大間原発、建設巡り10年の攻防(2017年7月22日中日新聞)

2017-07-22 09:22:57 | 桜ヶ丘9条の会
大間原発、建設巡り10年の攻防 

2017/7/22 中日新聞


 本州最北端の青森県大間町で、大間原発の建設反対を十年近く訴え続けている人たちがいる。プルトニウムとウランの混合酸化物(MOX)燃料だけで発電をする仕組みの世界初の原発。コストは割高で、安全面での不安は大きいとの見方があるが、電源開発(Jパワー)が建設を続けることには理由がある。大間原発が頓挫すれば、政府が掲げる核燃料サイクル政策も頓挫するからだ。将来の原発政策に大きな影響を与える大間での市民たちの闘いの行方は-。

 「二〇〇八年五月三十一日、建設が開始された。反対集会は十回目だが、めでたくはない。十年やってきて建設中止に追い込めなかった。慚愧(ざんき)に堪えない」

 十六日正午すぎ、反対集会冒頭で、実行委員会事務局長の中道雅史さん(61)はそう切り出した。ステージ後ろのフェンスの向こうは大間原発の敷地だ。

 「大間は核燃サイクルの要。我々は『反核』の最前線にいる」

 強い雨の中、数百人が各地から集まり、「大間原発大間違い」と書かれたTシャツ姿の人も。続いて、北海道函館市在住の大間原発訴訟の会代表、竹田とし子さん(68)がステージに立ち、「福島の緊急事態は終わっていない。大間は何としても止めたい」と訴えた。

 ここから海を挟み函館までは約二十三キロ。大間原発三十キロ圏内では、青森県と北海道の人口は約一万人でほぼ同じだが、五十キロ圏内は、青森約九万人に対し、北海道約三十七万人。過酷事故が起きれば、道南地域の被害はより大きい。

 危機感から、函館市は一四年、国とJパワーを相手取り原発建設差し止めを求めて東京地裁に提訴した。「国策」の原発に対し、自治体が提訴する初のケースで、全国の関心は高い。

 竹田さんらが工事の差し止めなどを求めて提訴したのは、福島第一原発事故前の一〇年七月。MOX燃料だけで発電する「フルMOX」の安全性と、周辺の活断層の有無が争点となり、先月三十日に結審した。来年三月までに判決が出る見通しだ。

 原告には、青森県民も参加する。大間町の元郵便局員、奥本征雄さん(71)はその一人だ。「原発マネーは人々の心を分断し地域を壊してきた。大間の将来を守りたい一心で反対している」と話す。

 ただ、「反対」を口にする人は多くない。「大間のマグロ」など海産物豊かな漁業の町。かつては漁師たちも反発したが、十年以上前に漁協がJパワーと漁業補償で合意し、目立った反対運動は町から消えた。

 国や県からの原発関連の交付金は昨年度までで総額百一億円。学校や病院、消防などの整備運営に充てられた。町の財政難から、大間原発の早期完成を求める声も根強い。一月の町長選では、原発推進の現職が「脱原発」を訴える候補らを抑えて四選を果たした。

 だが、奥本さんは言う。「大きな産業のない過疎の町で、表だって反対できない人が多いのも仕方ないがお金より安心できる暮らしの方が大事じゃないか」

 大間町議会が原発の誘致を決議したのは、一九八四年。当初は、MOX燃料を利用する新型転換炉「ふげん」(福井県)の後継炉をつくる予定だったが、費用面で断念した。九五年、一般的な原発を改良したフルMOX型の原発を建設することに決まった。

 建設工事はまだ半分も終わっていない。福島の事故後、原子力規制委員会の新規制基準ができたため工事を停止。その後に工事は再開されたが、新基準に関係する原子炉建屋などの工事は進んでおらず、原子炉の搬入もまだだ。運転開始時期ははっきりしない。

 それでも、政府が大間原発にこだわる理由がある。

 日本は現在、原発の使用済み核燃料から抽出したプルトニウムを国内外で、約四十七トンも保有する。原爆の原料として使えるため、余剰に保有していると、「核兵器開発」への疑念を世界から持たれてしまう。

 政府は六〇年代以降、「核燃サイクル」構想を立ち上げ、運転によってプルトニウムを増やす高速増殖原型炉もんじゅ(福井県)の実用化を目指した。その計画は度重なる事故で頓挫。二〇〇〇年代以降は既存の原発で、ウラン燃料にMOX燃料を混ぜて使う「プルサーマル」発電を本格化させた。

