残業代ゼロ法案 連合は反対を貫き通せ(2017年7月28日中日新聞)

2017-07-28 08:27:20 | 桜ヶ丘9条の会
残業代ゼロ法案 連合は反対を貫き通せ 

2017/7/28 中日新聞
 いわゆる「残業代ゼロ法案」をめぐり混乱していた連合が従来通り反対の立場に戻ったのは当然である。働く人の側に立たないのなら連合の存在意義はない。ぶれずに法案成立阻止に全力を挙げよ。

 以前は「ホワイトカラー・エグゼンプション」、現在は「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」に名称を変えたが、対象となる人の労働時間規制をなくし、残業代なしの過重労働となるおそれがある制度に変わりはない。

 制度が問題なのは、成果を出すために働き続け、成果を出したらより高い成果を求められ、際限なく過重労働が続くおそれがあることだ。労働時間の規制対象外なので過労死が起きても会社の責任を問えない可能性も指摘される。

 他にも問題だらけである。今回の法案は二年前に労働基準法改正案として国会に提出されたが、国民の反対が根強いこともあり、ただの一度も審議されていない。

 制度ができてしまえば年収要件の引き下げや職種の拡大が進むであろうことも容易に想像できる。今は「年収千七十五万円以上の専門職」が対象だが、経団連の当初の提言は「年収四百万円以上」と一般の会社員も想定していた。

 連合は一貫して反対してきたはずである。執行部が組織内で十分な議論を重ねないまま独走し、条件付きで容認する考えを安倍晋三首相に伝えたのは背信といえる行為だ。容認撤回は当然で、地方組織や全国の労働者に動揺を与えたことを猛省すべきだ。

 政府の強引さにもあらためて憤りを覚える。連合も参加した政府の働き方改革会議が三月末にまとめた「実行計画」には、連合が悲願としてきた「残業時間の上限規制」を盛り込む一方、高プロ創設も早期に図るとの一文を入れた。

 政府は「残業時間の上限規制」と高プロを一体で審議することを譲らず、いわば残業規制を「人質」に高プロ容認を連合に迫った格好だからだ。

 連合執行部は、安倍一強体制では反対しても法案は成立してしまうという。しかし、政権の支持率が危険水域に近い状況で、国民の反発が強い「残業代ゼロ法案」を強行に採決できるだろうか。弱体化した政権に塩を送るような対応は政治センスを疑う。

 労働界代表として働く人の健康や暮らしを守る極めて重い使命を自覚しているならば、残業代ゼロというあしき法案は身を挺(てい)しても阻止すべきだ。

「加計」集中審議 信頼性欠く首相の答弁(2017年7月26日中日新聞)

2017-07-26 08:08:15 | 桜ヶ丘9条の会
「加計」集中審議 信頼性欠く首相の答弁 

2017/7/26 中日新聞
 「加計学園」問題をめぐり、安倍晋三首相が過去の答弁を修正した。つじつまが合わなくなったためだが、修正で済む話ではない。首相の答弁は信頼性を欠く。真相解明の手綱を緩めてはならない。

 学校法人「加計学園」による愛媛県今治市での獣医学部新設計画を首相がどの時点で知ったのか。

 それを解明することは、公平・公正であるべき行政判断が「首相の意向」や、官僚による忖度(そんたく)で歪(ゆが)められたか否かを判断する上で、重要な要素となる。

 首相は二十四日の衆院予算委員会で加計学園の計画について、政府が獣医学部新設を認める事業者を同学園に決定した今年一月二十日に「初めて知った」と述べた。

 民進党議員に「答弁が偽りなら責任を取って辞任するか」と迫られ「首相として責任を持って答弁している」と胸を張った答弁だ。

 しかし、この答弁は過去の答弁と明らかに矛盾する。

 首相は以前、獣医学部を今治市に新設したいという加計学園側の意向を知った時期を問われ、次のように答えているからだ。

 「安倍政権になってから、国家戦略特区に今治市とともに申請を出した段階で承知した」(六月五日、参院決算委員会)

 「構造改革特区で申請されたことについて私は承知している」(六月十六日、参院予算委員会)

