『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  100

2019-08-30 05:24:33 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスは、少々の間をエドモン浜頭の屋敷の中庭で過ごす、庭では季節の花が咲きほころびかけている。
 しばし、庭の花に見とれて時を過ごす、オキテスにとって忙中の閑のひと時である、庭の草花で心のなごむ時を過ごす。
 エドモン浜頭が姿を見せる。
 『おう、オキテス殿、待たせたな』
 『いえいえ、そうでもありません』
 『俺らの腹が決まった!応接の間に行こう。話し合う』
 『ありがとうございます』
 『礼を言うのが早すぎはしないか。いい返事ではないかもしれないぞ!』
 『浜頭殿、おどかしはなしです。私は信じているのです。これは双方にとって、とってもいい話のはずです』
 『そうかもな、だなーーー』
 二人は、話し合いながら応接の間に戻る、テムノス浜頭が微笑んでいる、目にとめるオキテス、二人の浜頭の息の合い方が『あ』『うん』である
 応接の間の席に就くと同時にその雰囲気を感じとる、事は為ったと安堵で胸をなでおろす。
 エドモン浜頭が声をかけてくる。
 『おう、オキテス殿、戦闘艇1艇を預かって営業に資する』
 『エドモン浜頭殿、この件の承諾、ありがとうございます』
 エドモン浜頭と目を合わせるオキテス、手をさしのべる、握る浜頭。続けて、テムノス浜頭のほうに体を向ける、手を差し出す、目を合わせる、握手を交わす。
 『浜頭殿、固い言葉でしたね』
 『ハッハ!オキテス殿、チョッピリ固い言葉を使ってみたかったまでだ。申し入れの件承知した。預かる戦闘艇だが力イッパイ営業に使う!以上だ』
 『いい成果に結びつくよう祈ります』
 『おう、このあと、昼の食卓を囲んで詳しいことを話し合おう。艇の引き渡しは、いつに予定している?そういったこともその時に話し合う』
 テムノス浜頭が話しかけてくる。
 『おう、オキテス殿、二人で話しあってだな、この機会にこれを足掛かりとして、我々なりに船舶の事業体を整えようと考えている』
 『ありがとうございました。戦闘艇は、きちんと整えて、明日、引き渡させていただきます。戦闘艇及び新々艇の説明書き一式を添えて渡します。営業担当のイラクス殿の強い要望もありますので』
 『おう、そうか。了解した。決断即の実行、気に入った』
 彼ら三人は、想いつくまま事業の未来に向けての展開を話し合う、エドモン浜頭の心づかいの昼食を共にしながら歓談する。
 エドモン浜頭がオキテスに話しかけてくる。
 『おう、オキテス殿、この件について集散所とも話し合う。そのうえで約束事の打ち合わせもしなければならない。10日後くらいになると思うがニューキドニアに出向く』
 『解りました。私のほうでも、その手筈を整えます』
 戦闘艇を1艇を預託して、エドモン浜頭、テムノス浜頭、二人の浜頭が目論む、計画する事業展開がオキテスのまぶた裏に見えかくれする。
 オキテスは、両浜頭と話を終え、都合を打ち合わせてエドモン浜頭の屋敷を辞した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  99

