『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1464

2019-01-31 05:15:49 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスとオキテス、二人が座から立ちあがる、場から去ろうとしている。
 船舶売り出し展示試乗会の結果を受け取った彼らが全く気付かない事象が働いていることに気づいてはいない。
 世の中の事象の変化である、船舶使用者らの欲求の変化、需要増、船舶に関係する事業者らの活動状況が活発化しようとしている市場動静に気づいてはいない。
 エドモン、テムノス、二人の浜頭の動静である。
 彼らの活動は、現在のところ市場の動静として受け取られてはいない。
 彼らは、彼らなりの才覚でクレタ島島民の人情を読み、手を打っている。それがイリオネスやオキテスには見えていない、彼らに見えなければアエネアスやパリヌルスに見えるわけがない。
 市場動向の察知ができていない、未来も読めていない、チンチロリンのサイコロ賭博の賽の目読みの見通しで造船事業を遂行している。古代における事業運営のミステリアスな態様である。
 エドモン、テムノス、二人の浜頭は、世の中の動向を彼らなりに読み取っている。
 一つは、船の使用者らの欲求が小型船から航海安心度の高い中型船に移っていることを察知している。
 もう一つは、造船事業を手掛けたアエネアスらのクレタ島における今後はこうなるであろうという動向を彼らなりの才覚で感じとっていたことである。
 
 船舶売り出し展示試乗会を終えた数日後、エドモン浜頭とテムノス浜頭がクノッソスの集散樹で顔を合わせる、集散所の営業担当のクラッソスと話し合う。
 『おう、両人!先日は大変ご苦労でしたな。今回、開催した船舶売り出し展示試乗会の成果が目を見張る結果であったな。ようやったといった、いい成果ではないか、おめでとう!よかったよかった』
 『そうですな、開催そのものが時を得た開催であったと私らは考えています』
 『ようこそ、やってくれました。集散所として両人に礼を言う。事後のことは、受注した船の引き渡しが完了した時点で話し合おう。それでいいかな』
 『解りました。それでいいです。よろしく頼みます』
 三人は顔を合わせうなずき合った。クノッソス集散所のクラッソスが場から去っていく。
 エドモン浜頭がテムノス浜頭に話しかける。
 『なあ~、浜頭、今回の船舶売り出し展示試乗会の成果だが、お前と俺の読みが当たった。いや、的中した将来が来る、その確証を得た、そんな感じがする売り出しであった』
 『エドモン浜頭、貴方の言う、その確証を得たことは間違いない』
 『そこでだが、もう一つ、お前の言っていた予想も的中するかもしれんぞ!その時はその時で考えよう』
 『そうですな』
 二人は目を合わせる、考えと想いが通じ合う、静かに笑いを交わした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1463

2019-01-30 05:50:00 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスの話が続く。
 『オキテス、お前がやっている営業活動だが、話し相手が浜頭である、彼らはひとかどの人物であり、海千山千の人物たちである。世の中の甘いも酸いもよく知っている。それ故に老獪でしたたかである。そういうわけだから、自分の利を計ってムダをしない。心するのだな。人当たりのよさそうなところを見せて、内面に怖いものをひそめ持っていると考えて当たればいい』
 『そういうものですか』
 『オキテス、物事の局面に対して、読みが浅かったり、甘かったりしたら足をすくわれる。そうは思わんか』
 『なんとなくわかります』
 『相手と手を携えて物事をやる、相手と息が合うとか合わないとか、息づかいだな、そこで働かせるのが気働きだ。息づかいを感じ取り、機微をつかみ、間をとったりして一気にタタミこむ。気迫の勝負だ。このあたりが勝負のしどころだな。相手を立てて、こちらの考えているところに誘い、物事を決着する。交渉ごとのまとめどころだ!オキテス、理解してくれたかな』
 『統領の説明で理解しました。そのあたりを数をこなして慣れていきます。勉強になりました。ありがとうございました』
 アエネアスの説くところは、交渉ごとのむつかしさを説いている、耳にした者らにとってもいい教訓であった。
 オキテスが口を開く。
 『次回催行をする展示試乗会は引き合いの受注化を目指しての開催であり、10月度に完成した船舶を在庫艇と合わせて納入しようと考えています。その打ち合わせをしたいと考えています』
 『おう、そうか、了解した』
 一同は会議を終えての打ち合わせを終える。頃合いは午後の半ばに到っていた。
 この時代の事業の進め方については、成文化されたものはない。事業を行うにあたって、機序を重んじて順序よく遂行されていたらしいことがうかがわれる。時間をかけて想像の領域からはみ出ることなく、約束が守られ誠意ある取引きが自然体で為されていたと推考される。
 一同は散会して、アエネアスとイリオネスが会所におちつく、アエネアスがイリオネスに語りかける。
 『なあ~、軍団長、今回催行した船舶売り出し展示試乗会のことだが、オキテスの事前打ち合わせの実行が結果の出る状況を招き、その結果を獲得したといえる。お前の感触はどうだ?』
 『統領の言われる通りです。事前の営業活動をしたればこそ、招き寄せた成果と言えます。私が特に感じるのは、イラクリオンとレテムノンにおける成果が期待以上のものであったことです。どことなく不思議な力の作用を感じています』
 『そうか、オキテスの業務遂行力と、プラス、不思議な力の作用か!いい結果とは、そういうものかもしれんな』
 二人は、その結果の何故かを考えても確かな答えを得ることができない不思議と言うほかがない結果として受けとめた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1462

