
 原発を引き受けてくれた自治体には、電源三法交付金など巨額の原発マネーが流れ込み、「ハコモノ」づくりに注ぎ込まれ、多くの利権を生んできた。
 歳入の大部分を原発マネーに依存してきた自治体では、財政のゆがみのもとにもなってきた。
 今回、関電トップに還流されたとみられる資金も、本はといえば、恐らく電気料金だ。
 福島の事故以前、発電量の五割以上を原発に依存してきた関電は「原発停止で発電コストがかさむ」と言い、値上げをちらつかせながら「早期再稼働が必要だ」と訴えてきた。
 3・11後、再稼働した原発は計九基。このうち四基が関電の原発だ。今年四月、原子力規制委員会が、期限までにテロ対策を完了できない原発の停止を求める方針を打ち出した。その時も「電気料金を値上げする事態もある」と、幹部が不満を漏らしていた。
 経営者個人に還流される資金があれば、電気料金の維持や値下げに回すべきなのだ。
 地元住民のみならず、電力消費者に対しても重大な背信行為である。
 八木会長は三年前まで、原発推進の旗振り役である電気事業連合会の会長だった。原発そのものに対する不信も一層深まった。
 事態はもはや、社内調査の域にはない。国税、そして検察当局は速やかに摘発のメスを入れ、原発マネーによる底知れぬ汚染の闇を暴くべきである。






「原発の盟主」深い闇 関電の20人に金品 (2019年9月28日 中日新聞)

2019-09-28 09:28:42 | 桜ヶ丘9条の会
「原発の盟主」深い闇 関電20人に金品 
2019/9/28 中日新聞

 関西電力の会長ら二十人が、高浜原発を抱える福井県高浜町元助役から総額三億二千万円相当の金品を受領していたことが判明した。資金の出元は関電から関連工事を受注していた建設会社とみられ、「原発マネー」の還流も疑われる。表面化した電力会社と立地自治体側の後ろ暗い関係。東京電力福島第一原発事故で大きく損なわれた原子力政策への国民の信頼は一層低下しかねず、各地の原発再稼働にも影響が出る可能性がある。

■配慮

 「そのような認識はない。対価的行為もなく、工事の発注も社内ルールに基づいて適切に実施した」
 二十七日午前、大阪市北区の関西電力本店で開かれた臨時記者会見で、岩根茂樹社長は謝罪する一方、資金還流や不正の認識を強く否定した。
 金品を渡した人物との関係について「支障が出ると、原子力の運営に悪影響が出るのではと思った」などと繰り返し言及した岩根社長。地元で「陰の権力者」とも呼ばれた元助役の故森山栄治氏への配慮をうかがわせた。
 これに対し、森山氏をよく知る高浜町の男性の証言は岩根社長の説明とは異なる。「金品提供は何十年も前からやっていた」と指摘。森山氏は同時に地元建設会社に高浜原発での仕事を発注するよう求めていたという。

■共存

 原発事業を円滑に進めたい電力会社と、経済効果を期待する地元側の“共存”関係が垣間見える今回の問題。原発事故で今も全町避難が続く福島県双葉町の伊沢史朗町長は「他の立地自治体でも同じ構図があると思われるのは遺憾だ」と怒りをにじませる。
 第一原発は1号機が運転を開始した一九七一年から事故までの約四十年間、雇用や税収などで地元に経済効果をもたらしてきた。「事故前は、町が原発と共生するという感覚はあったかもしれない」と認めるが、「本来、われわれはお礼される側だ」。関電側に金品を提供していた森山氏のケースは異様に映るという。
 関電は他に美浜原発、大飯原発(いずれも福井県)を持つ。これらの原発について、関電は同様の事案は現時点で把握していないと説明。詳しい調査をするかどうかは「今後の検討」とした。

■不信

 原発事故で賠償などの対応に追われる東電に代わり、関電は電力業界の盟主として存在感を高め、岩根社長は電気事業連合会の会長も務める。原発への世論の風当たりが根強い中、再稼働に望みをつなぐ業界内で「停滞する原子力政策を前に進め、業界を引っ張っていくリーダー」(大手電力関係者)としての期待を一身に背負ってきた。
 それだけに、業界のみならず再稼働を進めたい政府にとっても今回の問題の衝撃は大きい。経済産業省は二十七日午前、関電幹部を急きょ呼び付け事情聴取。菅原一秀経産相も「ゆゆしき事態だ」と語気を強めた。
 ある政府関係者は「ここまで不透明な関係が、原発事故を経た今も続いていたと明るみに出たダメージは計り知れない」と指摘。「再稼働のために金をばらまいていたならまだ理屈は付くが、電力会社側が逆にもらっていたなんて」と憤る。
 原発を持つ電力会社関係者は吐き捨てるように言った。「国民の不信感がさらに高まるのは間違いない。原発事故後、信頼回復に向けて努力してきたことが水の泡だ」



トリエンナーレ再開表明直後の不交付決定 「筋が違う」「新しい検閲」 (2019年9月27日 中日新聞)