2019-08-29 04:41:26 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 今日、ここにおいて二人の浜頭と話し合う談合に失敗してはならない案件である。
 どのように話を進展させるか、思案のしどころである、その落としどころについてオキテスは脳漿をしぼる。
 話のすすめ具合を真剣に考える、両浜頭に丁重な目線を運んで話し始める。
 『日ごろは、皆様方に大変世話になっています。ありがとうございます。新しい暦が始まりました。新しい時の始めになって、人々の気持ちも新しい希望に燃える時でもあります。私どもも新たな気持ちで仕事に取り組んでいます。つきましては、今日、話しする案件は、私どもが展示試乗会に使っている戦闘艇を両浜頭の手元に預託して、日々の営業活動に使用してもらいたいと考えています。如何なものでしょうか?』
 話を聞いたエドモン浜頭がオキテスの申し入れに驚きの声をあげる。
 『何っ!戦闘艇1艇を俺らに預けるから、それで船舶の営業をやれとな!とんでもない申し入れだな』
 オキテスは、エドモン浜頭の驚きを目にする。
 このクレタ島には存在していない商いの仕組みである。
 エドモン浜頭がテムノス浜頭と目を合わせる、テムノス浜頭がエドモン浜頭を見返す、一瞬、緊迫した雰囲気となる。
 『テムノス浜頭、どう思う?』
 エドモン浜頭の問いかけの返事を待つことなくオキテスが機を見て言葉をかける。
 『常時、客の要望に応じて、試乗を行い商談の締結をする、いいカタチで営業活動をしてもらえると考えています』
 テムノス浜頭が声をかけてくる。
 『オキテス殿、うまく言うな。客との取引にこの仕組みでやれば、有利に商談交渉ができるというのかな』
 『私どもは、そこまで押しつけがましい気持ちは持っていません。今日、会場設営の仕事をしている時にですな、営業担当のイラクス殿の話によると、この船舶の営業に大変な意欲を持っています。営業の結果を出して浜頭の期待に応えたいと言っています。その手伝いをこのカタチで報いることができればと考えています』
 エドモン浜頭が口を開く。
 『ほう、イラクスがそのようなことを言っているか』と言って、オキテスと目を合わせる。
 エドモン浜頭がテムノス浜頭にオキテスに聞こえない小声で耳打ちをする、オキテスに話しかける。
 『オキテス殿、この件について、二人だけで話し合いたい。少しの間、席を外してもらえるかな』
 『解りました。席をはずします』
 エドモン浜頭が席を立って、オキテスを中庭に案内する。
 エドモン浜頭とテムノス浜頭が応接の間で相談に及んだ。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  98

2019-08-28 06:31:28 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 展示試乗会の会場設営の仕事を進めながらも、オキテスの念頭にあるのは、今日の三者による案件の話し合いである。
 彼は、埠頭に入港してくる船に注意を払っている。
 来た、2本帆柱の見慣れた船型の船が入港してくる、テムノス浜頭の船である、オキテスがその風景を目にとめる、埠頭に向けて駆けだす、船を下りて埠頭に立つテムノス浜頭を迎える。
 『ようこそ!テムノス浜頭殿!』
 『おう、オキテス殿、来たぞ!』
 『多忙にかかわらず来ていただき、ありがとうございます。今日、浜頭が来られることをエドモン浜頭殿に伝えてあります。よろしく願います』
 『おう、オキテス殿、三人で話し合う、そのような重要な話なのか?』
 『はい、そのように心していますが』
 テムノス浜頭とオキテスが顔を合わせる。
 『そうしていただければ、幸いです』
 『よし!エドモン浜頭の屋敷に行こうか。ここでの展示試乗会の状況はどうだ?』
 『いま、スタートしたばかりですが、客足の出足がいいように思われます』
 『ほう、そうか。それは何よりだ』
 オキテスは、イラクスに伝える、場を離れる。
 テムノス浜頭に同道してエドモン浜頭の屋敷へと歩を進めた。

 二人がエドモン浜頭の屋敷の戸口に立つ、オキテスが声がけをする、エドモン浜頭が姿を見せる、戸口に立つテムノス浜頭と目が合う。
 『おう、テムノス浜頭、ようこそ、来てくれた、さあ~さ、こちらへ通られよ!チョッピリ、久しぶりというところかな、元気だあったかな?』
 『おう、ありがとう。元気、元気!浜頭こそ元気でしたかな?』
 『おう、元気そのものだな。暦があらたまって何かと忙しい!』
 互いに言葉をかけながら屋敷内の応接の間へと歩を運んでいく、すすめられるままに三人が席に腰を下ろす。
 『夕べのことだがオキテス殿から重要な相談事があると持ちかけられてな』
 エドモン浜頭が間を取る、向かい合って座している二人と目を合わせる。
 『テムノス浜頭に話を通してあるのかを質したところ、まだだという。しかし、今日、こちらへ来ていただくよう要請してあるというではないか』
 『そうでしたか、もう4日前になるが、俺のところで展示試乗会を催行した折にオキテス殿から、話し合いたいからイラクリオンに来てくれと頼まれた次第だ。仕事の目鼻もついた、じゃ、久しぶりに出かけるかということで、来たようなわけだ』
 『そうか、そういうことか。相談事の内容についてオキテス殿から聞いたのか?』
 『いや、聞いてはいない。あまりに熱心に頼むものだから、ここに来ることを承知したまでだ』
 『ほう、そのような次第か、いいだろう。二人がそろった、オキテス殿、その話を聞こうではないか』と言って、エドモン浜頭が鋭いまなざしでオキテスと目を合わせる。
 オキテスは、話の進め方を頭の中で組み立てている。
 二人の浜頭を前にして、緊張した面持ちで口を開いた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  97