 首相はきのう参院予算委員会で「急な質問で混同した」と釈明した上で、過去の答弁を修正し、計画を知ったのは一月二十日だと重ねて主張した。

 しかし、にわかには信じ難い。学園の加計孝太郎理事長は、首相が「腹心の友」と呼ぶ三十年来の友人だ。第二次安倍内閣発足後、判明分だけで十五回、食事やゴルフを共にしている。加計氏側から全く言及がなかったのか。

 首相は自らの関与や加計氏への便宜供与を否定するために無理な答弁を重ねているのではないか。つじつま合わせでころころ変えるような首相の答弁を、そもそも信頼するわけにはいくまい。

 衆参両院で二日間にわたった集中審議で、政府側の参考人は個別の面会や発言内容については「記憶がない」「記録がない」との答弁を繰り返した。首相が言う「丁寧な説明」には程遠い。

 このまま幕引きは許されない。加計学園による新設認可をいったん見送るとともに、憲法に基づく野党の要求に応じて臨時国会を召集し、真相解明を進めるべきだ。加計氏の証人喚問も求めたい。


国民の目は厳しく 揺らぐ「安倍一強」(2017年7月25日中日新聞)

2017-07-25 08:45:32 | 桜ヶ丘9条の会
国民の目は厳しく 揺らぐ「安倍一強」  

2017/7/25 中日新聞
 「安倍一強」の構図が揺らぎ始めた。自治体選挙で示され続ける「自民党敗北」は、安倍内閣の下での信頼回復が険しいことを示しているのではないか。

 いくら自治体の選挙だとはいえ安倍晋三自民党総裁(首相)には厳しい結果だったに違いない。

 自民党の東京都議選での歴史的大敗に続き、仙台市長選でも党県連などが支持した候補が、民進党県連などが支持し、共産党県委員会などが支援する候補に敗れた。

 二週間前の奈良市長選でも、自民党推薦候補は惨敗している。

 仙台市長選から一夜明けた二十四日、菅義偉官房長官は記者会見で、「極めて残念」としながらも「直ちに国政に影響を与えるとは思っていない」と強調した。

自治体選挙では連敗

 自治体選挙では、それぞれの地域の事情や政策課題が優先して問われるのは当然だが、東京都や、仙台などの政令指定都市、奈良のような県庁所在地など大きな自治体では、政権に対する有権者の意識が反映されるのも事実である。

 共同通信社が今月十五、十六両日に実施した全国電話世論調査によると、安倍内閣の支持率は前回六月の調査から9・1ポイント減の35・8%と、二〇一二年の第二次安倍内閣発足後で最低となった。二月時点では61・7%と高水準にあり急激な下落だ。

 一連の自治体選挙の結果は、全国的な世論動向の反映と見た方がいい。安倍政権は「自民党敗北」を地域の事情だと矮小(わいしょう)化せず、安倍首相による政権や国会運営に対する厳しい批判だと、深刻に受け止めるべきである。

 「安倍一強」とされてきた政治状況がなぜ揺らぎ始めたのか。

 それは、現行の日本国憲法を含む民主主義の手続きを軽視もしくは無視する安倍政権の態度が、有権者の見過ごせない水準にまで達したためではないのか。

民主主義手続き軽視

 一五年には憲法学者ら専門家の多くが憲法違反と指摘したにもかかわらず安全保障関連法の成立を強行し、今年の通常国会では参院委員会での採決を省略する「中間報告」という強引な手法を使って「共謀罪」の趣旨を含む改正組織犯罪処罰法を成立させた。

 強引な国会運営に加え、政権不信の要因となったのが、衆院予算委員会できのう、国会閉会中の集中審議が行われた学校法人「加計学園」による愛媛県今治市での獣医学部新設問題である。

 これまで認められてこなかった「岩盤規制」の獣医学部新設を、国家戦略特区制度に基づいて首相主導で認めるという手法だったとしても、加計学園の理事長は首相が「腹心の友」と呼ぶ人物だ。

 首相がいくら「個別の案件について一度も指示したことはない」と釈明しても、自身が認めるように「私の友人にかかわることなので、国民から疑念の目が向けられることはもっともなこと」だ。

 公平・公正であるべき行政判断が「首相の意向」を盾に歪(ゆが)められたと疑われることがあってはならない。関係者の証言も食い違う。

 ならばいったん加計学園による新設認可を見送り、他大学による獣医学部新設計画を含めて、学部新設や定員増の必要性を検証し直してはどうか。民主主義は、結果はもとよりその過程も重要だ。