 ただし、プルサーマルで、炉心に装填(そうてん)できるMOX燃料は全体の三分の一が限度。プルトニウムはなかなか減らない。その点、フルMOXの大間原発が稼働すれば、年間一・一トンのプルトニウムを消費できる。

 つまり大間原発はプルトニウム消費の「切り札」的な存在だが、フルMOX型の原発は世界初で、技術的な問題が少なくない。

 原子力資料情報室の松久保肇氏はこう指摘する。「MOXは通常の燃料より高発熱で、温度管理が難しい。原子炉の停止は既存の原発より困難。放射線量も高く、事故が起きた場合、既存の原発をはるかに上回る被害が出かねない」

 Jパワーは原子炉の停止手段を増強する対策などを施すというが、「MOXを三分の一利用するプルサーマルでも制御は難しい。そんな難しいフルMOXを、原発を手掛けるのが初めてのJパワーに任せて大丈夫なのか」と松久保氏。

 九州大の吉岡斉教授(科学史)も「MOXの使用済み燃料は放射線量が高く、運搬すら難しい。大間で百年以上、管理できるのか」と疑問視する。

 大間原発の反対集会で、最後に壇上に立った古村一雄・青森県議はこう発言した。

 「(建設を)止めさせるには、もう一度、福島のような大事故を経験するか、選挙でやめさせるか、二つしかない。私は後の方を選択したい。皆さんと一緒に、政治勢力を立ち上げていくことができればと思っています」

 (小坂井文彦、安藤恭子、三沢典丈)
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伊方原発 安心などどこにもない(2017年7月22日中日新聞)

2017-07-22 09:13:45 | 桜ヶ丘9条の会
伊方原発 安心などどこにもない 

2017/7/22 中日新聞
 四国電力伊方原発の運転差し止めを求める住民の訴えを、松山地裁も退けた。「不合理な点はない」という。だが現地を歩いてみればすぐ分かる。避難経路が見つからない。安心が見当たらない。

 地震国日本に、原発が安住できる場所はない。中でも、伊方原発は特別な場所に立っている。

 全国で展開される原発の差し止め訴訟。住民側が共通して抱く疑問は、地震の揺れの過小評価、避難の難しさ、地元同意の範囲の狭さ-の三点だ。

 伊方原発は、三点すべてが特別なのだ。

 発生が最も心配されている南海トラフ巨大地震の想定震源域にあり、わずか八キロ北を日本最大級の断層である中央構造線が走っている。関東から九州に至る大断層。昨年の熊本地震との連動も取りざたされた。

 重大事故が起こった場合、スムーズな避難は極めて困難だ。

 伊方原発は日本一細長い佐田岬半島の東の付け根に立っている。

 陸路で県都・松山市側に向かおうとすれば、事故を起こした原発の直前を通ることになる。放射線被ばくの恐れを押して-。

 半島を横断する唯一の幹線国道は、地滑りの危険地帯を走っている。地震によって寸断される恐れも強い。半島の西で暮らす人の多くは海路で九州へ渡る以外に、文字通り道がない。海が荒れれば船も出せない。

 風向き次第で放射能も海を渡ることになる。周辺自治体のみならず、海を隔てた大分、山口、広島の住民が、差し止め訴訟を起こしているのはそのためだ。

 それでも三月の広島地裁に続いて今回も、「地震の揺れは過小評価されていない」「避難計画は合理的」「従って安全は十分確保されている」-と訴えた電力側の主張をうのみにしたかのように、松山地裁は、規制基準や四電の安全対策に「不合理な点はない」と、住民側の不安を退けた。

 島崎邦彦・前原子力規制委員長代理が提起した「計算上、地震の揺れは過小評価されている」という問題も、まだ決着を見ていない。どこが、どうして、安全だと言えるのか。

 おしなべて原発再稼働に前のめりな司法に対し、原告や支持者の間から「福島をもう忘れたか」という声が上がっていた。

 何度でも繰り返す。福島の教訓を忘れたままで、原発を動かすべきではない。原発事故は二度と繰り返されるべきではない。
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創生相「発言」 「加計ありき」が濃厚だ(2017年7月21日中日新聞)