2019-08-27 05:18:58 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアス新暦の第6日目の朝が明ける。
 朝明けが早くなってきている、浜が朝行事で喧騒を極めてきている。
 アエネアス、イリオネス、パリヌルス、オロンテス、ドックスの5人が浜で顔を合わせる、彼らが今日を打ち合わせる、彼らの気合の入った今日がここから始まる。
 オロンテスが一番に打ち合わせて場を去っていく、続けてイリオネスとドックスが打ち合わせる、イリオネスとパリヌルスが打ち合わせる。
 打ち合わせが続く、パリヌルスとドックスが打ち合わせる。
 『ドックス、心得た!朝一番から建造の場に詰める。諸事の手配をする』
 『パリヌルス隊長、軍船の浜の諸準備できていますね?』
 『おう、出来ている!仕事にかかる体制が整っている』
 『ガリダ方から用材の荷受けを終えたら、早速、軍船の浜で仕事にかかります。担当する者らを連れていきます』
 『了解!』
 朝行事の浜での打ち合わせが終わる、散会する、朝食が終わる、業務に携わる者らの朝がスタートする。

 昨日、マリア集散所での展示試乗会の業務を終えたオキテスは、イラクリオンの浜においてエドモン浜頭の営業責任担当のイラクスと展示試乗会の会場設営に取り掛かっている、程なく会場が整う。
 イラクスがオキテスに話しかけてくる。
 『オキテス殿、浜頭と話し合いました。今年は何としても20艇は売りたい。その意気込みで仕事をやる!』
 『そうですか、よろしく願います』
 『浜頭からも言われている。どのように仕事を展開させて、結果を出すか?浜頭の期待を達成したいと思案している』
 『そうですか、イラクス殿、貴方の思案で大丈夫、結果が出ます』
 『準備されているあの販促の物、船の説明書き、あれはいい、見こみ客がついてきてくれている』
 『あの説明書きが有効な働きをしていますか?』
 『あれがあることで客と話がしやすい、役立っている』
 『今日、準備してきた販促物の全てを差しあげる心づもりでいます』
 『それはありがたい』
 『ところで、今日ですが、レテムノンからテムノス浜頭が見えます。テムノス浜頭が見えたら、エドモン浜頭と話し合いをすることになっています。私は場を離れます。よろしく願います』
 『解りました』
 イラクスとの打ち合わせが終わる。
 来客の姿が見え始める、接客が始まる、イラクスが応対する、オキテスも接客する、試乗艇に客を乗せる、試乗艇がイラクリオン沖へと向かう。
 オキテスは、レテムノンからのテムノス浜頭の到着を待った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  96

