丸山衆院議員「戦争で北方領土奪還」強行発言、許す空気 (2019年5月17日中日新聞)

2019-05-17 09:46:09 | 桜ヶ丘9条の会
丸山衆院議員「戦争で北方領土奪還」 強硬発言、許す空気 
2019/5/17 中日新聞

 北方領土を戦争で取り返すことを元島民に質問し、日本維新の会を除名された丸山穂高衆院議員(35)。先の大戦で苦しんだ人々の気持ちを踏みにじっただけでなく、膨大な犠牲を生む戦争の実行を現役の国会議員が示唆した点で過去のあまたの失言とは次元が違う。法的にも軍事的にも非常識で、酒や個人の資質の問題に矮小(わいしょう)化することはできない。背景には同様の動きを見過ごしてきた近年の政治や社会の空気がありそうだ。
 「酔っぱらってたなんて言い訳にならないでしょ。もともと頭の中にあることしか口から出てこないし。戦争を知らないのに軽々しい」
 丸山議員が参加したビザなし交流訪問団で国後島を訪れた木村芳勝さん(84)=北海道根室市=は十五日、本紙の取材に怒りをぶちまけた。
 木村さんは十歳の時、納沙布(のさっぷ)岬の北東約三十キロにある歯舞(はぼまい)群島の志発(しぼつ)島で敗戦を迎えた。一九四五(昭和二十)年九月上旬に旧ソ連軍が島に上陸後、銃を持った兵隊が突然自宅に怒鳴り込み、腕時計などを略奪された。兄二人は強制労働のために連行された。「おっかなくて、おっかなくて。殺されっかど思った」
 島から強制退去を命じられ、樺太へ。その後、函館から根室にたどり着いた。住む家もなく、家族で馬小屋を借り、馬が食べる餌の草の中で寝た。木村さんが体験した「戦争」だ。
 戦後は故郷の返還のため、現地のロシア人と交流してきた。それだけに「私たちが一歩一歩重ねてきたものを台無しにする言葉だ。議員を辞めるべきだ」と言い切る。
 そもそも、戦争は憲法九条で禁じられている。「安全保障の憲法」と言われる国連憲章でも、武力の行使が認められているのは、自衛か国連軍による武力制裁だけだ。
 元海上自衛隊海将で、金沢工大虎ノ門大学院の伊藤俊幸教授は「昔のように宣戦布告が許されていた時代とは違う。そういう世界の常識を国会議員ですら知らないことに驚いた」と話す。
 伊藤教授によれば、武力で北方領土を取り返すことは即、「国際犯罪国家」と見なされる。そして、米国を含む世界中から非難されることになる。日米安保条約に基づく支援など受けられるはずもない。「日本は国連決議に基づいて国連軍の武力制裁を受けることになるだろう」
 軍事評論家の田岡俊次さんは国後、択捉の両島を「ロシアにとって戦略上、重要な地点だ」と説明する。カムチャツカ半島と樺太に囲まれたオホーツク海は、弾道ミサイルを搭載した原子力潜水艦が潜む待機海域であり、米国の潜水艦や哨戒機が入るのを防ぐ防壁の役割を果たす。ロシアは新型対艦ミサイルも配備して守りを固めている。北方領土交渉で引き渡された場合、米軍基地が置かれる可能性を懸念している。
 ロシアは核兵器保有国で、国連安全保障理事会の常任理事国でもある。「軍事力でも政治的立場でも、日本より圧倒的に優勢。もし自衛隊が上陸作戦を敢行すれば、北方領土だけに限定された戦争にとどまるわけがない。全面戦争になり、国内各地の港や飛行場、政治の中枢である首都圏も攻撃を受ける」。おびただしい数の犠牲者が出るのは間違いない。
 丸山議員の発言は異例中の異例だ。政治取材歴六十年の評論家森田実さんは「これほどはっきり、戦争で領土を取り戻すことに触れた政治家は私の記憶にない。議員辞職のみならず、維新が解党しなきゃならないほど。戦前ならまだしも、平和な時代に狂気的な人間が出てきたことがおぞましい」と語る。