2017-07-21 09:23:14 | 桜ヶ丘9条の会
創生相「発言」 「加計ありき」が濃厚だ 

2017/7/21 中日新聞
 事業主体公募の一カ月以上前に「加計学園」の獣医学部新設決定が関係者に伝えられていたとしたら、「加計ありき」は否めない。速やかに臨時国会を開き、国政調査権に基づいた究明が必要だ。

 国家戦略特区による獣医学部新設は、学校法人「加計学園」による愛媛県今治市での学部新設を前提に、諮問会議を含めて、すべての手続きが進められたように疑われても仕方がない状況だろう。

 国家戦略特区を担当する山本幸三地方創生担当相が昨年十一月十七日、日本獣医師会を訪問し、加計学園の名前を挙げて「四国で新設することになった」などと伝えていたことが、本紙が入手した同会作成の面談記録で明らかになった。事業主体の公募を始めた今年一月四日から約一カ月半も前のことである。

 獣医師会側の記録が事実なら、「加計学園ありき」で、計画が進められたことは否定しがたい。

 山本氏側は、昨年十一月の獣医師会訪問を認めながらも「獣医学部新設が決まった経緯について説明したが、四国で決めたとは言っていない。京都もあり得るという話もした。今治市の財政状況については概略を説明したが、加計学園という特定は一切していない」と否定はしている。

 今治市の財政状況にまで言及しながら、加計学園と特定はしていないというのは詭弁(きべん)にも聞こえるが、双方の言い分が食い違うなら獣医師会の関係者も国会に呼び、話を聞いたらどうか。

 学部新設の認可という公平・公正であるべき行政判断が、たとえ首相の意向であったとしても、それを盾に歪(ゆが)められてはならない。

 ましてや加計学園の理事長は、安倍晋三首相が「腹心の友」と呼ぶ人物である。個人的な関係が行政判断に決定的な影響を及ぼしていたとしたら、政権の存立にもかかわる重大な問題だ。

 衆院は二十四日、参院は二十五日にそれぞれ予算委員会を開き、この問題などに関する集中審議を首相も出席して行う予定だ。この機に事実の解明を一歩でも前に進めるのはもちろんだが、やはり国会閉会中では限界がある。

 野党側は憲法五三条に基づいて臨時国会の召集を求めている。事実解明には、野党が求める理事長自身の参考人招致も必要だ。

 安倍政権がこれ以上、野党側の要求を拒むのなら、事実解明に後ろ向きと批判されても仕方があるまい。速やかに臨時国会召集と理事長招致に応じるべきである。
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蓮舫氏、戸籍開示の波紋 拝外主義の助長に懸念(2017年7月20日中日新聞)

2017-07-20 08:37:55 | 桜ヶ丘9条の会
蓮舫氏、戸籍開示の波紋 排外主義の助長に懸念 

2017/7/20 中日新聞

 あしき前例をつくったのではないか。民進党の蓮舫代表が、台湾籍からの離脱を証明する戸籍情報を公表した。東京都議選の敗北で党内の一部から再燃した「二重国籍」批判を沈静化させる狙いだが、出自にかかわる極めてプライベートな情報の開示で、蓮舫氏の個人的な問題にとどまらない。こんなことが一般社会でもまかり通れば、被差別部落の出身者や二つのルーツを持って生まれた人への差別、そして多様性を拒む排外主義が助長されかねない。

 東京・永田町の民進党本部で十八日夕に開かれた蓮舫氏の臨時記者会見には、約百四十人の記者が集まった。

 公表されたのは、昨年十月七日付で日本国籍を選択した宣言の記述がある戸籍謄本の一部や、台湾当局が昨年九月十三日付で発行した「国籍喪失許可証書」など計六通。蓮舫氏は「本来、戸籍は開示すべきではないが、野党第一党の代表としての発言の信頼が揺らいではならない」と説明したが、「二重国籍」を問題視してきた一部のメディアなどは政治責任を追及した。

 例えば、ネットサイトの記者は「国籍法に違反していたことは確定した。何らかの政治責任をどういう形でとるのか」と詰め寄った。この記者が引き合いに出したのは、最近、オーストラリア連邦議会で野党・緑の党の上院議員二人が、出生国との二重国籍で辞任表明に追い込まれた事例だ。同国は、二重国籍保持者が議員になることを憲法で禁じている。