2019-09-27 08:22:35 | 桜ヶ丘9条の会
トリエンナーレ再開表明直後の不交付 「筋が違う」「新しい検閲」 
2019/9/27 朝刊
 国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」を巡る問題は、国が二十六日に補助金を交付しないと決定したことで、国と県の法廷闘争に広がる可能性が出てきた。運営面での懸念を報告していなかったことを国が問題視する一方、県側は「合理的な理由がない」と反発。出展作家や芸術祭の来場者からも国の決定に疑問が相次いだ。
 「手順、手続きに従ってやってきた。報告しなかったからというだけで採択決定が覆る合理的理由はない」。二十六日夕、記者団の取材に答えた愛知県の大村秀章知事は、国の決定に憤りを隠さなかった。
 萩生田光一文部科学相は取材に「県側は四月の段階で会場が混乱するのではないか、展示を続けることが不可能なんじゃないかと警察当局と相談していたらしいが、文化庁にはきていなかった」と、手続きの不備を指摘。展示内容が理由ではなく「検閲には当たらない」との見解を示した。
 ただ、県の検証委員会がまとめた中間報告によると、県が警備体制の検討を始めたのは補助事業として採択が決まった後の五月。県の担当者は「われわれとしては、円滑な運営に影響がないようにと対応していたのだが」と困惑する。
 県が国に具体的な展示内容などを伝えたのは、企画展中止が決まった翌日の八月四日。国側は、運営が危ぶまれた場合には報告が必要との見解を示したが、県の担当幹部は「説明が必要という認識はなかった」と話す。展示内容も申請には必要とされておらず、提出書類に運営上の懸念を申告する欄もないという。
 展示再開を目指すと表明した翌日の不交付決定に、大村知事は「関連性があるとしか思えない。表現の自由を高らかに掲げて、裁判に臨みたい」と強調した。
 中止になった企画展に関し、県が設置した検証委員会(座長・山梨俊夫国立国際美術館長)は二十五日、「条件が整い次第、すみやかに再開すべきだ」とする中間報告をまとめた。検証委は条件として、脅迫や電話による集中攻撃へのリスク回避策の構築、展示方法などの改善、会員制交流サイト(SNS)による拡散防止を挙げていた。
 不自由展を巡っては、大村知事が再開に向け協議を始める考えを示したばかり。その直後の発表に、名古屋大の栗田秀法教授(美術史、博物館学)は「再開へのけん制と受け止める人も多いのでは。脅迫で妨げられた芸術祭の側に責任を問い、補助金を出さないのは筋が違う」と批判する。
 国や地方自治体が芸術活動に公金を出す根拠となる文化芸術基本法の基本理念には「文化芸術活動を行う者の自主性が十分に尊重されなければならない」とある。志田陽子・武蔵野美術大教授(憲法学)は「交付中止決定は、この法で定めた理念に明らかに違反する」と指摘する。
 文化庁は「補助金適正化法違反」を中止の理由にしたが、志田教授は「文化庁が重んじるべきは基本法の理念」と反論する。
 あいちトリエンナーレの出品作家の一人、田中功起さん(43)は、今回の措置を「新しい検閲」と受け止めた。過去に、文化庁の芸術家支援制度で海外研修した。「文化庁は今までさまざまな表現を受け入れ、ぼくもそのサポートによって活動を広げてきた」とした上で、今後、制度や事業の中身が大きく変わるのではないかと危ぶむ。

◆菅氏が政権意向否定

 菅義偉官房長官は二十六日の記者会見で、文化庁による補助金不交付決定は、表現の自由を保障する憲法二一条に抵触しないとの考えを示した。「税金で賄われている補助金の取り扱いなので、文化庁が事実関係を確認した上で、適切に対応するのは当然だ」と語った。
 菅氏は決定について「文化庁で判断したことだ」として、政権全体の意向ではないと強調。愛知県の大村秀章知事が法的な手続きで争う意向を示していることに関しては「コメントは控えたい」とした。

◆来場者「政治介入では」

 文化庁の補助金不交付決定について、二十六日に名古屋市の会場を訪れた人々からは「政治的介入では」「仕方ない」などさまざまな声が上がった。
 「国の意見と合わない表現を許さない前例を作ってしまう。ショックです」と憤るのは、会社員の菅谷菜穂子さん(42)=東京都港区。企画展の再開に向けた協議が始まるタイミングでの発表に「完全に圧力と思う」と語気を強めた。
 大分県別府市から訪れた公務員女性(28)も「これでは国に忖度(そんたく)した無難な展示しかできなくなる。これからどんどん国際芸術祭をしようという流れの中、開催側を萎縮させる。安易にこんなことをしていいのか」と批判した。
 一方、大学二年生の林晶夫さん(20)=愛知県蒲郡市=は「不交付までする必要はないのではと思うが、国の立場からすれば、仕方ない対応だったのかもしれない」と話した。

◆「至極まっとう」河村市長は評価

 文化庁の補助金不交付について、河村たかし名古屋市長は二十六日、「至極まっとうな判断」と決定を評価した。市のトリエンナーレ負担金については「国と共同歩調を取りたい」と述べ、改めて不支出の可能性に言及した。市は負担金として三年間で約二億円を市や愛知県が参画する実行委員会に支払うことになっているが、本年度分の三千万円は未執行となっている。








