入管法改正検討 人権軽視の姿勢改めよ (2020年9月28日 中日新聞)

2020-09-30 10:15:11 | 桜ヶ丘9条の会

入管法改正検討 人権軽視の姿勢改めよ

2020年9月28日 中日新聞
 国外退去を拒む外国人の長期収容を解消するため、政府は入管難民法の改正を検討している。退去拒否への刑罰導入や難民申請中の送還の一部容認が柱だが、ともに人権軽視のそしりを免れない。
 きっかけは昨年六月、収容施設に三年七カ月も収容されていたナイジェリア人男性がハンストで餓死した事件だ。事件後、法相の私的懇談会が専門部会で長期収容の解消策を議論。それを基に懇談会は七月、法相に改正案の骨子となる提言書を提出した。
 ポイントは二つある。一つは退去命令を拒んだり、収容を一時的に解く仮放免中に出頭しない場合の刑罰の導入。もう一つは難民認定申請中は送還を停止するという規定に例外を設けることだ。
 いずれも「ムチ」優先の考え方で、長期収容の原因を十分に考慮した結論とは思えない。退去対象者の大半は出国している。拒んでいるのは仮放免者を含む約二千八百人(昨年末時点)で、多くは母国で迫害の危険があったり、日本に家族や生活基盤がある人だ。
 以前は在留特別許可などが比較的柔軟に与えられていたが、約五年前から収容政策が厳格化され、収容の長期化を招いている。
 さらなる厳格化で問題が解消されるのか。答えは否だろう。拒否者には日本で生まれ育ち、母国語が話せない人もいる。刑罰が導入されれば、収容施設と刑務所の往復という状況に陥りかねない。
 しかも生活を援助する人までが共犯に問われる危険も浮かぶ。半年以上の収容が見込まれる難民認定申請者に弁護士ら民間の監理(かんり)人を付け、収容を控えるという「監理措置(仮称)」構想も仮釈放の厳格化でしかない。
 一部の難民認定申請者の送還容認に至っては論外だ。問題の本質は「難民鎖国」と呼ばれる日本の難民認定率の低さにある。数十%の欧米に比べ、日本はわずか0・4%。未認定で在留を許す「準難民」制度も検討中だが、なぜ難民認定しないのか。日本は難民条約の締結国であり、迫害の恐れのある人の送還は国際法上の原則に反する。
 政府は一九八〇年代には不法滞在を黙認し「3K(きつい、汚い、危険)職場」に多くの外国人を誘導した。そうした人びとが日本で生活基盤を築いてきた経緯を忘れてはならない。
 いまや介護や農業分野では外国人の働き手が不可欠だ。こうした人びとが人権に疎い国を訪れるだろうか。厳罰化より人権を重んじる入管行政の改革こそが必要だ。

 


「不動産王」手腕に疑問 トランプ大統領、所得税未納報道 (2020年9月29日 中日新聞))

2020-09-29 08:53:01 | 桜ヶ丘9条の会

「不動産王」手腕に疑問 トランプ大統領、所得税未納報道

2020年9月29日 中日新聞
 十一月の米大統領選を間近に控え、トランプ大統領の納税の実態を米紙ニューヨーク・タイムズが特ダネで報じた。事業損失により税を免れる「錬金術」(同紙)に加え、大統領補佐官を務める長女イバンカ氏の会社が連邦所得税回避に関与し、巨額のコンサルタント料を受け取っていた疑いが浮上。「不動産王」を自称し、誇ってきた経営手腕にも疑問符が付く。

■開示拒否

 「完全にフェイクだ」「彼らは(優れた報道をたたえる)ピュリツァー賞を返すべきだ」。トランプ氏は二十七日の記者会見で、自身が就任前に所得税をほとんど払っていなかったと報じたニューヨーク・タイムズ紙を攻撃した。納税書類の開示を拒んで提訴しており「成功を収めた不動産王」が虚像であることを隠そうとする意図は明確だ。
 トランプ氏は二〇〇四年に放送が始まったテレビ番組「アプレンティス(見習い)」に出演し、「おまえはクビだ!」の決めぜりふで人気者に。番組で築いたビジネス界の大物とのイメージを活用して多くのライセンス契約を結び、稼いだ金額は四億二千七百四十万ドル(約四百五十億円)に上った。
 その多くをゴルフ場事業などに投資。商売で磨いた洞察力が政権運営にも生かされると強調してきたが、同紙は「事業から吸い上げるより多くの金を注ぎ込んでいる」と指摘、経営手腕に疑いの目を向ける。

