「共謀罪」法案へ反対声明文 ジャーナリストら有志(2017年4月27日)

2017-04-29 16:59:09 | 桜ヶ丘9条の会
27日の記者会見で発表された声明の全文は以下の通り。

     ◇

 私たちは「共謀罪」法案に大反対です

 私たちは、放送やインターネット、執筆活動などを通じて、広義の報道に携わっている者です。私たちは、現在、国会で審議中の「共謀罪」法案に大反対です。「テロなど準備罪」などと言い換えていますが、法案の骨格や内容は、過去3回廃案になった「共謀罪」法案と本質的には何ら変わっていません。

 「共謀罪」は、まだやっていないことが取り締まりの対象になります。

 「共謀罪」は、私たちの内面の自由、プライバシーを踏みにじる道具になります。捜査機関に際限のないフリーハンドが与えられ、監視社会が現実化するおそれがあります。監視のまなざしは人々に内面化されていきます。人々は心を閉ざす方向へと向かいます。何とか自分を守るために。となれば、私たちジャーナリスト、表現者は、取材活動がままならなくなります。私たちの仕事は、真実を知るために多様な考え方の人々の心の内面に入って行くことが常だからです。

 結果として、取材し報じられるべきことが伝えられなくなります。つまり、「共謀罪」は、言論の自由、表現の自由、報道の自由を著しく破壊するものなのです。監視は人間の自由を殺す、とは歴史の教えるところです。

 この時点で何も言葉を発しないのは、未来に大きな禍根を残すことになると思います。だから、私たちはここで声をあげることにしました。

 世界に目を向けると、シリアや北朝鮮をめぐる情勢など、「共謀罪」を新設したい勢力には「追い風」が吹いているようにも見えます。強い力に擦り寄っていく人々もメディア上を跋扈(ばっこ)していて、「共謀罪」の本質を隠しているようにも見えます。

 「共謀罪」はテレビを殺します。「共謀罪」はラジオを殺します。「共謀罪」は自由な情報発信を殺します。人々のコミュニケーションを権力の監視下に置くこの「共謀罪」法案の新設に私たちは、強く、深く、長く、反対します。

  
                  2017年4月27日
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特定秘密保護法 ルーズな運用に憤る(2017年4月6日中日新聞)

2017-04-28 08:51:27 | 桜ヶ丘9条の会
特定秘密保護法 ルーズな運用に憤る 

2017/4/6 中日新聞
 特定秘密の運用がルーズすぎる。衆院の情報監視審査会に提出された年次報告書ではあらかじめ特定秘密に指定するケースや人の記憶を特定秘密にするケースがあった。法の逸脱というべきだ。

 二〇一六年の年次報告書によると、一五年十二月末時点で四百四十三件ある特定秘密のうち、四割弱の百六十六件で行政文書がなかった。暗号を含む「物件」の形で存在する例が九十一件あった。

 問題なのは、十五件は情報が入る前からあらかじめ秘密指定されていたことだ。いわば「空き箱」の状態なのに特定秘密だったのだ。さらに十件は記憶や知識を特定秘密に指定していた。

 法の制定時までさかのぼってみよう。特定秘密は既に存在する「秘密」のうち特別に秘匿すべきものを「特定秘密」とすることにした。文書や電子情報などによって表示できるものを組織として管理するのが法の趣旨である。

 記憶や知識はそもそも定義が客観的ではないし、記憶などはいくらでもぐらついてしまうものである。法を逸脱すると考える。記憶や知識を指定した十件は審査会の指摘後に文書を作成するか、指定が解除された。もともと不必要な指定だったのではないか。

 あらかじめ「空き箱」を用意して秘密指定する方法も問題だ。武器や人的情報源に関する情報などで用いられ、入手見込みの段階で指定されている。しかし、警察庁、外務省、防衛省が指定した五件は情報が入手できず、昨年中に指定を解除している。

 このやりかたが幅を利かせると「空き箱」だらけになりかねない。秘密に対して指定をするという本来とはやり方が正反対で、これも法の趣旨とは反しよう。

 同時に法の運用も緩む。昨年も内閣府の独立公文書管理監からこの問題の指摘を受けていると聞く。管理監は特定秘密の指定や運用などが適正に行われているかどうかを監察する役職だ。

