『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1380

2018-09-28 07:05:55 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 戦闘艇を囲んでいる一同がパリヌルスのやっている作業に目を見張る。
 戦闘艇の各漕ぎ座の船べりに定めた間隔をとりながら外敵の放つ弓矢を防御する楯をたてていく。
 『おう、テカリオン!この装備はどうだ!』と声をあげる。
 テカリオンは『おう!』と感嘆の声をあげたまま開いた口を閉じない。
 『テカリオン、この防御楯が戦闘艇の両舷と艇尾にたつ!都合25枚の防御楯を装備している』
 『お前、なんてことを考える。驚きどころではない!』と言いながら戦闘艇に乗ってくる。
 テカリオンが艇上に乗るや否やパリヌルスの肩を抱く、骨よ砕けよとばかりに力を込めてパリヌルスを抱く。
 『テカリオン!この装備は俺からのお前への贈り物だ、受け取ってくれ』
 この光景を建造の場から眺めたオキテスとドックスが駆けだす。
 『おう、パリヌルス、こいつはすごい!なんという装備だ、ぶったまげるぜ!』
 感動の言葉を発するオキテス、傍らに立ってこの光景に見とれるドックス。
 『パリヌルス!これはすごい着想の装備だ。戦闘艇がこのような装備をしているとは知らなかった』
 『おう、オキテス、このことをお前に言ってはいなかった、すまんかった、詫びる!ドックスにこれは試しに工作する装備だから、オキテス隊長はじめ誰にも言わないでくれと言っておいたのだ』
 『そうか。お前の着想は大したもんだ、見て驚き、使ってその効果に感動する』
 『この装備を見て考えてくれ。これから造る船にこれを標準装備とするかを検討してくれ』
 『おう、了解した。これはでっかい付加価値だ。売りのでっかい目玉になる』
 『この防御楯工作の一切については、ドックスが知っている。そういうことだ』
 『解った』
 テカリオンがパリヌルスに話しかける。
 『おう、パリヌルス、喜んでこれをもらうぞ!お前にでっかい借りができたな!返すか返さないかはわからんぞ!』
 『そんなことは俺の頭の中にはない!お前の商取引の一助になればそれでいい』
 『そうか!此奴!』
 『役にたったか、たたなかったかを知らせてくれればそれでいい、それだけだ』
 『パリヌルス、では、この構造、喜んでいただく』
 テカリオンら三人、パリヌルスら三人が新構造に感動の握手を交わす。
 オキテスがパリヌルスに声をかける。
 『パリヌルス、この防御楯の件だが、建造する船の標準装備とするか否かを会議で討議する。営業を担当する俺としてはこの装備をすることで事を進めるがそれでいいか』
 『それでいい』
 『これは我々が創造した価値ある構造だ!売りを独走させる構造でもある』
 オキテスが声をあげる、作業者の一人を呼び寄せた。