■「錬金術だ」

 一六年に首都ワシントン中心部に開業した高級ホテル「トランプ・インターナショナル・ホテル」は、一八年の損失が五千五百五十万ドル。南部フロリダ州マイアミ近郊のゴルフリゾート「トランプ・ナショナル・ドラル」では〇〇年以降、三億一千五百六十万ドルの損失を計上した。
 トランプ氏は事業で抱えた巨額の損失を申告して、連邦政府への所得税の支払いをほとんど免れてきた。税回避に違法な点があるかどうか現時点では不明だが、トランプ氏は申告、受領した約七千三百万ドルの税の還付を巡って内国歳入庁(IRS)と係争を抱える。
 同紙はトランプ氏の手法を「セレブの立場を使ってリスクのある事業を買収し、損失を巧みに使って税を回避する錬金術」だと評した。

■私物化

 「イバンカ氏のヘアスタイルとメーク担当者代の少なくとも九万五千四百六十四ドルを経費で落としていた」(同紙)。明らかになった税逃れの手法は損失との相殺にとどまらない。
 納税記録によると、トランプ氏は一〇〜一八年、不明瞭な総額二千六百万ドルの「コンサルタント料」も経費に計上。カナダやハワイでのホテル事業で支払われた金額は、イバンカ氏が自身の共同所有するコンサル会社から受け取った金額と一致する。同紙は、トランプ氏が贈与税を回避して、子に資産を移譲していた可能性もあると指摘した。
 政治経験のないイバンカ氏や夫のクシュナー氏を要職に就け、政権を私物化しているとの批判にさらされてきたトランプ氏。今回の特ダネで経営手腕やトランプ家の闇の一端が浮かんだ。
 意図的に巨額損失を出し税を逃れていたのか。「事業でも失敗続きの男」(めいのメアリー氏の暴露本)との指摘が正しいのか。大統領選まで一カ月余り。報道は国民の審判に、どう影響するだろうか。 (ワシントン・共同)

<Q&A> 「仕事の鬼」何度も破産

 トランプ米大統領が、当選前の十五年間のうち十年間も連邦政府に所得税を納めていなかったと報じられました。
 Q 大統領の経歴は。
 A ニューヨークの裕福な家庭で育ち、ホテル経営やリゾート事業を手掛けました。テレビタレントとしても名をはせ「トランプ自伝−不動産王にビジネスを学ぶ」は一九八七年にベストセラーとなりました。
 Q どのように「不動産王」になりましたか。
 A 父親から資金を借りて不動産業を継ぎ、一代で富豪になったと自賛しています。割安物件に投資し、付加価値を上げるスタイルで利益を上げたとされ、カジノ経営にも手を広げました。ニューヨークの高層ビル「トランプタワー」は成功の象徴とされています。
 Q 事業面の評価は。
 A 「仕事の鬼」との声がある一方、事業では何度も破産しています。大統領としての資質を疑われても「(過去の破産は)法を活用して損失を最小に抑えただけ」と意に介しませんでした。
 Q なぜ大統領に。
 A レーガン元大統領に憧れて野心を燃やし、二〇一六年の前回大統領選に出馬。実業界で成功した実績を強調するなどして当選しました。
 Q 金銭面の疑惑は。
 A 過去には両親からの資産贈与を巡る脱税疑惑や、父親からの借金の未返済疑惑などが報じられました。今回は関連企業の損失を申告し税の支払いを免れていたと伝えられています。 (共同)

 


原発輸出戦略 「看板」を書き換えねば (2020年9月28日 中日新聞))