 安倍内閣は、野党による憲法五三条に基づく要求を無視せず、臨時国会の召集に応じて、進んで真相解明に努めるべきである。

 政権不信のもう一つの理由は稲田朋美防衛相を擁護する態度だ。稲田氏は都議選応援で「防衛省・自衛隊として」自民党候補を支援するよう呼び掛けた。

 自衛隊を政治利用し、行政の政治的中立性を著しく逸脱する憲法に反する発言であり、都議選大敗の一因ともなった。撤回すれば済む話でもない。南スーダンPKO部隊の日報隠蔽(いんぺい)問題と合わせ、野党の罷免要求は当然である。

 しかし、首相は罷免要求を拒否している。稲田氏の政治的立場が首相に近く重用してきたからだろうが、憲法に反する発言をした閣僚を擁護するのは、憲法を軽視する首相自身の姿勢を表すものだ。

 来月三日にも行う内閣改造での交代で済ませてはならない。

批判集約へ選択肢を

 首相が今後いくら丁寧な説明や政権運営に努めたとしても、憲法軽視の政治姿勢を改めない限り、弥縫(びほう)策にすぎない。「安倍政治」の転換は、首相自身が進退を決断しないと無理かもしれない。

 世論調査結果が示すとおり、安倍内閣継続の大きな要因は「他に適当な人がいない」からだ。都議選のように受け皿さえあれば批判票は集約できる。

 来年九月には自民党総裁選、十二月までには衆院選がある。そのときまでに「安倍政治」に代わる選択肢を示せるのか。与野党ともに存在意義が問われている。

「核は違法」世界に発信 禁止条約採択(2017年7月9日中日新聞)条約要旨

2017-07-24 08:42:34 | 桜ヶ丘9条の会
「核は違法」世界に発信 禁止条約採択 

2017/7/9 中日新聞

 核兵器の開発や使用を国際的に違法とする核兵器禁止条約が七日、米ニューヨークの国連本部で採択された。広島と長崎への原爆投下から七十二年。被爆者は核兵器の非人道性に焦点を当てた念願の条約誕生に沸いたが、米国など核保有国と核の傘に頼る日本政府は即座に「条約に署名しない」と表明。北朝鮮による核開発の脅威が高まる中、核抑止力を重視する保有国と、非保有の条約推進国との分断の深刻さが浮き彫りになった。

◆意義

 制定交渉のホワイト議長(コスタリカ)は「交渉推進の根本的な要素になった」と被爆者の貢献を評価。条約の前文に「核兵器使用による被害者(ヒバクシャ)の受け入れ難い苦しみと危害に留意する」と明記したのも、被爆者が歩んだ苦難の歴史から核兵器の非人道性を際立たせるためだ。

 前文と二十条からなる条約では、開発や実験、製造のほか、核抑止力を意味する「使用するとの威嚇」も禁じられた。大きな爆弾から子爆弾をまき散らすクラスター弾など、国際法で既に非人道的な兵器として禁じられている兵器と同様、核兵器も違法との明確なメッセージを世界に発することが条約の最大の狙いだ。

◆分断

 しかし、採択後、日本の別所浩郎(こうろう)国連大使は記者団に「保有国、非保有国の信頼関係の構築が大事。この条約交渉はそうした姿で行われたものではない」として、日本は条約に署名しないとの方針を明言した。

 「被爆者の言葉は重い」(別所氏)としつつ交渉に参加さえしなかった日本政府。米国の核の傘による安全保障に軸足を置きすぎるあまり、肝心の被爆者の思いを踏みにじる矛盾があらためて鮮明になった。

 核を保有する米英仏三カ国も共同声明で条約を批判。交渉不参加の北朝鮮による核開発を引き合いに「アジアの平和維持に不可欠な核抑止政策と両立しない」と主張。条約と真っ向から対立する姿勢を示した。

◆実効性

 双方の対立が先鋭化する一方で、条約は核保有国の今後の参加も想定。実戦配備から外し廃棄計画を示した保有国の条約への参加や、条約発効後の締約国会議に非締約国がオブザーバー参加できる規定も設けた。