 *昨日の投稿で間違いをやりました。お詫びして、訂正します。最終行から三行目です。
  送りまのだ  を  贈り物だ  に訂正いたします。   山田秀雄

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1379

2018-09-27 08:30:10 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 テカリオンがアエネアスとイリオネスに声をかける。
 『統領殿、軍団長殿、いろいろとありがとうございました。明日、この場において決済いたします。よろしく願います』
 『おう、テカリオン殿、ありがとう』
 話し合いを終え、互いに礼を述べる。パリヌルスがテカリオンを送る、会所から出ていく、オキテスとドックスは建造の場に向かう、アエネアスとイリオネスは、会所にとどまり話し合う。
 『おう、イリオネス、話はいい線でまとまったな、重畳と言わねばなるまい。話の中にあった『誠意の出精』とはなかなかいい言葉だ。俺は、感じ入ったぜ』
 『そうですね。いい言葉ですな。話し相手を感動させる、それであって相手にこちらへ踏み込ませない』
 『簡単に『おい!まけろ!』と俗語で言わないところがいい!『おい、まけろ!』と言われてみろ、こちらだって『ばか!なにをいうか!』と身構える』
 『言い出て、いい言葉ですな。これから、商談に使っていきます』
 『そうだな。商談の締め言葉に最適だ。相手を感動させる、納得させる、口返しをさせない一語だ。商談において言葉は武器であり、矢玉だ』
 二人はうなずく、顔を見合わせる。
 パリヌルスはテカリオンと肩を並べて歩を進める、
 テカリオンは、パリヌルスの卓抜な構想力に感じ入っている。時代を経てのちに造られる船舶の舵構造の形態となる先駆の先をいく構造である。
 テカリオンら三人とパリヌルスは急ぐことなく歩をゆったりと進めている。
 パリヌルスは、何かを秘している、テカリオンがぶったまげるような、驚きが戦闘艇に組み込まれていることをまだ気づかせていない。
 それを知っているのは、創出したパリヌルス、工作したドックス、一部の作業者だけである。
 テカリオンは、そのいぶかしげな造りには気が付いてはいたが、果たしてそれが何なのかについては知らないでいる。
 一行は戦闘艇が陸揚げされている場に着く。彼ら四人は、商談が完結した戦闘艇に見入る。
 戦闘艇の帆柱は、青く高く澄んでいる天空を突き刺している、2艇が誇らしげに艇体を砂の大地に並べている。
 パリヌルスがテカリオンに声をかける。
 『テカリオン!俺からの特別の贈り物をこの艇に施してある。受け取ってくれ!構造を考えた俺からの贈り物だ。それについて知っているのは、俺とドックス、一部の作業者だけだ。俺らからの送りまのだ』
 『なにっ!?そんな秘密工作がこの船にしてあるのか?』
 パリヌルスが戦闘艇に飛び乗る、手際よく作業を進める。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1378

2018-09-26 06:21:18 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは、ためらうことなくテカリオンの要請に答える。
 『これはこれは、ありがとうございます。テカリオン船長、その要請、承諾します。総額2100ドラクマということでよろしいですね』
 『よろしいです。私からの要請を受けていただいて、ありがとうございます。深く礼を言います』
 イリオネスとテカリオンが席から起ちあがる、両者の『誠意の出精』が決めた価格である。二人のあいだには何らの異存もない、二人は商談の決着を握手で締める。
 周りの者らも起ちあがる、この光景の感動に盛大に拍手をする。商談が終わる。
 イリオネスがパリヌルスに声をかける。
 『パリヌルス、聞いての通りだ。オキテスとドックスを呼んできてくれ』
 パリヌルスは、オキテスとドックスを呼びに走る、間をおくことなく二人が場に顔を見せる。
 イリオネスがオキテスに商談の決着を話し、用件を伝える。
 オキテスがドックスに戦闘艇の帆一式4枚2艇分と櫂24本の調製事情を尋ねる。
 『はい、明日、午前中に全品を取りそろえます』
 オキテスが『ドックス、間違いなくいけるな!』と念を押す。
 オキテスがその旨をイリオネスに伝える。それを受けて、イリオネスがテカリオンに伝える。
 『了解しました。ありがとうございます。よろしく願います。決済は明日午前中に行います。なお、パリヌルスから聞きました、新々艇の発注の件、これの返事もしたいと考えています』
 『それはそれは、ありがとうございます。何よりです』と応える。
 二人のやりとりを見て聞いていたアエネアスが姿勢を改めてテカリオンに声をかける。
 『テカリオン船長、いろいろとありがとう。君に心から礼を言う!』と言って手をさしのべる、さしのべられた手を強く握るテカリオン、二人は目を合わせる、目で感謝の言葉を交わす。
 アエネアスと握手を終えたテカリオンは、イリオネスに手を差し出す、ありがとうの気持ちを込めて強く握るイリオネス、小麦の商談、建造依頼の戦闘艇の引き取り引き渡し、商談が完結する。
 
 テカリオンがパリヌルスに体を向ける。
 『おう、パリヌルス、お前はいい船を考えてくれた。俺の望んだとおりの船に仕あがっている。ありがとう、礼を言う』と言い終えてオキテスとドックスのほうに身体を向ける、声をかける。
 『オキテス隊長にドックス棟梁、いい船を造ってくれました。あなた方が精魂を込めて造ってくれた戦闘艇2艇を引きとりました。いい商いができると考えています。ありがとう』
 オキテスがテカリオンの言葉にこたえる。
 『テカリオン船長、我々に戦闘艇を造らせてくれました。このことに礼を言います。本当にありがとう!建造に携わった者ら一同に代わって礼を言います』
 『おう、オキテス隊長、そのように考えていてくれるとは、このテカリオン、君らに感謝の気持ちが胸にあふれている』
 テカリオンは、パリヌルスら三人とかわるがわる握手を交わす、力強く手を握り合う。
 会所に会同した一同が握手をして話し合いを終えた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1377