2019-08-26 05:04:29 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、オロンテス、ごくろう!』
 『はい、統領!』
 『おう、オロンテス、待ったか?』
 『はい、少しばかりです。今日の成果を報告します』と言って、木札を入れた袋をテーブルの上におき、イリオネスと目を合わせる、口を開く。
 『今度売り出したスペッシャルパンですが、考えていた以上に客受けが良く、いつもより多めに持ちこみましたが完売しました』
 『おう、そうか。それはよかった、重畳といえるな』
 『ありがとうございます』
 『オロンテス、お前、何かあるのか?いつもの元気がないな』
 『はい、軍団長から言われている、ペロポンネソスの海岸から西の海岸線図ですが入手は無理です。スダヌス浜頭のほうから連絡がありました。また、集散所のハニタス殿の方からも、それの入手はあきらめた方がいいと連絡がありました』
 『そうか、がっかりだったな。お前に大変な苦労をさせたな。オロンテス、気を落とすな!それがなくとも安心航海を続ける段取りをしている。昨日だが統領とも充分に話し合いを尽くした。その計画を練りに練った。線図の件だが、もう、その件はなかったものとしてくれていい。肩からその荷を下ろせ』
 イリオネスは、航海に関する不安を完全には捨てられずにいる。なれども、その不安をオロンテスに感じさせることはできない、オロンテスと交わす言葉には、不安を感じさせないように気を配る。
 『軍団長、ほんとにそれでいいのですか?』
 『おう、それでいい。オロンテス、盲目者、蛇に怖じずじゃよ。西への航海を続ける、行く着く先は、さいはてのヘラクレスの柱ではないか、そこまでいったら引き返す。苦難の末に行く着く建国の地は、幾千年、未来に続く建国の地だ。方角時板、空に瞬く荷車の星(こぐま座)、それらを頼りにひたすら西に向けて航海する。目標達成に自信を持ってだ。以上だ。今日はごくろうであった』
 『それを聞いて安心しました。スダヌス浜頭からは、ここ三、四日の間に、クレタからペロポンネソスへの沿岸航海の線図を届ける旨の連絡を受けています』
 『ほお~っ!そうか、それはよかった。受け取ったら、心を込めて礼を言ってくれ。それで安心の船出ができる。それはいい知らせだ!ありがたい』
 オロンテスはイリオネスとの話し合いを終える、安堵する、会所をあとにする。
 話の一部始終を聞いていたアエネアスがイリオネスに声をかける。
 『軍団長、オロンテスからの一報いい知らせではないか、喜ぼうではないか』
 『そうですな、まずは安心の船出です』
 『軍団長、航海の目的の完遂、お前の心情を理解した。いま、オロンテスにいったことは、お前の本音だな、よくぞ、信念を持ってくれた、ありがとう。これで後事を託す者らのことを真剣に考えてやれる』
 『そうですね。了解しました。多難なれども良き結果ありです。望みを達するまで慎重配慮を持ってこれにあたる、脚下照顧、一歩前へです』
 イリオネスの言葉は、捨てきれない不安、薄れゆく不安、増えつつある自信の言動である。
 宵が深まってくる、二人を包む闇がくらい、会所にいる二人の男、手をガッシと握り合っていた。
 

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  95

2019-08-23 04:58:58 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 折からの太陽が親水の浜を茜の光でオレンジ色に染め始める。
 最終の試走を終える、アエネアスが親水の浜に降り立つ、完成艇の試走に参加した者ら、そして、建造の場の者らが統領を迎える、彼らから拍手が起こる。
 アエネアスが彼らの面前に立つ、一同と顔を合わせる、彼らに声をかける。
 『おうおう、諸君!』場を見まわす、彼らと目を合わせる。
 『おう、一同!ご苦労であった!諸君らが日々に労苦と精魂を尽くして造り上げた全艇の親水と試走を終えた。全艇が満足できる完成度である。技術の限りといい船造りの精神で丹精して造りあげた船に大いなる誇りを持ってくれ!そして、いつの日にか、これらの船が使ってくれる人らに届く、君らが造りあげた船は誇るべき至上最高の船である!』
 アエネアスが言い終わる、場にドッと喊声があがる、親水の浜が沸く。
 ドックスがアエネアスに近寄る、面前に立つ、口を開く。
 『統領、本日は、完成艇の親水、試走に参加いただきありがとうございました。そのうえ、建造の場の一同にいい言葉をもらいありがとうございました。我々にとってこの上ない励みになります。重ねて礼を言います。私どもは、これからもいい船造りに心を尽くしていきます。本日はありがとうございました』
 ドックスが丁寧に言い終える、場に拍手が起こる、浜にいる全員が手を打っている、拍手がマックスに達する。
 アエネアスは、安心と満足の表情で一同と交歓する。
 ドックスは、船台の場で講評会を開く、統領、軍団長も出席する、出席者が試乗した感じを忘れないうちに開く講評会としたい目論見である。
 パリヌルスをはじめ操船担当のコマンデス、操舵担当のダトルス、帆張りを担当した者ら8人を加えて総員14名でドックスが主役をを務め、パリヌルスをアドバイザーとして他の12名の講評を聴きとる。
 ドックスがパリヌルスに声をかける。
 『パリヌルス隊長、講評会参加者からの講評が集まりました。本日中に評価を検討しておきたいと考えています。夕めし後にこの船台の場でやります。よろしく願います』
 『おう、了解!』
 ドックスが一同に声をかける。
 『統領、軍団長、そして、一同、講評会にの参加、ありがとうございました。もらった講評を検討して、全ての艇を再点検のうえ、修正すべきを修正して全艇を完成させます。ありがとうございました』
 一同からの拍手である、講評会を閉じる。
 ドックスが場を去るアエネアスとイリオネスを見送る。
 一同がそれぞれの持ち場に戻って行く、浜に宵のとばりが下りようとしている。
 アエネアスら二人が会所に着く、オロンテスが待っていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  94