 蓮舫氏は「国籍法の手続きを怠っていたのは事実だが故意に行ったわけではない。台湾籍は放棄したものだと思っていた」などと釈明に追われた。

 蓮舫氏の「二重国籍」問題は昨年の党代表選の際、ネットなどで広まった。蓮舫氏は当初、台湾籍を放棄したと主張したが、台湾籍が残っていたことが判明。台湾籍を離脱し、日本国籍の選択宣言の手続きをとったが、これらを裏付ける戸籍公開を求める声がネットなどでくすぶっていた。

 そして今月、都議選を総括する国会議員会議で「二重国籍」問題が敗因の一つに挙げられ、蓮舫氏は戸籍情報を公表する意向を示していた。

 一方、国境を越えた人の移動が多い欧州など、出自が大きな問題にならない国も多い。国際問題に詳しい小田川綾音弁護士は「国籍選択を怠ったとしても罪とはいえない」と指摘した上で、「そもそも蓮舫氏は二重国籍だったのか」と疑問を呈す。

 金田勝年法相は記者会見で、蓮舫氏が国籍法に違反していたかを問われ、一般論と前置きしながらも「国籍法上の義務に違反していた」との見解を示した。だが、小田川氏は「蓮舫氏ばかりが説明責任を問われているが、ぶれているのは法務省」と断じる。

 「日本政府は台湾を未承認政府と位置付け、中国を唯一の政府とする立場。そうであれば、蓮舫氏は中国籍となるはずで、日本国籍を取得した時点で中国の国籍法により、自動的に中国国籍は喪失する。台湾人女性から生まれた子どもの国籍決定に中国の国籍法を適用したと法務省職員が解説した事例が複数あり、法務省の説明はちぐはぐだ」

◆「出自差別の歴史、逆戻り」「純日本人を求める風潮に」

 蓮舫氏の「二重国籍」問題自体は、民進党代表選の騒動を蒸し返したにすぎない。重大なのは戸籍情報の開示だ。

 法務省によると、戸籍制度の歴史は明治初期の一八七二年、旧戸籍法で定められた「壬申(じんしん)戸籍」に始まる。「戸籍と無戸籍」の著作がある早稲田大非常勤講師の遠藤正敬氏(政治学)は「もともと徴兵などの人的資源を把握する資料として作られたものだ。国家が国民を『個人』ではなく『家の一員』として管理する思惑もあった。それが国民すべてを『天皇の赤子(せきし)』とする家族国家の思想を支えた」と解説する。


 壬申戸籍には、「士族」や「平民」といった身分の記載のほか、市町村によっては被差別部落出身など出自や前科も記された。法改正によって新たに差別的事項を記載することは禁じられたものの、役場の原本には記載が残ったままで、一九七六年までは誰でも戸籍を閲覧できる状況が続いた。

 今は厳しく閲覧が制限されているが、部落解放運動家の小林健治氏は「戸籍が、かつての『部落地名総鑑』と照合され、被差別部落出身者は結婚や就職でひどい差別を受けてきた。戸籍制度という封建的な身分制度によって、出生の秘密という人権の第一原則がどれだけ踏みにじられたか」と振り返る。

 蓮舫氏は記者会見で、自らの戸籍情報の開示について「前例とすることは断じて認められない」「開示は私で最後にしてもらいたい」と強調した。しかし、小林氏は悪影響を懸念する。

 「私たちはマイノリティーとして長年闘い、『戸籍の閲覧禁止』という人権も獲得した。差別につながる恐れのある個人情報は公にしない流れがやっとできてきたのに、蓮舫氏の行動は時計の針を逆戻りさせかねない」

 実際、マイノリティーの間には動揺が広がっている。朝鮮にルーツを持つ法律家団体「在日コリアン弁護士協会」の金竜介弁護士は「『純粋な日本人か、そうでないか』の区分けを正当化したに等しい。本来、日本国籍を有していれば日本人として扱われるべきなのに、日本社会には、両親が日本人で日本語が話せる人しか受け入れない風土が残る。蓮舫氏の行動はそれを追認するもので、在日外国人らにどれほどの影響があるか考えてほしかった」と残念がる。