2018-09-25 08:08:17 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、パリヌルス、テカリオンが戦闘艇2艇を引きとりたいと言っているのか』
 『はい、そうです』
 『そうか、解った。引き渡す価格については、よくよく考えたが、統領とはまだ十分に話し合っていない。話し合って決めておく。船長にここへ来てもらってくれ』
 『解りました』
 パリヌルスがテカリオンを呼びに歩を運ぶ。
 イリオネスがアエネアスと引き渡しについて話し合う。
 『イリオネス、お前の考えを言ってみてくれ』
 イリオネスが戦闘艇を建造した経緯について話す。また、戦闘艇に関する事業展開構想について言及し、テカリオンに戦闘艇引き渡し価格についての考えを話す。
 『イリオネス、お前の考えがよく解った。それでいい!我々の事業構想については、彼に話す必要はない。ズバリ引き渡し価格だけを言えばいい!ところでイリオネス、お前の考えているテカリオンへの引き渡し価格はいかほどだ?』
 『先に述べた事情これありで、2艇で1800ドラクマから2000ドラクマあたりが適当と考えています』
 『なるほど、お前の考えを充分に理解した。ズバリ言う、1900ドラクマでいい!』
 『解りました』
 二人が話し終える、テカリオン一行が会所に姿を見せる。
 『おう、船長、2艇の試し乗りご苦労でした。あの船、気にいっていただけたかな?』
 『はい、試走の配慮ありがとうございました。私の望み通りの船に仕あがっています。充分に満足しています』
 次いで、イリオネスとテカリオンが言葉を交わす、二人が席に腰を下ろす、イリオネスが丁寧に話しかける。
 『パリヌルスから用件を聞いています。船長から戦闘艇2艇の建造依頼を受け、ようやくに完成しました。気に入りましたでしょうか?』
 『私の要望をカタチにしてもらったと喜んでいます。完成した2艇を受け取ります。それについてズバリ聞きます。引き渡し価格は如何ほどと考えていられますかな?』
 『船長から建造依頼を受け、戦闘艇2艇が完成しました。我々はいろいろと船に関して研究し学びました。そのような機会をもらった、ありがたかったですな。それに対する礼を含めて申し上げたい』
 『これはこれは軍団長、謙虚な申し分、ありがとうございます。ズバリ言ってください。価格は、互いの誠意の出精と考えています』
 『『誠意の出精』とは、いい言葉ですな。申します、2艇で1900ドラクマがテカリオン船長方への引き渡し価格です。建造依頼等事情の全てを考えての価格です』
 『これはこれは、本当にそれでいいのですかな?それは1艇の建造原価ではないですか?当方として200ドラクマ追加して支払います。それで当方の希望ですが、1艇当たり帆一式4枚、櫂12本を添付していただければ幸いですが』
 テカリオンは、イリオネスが提示した2艇分の引き取り価格に1割かたを上乗せして添付サービスを要請した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1376