語り続けて、いつまでも 伊勢湾台風から60年 (2019年9月26日 中日新聞)

2019-09-26 07:57:16 | 桜ヶ丘9条の会
語り続けて、いつまでも 伊勢湾台風から60年 
2019/9/26 中日新聞
 東海地方などで五千人以上が犠牲になった伊勢湾台風の上陸から、二十六日で六十年。体験を語り続けることが悪夢を繰り返さない方策の一つでもある。
 <ちょろちょろどろ水が入ってきたとたん、タタミがふわっとうきだしてきました。おとうさんが、みんなをかかえて、台所へ行きました。その時、妹の節ちゃんが「おとうちゃん、こわい」とさけびました。その声が終わりになるとは思いませんでした>

涙、涙の作文


 名古屋市南区柴田町の元学習塾経営加古美恵子さん(70)は、小学校四年生で伊勢湾台風に遭い、一家六人のうち両親と妹ら五人を失った。引用させていただいたのは、濁流の記憶と、自分だけが奇跡的に助かったいきさつを被災直後に「涙、涙で一気に書いた」(加古さん)という作文である。
 <おとうさんは、私たちをだきかかえて、何もつかまらずに、ながれていきました。ふと気がつくとおかあさんがいません。私は「おかあちゃんがいない。材木の下になった」とさけびましたが、どうしようもありません>
 伊勢湾台風では、最高三・八九メートルの高潮が押し寄せて、堤防が決壊。名古屋港の貯木場三カ所から数十万トンの木材が流出し、洪水とともに住宅街を襲って被害を増した。当時の新聞には「木材は、水車のように縦に回って家々を襲った」とある。
 <私は、二度しずみました。二度目に、思わず妹につかまっていた手をはなしてしまいました。しばらく流されていってそばを流れていた材木にしがみつきました。それから「おとうちゃーん、おかあちゃーん」と父母をよびましたが、何も返事がありません>
 十五年ほど前から、毎年九月二十六日に母校の同市立白水(はくすい)小学校に招かれ、台風の体験を話している。「家族を失い、思い出したくない一夜です。でも、誰かが語り継がねば、の思いで」。作文にはないが、流されるとき濁流は大きな渦を巻いていたという。
 <ふと気がつくと、私がつかまっている材木にもうひとり男の子もつかまっていました。(一キロほど一緒に流された後)北の方にトラックがあり、のっている人がかいちゅう電とうでてらしていました。「助けてー」とさけびトラックにとびのると、おとうさん、おかあさん、妹たちの事が思い出されてなけてきました>
 男の子とは、トラックにたどり着いた際に、はぐれた。「私は、運が良かったのでしょうか」と加古さんは自問自答する。「みんなの分も頑張らないと、と一生懸命生きてきた」。きょう二十六日も、白水小で体験を語る。

スーパー伊勢湾台風


 これを「社会が未発達だった六十年前の出来事。今はそんなことは起きない」と見なすことはできるのだろうか。答えは「否」のようである。
 国土交通省中部地方整備局は、日本で最大規模の台風(一九三四年室戸台風、上陸時九一〇ヘクトパスカル)が伊勢湾台風と似た経路をたどる「スーパー伊勢湾台風」が来襲しうると想定。同局などによる「東海ネーデルランド高潮・洪水地域協議会」(TNT)は、死者最大二千四百人、被害額は二十兆円にのぼると予想する。
 被害は伊勢湾台風と同じく、海抜ゼロメートル地帯が中心になる。伊勢湾岸で三百三十六平方キロあり、九十万人が住んでいる。東京湾岸に百十六平方キロ(百七十六万人)、大阪湾岸にも百二十四平方キロ(百三十八万人)あり、東京圏や大阪圏にスーパー伊勢湾規模の台風が来れば、甚大な被害が予想される。
 伊勢湾台風を契機に名古屋港には沖合の高潮防波堤などが整備された。大同大の鷲見哲也教授(流域水文学)は「伊勢湾並みなら高潮は何とかガードできそう。しかしスーパー伊勢湾では守り切れない」と話す。「貯木場は移設されたが、路上や駐車場、港で輸出を待つ自動車が濁流に乗り“凶器”になり得る」と危惧する。

行政は早めの手を打て


 避難が大切。しかし、六十年前の加古さんたちに、適切な避難勧告・指示は出なかった。もっと早く避難できれば、犠牲者は減らせただろう。名古屋南部の惨状を把握できていなかった行政の初動の遅れである。実際、愛知県碧南市の碧南干拓地では、日没までに全住民四百五十五人が避難し犠牲者はなかった。TNTはスーパー伊勢湾の場合「上陸九~十二時間前に避難指示」を求めている。
 今月、千葉県などを襲った台風15号による強風では、大規模な停電や行政の初動の遅れなどで、住民の不自由な生活が長期化している。水害が猛威をふるった伊勢湾台風との対比は難しいが、六十年たっても課題は同じに見える。早め、早めの手を打つことだ。