2019-01-29 09:08:49 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ニューキドニアの浜が朝を迎える。陽の昇る刻が近づく、浜の者らが続々と朝行事の浜に集まってくる、彼らの交わす声が騒々しい。
 彼らが交わす話題は、オキテスらが催行した船舶売り出し展示試乗会の快挙である。
 オキテスが浜に姿を見せる、浜にいる者らが手をたたき始める、手たたきがリズムを持ってマックスとなり、乱打となって盛大な拍手と化す、沸きあがる。
 アエネアス、イリオネスが来る、浜に集う一同から、拍手と歓声が沸きあがる。
 イリオネスとオキテスが顔を合わせる、パリヌルスとオロンテスも姿を見せる。
 全員が拍手と歓声の中で顔を合わせる、アエネアスがイリオネスとオキテスに目配せを送る、二人は、手をかざして集っている者らと交歓を交わす、浜の朝行事の一時が沸きに沸いた。
 オロンテスがパリヌルスに声をかける。
 『おう、パリヌルス、あれだな、快挙を祝して祝いの競技大会でもやるか、統領にはかってみてくれ!俺は出航の時だ行く』
 『解った』
 拍手と歓声に沸いた朝の一刻が終わる、彼らは朝食を済ませる、作業が始まる。
 アエネアスらが会所に落ち着く、受注と艇の納入、それに関する建造計画について考える。
 パリヌルスとオキテスは、アエネアスらとは異なったスタンスで事態への対応策を考える。
 彼らの一日は多忙に暮れていった。
 
 会議の朝を迎える。
 彼らは、会議の場において、事態の展望と対処を協議検討する、オキテスはこれからの営業の展望について語る。
 パリヌルスは建造の対応について述べる。
 アエネアスは、会議の顛末を見て結論を急ぐことはないとして、一日をおいて明後日に会議開催を告げる。
 『君らの考えには事態への対処に対して的確性が十分ではない。一同解ったな!この会議で結論は出さず、明後日の会議において結論を出す。建造計画と受注した艇の引き渡しを確定する。その結論を持って、各関係筋と話し合いの航海に出る。いいな』
 『解りました』
 『オキテス、関係筋と話し合って、次回の展示試乗会の催行を決める。その段取りで関係筋と話し合いをすることだ。いいな』
 『了解しました』
 会議は結論を出せないまま終える。
 オキテスがアエネアスにたずねる。
 『統領、教えていただきたいことがありますが。俺の考えに如何なる不備があるのかを教えていただければ幸いですが』
 『そうだな、この事態に関連して、お前の都合だけで営業計画が立案されていることだな。事の流れを充分に把握して計画しないと事の運びが絵空事で終わってしまうということだ』
 アエネアスがひと呼吸間をおく、オキテスの表情を見る、話し続ける。
 『人がどのように考えて動くかということを知ることだ。そのために関係筋がどのような動きをするかを聞くことだな。謙虚にふるまい対処する、これが引き合いが受注につながっていく。それが俺の思いだ』
 オキテスは、船舶と言う大きい買い物についての事の動きと人の心の動きについて、また、その業務に携わる関係筋の働きかけと効果に思いを馳せた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1461