2018-09-24 05:10:36 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『イリオネス軍団長、さきに試走した戦闘艇のことですが、いい船に出来あがっていますな。いい船を造られました。このテカリオン、船について詳しいのかと言われるとそうではないが』
 ジイ~ッとイリオネスの目を見る。
 『前回の訪問から数か月、この間にえらく進歩されています。そのうえ、建造の場とその設備、また建造作業に携わる者たちもとても立派です』
 『テカリオン船長、そのように言われると照れますな。ただただ海洋を不安なく航海する安心度の高い、いい船を造り、それを使う人に届けたい。それが統領以下この仕事に携わる私らの心情です』
 『よく理解しました。私にできることがあれば何なりと申し付けてください。あなた方の役に立ちたい、そのように考えています』
 『船長、ありがとう。その言葉、遠慮せずいただく!』
 イリオネスは、語尾を力強く言って気持ちを伝える。
 好条件とは言い難い海上状況で戦闘艇と改造ヘルメス艇の試走を終える。
 イリオネス、テカリオン、パリヌルスがヘルメス艇から降りて浜に立つ。
 イリオネスがアエネアスのいる場の会所へと向かう。
 テカリオンがパリヌルスに話しかける。
 『パリヌルス、試走でお前らが造った船についてよく解った。俺が2艇を引き取る。その引きとる価格と条件について話し合わないといけない。どのように事を運ぶ?』
 『おう、そのことか。それについては軍団長に話を通してある。引き渡し引き取りの件を話し合ってくれ。その場の準備は俺がする』
 パリヌルスが陽の位置を確かめる、口を開く。
 『テカリオン、陽は思ったより高い位置にある。この頃合いだ。少々休んでいてくれ』
 『おう、了解!俺は二人を連れて浜においてある船を彼らに見せる。準備ができたら呼びに来てくれ』
 『おう、了解!』
 パリヌルスは、場の会所に足を運ぶ、アエネアスとイリオネスが戦闘艇とヘルメス艇の試走状況、テカリオンと交わした話のやりとりについて話し合っている。
 『ほう、そうであったか。テカリオンがそのように言っているのか?心強いように感じさせる言葉だな』
 『はい、そうです。完成した戦闘艇ですが、気に入ったようです。テカリオンが望んだ条件を満たしているようです』
 アエネアスがうなずく。
 『イリオネス、戦闘艇を構想し設計したパリヌルスを誉めてやってくれ。そして、それを造りあげた者らを誇りに思う。言葉をかけてやってくれ』
 『解りました』
 二人が会所に足を運んできたパリヌルスに気づく。
 『おう、パリヌルス、何か用か?まあ~、腰を下ろせ』
 『はい、テカリオン船長をのせての試走を終えました』
 『おう、ご苦労であった。軍団長から試走状況についての話は聞いた。テカリオンが出来あがった戦闘艇に満足しているようだな。重畳!』
 『はい、そのようです。私として、その件について安堵しています。テカリオン船長が戦闘艇の引きとりについて話したいと言っています』
 イリオネスがパリヌルスに問いかけた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1375

2018-09-21 07:58:22 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 テカリオンがパリヌルスに声をかける。
 『おい!パリヌルス、よくわかった。船首の波割りもこれまでの船と少々違う。海上状況に対応する走行安定性の安心度が向上している。お前、いい船を造ってくれた。俺の希望した条件を具現してくれている。2艇とも喜んで引き取る』
 『ありがとう、テカリオン!俺は、お前が喜んでくれることがうれしい!このあとに試走する新々艇構想で改造した船だが、この船の構想を取り入れて改造した船だ。乗り心地を試してくれ』
 『おう、解った!お前の言うことなら何でも聞く』
 『こう言ってはなんだが、四基ある船台のひとつを開けて、お前からの発注を待っている』
 『お前、なかなかのこと言うな。四基ある船台のウチの一基は俺用の船台みたいではないか』
 『そういうことだ!そう思ってくれ』
 『よしっ!考える!その新々艇とやらにも乗ってみる』
 『ありがとう、テカリオン!』
 テカリオンとの話をきりあげる、ギアスに指示する。
 『ギアス、艇首を浜へ向けてくれ』
 『了解しました!』
 試走戦闘艇が帆を下ろし、櫂操作で浜に向かう、ほとんど真向と言っていい方向からの風である、しぶきが風に舞う、降りかかる、艇上の者らを濡らす。
 浜に帰り着く、パリヌルスがギアスに指示する。
 『おう、ギアス!即、ヘルメス艇の試走準備をしてくれ』
 『解りました』
 時をかけることなく試走準備が整う、間をおかず、改造したヘルメス艇にテカリオンらが乗る、イリオネスが乗る、出走する。
 ヘルメス艇が浜を離れていく、試走の波を割る、さきの戦闘艇と同じルートである。
 浜を離れて沖に出る、方向転換点に到達する、風向きに変わりがない、やや北、東に向けて帆張り航走をする。
 テカリオンが声をかけてくる。
 『おう、パリヌルス、走行具合というか、体に感ずる走行感覚は、先に試し乗りした戦闘艇に似ている。安定した走りだな。操舵をしてみる!』
 テカリオンが操舵棒を握る、大きくジグザグに操船する。
 『おう、この操舵具合、舵のきれ具合、同じ感覚だな。先に受け取った新艇に比べると、走行時の安定性が向上している!いい具合だ』
 テカリオンの言葉にうなずくパリヌルス。
 『この大きさの船は、日常、気軽に仕える中型船であることが望ましい。この船の船速も他船に比べて速い、スピードが出やすい。波の割りかたもどことなく違う。海との親和性を感じる』
 テカリオンが操舵を終える、イリオネスに話しかけた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1374