 今回の審査会で気になる場面がある。国会の委員が「一般に認知され、公知であるにもかかわらず特定秘密に指定し続ける理由は」と尋ねたのに対し、政府側は「公知の事実になっていたとしても、具体的部分は特定秘密として保護されるべきだ」。

 これはおかしい。国民には「知る権利」がある。公知の事実なら秘密は解除すべきなのだ。

 国民への情報を閉ざし、官僚による情報支配をすすめる法制度にはやはり反対する。

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迷走する「各のゴミ」最終処分場問題(2017年4月27日中日新聞)

2017-04-27 22:59:32 | 桜ヶ丘9条の会
迷走する「核のごみ」最終処分場問題 

2017/4/27 中日新聞


 原発から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分場の問題が迷走している。経済産業省は昨年末、処分場として適性がある地域を色分けした「科学的有望地」の地図を公表予定だったが、「候補地に決まった印象がある」と反発を招き、断念した。「科学的特性マップ」と名称変更して出直すが、意味合いは同じのため、公表のめどは立たない。そんな中、高浜、玄海原発が再稼働に向けて進む。最終処分場が決まらないまま、「核のごみ」をさらに増やしてよいのか-。

 日本初の商業用原発、日本原子力発電(原電)東海原発が茨城県で運転を始めたのは一九六六年。原発を動かせば「核のごみ」が出る。最終処分場が必要なのは自明なのに、なぜ、この問題は半世紀以上たっても前に進まないのか。

 「政府や電気事業者が、あくまで『立地問題』として処理しようとしてきたことに原因がある」

 「脱原発をめざす首長会議」が二十三日に開いた勉強会で、経産省の放射性廃棄物ワーキンググループ委員でもある東京電機大の寿楽浩太准教授はそう指摘した。「高レベル放射性廃棄物を地層処分にすると決める際、社会的合意を得なかった」のが尾を引いているという。

 原発の使用済み核燃料は再処理し、使えるプルトニウムとウランを取り出す。残りの高レベル放射性廃棄物は溶液にし、ガラスと混ぜて「固化体」にし、地下三百メートルよりも深い地層に埋めて廃棄する。ガラスを利用するのは、安定性が高い物質だからだ。これを「地層処分」と呼ぶ。

 政府は原発導入の当初から、使用済み核燃料の再処理を含めた「核燃サイクル」を目指してきた。だが、再処理後、ガラス固化体に加工して捨てると、法律で規定したのは二〇〇〇年になってからだ。

 法律名は、特定放射性廃棄物の最終処分法。寿楽氏は「衆参両院を合わせて委員会の議論は計九日間にすぎなかった。本来、放射性廃棄物の地層処分そのものについて、国民の間で、広範で明確な合意形成をする必要があった」と話す。

 超長期の管理という問題はあるが、地上施設で保管する方法もある。宇宙に飛ばして廃棄する方法も、ロケットが爆発する危険もあるが、なくはない。なぜ地層処分を選択するのか、議論を深めなければ、先に進めないというわけだ。

 東京電力福島第一原発事故の発生前で、原発の「安全神話」がまかり通っていた。また、原子力利用の初期の段階で、科学者たちが処分を楽観的にとらえていたことも影響している。

 寿楽氏によると、米科学アカデミーが五七年に提示した地層処分の概念は、「廃棄物を液化し、水を通さない岩塩層に直接注入する」。高レベル放射性廃棄物は無害化までに一万年以上かかるのに、「六百年の管理」と非常に甘いものだった。

 では、既に最終処分場の整備を進める北欧の国はどうかというと、「倫理」にも絡むとして、神学者らも議論に加わったという。一方、米国は八七年、ネバダ州のユッカマウンテンを最終処分場にすると法で定めたが、先住民らの反対で、整備はできていない。

 今後、科学的特性マップで事実上、「適性がある」とされる地域は広く示される可能性が高い。「特定の自治体の狙い撃ちではなく、広く多数の自治体での議論を喚起しようとすると思われる。だが、根本的な問題を解決しない限り、放射性廃棄物問題への対処が『前進』をみるとは考えがたい」(寿楽氏)