2019-08-22 07:04:06 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 操艇担当のコマンデスの声が艇上にとぶ。
 『漕ぎかた櫂をとれっ!漕ぎかたはじめ!』
 櫂が海を泡立てる、出来立ての艇が波を割り始める、小島の南端を目指して進む、小島の南端を過ぎる1スタジオン、各所に白ウサギが跳んでいる、艇の進行方向を北へと転じる。
 コマンデスが風の具合を読む、波割りのしぶきが艇上の者らの顔を洗う、程なく小島の北端を過ぎる、2スタジオンくらい北上したところで東へと方向を転じる、声がとぶ。
 『全帆、帆張り!』
 帆張りの担当が声に応じる。
 『オウッ!』と声をあげる、手早く帆張りを終える、『帆張り完了!』の声があがる、声が風に飛ぶ。
 風をはらむ4枚の帆、続けてコマンデスが声をかける。
 『漕ぎかた!櫂をあげっ!』
 やや強めの西風を帆にはらみ艇は走る、快走といえる走りである。
 ドックスが注意深く方向転換時の操舵効果、帆張り航走状態、艇の外部抗力に対する反応具合等をチエックしている。
 パリヌルスに声をかける。
 『パリヌルス隊長、艇の走行感はどうですか?』
 『おう、グッド!グッド!申し分ない』
 艇が小島の北岸を過ぎる、艇は南東方向に進行方向を転じて進む。
 コマンデスの声がとぶ。
 『帆張り下段帆のみで進め!』
 艇が下段帆のみの走行に移る、ドックスが走行状態を厳しくチエックに及ぶ、パリヌルスも斜め後方からの風を受けて、2枚帆で走行する艇をチエックする。
 下段帆2枚、艇の進行方向に対して右斜め後方向からの風を受けての走行具合を注意深くチエックする。
 艇は、こころもち左舷を沈めて波を割って走行する。
 パリヌルスがドックスに声をかける。
 『ドックス、斜め後方からの風を受けての走行をこのようなカタチで詳しくチエックしたことはない。いつもの航走でこんなものかと体感しているに過ぎない』
 『そうですか。これによって、船の持っている直進性、船が傾いたときの船の持っている走行姿勢の復元する力を知ることができます』
 『ほう、そうか。言われてみれば納得できる。ドックス、お前は大した思考力で船を造っている!大したもんだ』
 『パリヌルス隊長、これは私の想像ですが聞いてくれますか。それは遠い未来のことになりますが、帆張りの仕方走行、帆のカタチによって、向かい風に向かって帆張り走行ができる日がキットくるかもです』
 『ドックス、お前、我々が想像もしないことを言うな』
 『いやね、私の想いでは、そのような帆走技術が確立する日がくるかも知れないということです』
 『そうかもな。帆のカタチが四角だけではないからな』
 二人が話している間に試走艇が親水の浜に帰り着く、次の試走艇に乗る、試走コースを走って、全艇の試走チエックを終える。
 でっかい茜に燃える太陽が西の水平線上にさしかかっていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  93