2018-09-20 07:33:17 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 一方、引き渡し戦闘艇にテカリオンを乗せて試走の件である。
 小麦の納入、受け入れの件の段取りを終えて、パリヌルス、オキテスも加わり一同が昼食を共にする。話題は、船舶についての語り合いである。
 テカリオンは、側近の二人に引き取る戦闘艇の期待感を語る。オキテスは、試作戦闘艇を航海に使用した話をする。
 想像を膨らませて質問をするテカリオン、テカリオンの質問は、営業の成果に及ぶ。オキテスは、引き合いらしい話があったことだけを答える。
 『ほう、そうか。それじゃ展覧会みたいなもんだな』
 話はそこで終わる、オキテスは安堵する、しかし、いつかは彼の知るところとなるであろうことを意識する。
 試走に出る時となる。
 ギアスが試走の支度が出来たことを知らせに来る、パリヌルスが起ちあがる。
 『テカリオン船長、試走に出ます』と伝えて、ギアスに問いかけ指示をする。
 『ギアス、風の具合はどうだ?』
 『はい、西からいい風が来ているようです。しかし、ややですが北向きです』
 『そうか、方向転換、帆張り航走に移る時だが、順風満帆のコース取りで走行するようにしてくれ。以上だ』
 『了解しました』
 『統領、完成した引き渡し予定の戦闘艇の試走に出ます。軍団長は試走に同行されます』
 『おう、了解した!』
 アエネアスは、波打ち際に立つ、試走に離岸していく戦闘艇を見送る。
 試走コースは、いつもの試走ルートである、艇は順調に波を割って進む、漕ぎのピッチはやや速めている、船速のノリの調子よさを感じる。
 小島の南端を過ぎる、進路を北に転じる、小島の北端を通り越す、さらに北へと進む、方向転換地点に達する。
 ギアスが風を読む、パリヌルスとの打ち合わせ通りにやや北寄りに東方へ方向を転じる、帆張りする、帆走状態で航走しはじめる。
 ギアスが帆張り、風ハラミをチエックする、順風満帆度を確かめる、パリヌルスに風ハラミ、走行状態を報告する。
 『おう、了解!』
 パリヌルスとテカリオンが操舵席に移る、操舵担当のカイクスが操舵棒を握っている。
 パリヌルスがテカリオンに声をかける。
 『テカリオン、まず、体感からだ。艇をジグザグに走行させる、舳先が水の抵抗にあらがって方向を定める、艇尾が舵の水切りの作動で振れる、それを体感してくれ。また、櫂舵の操舵効果と比べてみてくれ』
 『おう!』
 テカリオンが感覚を研ぎ澄ませて体感の感じとりに努める。
 『テカリオン、操舵を替わる!ここに座して操舵棒を握って操舵してくれ。操舵具合とその効果を感じ取ってくれ』
 『おう!』
 白ウサギが飛び跳ねる海上状態の海を戦闘艇が疾駆する、真剣に操舵をするテカリオン、大きな弧を描いてジグザグに艇を進める、しぶきが体に舞いかかってくる。
 テカリオンが操舵感覚を体感する、これまでのこのスケールの船の操舵効果と比較する、その操舵効果、操舵感覚の違いを感じとっていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1373

2018-09-19 07:41:17 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう!テカリオン船長、ところで今日の件だが、朝めしを終えたら、直ちに仕事にかかる。場の会所でオロンテスと待っている』
 『承知しました。うかがいます』
 打ち合わせを終えてアエネアスとイリオネスガ場を去っていく、テカリオンは、多忙の浜を眺める。
 オロンテスがキドニアに向かうセレストスと打ち合わせをしている、今日のキドニア行きは、ダックスが操船する試作戦闘艇が就航する、荷積みを終えて浜を離れていく、彼らは凪いでいる海面を割ってキドニアに向かう。
 テカリオンらは、彼らの船を目で見送る。