 かつてはこうした戦争絡みの失言が厳しく処分され、何人もの閣僚らのクビが飛んだ。八六年には藤尾正行文相が日韓併合について「韓国側にも責任がある」と月刊誌上で発言して罷免された。八八年には奥野誠亮国土庁長官が日中戦争を正当化して辞任した。九四年には、「南京大虐殺はでっちあげ」と語った永野茂門法相や「(日本は)侵略戦争をしようと思っていたわけではない」と述べた桜井新環境庁長官がその座を追われた。九九年には「核武装を国会で検討すべきだ」と発言した西村真悟防衛政務次官が事実上更迭された。
 だが、こうした時代は既に遠くなった。森田さんが理由の一つとして指摘するのは、軍備増強にまい進する安倍晋三首相の登場だ。官房副長官時代の二〇〇二年、早稲田大の特別講義で、核兵器保有は違憲ではないと述べたと報じられた。
 第一次政権時の〇六年には「お友だち」である麻生太郎外相や、自民党の中川昭一政調会長が「(核保有を)議論しておくのは大事」「憲法は核保有を禁止していない」と発言。政権復帰後の一七年には石破茂元防衛相が非核三原則の見直しを求めたことに、菅義偉官房長官が「北朝鮮が挑発を拡大する中、党内で議論するのは自然なこと」と黙認した。
 「そもそも安倍首相は失言や暴言に対する処分が甘い。自ら『任命責任がある』と言いながら何もしない。謝罪して発言を撤回すれば済むという考え方が蔓延(まんえん)している」と森田さん。
 「勇ましい」発言が出る背景は他にもある。防衛問題に詳しいジャーナリストの布施祐仁さんは「ネット右翼のように過激な発言や極論を喝采する層がおり、今回のようにタブーに踏み込む言葉が評価される」と話す。右派には北朝鮮に対する強硬路線が支持されてきた面がある。「北朝鮮拉致被害者は自衛隊で救出を」という訴えまであり、「さらに踏み込んだのが丸山議員だった」。
 強硬発言の下地はそれだけではない。安倍政権は昨年末に閣議決定した防衛計画の大綱で、海上自衛隊の護衛艦「いずも」の事実上の空母化を明記。日本海から北朝鮮内陸部まで届く長距離巡航ミサイル「JASSM」の配備も盛り込んだ。
 ステルス戦闘機F35、陸上自衛隊が新設した離島防衛の専門部隊「水陸機動団」も含め、敵基地攻撃につながる軍事強化が進められている。布施さんは「日本は強い、何でも力で解決できると思い込む人が増えている」と話す。
 丸山議員は経済産業省の出身だが、軍事力の強化は経済界に利益を生み出す側面もある。独協大の西川純子名誉教授(経済史)は「戦争は武器製造などを手掛ける企業を潤す。軍産一体化が進む米国では待望論があるほど。日本でも成長戦略と結びつけ、軍事大国化を望む人もいるだろう」とみる。だが、「日本は武器開発で技術的に遅れている。この領域で他国に対抗していくのは幻想にすぎない」と強調する。
 「戦争の果てに何があるかは多くの犠牲が出た先の大戦が示す通り。平和を享受し続けるには近隣国とさらなる友好関係を築くしかない。改めて今必要なのは無謀な戦争を顧みることであり、それを無視した発言を許してはならない」
 (石井紀代美、榊原崇仁)



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1 コメント

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どこのドイツ (ガーゴイル)
2020-08-26 23:18:23
令和タケちゃんは丸山穂高がどこを戦争で取り返すか知らないでいっていても応援する。買収という手段があるのに。令和タケちゃんは戦争に参加したいだけ。世界の戦争はアフガンやイラクやウガンダで起きていることが多いよ。別の場所と間違えてしまっていることが多いけど。戦争好きな人はアフガンやイラクやウガンダに行ってみるといいよ。ただ令和タケちゃんは戦地でも逃げる自由は欲しいんだって。当たり前だよね。

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