2019-01-28 08:14:43 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスが話を終える、オキテスがパリヌルスに話しかける。
 『おう、パリヌルス、例の販促ツールを使用した今回の船舶売り出し展示試乗会だが、客受けが非常によかった。試乗した客が、あの販促ツールと首っ引きで操作感と試乗感を確かめる。そしてだな、戦闘艇と新々艇の2種類の船だ。客の船選びに大いに役立った』
 『そうか、それはよかった。それを聞いて肩のコリがとれた』
 『前に催行した展示試乗会に比べると、客の注目喚起に大いに役立ったというわけだ。それが結果に結びついていったのではないかと考えられる結果であった』
 『販促に効果があったとはな、うれしい限りだ』
 二人は手を握り合う。
 キドニアから帰ったオロンテスが会所に顔を見せる。
 『只今、帰りました。軍団長、このたびはご苦労でした。いい結果でした、喜びを申し上げます。キドニアでオキテスから結果を聞いたとき驚きでした。重畳!何よりです』
 『おう、オロンテス、ありがとう。俺の働きではなくオキテスの働きだ。オキテスを、よいしょ!と誉めてやってくれ』
 オロンテスがオキテスと顔を合わせる。
 『おう、オキテス、今回の船舶売り出し展示試乗会の重畳なる結果、はなはだご苦労であった。上々の結果、大義であった。誉めてつかわす!』
 『はっは、オロンテス、お前の誉めにあずかり、ありがとうございます』
 『お~お、重畳重畳!』
 二人はうなづき合い、笑い合う、笑顔を合わせる。それだけではおさまらない、手を握り合い、肩を抱き合った。オキテスの半月、いや1か月にわたる労が報われたのである。
 夕陽が海を茜に染める、浜には、今日の作業終了の時がおとずれている。
 アエネアスが一同に声をかける。
 『おう、どうだ、ここで一同、夕食を一緒しないか?』
 『いいですね、やりましょう』
 話は即座に決まる。オキテスが声をあげる。
 『あのう、私ですが、半月も留守にしていました。建造の場の者らと夕食を一緒したいと考えているのですが』
 『おッ!、そうだな。そうしてやれ。終わったら、ここへ戻って来い』
 『解りました。ありがとうございます』
 『おう、営業の声がけが板についた返事だな!ハッハッハ!』
 和やかな言葉のやりとりでオキテスを場から送り出す。
 建造の場に向かうオキテス、建造の場の者らが拍手でオキテスを迎える。懐かしみを込めた言葉と声音で一同に声をかける。
 『おう、お前ら元気であったか?船の注文をもらってきたぞ!一時も早くお前らに会いたかった』
 『このたびの快挙!おめでとうございます』
 場が、拍手と歓声で沸きあがる、彼ら一同が和気あいあいで夕食の時を過ごす。
 夕食を終えたオキテスが会所へ戻る、会所の一同がオキテスを迎える、あらためてオキテスに酒をすすめる。
 快挙を成し遂げたイリオネスとオキテスの無事帰還の小宴を終えた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1460