 民進党は今回の問題で、在日コリアンらを排斥するヘイトスピーチデモに路上で直接抗議するカウンターの市民からも見放されるかもしれない。「ヘイトスピーチ対策法が制定されたのは、民進党の頑張りがあったからだ。民進党内で二重国籍問題と都議選の敗北を関連づける動きがあったとしても、蓮舫氏には党代表として毅然(きぜん)として対応してほしかった」と金氏。

 立教大の西谷修特任教授(比較文明学)は、安倍政権の影響に目を向ける。「安倍政権は戦後レジームからの脱却をうたい、美しい国づくりを掲げてきた。その応援団も、日本人の素晴らしさや大和魂を賛美する人たちだ。そういった愛国主義が排外主義につながり、蓮舫氏に『純粋な日本人であることを示せ』と迫る風潮につながった」

 西谷氏は「今回、民進党内から蓮舫氏を突き上げる動きがあったのは、党内にも排外主義におもねって票を得ようという思惑があるからだ。日本の政治全般に差別的な風潮が広がるのは危険だ」と警戒した上で、民進党に奮起を促す。

 「もともと『共生社会』を綱領に掲げているように、弱者の立場に立った政治を目指していたはずだ。排外主義は弱者切り捨てと同じメカニズムで、その流れに乗ってはいけない。今回の問題を契機として、原点に立ち返ってほしい」

 (木村留美、池田悌一)
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障害者との共生、どう進める 相模原殺傷から1年(2017年7月19日中日新聞)

2017-07-19 11:50:41 | 桜ヶ丘9条の会
障害者との共生、どう進める 相模原殺傷から1年 

2017/7/19 中日新聞

 相模原市の知的障害者入所施設「津久井やまゆり園」で十九人が刺殺され、二十六人が負傷した事件から、間もなく一年が経過する。犯行の動機と思われる優生思想の台頭とともに、町外れにある大規模入所施設の存在を印象づけた事件。こうした施設は障害者排除の表れとして欧米では半世紀前から解体が進行したが、日本では同じ理念こそあれ、容易に解体がなかなか進んでいない。この施設の元職員で、「障害者は人間でない」と記した植松聖(さとし)被告(27)。その思考と、共生にはほど遠い施設の存在は、どこかで重なっていないか。

◆欧米、大規模施設を解体

 「飲み物を買いに行ってきまーす」。相模原市の「障がい者グループホーム・じゃんぷ」から、二十代の男性利用者が元気よく買い物に出掛けた。久保田充副主任が玄関先で「いってらっしゃい」と声を掛けた。数分後、男性は五百ミリリットルの炭酸飲料を買って戻ってきた。

 二〇〇九年開所の「じゃんぷ」は、相模原市のJR上溝駅から徒歩約十分の住宅街にある。外からは一見、普通のアパートのようだが、中はグループホーム用に設計されている。

 共用スペースを囲むように八畳ほどの個室が十三室あり、その半分ほどを重度の知的障害者が利用する。壁紙に強いこだわりを持つ人の部屋には壁紙を貼らないなど配慮がされている。

 利用者が外に出た時に他人の敷地に入ってしまうなどのトラブルはあるが、久保田副主任は「近くのスーパーに買い物に行っても、地域の人が声を掛けてくれる。地域で障害者が共生することはそんなに難しいことではないと実感する」と話す。

 「じゃんぷ」を運営する社会福祉法人「県央福祉会」は、相模原市などで三十八カ所のグループホームを運営、約三百七十人を受け入れている。約二十年前に初めて開設した際は、重度の障害者を持つ親たちから「グループホームは無理」という声が強かった。近隣住民からも「うちは若い娘がいるから、外には出さないで」と言われたことがあったという。だが、少しずつ親と地域からの信頼を築いてきた。

 日本で定員百人を超えるような大規模入所施設が各地に誕生したのは、一九六〇~七〇年代。一方、欧米では六〇年代から、「障害者も他の人々と同じように暮らせる」という考え方が広がり、大規模施設の解体が進められてきた。

 日本でも九五年に政府が「障害者プラン」で「地域移行」の理念を掲げ、少人数で地域に暮らすグループホームの制度が実施され始めている。とはいえ、県央福祉会の岸茂子理事は「『入所施設信仰』はいまも根強い」と話す。「歴史的に入所施設が必要だった時期もあった。だが、十年、二十年先に入所施設が選ばれるサービスかどうか」