2020-09-28 09:35:06 | 桜ヶ丘9条の会

原発輸出戦略 「看板」を書き換えねば

2020年9月28日 中日新聞
 日立製作所が、英国での原発新設計画から完全撤退することを決めた。原発輸出は政府の成長戦略の柱の一つ。だがもはや、原発に資金は集まらない。世はまさに再生可能エネルギーの時代である。
 日立製作所は、英国西部のアングルシー島に、二〇二〇年代前半の運転開始をめざし、百三十万キロワット級の大型原発二基を建設する計画を立てていた。
 ところが、福島第一原発事故後に必要性が増した安全対策費の急騰により、資金難に陥った。
 総事業費三兆円のうち英政府が二兆円の融資を提示、日立などの出資分には事実上、日本政府が債務保証を付けるという枠組みをつくり、つまりは日英両政府が後ろ盾になるという形で一時は事業の延命を試みた。
 しかし日立は昨年一月、「民間企業としての経済合理性から判断した」として、計画の「凍結」を表明。ただ成長戦略の目玉の一つとして「インフラ輸出」を掲げる安倍政権の意向を背景に「撤退」は先送りにされていた。
 ところがその後、環境や社会の課題解決への配慮を重視するESG投資の世界的な進展もあり、エネルギー事業への投資環境も急速に変化した。
 北海油田の枯渇を憂慮していた英国でも再生エネルギーが急速に普及し、原発の必要性が薄れたこともあり「撤退」に踏み切った。
 新型コロナウイルスの感染拡大による経済の落ち込みによって出資を集めることが難しくなったという見方もあるが、英国での原発建設事業は、とうに「死に体」だったのだ。
 福島の現状を見れば、原発に未来がないのは一目瞭然だが、国策への配慮が撤退時期を遅らせたのではなかったか。
 東芝は既に一八年に、海外での原発事業から手を引いた。三菱重工業もトルコでの建設計画を断念する方向といい、日本の原発輸出は“総崩れ”の状態だ。
 国際エネルギー機関(IEA)の統計によると、日本の再エネによる発電量は、コロナ禍の中でも増えている。脱原発、脱炭素に向かう内外の資金の流れは今後ますます加速するだろう。
 日本は風、太陽、地熱など再エネ資源の豊かな国で、技術的にも高い潜在力を秘めている。菅新政権は、インフラ輸出戦略の看板から速やかに「原発」を削除して、「再生可能エネルギー」に書き換えるべきなのだ。

 


携帯4割値下げできる❔ 法改正後も高止まり続いているのに

2020-09-27 08:53:05 | 桜ヶ丘9条の会

携帯4割値下げできる? 法改正後も高止まり続いてるのに

2020年9月26日 
 
 菅義偉首相が優先課題と位置付ける携帯電話料金の引き下げ。官房長官時代の二年前に「四割程度下げる余地がある」と発言して以来取り組むテーマだが、実際の料金水準は高止まりが続いている。既に法改正などの手は打った状態で、これから国民の期待に見合う値下げを実現していくのは容易ではない。本当にできるのか。こだわり続ける理由を、「選挙のためでは」といぶかる指摘も出ている。 (木原育子、榊原崇仁)
 携帯ショップがひしめく東京・秋葉原。大手三社(NTTドコモ・au・ソフトバンク)や格安スマホ事業者の料金の比較表が、あちこちに並ぶ。福祉系事業所に勤める会社員男性(64)は「バリバリ働いていた頃は料金にそこまで関心がなかったけれど、定年後は家計もシビア。高いな…と目につくようになってきた」と切実な様子だ。
 菅首相が意欲を示す値下げについて、昼休みで散歩中の会社員女性(30)は「携帯料金は高い。本当に安くしてもらえるのなら財布に優しいのでうれしい」と期待。一方で「政治家がいち民間企業の経営に首を突っ込めるのかな。やり玉に挙げられた携帯事業者はちょっとかわいそう」とも話す。
 近くのショップの店員によると、新型コロナウイルス感染拡大で家計を見直す世帯が増え、大手から格安事業者への乗り換えも「ぽつぽつある」という。だが、「通信環境の良さは大手にかなわない。格安事業者の爆発的人気とは言えず、事実上主要三社の独占状態」だそうだ。