2019-01-25 07:16:43 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスとドックスが顔を合わせる、オキテスがドックスの話に耳を傾ける、うなづく、話を聞き終える。
 オキテスが船舶売り出し展示試乗会の成果について話す、これから向こう4~5か月に考えられる建造のありかた、その構想についてドックスに話した。
 『そうですか、心して仕事に取り組みます。構想、対処のやり方が決まり次第、話を聞かせてください』
 『そのあたりのことは、一同と計画、対策を練る。また、ドックス、お前の意見も聞く。対策をカタチにして事に当たろう』
 『了解しました。ようようとした前途ですね』
 『明日だが、建造の場を見まわる、よろしく頼む。ドックス!ようようにはそれなりの苦労もついてくる!ドックス、覚悟がいるぞ!ハッハッハ!』
 パリヌルスが戻ってくる。
 『おう、オキテス、ここでの俺の今日の用件は終わった、俺は会所のほうへ行く、話が終わったら来てくれ待っている』
 『おう!』
 オキテスがドックスと懸念していることについて、二、三、話をしてその場をはなれる、パリヌルスが待っている会所に向かう。
 会所では、イリオネスを囲んで建造の場の建造キャパシテイついてフリーな話し合いを交わしている。
 オキテスが姿を見せる、イリオネスが声をかける。
 『おう、オキテス、ちょっとはおちついたか?いやな、受注についての建造のキャパシテイについて話し合っていたところだ』
 『そうですか。私も一番に気にかけているところです』
 『この件に関する対応のありかたが、大きな問題になるのではないかと統領の心配もある。この俺も気にかけている。パリヌルスはケロッとしているが、やはり気にかけているらしい』
 『私も気にかけて心配しています。しかし、解決手段は必ずあると考えています』
 アエネアスが口を開く。
 『おう、一同、考えれば必ず解決する手がかりをつかむことができる。明日オキテスから船舶売り出し展示試乗会の詳しい結果報告を聴いたうえで考えよう』
 アエネアスが改まった口調で告げる。
 『イリオネスもオキテスも半月も気を休めることなく業務をやってきたのだ。二人とも身体を休ませろ!』
 『パリヌルスは、そのようなわけにはいかん!仕事だ。お前には考えてもらう、いいな!お前にやってもらいたいのはドックスとも話し合って建造の場の正しい状況の把握だ』
 『統領、いかなる状況の把握でしょうか?』
 『それはだな、建造の場が保有している建造に関する余力だ。その余力のあるやなきやであり、隠れている潜在余力の有無についてだ。それについて調査の上、状況を把握しておいてほしい』
 『解りました』
 『この件について、明後日、朝から会議を持って話し合う。各自、考えをまとめておくこと。以上だ』
 イリオネス、パリヌルス、オキテスの三人がうなづき了承の返事を返した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1459

2019-01-24 06:33:46 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 一同へのメッセージを伝え終えたオキテスにアエネアスから声がかかる、アエネアス、イリオネス、オキテス、三人が目が合う。
 『おう、オキテス、軍団長から、船舶売り出し展示試乗会催行の成果、展開状況等の一切を聞いた』
 アエネアスがオキテスと顔を合わせる。
 『いい結果である、重畳と言える。事前準備を抜かりなくやった、その結果ともいえる。今後のことを綿密に考えなくてはならんな』
 『はい、そのように考えています。パリヌルスとも話し合って考えます。その上で一同と協議検討します。その結果を携えて、各関係筋へ打ち合わせの航海に行ってきます』
 『おう、そうか、それがいい。それくらいの配慮が必要な成果だ。よろしく頼む。昼食を終えたら休んでくれ』
 『ありがとうございます』
 二人の話し合いが終わる。
 オキテスが漕ぎかたらと他の一同に言葉をかけながら酒を注いで回る、その交歓に感動する一同、昼食は無事の帰着を喜び、その安堵と和やかさで終える。
 オキテスが一同に声をかける。
 『おう、一同!今回の航海ご苦労であった。このあと、明日からの日常業務に備えて、くつろぎ、身体を休めてくれ』
 彼が言い終わるのを待って、一同から歓声と拍手が沸きあがる。
 彼ら一同の船舶売り出し展示試乗会航海終了の昼食会合が終わった。

 半月、15日間に及んだ船舶売り出し展示試乗会から帰着したオキテスが建造の場に歩を運ぶ。
 半月に及ぶ留守は、目に移る光景がなつかしみを湧きあがらせる。
 パリヌルスとドックスが4台の船台の上の各艇の建造進捗具合に神経を集中させている、余念の入り込む余地が全くない、二人は真剣に作業に集中している。
 オキテスは、その光景に注目する、彼は二人の作業が小康するのをじい~っと待つ。
 二人は、オキテスが近くにいるのに気づく、パリヌルスが声をかける。
 『おう、オキテス!帰ったのか、無事、仕事を終えたか?』
 『おう、少し前に帰ってきた。全員、無事に帰着した』
 『そうか、ご苦労であったな』
 代わってドックスが声をかける。
 『オキテス隊長、無事の帰着、何よりです。安堵しました』
 『おう、船舶売り出し展示試乗会の催行期間中、いい天気に恵まれてな。まずまずの成果をおさめることができた。喜んでくれ。その結果に俺自身、安堵している』
 『おう、そうか、それはよかった。建造の仕事も順調に進んでいる。詳しいことは、ドックスから聞いてくれ』
 『おう、解った』
 『オキテス、立ち話もなんだ、腰をおろそう。ドックス、俺はもう少し船台上の作業具合を見てくる。オキテスに報告する話をすればよい。オキテスも一時も早くそれを聞きたいと思っている』
 『了解しました。船台上の作業のことよろしく頼みます』
 『おう!』
 パリヌルスが船台の場に向かう。
 ドックスは、オキテスの留守中の作業の進捗状況の大略を報告した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1458