 朝食の時が終わる、浜の各所において始業朝礼が行われている。
 場の会所には、アエネアスがいる、イリオネスとオロンテスがテカリオンの来るのを待っている。
 テカリオンが側近を従えて姿を見せる、三人が会所の入口に立つ、姿勢を改める、テカリオンがかしこまる、丁重に礼を述べる。
 『おはよございます。統領殿、軍団長殿、今朝はありがとうございました。熱々の焼きあがったばかりのスペッシャルパンをいただき、私らみんなでおいしくいただきました。ここまで気づかいをいただき礼の申し上げようがありません。本当にありがとうございます。感謝、感激ひとしおです』
 三人が心を込めて深く頭を下げる、オロンテスが三人に着席を促す、イリオネスが口を開く。
 『いやいや、昨夕は夕食に珍しい珍味の数々をありがとう。船長!あれは旨かったな!礼を言います』
 『こちらこそです。昨夕、我ら一同がいただいた夕食、そして、今朝いただいた朝食のパンにいたるまで、ひとことの礼で済まされることではありません。このテカリオン、誠意をもってこちらの業務に尽くすことを約束します』
 テカリオンの言葉にアエネアスが答える。
 『テカリオン船長、その言葉で充分です、貴方の心を、気持ちを頂戴しますよ。我々が安心して今日を迎え、業務を遂行していける。貴方の一助があったればこそです。貴方に大いに感謝しています』
 『そのように思っていただいているとは、とてもとてもありがたいことです。今後ともよろしく願います』
 二人が言葉のやりとりを終える。イリオネスがテカリオンに小麦に関するビジネス業務の開始を告げる。
 『おう、いいかな。船長!業務を始める、いいな』
 『始めましょう』
 イリオネスとオロンテス、テカリオンら三人が業務進行の段取りを話し合い仕事がスタートする。
 前回受け取った小麦の残債の決済を終える、小麦在庫量の費消計画、小麦の納入、受け取り量の打ち合わせ、次回訪問の打ち合わせ等を終える。次いで、納入小麦の荷降ろし、倉庫への搬入、荷運び要領等の打ち合わせを終える。
 最後にオロンテスサイドの動員計画と作業要領の打ち合わせをも終える。
 オロンテスは、パリヌルスに事情の説明をする、動員手配をする。
 彼らがこれらの業務ワークに午前中の時間を費やして終える。
 彼ら六人にパリヌルス、オキテスも加わり昼食を共にする、午後の業務を打ち合わせる。
 テカリオンが引き取る戦闘艇と改良新艇の新々艇の試走が予定されている。
 小麦の荷降ろし作業は午後の業務である。
 交易船から浜までの荷運びに舟艇を用いて事にあたる、小麦の荷降ろし搬入作業には結構時間がかかり、浜の作業終了時、間際に終了した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1372

2018-09-18 06:32:04 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おうおう。この匂い!旨そうだ、たまらない!まずは船長!どうぞ!』
 テカリオンが手を伸ばす、つまむ、側近の二人にもすすめる、アエネアスが手に取る、一同がつまむ、そろって噛みつく、アエネアスが口を開く。
 『おう、これこそ珍味!船長、羊肉の燻製ジャーキーではありませんか、旨い!』
 この言葉を耳にして珍味を味あう、ふたつめを手を伸ばしてつまみにくる。
 もうひとつの包みをも開く、一同に手渡す、でっかい魚を切り身にして、塩漬けして乾かし、ぶどう酒に漬け込み、さらに燻製加工したものである。
 彼らは珍味を味わう、旨い旨いで場が沸く、酒を飲み焼けた肴を口にして夕食の場が盛りあがる、乗り組みの者らの夕食の場でも歓声があがっている、彼らも何かをタネにして大いに夕食を楽しんでいることが察しられる。
 夏の終わりが漂う浜が静かにくれていく、彼らは心ゆくまで食欲を満たして夕食を終える。
 テカリオンガ丁寧に馳走の礼を述べる、彼らの歓待歓迎の心伝えの行事を終えた。