◆原発再稼働、貯蔵満杯に

 最終処分場問題の迷走ぶりは、原発の再稼働にも影響を与える。

 佐賀県の山口祥義知事は二十四日、九州電力玄海原発3、4号機の再稼働に同意を表明したが、その二日前の二十二日、世耕弘成経産相と県庁で面会し、六項目の要請をした。

 その一つが、「使用済み核燃料対策および高レベル放射性廃棄物の最終処分などのバックエンド対策への取り組みを加速させること」。佐賀県新エネルギー産業課は「県民への説明会で、玄海原発の使用済み燃料の貯蔵場所が満杯になりつつあることへの不安が出ていた」と説明する。

 電気事業連合会によると、玄海原発の貯蔵プールには、九百トンの使用済み核燃料が入っている。残る容量は二百三十トン。九電の担当者は「再稼働し、外部に搬出しなければ、四~五年でプールはいっぱいになる」と話す。

 大阪高裁の運転差し止め取り消し決定を受け、関西電力は六月までに、福井県の高浜原発3、4号機を再稼働させる予定だ。こちらは貯蔵プールの空き容量は五百十トン。玄海原発よりは余力があるが、再稼働を続ければ、いずれは限界がくる。

 それにしても、なぜ、搬出できないのか。使用済み核燃料は、青森県六ケ所村の日本原燃(原燃)の再処理工場に運び、再処理することになっている。その工場は九三年に着工したものの、トラブル続きで二十回以上も完成時期を延期した。一四年に原子力規制委員会の新規制基準の審査を申請したが、いまだ適合していない。

 再処理できないため、工場内のプールには、全国の原発から運び込まれた使用済み核燃料がたまっている。容量三千トンのうち、二千九百六十八トンがうまり、ほぼ空きはない。耐震工事をするため、一七年度、新たな使用済み核燃料の受け入れ予定はない。

 原燃の広報担当者は「ガラス固化体の技術は確立され、技術的な問題はクリアしている。審査に対する一通りの説明は終わり、補正書の提出に向けて動いている」と説明する。現在、一八年度上期の完成を予定するが、果たしてどうなるのか。

 行き場のない使用済み核燃料を一時保管しようという動きもある。東電と原電は〇五年、共同出資で「リサイクル燃料貯蔵」を設立し、六ケ所村に近い青森県むつ市で、両社の使用済み核燃料を空冷方式で中間貯蔵するための施設を建設した。

 容量は三千トン分で、一三年に建設を終えた。だが、この施設もまだ、新規制基準に適合していない。リサイクル燃料貯蔵の担当者は「審査は新規制基準で変更された部分だけと想定していたが、全ての部分で審査を受けているので時間がかかっている」と説明する。中間貯蔵施設が使えるようになるのは、一八年後半の予定だという。

 「核のごみ」の最終処分場の議論も進まないが、その手前の使用済み核燃料の行き場もないのが、この国の現状というわけだ。

 原子力資料情報室の伴英幸共同代表は、最終処分場問題について、「何万年も何十万年も安全を確保しなければいけない。やっかいな放射性廃棄物をこれ以上つくることはやめ、『核のごみ』の総量を確定して対処すべきだ。電気は電気、ごみはごみ、という考え方はもう卒業しなければならない」と指摘している。

 (佐藤大、橋本誠、小坂井文彦)

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迷走する「核のゴミ」最終処分場問題(2017年4月27日中日新聞)

2017-04-27 22:51:27 | 桜ヶ丘9条の会
「小農」こそ生きる道 九州発の学会白熱 

2017/4/26 朝刊

シンポに参加した農家からも具体的な質問が相次いだ=23日、福岡市城南区で
 農業の大規模化を推し進める安倍政権の「攻めの農業」に、異を唱える人々がいる。農家や研究者らがつくる九州発の「小農学会」。経済性優先の発想では日本の農業は壊滅する、と危ぶむ。食の安全や地域の暮らしを守る鍵は、大規模農家とは違った兼業農家にこそあるという。「小農」たちが挑む道とは-。

 「日本では農業の効率化、大規模化ばかりが言われているが、豊かな暮らしをするなら、農業は小さい方が良い。自信を持って生きていこう」

 福岡大(福岡市)で二十三日に開かれた小農学会のシンポジウムで、農民作家の山下惣一さん(80)が力説した。関西や四国など遠方からも百人以上の農家や研究者が詰めかけた会場は、どこか明るい熱気に包まれていた。