2019-01-23 05:43:53 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスとオキテスが挨拶を終える、去りぎわになってオキテスが水夫頭に声をかける。
 『あ~あ、水夫頭!』
 『オキテス隊長、なんでしょう?』
 『先ほどの客の件だが、艇上での客の様子から引き合いが予想される状況であったらしい、しかし、それとも船を探りに来たのではないかとも感じられるそうだ』
 『そうですか。解りました。引き合い、受注につながればありがたい』
 イリオネスとオキテス、二人はテムノス浜頭のところを辞した。
 二人は浜に戻る道すがら話し合う。
 『軍団長、この頃合いにレテムノンを出航すると宵の口を過ぎたころにスダヌスの浜に到着します。風はいい具合に東から来ています』
 『おう、そうか。それは重畳と言えるな。我らが浜を出航して半月、ようやく、帰途に就くか、オキテス、安全航海だぞ!』
 『解りました』
 浜に戻ったオキテスは、二人の操船担当を呼ぶ。
 『おう、出航準備に抜かりはないな!』
 『準備万端、腹ごしらえも終えています』
 『こいつ!手回しが良すぎる!よし!出航する』
 オキテスが2艇を見て回る、注意を促す、最終点検を終える。
 『レテムノンを出て、スダヌスの浜へ直行する。安全航海だぞ!』と声をかける、声が晴れやかに響く。
 二人が艇に乗る、出航の声がけをする、停留の岸壁を静かに離れていく、東からの順風が2艇を押す、一路スダヌスの浜を目指して波を割りゆく。
 2艇がスオダの入り江口を目指して快走する、順調に航走してスダヌスの浜に着く、その夜はスダヌスの歓迎もてなしで宿営する。

 夜が明ける、一行は、キドニアを目指す。
 半島岬を過ぎる、イリオネスは、試乗戦闘艇でニューキドニアの浜へ直行する、オキテスはヘルメス艇でキドニアに向かう。
 オキテスは、キドニアの集散所におもむく、催行した船舶売り出し展示試乗会の結果報告をする、オロンテスとも簡単に言葉を交わし、帰途に就く。
 オキテスらがニューキドニアの浜に帰り着く、無事帰着したオキテスらを浜の者らが、先着の一行が盛大に迎えてくれる。
 アエネアスは、一行の無事帰着を心から喜んでくれる。
 一行一同がそろったところで昼食に及ぶ、アエネアス、イリオネスが加わる、顔をそろえた一同の労をねぎらい、船舶売り出し展示試乗会の終了を宣言して、ささやかながらも酒杯を交わす。
 オキテスが告げる。
 『おう、一同に伝える。次回の船舶展示試乗会の催行は11月1日より10日間にわたって行うよろしく頼む』
 『おう!』『おう!』『おう!』と歓声があがる、拍手で締めた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1457