 「地域移行」で全国的にも有名なのが、長野県駒ケ根市の知的障害者援護施設「西駒郷」での試みだった。田中康夫知事時代の〇二年以降、県内各地に西駒郷の入所者のためのグループホームを設置。〇三年度に四百四十一人だった入所者は一五年度には百四人に減った。県の西駒郷改築検討委員会の委員を務めた大阪府立大の三田優子准教授(障害者福祉)は「入所者に聞いたら、重度の方もみな『出たい』と話していた」と振り返る。

◆分散化、地域移行に必要

 三田准教授は「障害がある人が地域にいると、さまざまな出会いがある。トラブルも生じるが、少しずつ住民の方々の考え方も変わる」とその意義を話す。

 日本社会事業大専門職大学院の曽根直樹准教授(障害者福祉)の調べでは、〇五年度に全国で約十四万六千人だった施設入所者は、一六年度に約十三万一千人まで減少。一方、約三万四千人(〇五年度)だったグループホーム利用者は約十万六千人(一六年度)に増えている。

 だが、知的障害者がついのすみかとする施設も、全国十八カ所の公設施設を見る限り、存続している。三田准教授は「入所施設が障害者の権利侵害に当たるという意識が日本では弱い」と語る。相模原事件の後に「やまゆり園」の建て替えを巡っても、神奈川県は当初、元のように大規模施設を建て替える方針を示した。しかし、障害者団体などから「地域移行のため施設の小規模化・分散化を」との意見が噴出。県は「園再生基本構想策定部会」であらためて検討を進めている。

 県央福祉会は、やまゆり園の入所者の「受け皿」の一つになるため、グループホームを新設する準備を進めている。同会の佐瀬睦夫理事長はこう強調する。

 「障害がどんなに重くても、地域で生きる支援はできる。植松被告には元来、屈折した考えがあったと思うが、社会から障害者を隔てる入所施設で働くことにより、その屈折をさらに深めたのではないか。地域での障害者との共生こそ、この事件の最大の教訓としなくてはならない」

 (佐藤大)

◆職員の待遇改善を

 この事件は、障害者施設で働く職員の待遇の厳しさについても問題提起をした。

 厚生労働省の賃金構造基本統計調査(一六年)によると、福祉施設職員の月平均賃金は約二十二万八千円で、全職種平均の約三十万四千円と大きな差がある。

 勤務実態も厳しい。全国福祉保育労働組合が一六年九月~今年一月に実施したアンケート(四百五人が回答)では、仕事の不安や悩みでは「人手が足りない」が54・8%、未払いの時間外労働手当が「ある」のは42・9%に上った。仕事を辞めたいと「いつも思っている」か「時々思う」人は計60・2%にも達した。

 自由記述欄には「利用者以下の生活をしている。心も身体も疲れている。悲しいだけなので給与明細は見ない」といった回答も。

 この組合の沢村直(ただし)書記長は「そもそも、国の職員配置基準(入所で基本的に利用者七・五人に対して職員一人)が現場の実態に合っていない」と指摘する。

 一方、現場の虐待も少なくない。厚労省によると一五年度、全国の施設での虐待被害者は五百六十九人で過去最多。うち四百七十四人が知的障害者だった。沢村書記長は「多忙な現場で対応は機械的にならざるを得ず、やりがいに結び付かない。そればかりか、ストレスのはけ口が弱い立場である施設利用者に向かっている」と推察する。

 公立の入所施設で二十九年間勤務した経験のある社会福祉法人・全国スモンの会(東京都小平市)法人本部長の安里芳樹氏は、事件後に主催した福祉セミナー参加者の一人が「利用者は衣食住が保障され、障害基礎年金を合わせたら、私らの生活レベルより高いかもしれない」と吐露したことが気になったという。

 「植松被告は在職中『福祉サービス提供者』としての資質を疑問視された。そのことへの怒りがサービスの否定、ひいては障害者の存在否定にまで向かったのではないか。若い職員が薄給にあえぎ、福祉サービスを否定しようとする際、優生思想が根拠になるのかもしれない」

 (白名正和)

 <相模原殺傷事件> 2016年7月26日未明に発生。横浜地検は今年2月、植松被告を殺人などの罪で起訴した。植松被告は事件前、衆院議長宛ての手紙に「障害者は不幸を作ることしかできません」などと記述し、優生思想に基づく犯行をほのめかしていた。
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