もっと急ぐ懸案 他にも

 料金プランの変更に来た千葉県市原市の女性(72)は契約時、動画の見放題や留守電機能などさまざまなサービスが付いたプランに入ってしまい、毎月一万円を超える料金になっていた。「プランがわかりにくい上、若い店員の言っていることがさっぱりで、結局言いなり」。両親を介護している清掃作業員の男性(64)は値下げについて「悪い施策ではないんだろうが、コロナ禍の医療体制、生活保護世帯へのセーフティーネット、高齢者の介護施策など、もっと急がなくてはならない懸案事項がある。分かりやすいウケ狙いでは」と力なく語った。
 値下げに意気込む菅政権の鼻息は荒い。武田良太総務相は十八日、菅首相との会談後、記者団に「一割とかいう程度では改革にならない」とぶち上げている。
 しかし、料金は事実上高止まりの状態だ。総務省の家計調査(総世帯)で、一世帯当たりの携帯電話料金は二〇一二年の年間八万一千四百七十七円から、「四割」値下げ発言があった一八年には十万三千三百四十三円に増加。翌一九年も伸びは鈍化したものの減少には転じず、百二十三円増の十万三千四百六十六円だった。
 昨年十一月公表の総務省のインターネット調査では、携帯電話料金は「安くなってきたか」との問いに、「変わらない」との回答が53%あり、半数以上が実感がわいていない。「料金は安くなっている」と答えた人が25%いる一方、「料金は高くなっている」と答えた人も16%いた。料金プランが「わかりやすくなった」と感じたのは13%、事業者の乗り換えをしやすくなったと思った人は26%にとどまった。
 総務省料金サービス課の川野真稔(まさとし)課長は「料金は各社が決めている」としたうえで、「公正な競争環境を整備することに取り組んでいく」と話す。

選挙見据え「人気取り」

 二〇一八年の「四割値下げ」発言後、政府はどんな取り組みを行ってきたのか。
 昨年十月、改正電気通信事業法が施行され、月々の通信料と端末代金を切り離した「分離プラン」の提供を携帯電話会社に義務付けた。スマートフォン端末を安売りして割高な通信料で回収する料金体系を改めるためだった。
 この法改正に合わせ、二年契約を中途解約する違約金を九千五百円から千円以下に引き下げる新ルールも導入。今年八月には、電話番号を変えずに別の携帯電話会社へ乗り換える「番号ポータビリティー(持ち運び)制度」を巡り、インターネットで手続きした場合は手数料を無料にする方針を決定した。
 とはいえ、携帯電話会社の間で、踏み込んだ価格競争までは生まれていない。ITジャーナリストの三上洋さんは「大半の消費者が、契約する会社や料金プランを変えようとしていないため、顧客獲得の競争が起こらない」とみる。
 「契約する会社を変えると、通信速度が遅くなったり、アフターサービスの質が落ちたりする懸念があるため、『今のままでいい』と判断されている。各社とも料金プランが複雑になっており、消費者側がプラン変更をためらう状況にもなっている」
 今年四月には「第四の携帯会社」として楽天モバイルが参入した。価格競争に一石を投じるかと思いきや、そこには至っていない。基地局の整備が進まず、データ容量が使い放題となる自社回線網が東京、大阪、名古屋の都市部などに限定されていることも関係しているとみられている。