2019-01-22 05:20:48 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 最終の試乗客を見送る水夫頭とオキテス、顔を見合わせる二人、水夫頭がオキテスに話しかける。
 『オキテス隊長、今の客だが引き合いをしてくれれば、ありがたいと思うのだが』
 『そうですね、あの客はヘルメス艇に試乗していた客だな。操船担当に客に関する状況を聞いてみます』
 『それは、ありがたい。特別のことがあったかどうか、気になるところです』
 水夫頭とオキテス、二人は握手を交わす、水夫頭と一行が浜から引きあげていく。
 オキテスが空を見あげる、太陽の高さを確かめる、頃合いを測る。
 頃合いを意識して、今日のこれからを思案する。
 二艇の操船担当がオキテスに報告する。
 『隊長、試乗業務を終え、艇の整備を終えました。私ら一同、艇上にて待機いたします』
 『おう、ご苦労であった。ちょっとたづねる、ヘルメス艇の試乗客のことだが、何か変わったことがなかったかな?』
 『はい、そういえば、客の一人ですが、操舵席の近くに座して操舵を真剣に見つめていた客がいました。質問もありました。質問は、帆張り操作のこと、防御楯について質問されました』
 『そうか、解った。その客は最後に艇を下りた客かな?』
 『そうです。軽く礼を述べられ、最後に見送った客です』
 『解った。それだけ聞けば十分だ』
 『このあと、軍団長と俺はテムノス浜頭に挨拶をしてくる。戻ったら帰途に就く。ダックス、体制を整えて待っていてくれ』
 『解りました』
 軍団長とオキテスがテムノス浜頭の屋敷へと歩を運ぶ、オキテスが歩きながら、これからの予定を話す、二人は浜頭の屋敷に着く。
 姿を見せた二人に気づくテムノス浜頭。
 『おう、イリオネス軍団長にオキテス隊長、多忙の三日間ご苦労であった。盛会であった、俺にとって快挙と言える』
 オキテスがテムノス浜頭に口上を述べる。
 『テムノス浜頭、このたびの船舶売り出し展示試乗会の開催ですが満足いただけたでしょうか?』
 『おう、オキテス隊長、聞いてくれるのか。俺として満足している。君らの働きに大いに満足している』
 『テムノス浜頭の力を拝借して、いい成果をあげることができました。ありがとうございました。大変に世話になりました、日時を置くことなく納艇等その他の件について打ち合わせに参ります。船舶売り出し展示試乗会を盛会で終えたことに厚く深く礼を言います。ありがとうございました』
 代わってイリオネスが礼を述べる。
 『テムノス浜頭、ありがとうございました。テムノス浜頭の采配でいい成果をもって船舶売り出し展示試乗会を終えることができました。互いに重畳と言える結果であります。今後ともよろしく願います。ありがとうございました。私どもこれにて帰途に就きます』
 『おう、考えていたより盛会であり、その成果も、いい結果を得たと思っている。大変にご苦労であった。軍団長、あなた方の働きに礼を言います。ありがとう』
 テムノス浜頭が手をさしのべる、二人は手をさしのべ固く握り合う、目を合わせてうなずき合う。
 『イリオネス軍団長、帰途道中の無事を祈ります』
 テムノス浜頭、水夫頭、イリオネスとオキテス、会した一同四人が目を合わせ、再会の意を伝えて挨拶を終えた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1456

2019-01-21 08:32:45 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 テムノス浜頭から船舶の受注と引き合いの件数を聞いてオキテスは丁重に礼を述べる。
 『ありがとうございます。納艇に関する事情説明には、後日改めて、打ち合わせ相談に伺います』
 『解った。それにしても三日間だが、忙しかったな!オキテス隊長、はなはだ、ごくろうであった。よくやってくれた』
 テムノス浜頭が水夫頭を呼ぶ。
 『おう、頭、三日間ごくろうであった。船舶売り出し展示試乗会の成果は、受注及び引き合いを含めて4艇であった。俺として満足する成果であったと喜んでいる。これを持って船舶売り出し展示試乗会を終了とする、会場の片づけをやってくれ』
 『解りました。オキテス隊長と会場のあと片付け要領の打ち合わせは終わっています。段取りは出来ています』
 『おう、よろしくな。俺は屋敷のほうにいる』
 『了解しました』
 テムノス浜頭が船舶売り出し展示試乗会の会場からひきあげていく、水夫頭がオキテスのいる場に姿を見せる。
 『オキテス隊長、盛会でしたな、結果は上々と言えるのでは、当方の浜頭もとても喜んでいます』
 『そうであってほしい!そうであることこそ、私のやるべきであるとしての心意気です』
 『そうですね、人出、結果、重畳と言える成果でした。私は、そのように思っています』
 『ありがとうございます』
 『それにしても、客に渡した販促の説明書きですが、あれがあって重宝しました。客との話し合いがスムースに展開しました。人の気持ちをつかむのに、いいツールでした』
 『水夫頭殿、そのように言われるとうれしい!』
 『もう、頃合いです、片付け作業はじめますか』
 オキテスが大声をあげる、手すきの者らを集める、会場の片付け作業を指示する。
 オキテスはイリオネスと今日のこれからを打ち合わせる。
 片付け作業の進捗が手際よく進んでいる、時間をかけることなく終わる。
 浜は、船舶売り出し展示試乗会のまえの風景にもどる。
 水夫頭とオキテスが作業の終了をチエックする。
 試乗を催行していた艇が戻ってくる、試乗客を丁寧に見送る。
 一組の客がオキテスに言葉をかけてくる。
 『おう、試乗させてくれて、ありがとう。ほしいと思わせる、いい装備をしている。また、見たことも、さわったこともない、あの新舵方式だが、あれの操作効果がいいと思う。船も安定した航走性がいい。問題は、価格がいくらかだ?』
 オキテスは水夫頭を引き合わせる。二人は挨拶を交わす。
 客は引き合いをにおわせて立ち去っていく。
 二人は、客を見送った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1455 