2019-08-21 07:32:33 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ドックスと打ち合わせを終えたイリオネスがパリヌルスに声をかける。
 『パリヌルス、聞いての通りだ。多忙が続く、日の経っていく日足が速い、出航の日が迫る。計画に齟齬のないようにとり計らって、業務を進めてくれ』
 『はい、解りました』
 『用件は以上だ。統領と二人で食す昼めしもうまいが、4人で食す昼めしはうまかった』
 その一言に場の一同がうなずく、パリヌルスとドックスが会所をあとにする、持ち場へと戻って行く。
 二人の去ったあとアエネアスら二人は歓談して時を過ごす。
 アエネアスは、あの忌まわしいトロイ戦役のことを思い出す、とつとつと語る。
 『なあ~、イリオネス、今、俺は、あの戦役のことを忘れたい!忘却の彼方へ捨て去りたい。思い出さない日をおくれればいいと考えている。何をいまさらこの期に及んでだ!』
 『そうですか。思い出す、考える、それをしたくないと言われるのですか。簡単でもあり簡単でもない。私はそのように考えます。そんなこと難しいことではありません。多忙であればあのような過去は頭の片隅にも浮かんできません』
 『俺もそのような日々を送りたい、そのような日々でありたい』
 『統領、あと10日も経てば、そのようなこと思い出すことがなくなります。ただただ、ひたすら明日を考える日が来ます』
 『そうか、ひたすら明日を考えるか、解った』
 ドックスからの連絡が会所に届く。
 『統領、軍団長、完成艇の試乗走行を開始します。親水の浜へ来てください』
 『おう、了解!早かったな』
 二人が立ちあがる、親水の浜へと歩を運ぶ、
 一同が二人を迎える、ドックスが二人を案内する出走準備の整っている1番艇に乗艇する。
 各艇の試乗走行は小島まわりのコースである。
 ドックスは統領らにも試乗評価を依頼する。
 『おう、引き受けた』
 彼らは、5艇を第1艇から順に乗艇して評価する。5艇全艇の乗艇に及んで評価するのである。
 アエネアスとイリオネスは艇の前部に座す、パリヌルスとドックスは艇尾の舵座の近くに座をとる。
 舵座には操舵担当のダトルス、艇の中央には操艇を担当するコマンデス立っている。
 ドックスがコマンデスに声をかける。
 『コマンデス、どうだ風の具合は?』
 『はい、小島の沖にはいい西風が吹いています。上首尾が期待できます』
 『よしっ!出走してくれ』
 コマンデスが艇上の漕ぎかた連中に向けて指示の声をあげた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  92

2019-08-20 04:32:52 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ドックスが統領らに歩み寄る、声をかける。
 『あっ!統領、来てくださっていたのですね。気づくことなく作業をしていました。5艇の親水を終えました。各艇の担当責任者への修正指示をも終えました。午後半ば頃から各艇の海上における走り具合を見て親水作業を終える段取りです』
 『おう。ドックス、ごくろう。親水点検の作業風景を見た。これまでに何度か見ているが、根を詰めてみたのは久しぶりであった。午後に予定している走行具合の点検だが、俺も艇に乗る。軍団長、お前も同乗するか?』
 『乗ります。ドックス、そういうことだ』
 『はい、解りました』
 傍らにいるパリヌルスのほうにドックスが身体を向ける。
 『パリヌルス隊長、いま、聞かれた通りです。各艇の試走の件、よろしく願います』
 『おう、了解、了解!』
 イリオネスがドックスに用件を伝える。
 『おう、ドックス、それからだが、打ち合わせておきたい用件がある。この頃合いだ、会所のほうで昼食を食べながらやる。昼を一緒にしよう』
 『解りました。頃合いになったら会所のほうに行きます』
 『おう、待っている。パリヌルス隊長、昼を一緒にしよう。午前中の用件を済ませたら会所のほうへ来てくれ』
 『解りました』
 アエネアスとイリオネスが親水の浜をあとにする、二人は会所におちつく、はどなく昼食の時となる、四人の顔がそろう昼食が始まる。
 今日の親水に関する話題が交わされる、話が展開する、話題が尽きる、昼食が終わる。
 『大変、馳走になりました』とドックスが礼を述べる。
 イリオネスがドックスに顔を向ける、目を合わせる、まなざしが鋭い。
 『ドックス、打ち合わせたい用件が3件ある。ガリダ方から用材到着の件、派遣されてくる製材担当者の件、それに加えて、我々が出航後におけるこの浜の運営についての要諦に関する件だ』
 『どの件も大切な用件ですね。浜の運営の要諦の件ですが、軍団長が予定されているスケジュールは?ですが。私の日々の業務予定に合わせて決めていただければ幸いですが』
 『おう、その件についてだが、第一次として、明日から3日間、毎日となるが午後半ばころからの時間を割り当ててやりたいと考えている』
 『そうですか、それだったら、時間都合がつきます』
 『よしっ!ならばそれでやろう。ところでガリダ方からの建造用材、軍船の改造用材等の納入予定はどうなっているかな?』
 『その件については、第一荷の受け入れ予定が明日です。午前中にその作業が終わります。また、ガリダ方からの派遣製材担当は第一荷とともに来ることになっています』
 『そうか、解った。業務のほうは、予定通りに進捗すると考えていいな』
 『はい、予定通りの進捗で業務を進行させます』
 『了解!打ち合わせ用件は以上だ』
 イリオネスは、ドックスとの打ち合わせの一切を終えた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  91