電波料見直し示唆 強硬姿勢

 そもそも政府は携帯電話料金の認可制を一九九五年に撤廃しているため、料金を決める権限はない。「値下げは現実味がない。人気取りのポーズ」と三上さんはみる。
 にもかかわらず、前のめりになってきたのが菅首相だ。二〇一八年の沖縄県知事選では自民系の候補ともども「四割程度引き下げる」と街頭で訴えた。首相就任直前に重ねて意欲を示したが、具体的な手法は挙げず、携帯電話会社が値下げしない場合は「電波(利用)料の見直し」をすると強硬姿勢ばかりをちらつかせた。
 政治評論家の有馬晴海さんは「来秋の自民党総裁選までに成果を残したいのが菅首相の思惑。通信分野は総務相時代に所管しており、他分野と比べれば事情が分かると考えたのだろう。手を付けやすい話という見立てもあるはず。値下げを嫌がる国民はいない。各社次第なので、国の予算を割くわけでもない」と語る。
 思えば、壮大な目標は安倍晋三前首相もいくつも掲げてきた。七年八カ月の在任中に「一億総活躍」「女性活躍」「地方創生」のほか、「介護離職ゼロ」「北方領土問題解決」などと訴えたが、実現の度合いがどうかと言えば、首をかしげざるを得ない。
 そんな安倍路線の継承を訴える菅政権が打ち出した、携帯電話料金の値下げ。やはり実現が困難なのに執着する理由について、政治ジャーナリストの野上忠興さんは「選挙を意識してのこと」とみる。
 「衆院を解散して総選挙で一定の結果を残せば、党内で『菅追認』の流れが出てくる。そうなれば短命で終わらず、長期政権が視野に入る。国民の歓心を買う政策を前面に押し出し、勝負時に備えようという思惑が働いているはずだ」
 その上で野上さんはくぎを刺す。「国民の期待を裏切った時にどうなるか。『山高ければ谷深し』というたとえの通り、支持率急落の憂き目に遭うだろう」

 


運転免許証をマイナンバーカードに「統合」❔

2020-09-24 09:00:38 | 桜ヶ丘9条の会

運転免許証をマイナンバーカードに「統合」?

2020年9月24日 
 
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 小此木八郎国家公安委員長は十七日の就任記者会見で、「菅義偉首相から強い指示があった」として運転免許証のデジタル化推進を表明した。免許証は約八千万人が持つ最も普及した身分証だが、デジタル化するとはどういうことか。透けてくるのは、普及が進まないマイナンバーカードとの一体化により、同カードを事実上強制的に取得させようという政府側の思惑だ。警察と同カードの結び付きは、監視社会を招く恐れはないのか。(石井紀代美、大平樹)

デジタル化指示

 「総理からは特に、運転免許証のデジタル化について強い指示が私にありました」。小此木八郎国家公安委員長は、十七日の就任記者会見でこう明かした。
 「強い指示」という部分に、菅首相の思い入れの強さがにじむ。ちなみに、小此木委員長の父親は、中曽根内閣で通商産業(現・経済産業)相などを歴任した彦三郎氏。横浜市議になる前に彦三郎氏の秘書を十一年間務めた菅首相との関係は近い。
 コロナ禍が続く今年六月、国と地方の行政デジタル化を促進することを目的とした政府の作業部会で、唐突に打ち出したのも当時官房長官だった菅首相。部会の最後で「運転免許証をはじめとする各種免許証や国家資格のデジタル化」を表明した。
 ちょうどこの作業部会の前日には、経産省が「スマホで身分証明」という発表をしていた。運転免許証やパスポートなどの身分証明をスマートフォンのアプリでできるようにする研究が国際的に進んでおり、セキュリティーに関する日本の提案が国際機関から承認された、という内容だ。
 ITと運転免許証の連結という意味なら、すでに現在の運転免許証はICカード化されている。あえて今、菅首相がデジタル化を言うなら「スマホで身分証明」の路線を狙っていると考えてもおかしくない。

利便性も危険も

 だが、運転免許証を所管する警察庁の考えは違うようだ。同庁担当者は「運転免許証の情報をマイナンバーカードのICチップに登録する方法が考えられる」と話す。国民の側のメリットに挙げるのは、住所変更の手間がはぶけること。警察署に住民票を持参しなくても、市町村の窓口での手続き一回で済むようになるという。
 免許証が一体化しても、外見上はマイナンバーカードのまま。顔写真や住所、名前、生年月日は、免許証と同様に記載されているが、免許の有効期限、「中型車(8トン)に限る」や「眼鏡等」といった限定条件は、表面からは消えてしまう。
 「交通取り締まりにあたる現場のために、データを読み取る機器を全国の警察に配備する必要がある。セキュリティー対策も課題で、電子データの不正利用とサイバー空間での悪用が懸念される」と担当者。
 元埼玉県警警察官の佐々木成三さんは「民間企業でも免許を持っているかどうかを確認する場面はままある。外見上、免許証と判別できることは結構重要なのだが…」とマイナンバーカード一体化に首をひねる。
 例えば、配送会社やタクシー会社なら、採用の際、大型や二種の運転免許を持っているかどうか確認が不可欠だが、同カードへ一体化されれば、読み取り装置が必要となる。
 「その際、不必要な個人情報まで抜き取られたりしないのか。その防止策も考えないといけない。金融機関の口座など今後さまざまな個人情報がひも付けされていけば、警察にとっては捜査に便利かもしれないが、危うさも感じる」