 核拡散防止条約(NPT)による核軍縮が進まないことに不満を持ち、禁止条約を主導してきたオーストリアの代表者は「採択は始まりにすぎない。保有国に加盟を求めていく」と強調。保有国の協力が得られなければ、核廃絶の最終目標の実現はかなわない。

 非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」の川崎哲(あきら)国際運営委員は「保有国は核兵器が正当でないとみなされるのが困る。条約は圧力になっている」と指摘。保有国が核を廃棄せざるを得ない国際世論を盛り上げていけるかが成否のカギとなりそうだ。

 (ニューヨーク・東條仁史)

◆核兵器禁止条約の要旨

 ▽核兵器の使用により引き起こされる破局的な人道上の結末を深く懸念し、核兵器が二度と使われないようにするためには、全廃こそ唯一の方法と認識する

 ▽核軍縮は倫理的責務で、緊急に「核兵器なき世界」を達成しなければならないと認識する

 ▽核兵器使用による被害者(ヒバクシャ)、核実験に影響された人々の受け入れ難い苦しみと危害に留意する

 ▽いかなる核兵器の使用も武力紛争に適用される国際法の規則、人道法の原則に反していることを考慮する

 ▽核軍縮の遅い歩みに加え、核兵器への継続的な依存を懸念する

 ▽核拡散防止条約(NPT)は核軍縮と不拡散体制の礎石として機能している

 ▽平和、軍縮教育を普及させ、現代および将来の世代に核兵器の危険性を再認識させる

 ▽核兵器廃絶という目標達成に向けたヒバクシャの努力を認識する

 ▽核兵器の開発や実験、製造、保有、貯蔵を禁止する

 ▽直接、間接を問わず、核兵器の移譲を禁止する

 ▽核兵器の使用や使用するとの威嚇を禁止する

 ▽核開発や核実験などの活動に援助したり、勧誘したりすることを禁止する

 ▽被爆者や核実験で悪影響を受けた個人への医療ケア、リハビリ、心理的な支援を十分に提供する

 ▽条約の締約国は核兵器の実験や使用により自国が汚染された場合、環境改善に向けた支援を要請できる

 ▽条約発効から一年以内に国連事務総長が第一回締約国会議を招集し、その後は二年ごとに会議を開く

 ▽事務総長は発効から五年後に条約の再検討会議を招集し、その後は六年ごとに開く

 ▽締約国でない国もオブザーバーとして締約国会議、再検討会議に出席できる

 ▽今年九月二十日にニューヨークの国連本部で条約への署名を始める

 ▽条約は五十カ国が批准して九十日後に発効する

 (共同)

大間原発、建設巡り10年の攻防(2017年7月22日中日新聞)

2017-07-22 09:22:57 | 桜ヶ丘9条の会
大間原発、建設巡り10年の攻防 

2017/7/22 中日新聞


 本州最北端の青森県大間町で、大間原発の建設反対を十年近く訴え続けている人たちがいる。プルトニウムとウランの混合酸化物(MOX)燃料だけで発電をする仕組みの世界初の原発。コストは割高で、安全面での不安は大きいとの見方があるが、電源開発(Jパワー)が建設を続けることには理由がある。大間原発が頓挫すれば、政府が掲げる核燃料サイクル政策も頓挫するからだ。将来の原発政策に大きな影響を与える大間での市民たちの闘いの行方は-。

 「二〇〇八年五月三十一日、建設が開始された。反対集会は十回目だが、めでたくはない。十年やってきて建設中止に追い込めなかった。慚愧(ざんき)に堪えない」

 十六日正午すぎ、反対集会冒頭で、実行委員会事務局長の中道雅史さん(61)はそう切り出した。ステージ後ろのフェンスの向こうは大間原発の敷地だ。

 「大間は核燃サイクルの要。我々は『反核』の最前線にいる」

 強い雨の中、数百人が各地から集まり、「大間原発大間違い」と書かれたTシャツ姿の人も。続いて、北海道函館市在住の大間原発訴訟の会代表、竹田とし子さん(68)がステージに立ち、「福島の緊急事態は終わっていない。大間は何としても止めたい」と訴えた。

 ここから海を挟み函館までは約二十三キロ。大間原発三十キロ圏内では、青森県と北海道の人口は約一万人でほぼ同じだが、五十キロ圏内は、青森約九万人に対し、北海道約三十七万人。過酷事故が起きれば、道南地域の被害はより大きい。