2019-08-19 06:59:46 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスとイリオネス、二人は予定の打ち合わせを終える。
 『軍団長、予定の打ち合わせに時間を食ったな。空腹を感じる、朝めしにしよう』
 イリオネスがテーブルを整える、パンに手を伸ばすアエネアス、イリオネスがアエネアスに杯を手渡す、ブドウ酒のハチミツ割りを注ぐ、二人は急いた風情で朝食を終える、アエネアスが立ちあがる、声をかける。
 『軍団長、行こう!』
 『はいっ!』
 二人は、完成5艇の親水の浜へと歩を運ぶ。
 建造した完成艇を海に浮かべる、水に親しませる、浮かんだ艇のバランス、水上においての艇の浮かび具合その均衡を点検する、不具合がないかの点検である、これを見て艤装、構造を点検して、修正等の作業を行うのである。
 ドックスの作業段取りにより建造の場の全ての者らがこの作業についている。
 彼らの掛け声が浜に響く、アエネアスらが親水の浜に到着したころには、すでに2艇の姿が洋上のある。
 ドックスが木板を小脇に抱え持ち、船台に責任者らを引き連れて各艇の点検をしている。
 何事かをしきりに木板に書きつけていく、船台の責任者らとは口をきかない、黙々と点検を進めていく。
 親水作業が進む、程なく、5艇全艇が洋上にその雄姿をそろえる。
 この風景を目にしてアエネアスの気持ちが高揚する、イリオネスに声をかける。
 『おう、軍団長!たまらんな!俺は感動の頂点だ。お前はどうだ?』
 『いい風景です。私も同感です』
 イリオネスの対応は、実務者としての冷静な対応である。
 ドックスが各船台の責任者に指示をする。
 各艇の定めている人員が艇上の定めた位置、部署に就く。
 ドックスが再び各艇を点検チエックする、海上に浮かんでいる状態を綿密に点検する。
 それが終わる、ドックスの凛とした声が洋上を走る。
 『各艇!帆張り!』
 各艇の帆柱に帆が張られる、帆張り作業中の艇の揺れ具合にも注意している。
 各船台の責任者らがドックスからの指示を待っている、ドックスが声をあげる。
 『1番艇の責任者これへ』
 『はいっ!』ドックスが木板を手渡す指示をする。
 『2番艇の責任者これへ』木板を渡し指示をする、最後の5番艇までの指示を終える。
 『一同これへ』と告げる、一同がドックスの面前に並ぶ、一同に向けて声を発する。
 『一同!一か月にわたっての建造作業ご苦労であった。艇は、よくできている、再点検、修正に係わる点が少ない。総責任者として安堵している。木板には再点検の事由を記してある。それに基づいて各艇を点検して修正の作業を行ってくれ。本日、午後半ばころより洋上における走行具合を点検して、親水状態の点検を完了する。以上だ』
 『はい!了解しました』と船台の責任者らが声をそろえて返事を返す。
 ドックスは、さらに大声をあげて浜にいる建造の場の総員に向けて声をかける。
 『建造の場の一同!大変にごくろうであった』
 親水の場に会している一同から拍手が沸く、歓声が浜を震わせる。
 一連の作業を終えたドックスが、進水の浜に立って情景を見守る統領らに気づく、ドックスは歩み寄った。