利用者 依然低迷

 どうにも唐突感がぬぐえない免許証のデジタル化だが、それでも菅政権が発足直後に前のめりで推し進めようとするのはなぜなのか。ITジャーナリストの三上洋さんは「持っていて便利なことはほとんどないマイナンバーカードだが、政府はなんとか普及させたいからだ」と語る。
 総務省によると、マイナンバーカードの発行枚数は一日現在、約二千四百七十万枚。二〇一六年に発行が始まって五年近くたつが、交付率は国民の五人に一人にとどまっている。
 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、国民一人あたり十万円を支給する「特別定額給付金」では、カード所持者はオンライン申請でスムーズに支給されるとの触れ込みだったが、システムに不具合が発生。紙申請を求める自治体が出るなど大混乱した。三上さんは、こうした事態とカード発行のわずらわしさが低迷につながっているとみる。
 政府は発行数を増やそうと、所持者向けにキャッシュレス決済などに対して最大五千円を還元する「マイナポイント」も九月から始めたが、利用者見込みの四千万人に対して、事前申し込みは八月末時点で約四百六十八万人にとどまる。
 これに対し、運転免許証の所有者数は約八千二百万人で、マイナンバーカードの三倍以上。国民の三人に二人が持つ最も普及した身分証明書だ。マイナンバー法ではマイナンバーカード取得はあくまで任意だが、仮に警察庁が検討している通り、同カードの中に免許証情報が入るとなれば、事実上、運転免許が取りたければ同カードを取得せざるを得なくなる。

常時携帯と同じ

 自治労連マイナンバープロジェクトチーム委員の樋山実さんは「そもそも免許証は更新時に講習がある。オンライン手続きで省ける手間が少なく、デジタル化しても国民側のメリットは薄い」とデジタル化の動機を疑問視した上で、「免許証と一体化されれば、常に持ち歩くことを義務づけられるのと同じ。マイナンバー法の任意取得という原則が揺らぐ。預金口座などマイナンバーにひも付けされる個人情報が増えれば、常時携帯する同カードを落としたりなくしたりした時のリスクも増す」と話す。
 マイナンバーに詳しいプライバシー・アクション代表の白石孝さんは「免許証と一体化して、交付率が80%くらいまで上がったところで発行申請を義務化する法案を出すのではないか。カードを国民全員に持たせようとする大きな仕掛けの一つだろう」とみる。
 白石さんは、カード発行の低迷は、個人情報を政府に委ねることへの警戒感が国民にあるためだと考える。「便利さばかりをうたい、伴うはずのリスクの説明がない。制度の透明性もないのが問題だ」と話す。
 来年三月からは健康保険証としての利用も可能になる。希望者は、健診結果や過去に処方された薬の情報をマイナンバーにひも付けできる。自民党は一六年、マイナンバーカードの利活用推進案で、公金の徴収や滞納整理、ネット投票など幅広い分野での利用を打ち出し、それには今回の運転免許証も含んでいた。自治体情報政策研究所代表の黒田充さんは「全面的な監視社会に進む第一歩だ」と危ぶむ。
 警察官が職務質問をした際、マイナンバーカードを提示させるだけで、過去の犯歴から健康状態まで丸裸にできるようになる−。黒田さんが想像するのはそんな事態だ。「新型コロナの影響で経済状況が悪化すると、治安も悪化するだろう。そんな時に治安回復の対応策として持ち出されれば、強い反対は起きにくい。そうやって国民監視を強めていくのではないか」