 危機感から、函館市は一四年、国とJパワーを相手取り原発建設差し止めを求めて東京地裁に提訴した。「国策」の原発に対し、自治体が提訴する初のケースで、全国の関心は高い。

 竹田さんらが工事の差し止めなどを求めて提訴したのは、福島第一原発事故前の一〇年七月。MOX燃料だけで発電する「フルMOX」の安全性と、周辺の活断層の有無が争点となり、先月三十日に結審した。来年三月までに判決が出る見通しだ。

 原告には、青森県民も参加する。大間町の元郵便局員、奥本征雄さん(71)はその一人だ。「原発マネーは人々の心を分断し地域を壊してきた。大間の将来を守りたい一心で反対している」と話す。

 ただ、「反対」を口にする人は多くない。「大間のマグロ」など海産物豊かな漁業の町。かつては漁師たちも反発したが、十年以上前に漁協がJパワーと漁業補償で合意し、目立った反対運動は町から消えた。

 国や県からの原発関連の交付金は昨年度までで総額百一億円。学校や病院、消防などの整備運営に充てられた。町の財政難から、大間原発の早期完成を求める声も根強い。一月の町長選では、原発推進の現職が「脱原発」を訴える候補らを抑えて四選を果たした。

 だが、奥本さんは言う。「大きな産業のない過疎の町で、表だって反対できない人が多いのも仕方ないがお金より安心できる暮らしの方が大事じゃないか」

 大間町議会が原発の誘致を決議したのは、一九八四年。当初は、MOX燃料を利用する新型転換炉「ふげん」(福井県)の後継炉をつくる予定だったが、費用面で断念した。九五年、一般的な原発を改良したフルMOX型の原発を建設することに決まった。

 建設工事はまだ半分も終わっていない。福島の事故後、原子力規制委員会の新規制基準ができたため工事を停止。その後に工事は再開されたが、新基準に関係する原子炉建屋などの工事は進んでおらず、原子炉の搬入もまだだ。運転開始時期ははっきりしない。

 それでも、政府が大間原発にこだわる理由がある。

 日本は現在、原発の使用済み核燃料から抽出したプルトニウムを国内外で、約四十七トンも保有する。原爆の原料として使えるため、余剰に保有していると、「核兵器開発」への疑念を世界から持たれてしまう。

 政府は六〇年代以降、「核燃サイクル」構想を立ち上げ、運転によってプルトニウムを増やす高速増殖原型炉もんじゅ(福井県)の実用化を目指した。その計画は度重なる事故で頓挫。二〇〇〇年代以降は既存の原発で、ウラン燃料にMOX燃料を混ぜて使う「プルサーマル」発電を本格化させた。

 ただし、プルサーマルで、炉心に装填(そうてん)できるMOX燃料は全体の三分の一が限度。プルトニウムはなかなか減らない。その点、フルMOXの大間原発が稼働すれば、年間一・一トンのプルトニウムを消費できる。

 つまり大間原発はプルトニウム消費の「切り札」的な存在だが、フルMOX型の原発は世界初で、技術的な問題が少なくない。

 原子力資料情報室の松久保肇氏はこう指摘する。「MOXは通常の燃料より高発熱で、温度管理が難しい。原子炉の停止は既存の原発より困難。放射線量も高く、事故が起きた場合、既存の原発をはるかに上回る被害が出かねない」

 Jパワーは原子炉の停止手段を増強する対策などを施すというが、「MOXを三分の一利用するプルサーマルでも制御は難しい。そんな難しいフルMOXを、原発を手掛けるのが初めてのJパワーに任せて大丈夫なのか」と松久保氏。

 九州大の吉岡斉教授(科学史)も「MOXの使用済み燃料は放射線量が高く、運搬すら難しい。大間で百年以上、管理できるのか」と疑問視する。

 大間原発の反対集会で、最後に壇上に立った古村一雄・青森県議はこう発言した。

 「(建設を)止めさせるには、もう一度、福島のような大事故を経験するか、選挙でやめさせるか、二つしかない。私は後の方を選択したい。皆さんと一緒に、政治勢力を立ち上げていくことができればと思っています」

 (小坂井文彦、安藤恭子、三沢典丈)