 小農学会は、環太平洋連携協定(TPP)を推し進める政府の農業政策に危機感を抱いた九州の農家らを中心に二〇一五年十一月に発足した団体。山下さんと鹿児島大の萬田正治名誉教授が共同代表を務める。

 「小農」とは、経営規模の大小ではなく、家族の暮らしを中心に地域に根ざして営まれている農業を指すという。利潤追求を優先する大規模農業だけを目指しては「日本の農村はつぶされる」との問題意識を共有し、現在、北海道や首都圏も含めて全国に二百十人の会員がいる。

 小農の価値を見直そうと模索するシンポで新たな展開として取り上げられたのが、福岡県糸島市で十四年目を迎えた「井原山田縁(でんえん)プロジェクト」。高齢化が進む集落に点在していた休耕田三ヘクタールを生かし、都市住民と農業をつなげる活動だ。

 事務局の川口進さん(58)は「全人口のわずか2%しかいない農家に『頑張れ』と言っても、残り九割以上の消費者が動かなければ、日本の農山村は守れない」と訴える。

 耕作放棄地が増えた集落で、地域の農家たちと一緒に考えた解決法が、都市住民を巻き込んだ米づくりという。年会費五千円で週末に草取りなど田んぼの手入れをしてもらう家族を募り、一回の手伝いごとに地域通貨で返礼する仕組みで、福岡の都市部を中心に年に百五十家族が登録。

 年を追うごとに人気が高まり、昨年度は延べ二千人が農作業をした。「農業したい人は多いが、土地、技術、知識が必要で、始めるにはハードルが高い。この仕組みなら、みなが『プチ百姓』になれる」と川口さんは提案する。こうした実践を通して、「市民皆農」の可能性が見えてきたという。

 会場の関心も高く、取り組みには「年会費による収入の使い道は」など具体的な運営方法についての質問も飛び交った。

 シンポでは、若い男性から「就農を迷っている。父には『もうからないからやめろ』と言われた」との相談も。「普通に家族で農業ができなくなっている。日本中で起きている問題だ」との声が上がったほか、高知県にUターンして農業に取り組む参加者からも自らの手応えや課題が示され、熱心な質疑が続いた。

◆兼業で守る集落

 シンポでとりわけ熱く語られたのは、兼業農家の可能性だ。

 安倍政権の「攻めの農業」が念頭に置くのは、大規模経営のプロ農家。一五年十一月の国会で兼業農家や小規模農家の保護について問われた安倍首相は「小規模ではコストが高くなるのは当然だ。基本的には大規模化を進める」とはっきり答弁している。

 だが、日本の農家の大半は兼業農家だ。農林水産省の統計によると、一五年の総農家数は二百十五万戸で、うち専業農家(販売金額年五十万円以上)は二割の四十四万戸にすぎない。そのほかは農業所得がほとんどない自給的農家も含めた兼業農家。ちなみに〇〇年の総農家数は三百十二万戸で、十五年間で約七割に減っている。

 「兼業農家をつぶすと集落から人がいなくなる」と心配するのは、シンポに登壇した福岡県福智町の立花智幸さん(61)。

 親子二代の兼業農家で、かつて炭鉱で栄えた立花さんの集落も農家七十一軒のうち専業は六軒のみという。昨年に役所勤めを定年退職し、現在も再任用されて働く傍ら、雑草や害虫をアイガモに食べさせて稲の成長を助ける農法や無農薬栽培に取り組む。

 「農業だけで食べるのは厳しく、経済だけ考えたら他の仕事の方がよっぽどいい」と立花さん。農業の魅力は別にあるという。「除草剤の代わりにカモを放ち、米作りの楽しさに気付いた。自分が食べて、地域でまかなえる分を作るのが小農。食べ物の安全も確保できる」。日本の中山間地では農地の大規模集約はそもそも困難といい「用水路やため池を共同で管理しているのも兼業も含めた集落の農家。兼業をつぶさず、集落に人がいる状況を続けることは、水や環境を守ることにもつながる」と話した。

 農業を巡る状況は厳しい。トランプ米政権はTPPの代わりに日米の二国間交渉を望んでおり、米通商代表部(USTR)代表に指名されているロバート・ライトハイザー氏は農業分野について「日本は第一の標的になる」とも発言。山下さんは「TPPで日本が譲歩したところから交渉が始まるとすれば、米や牛肉が大量に入るかもしれない」と懸念する。