2019-01-19 05:22:19 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 テムノス浜頭とパナモス浜頭の目が合う、パナモス浜頭が馳走になった昼食の礼を再び心を込めて言う。
 『テムノス浜頭、今日はありがとう。厚く礼を言う。当方の漕ぎかた連中まで、昼の馳走をいただき礼の申しあげようがない、世話になった、ありがとう』
 パナモス浜頭が姿勢を改める。
 『テムノス浜頭、今日試乗したあの船だが、あれを買います!納艇してください。以上です。納艇の日程等が決まれば連絡してくれれば結構です。よろしく!』
 『パナモス浜頭、ありがとう!その発注、しかと承った。納艇については、改めて打ち合わせる』
 テムノス浜頭が手をさしのべる、その手をしっかりと握り返すパナモス浜頭、目を合わせる、うなずき合う二人。
 テムノス浜頭にとって思いがけない船の受注である、心がどよめいた。
 船の発注を伝えたパナモス浜頭が乗った船が岸壁を離れていく、テムノス浜頭が手を振って見送る、並んで立つオキテスも手を振る、二人は船影が小さくなるまで遠ざかるパナモス浜頭の船を見送った。
 オキテスがテムノス浜頭に声をかける。
 『テムノス浜頭、戦闘艇の受注ありがとうございました』
 『俺にとって、想いにもかけなかった受注だ。天賦の受注と言える、オキテス隊長、ともに喜ぼう!』
 二人が話し合っているところにダックスが姿を見せる。
 『オキテス隊長、試乗の最終便を出します。よろしいですね』
 『試乗客の状況は?』
 『戦闘艇のほうが3組、ヘルメス艇に2組です』
 『そうか、よしっ!帰りを待っている。帰ってきたら帰途に就く準備をしてくれ』
 『解りました』
 テムノス浜頭とオキテスは、試乗最終便を見送る。二人は岸壁をあとにする。
 船舶売り出し展示試乗会を開催した浜には客の姿をチラホラと目にする、終了の時がおとずれている、にぎわった浜が静かである。
 オキテスは水夫頭と船舶売り出し展示試乗会の後片付け要領の打ち合わせを終える。
 テムノス浜頭と受注及び引き合いの件数について話し合う。
 『おう、オキテス隊長、今回のこの地における船舶売り出し展示試乗会の受注と引き合いだが、まとめておこう』
 『はい!』
 『戦闘艇の受注が2艇だ。テムパキオのラムパス浜頭、パノルモスのパナモス浜頭からの受注だ』
 『ありがとうございます』
 『引き合いが2件だ。スダヌス浜頭が引率してきた、ラッパイオイのマイテス浜頭、これは新々艇かもしれない。また、当地レテムノンのレタムス浜頭は戦闘艇だ。この2件が受注になるとすれば合計4艇となる』
 『そうですね。ありがとうございます』
 『俺が期待した艇数より、多い結果であった。重畳と言える成果を収めることができた。ともに喜ぼう!そういうことだ』
 二人は目を合わせる、感情を込めて手を握り合う、歓びを交わした。