 市場開放を前提にした対応策として政府は「競争力強化」をうたう農業関連法案を今国会に提出している。だが、政府が言う「強い農業」には異論も噴出する。山下さんは「多国籍企業の利益のための農政。それで食の安全は保てますか」と訴える。

 家族で多品種の有機農業を続ける福岡県桂川町の古野隆雄さん(66)も「政府や農水省は、大規模単一化、輸出促進ばかりに目がいって、自給政策に目を向けていない。農家からやりがいを奪っている」と疑問を投げかける。「小農のよさは多様性。自分が食べるあらゆるものを作り、同じものを消費者に届けている」

 古野さんは昨年、畑の雑草を簡単に取れる揺動式除草すき「ホウキング」を開発した。松葉ぼうきをばね鋼などで改良し、野菜より根が浅い雑草を引き抜き、振るい落とすことができる。手で取る苦労を解決する画期的な道具だという。

 「世界を見渡しても、大農なんてわずかで、みんな小農です。これならアジアの農民も手作りできる。どんな環境でもできるオープンイノベーションだ。アイデアを出し仕事を工夫し、おいしくて安全な作物をつくる。農業をおもしろくすることが、小農の生きる希望だ」と笑った。

 萬田名誉教授は、日本の小農の大きな特徴が「兼業ができること」と指摘する。「交通網が発達しているので、農業以外の就業機会が近くにある。体験農園を提供する農家だけではなく、週末に体験する都市住民も『小農』。本当に強いのは多様な小農の方。ここに、日本の農業の可能性がある」と期待した。

 (安藤恭子、木村留美)
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「小農」こそ生きる道 九州の学会白熱(2017年4月26日中日新聞)

2017-04-26 09:21:49 | 桜ヶ丘9条の会
「小農」こそ生きる道 九州発の学会白熱 

2017/4/26中日新聞

 農業の大規模化を推し進める安倍政権の「攻めの農業」に、異を唱える人々がいる。農家や研究者らがつくる九州発の「小農学会」。経済性優先の発想では日本の農業は壊滅する、と危ぶむ。食の安全や地域の暮らしを守る鍵は、大規模農家とは違った兼業農家にこそあるという。「小農」たちが挑む道とは-。

 「日本では農業の効率化、大規模化ばかりが言われているが、豊かな暮らしをするなら、農業は小さい方が良い。自信を持って生きていこう」

 福岡大(福岡市)で二十三日に開かれた小農学会のシンポジウムで、農民作家の山下惣一さん(80)が力説した。関西や四国など遠方からも百人以上の農家や研究者が詰めかけた会場は、どこか明るい熱気に包まれていた。

 小農学会は、環太平洋連携協定(TPP)を推し進める政府の農業政策に危機感を抱いた九州の農家らを中心に二〇一五年十一月に発足した団体。山下さんと鹿児島大の萬田正治名誉教授が共同代表を務める。

 「小農」とは、経営規模の大小ではなく、家族の暮らしを中心に地域に根ざして営まれている農業を指すという。利潤追求を優先する大規模農業だけを目指しては「日本の農村はつぶされる」との問題意識を共有し、現在、北海道や首都圏も含めて全国に二百十人の会員がいる。

 小農の価値を見直そうと模索するシンポで新たな展開として取り上げられたのが、福岡県糸島市で十四年目を迎えた「井原山田縁(でんえん)プロジェクト」。高齢化が進む集落に点在していた休耕田三ヘクタールを生かし、都市住民と農業をつなげる活動だ。

 事務局の川口進さん(58)は「全人口のわずか2%しかいない農家に『頑張れ』と言っても、残り九割以上の消費者が動かなければ、日本の農山村は守れない」と訴える。

 耕作放棄地が増えた集落で、地域の農家たちと一緒に考えた解決法が、都市住民を巻き込んだ米づくりという。年会費五千円で週末に草取りなど田んぼの手入れをしてもらう家族を募り、一回の手伝いごとに地域通貨で返礼する仕組みで、福岡の都市部を中心に年に百五十家族が登録。

 年を追うごとに人気が高まり、昨年度は延べ二千人が農作業をした。「農業したい人は多いが、土地、技術、知識が必要で、始めるにはハードルが高い。この仕組みなら、みなが『プチ百姓』になれる」と川口さんは提案する。こうした実践を通して、「市民皆農」の可能性が見えてきたという。

 会場の関心も高く、取り組みには「年会費による収入の使い道は」など具体的な運営方法についての質問も飛び交った。

 シンポでは、若い男性から「就農を迷っている。父には『もうからないからやめろ』と言われた」との相談も。「普通に家族で農業ができなくなっている。日本中で起きている問題だ」との声が上がったほか、高知県にUターンして農業に取り組む参加者からも自らの手応えや課題が示され、熱心な質疑が続いた。

◆兼業で守る集落

 シンポでとりわけ熱く語られたのは、兼業農家の可能性だ。

 安倍政権の「攻めの農業」が念頭に置くのは、大規模経営のプロ農家。一五年十一月の国会で兼業農家や小規模農家の保護について問われた安倍首相は「小規模ではコストが高くなるのは当然だ。基本的には大規模化を進める」とはっきり答弁している。

 だが、日本の農家の大半は兼業農家だ。農林水産省の統計によると、一五年の総農家数は二百十五万戸で、うち専業農家(販売金額年五十万円以上)は二割の四十四万戸にすぎない。そのほかは農業所得がほとんどない自給的農家も含めた兼業農家。ちなみに〇〇年の総農家数は三百十二万戸で、十五年間で約七割に減っている。

 「兼業農家をつぶすと集落から人がいなくなる」と心配するのは、シンポに登壇した福岡県福智町の立花智幸さん(61)。

 親子二代の兼業農家で、かつて炭鉱で栄えた立花さんの集落も農家七十一軒のうち専業は六軒のみという。昨年に役所勤めを定年退職し、現在も再任用されて働く傍ら、雑草や害虫をアイガモに食べさせて稲の成長を助ける農法や無農薬栽培に取り組む。

 「農業だけで食べるのは厳しく、経済だけ考えたら他の仕事の方がよっぽどいい」と立花さん。農業の魅力は別にあるという。「除草剤の代わりにカモを放ち、米作りの楽しさに気付いた。自分が食べて、地域でまかなえる分を作るのが小農。食べ物の安全も確保できる」。日本の中山間地では農地の大規模集約はそもそも困難といい「用水路やため池を共同で管理しているのも兼業も含めた集落の農家。兼業をつぶさず、集落に人がいる状況を続けることは、水や環境を守ることにもつながる」と話した。

 農業を巡る状況は厳しい。トランプ米政権はTPPの代わりに日米の二国間交渉を望んでおり、米通商代表部(USTR)代表に指名されているロバート・ライトハイザー氏は農業分野について「日本は第一の標的になる」とも発言。山下さんは「TPPで日本が譲歩したところから交渉が始まるとすれば、米や牛肉が大量に入るかもしれない」と懸念する。

 市場開放を前提にした対応策として政府は「競争力強化」をうたう農業関連法案を今国会に提出している。だが、政府が言う「強い農業」には異論も噴出する。山下さんは「多国籍企業の利益のための農政。それで食の安全は保てますか」と訴える。

 家族で多品種の有機農業を続ける福岡県桂川町の古野隆雄さん(66)も「政府や農水省は、大規模単一化、輸出促進ばかりに目がいって、自給政策に目を向けていない。農家からやりがいを奪っている」と疑問を投げかける。「小農のよさは多様性。自分が食べるあらゆるものを作り、同じものを消費者に届けている」

 古野さんは昨年、畑の雑草を簡単に取れる揺動式除草すき「ホウキング」を開発した。松葉ぼうきをばね鋼などで改良し、野菜より根が浅い雑草を引き抜き、振るい落とすことができる。手で取る苦労を解決する画期的な道具だという。

 「世界を見渡しても、大農なんてわずかで、みんな小農です。これならアジアの農民も手作りできる。どんな環境でもできるオープンイノベーションだ。アイデアを出し仕事を工夫し、おいしくて安全な作物をつくる。農業をおもしろくすることが、小農の生きる希望だ」と笑った。

 萬田名誉教授は、日本の小農の大きな特徴が「兼業ができること」と指摘する。「交通網が発達しているので、農業以外の就業機会が近くにある。体験農園を提供する農家だけではなく、週末に体験する都市住民も『小農』。本当に強いのは多様な小農の方。ここに、日本の農業の可能性がある」と期待した。

 (安藤恭子、木村留美)
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