 交易商人のテカリオンを迎えた浜の朝が明ける。
 テカリオンはアエネアスらが習慣行事としている朝行事のことを知っている。彼は、側近を従えて、陽の出まえに彼らの浜へ出かける、彼らに倣って朝行事をやる、算段した通りに浜でアエネアスらと顔を合わせる。
 『おう、船長、おはよう、いい朝だ!』
 アエネアスが声をかける。
 『統領、おはようございます』
 テカリオンは、アエネアスの連れているユールスにも親しみを込めて『おはよう』と声をかける。
 テカリオンに連れ添う側近の二人も顔を合わせる浜の者らと朝の挨拶を交わす。
 イリオネスが朝行事を終えて浜にあがってくる。
 『お~お、軍団長、おはようございます』
 『おう、船長、おはよう。いい朝だ!船長は朝行事を終えたのか?』
 『はい、一足先に終えました。すがすがしい気持ちになります。清新の気が体に沸いてくる。これで一気呵成に軍団長と商談を決めるですな』
 『おいおい、決め手は柔らかく頼むよ』
 『ハッハ!郷に入っては郷に従う。私のやっている商ビジネスの決めの一手です。これで相手の心のうちに入って行く!というわけです』
 『これは手強いのう!おう、テカリオン!俺の心の扉は硬く閉じている、そのようなことでは開きはしない!開けるかな、ハッハッハ!』
 『笑われましたな、笑う門には福が来るですよ。この私がその福です。開けゴマです』
 『そのように言われると閉ざしている扉を開けたくなるな。此奴!』
 二人が笑い合う、傍らにいるアエネアスがこの雰囲気に微笑む、和やかな朝の挨拶が終わる。
 イリオネスがテカリオンに声をかけた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1371

2018-09-17 07:49:07 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスとオキテスの二人は、テカリオンの乗り組み連を歓待する夕食の場を見渡す、二人の背後にはギアス以下漕ぎかたらが立っている。
 一同がテカリオンらが姿を見せるのを待つ、大勢の者らが話し合う声が近づいてくる、テカリオンらの一行が場に姿を見せる、ギアスらが拍手を沸かせて彼らを歓迎する。
 パリヌルスがギアスを紹介する、テカリオン配下の連中の長(おさ)が進み出てくる、ギアスと言葉を交わし手を握り合う。
 パリヌルスが声をかける。
 『長途の船旅ご苦労でした。ささやかですが夕食を整えました。心置きなく飲み、食していただきたい』
 『このように私らを招いてくださり、ありがとうございます。遠慮することなく馳走になります』
 パリヌルスがギアスのほうに体を向ける。
 『おう、ギアス、皆さんを焚火のシマに案内してくれ』
 ギアスの漕ぎかたらが彼らを夕食の場の焚火のシマへといざなう。
 彼らが場に落ち着くのを見届ける。
 オキテスがテカリオンに声をかける。
 『テカリオン船長、行きましょう!』
 『おう、いろいろと気づかいしてくれてありがとう。彼らも喜んでいる。このように歓待されるのは、彼らにとって、それは珍しいことなのだ。心から礼を言う!ありがとう』
 パリヌルスとオキテス、テカリオンら三人が会所へと歩を進める。
 会所に着く、到着を待っていたアエネアスら三人が起ちあがる、テカリオンら三人を迎える。
 アエネアスら五人、テカリオンら三人、八人の顔がそろう、アエネアスが声をかける。
 『テカリオン船長、我らがニューキドニアの地へ、ようこそ!さあ~さ、腰を下ろしてください。肴は特別変わったものもありませんが、焼きあがりを食せば旨い!ささやかな夕食です、存分に食してください』
 イリオネスが一同が手にする酒杯に酒を注ぐ、アエネアスが『乾杯!』を告げる、一同が酒杯を口に運ぶ、飲み干す。
 『アエネアス統領、馳走になります』テカリオンが述べる。
 間をおかず、接待担当が一同に焼きあがった肴を手渡す、そくざに口に運ぶ、噛みつく、言葉が口を突いて飛び出す。
 『おう。デリシャス!これは旨い!』
 テカリオンの声があがる。
 テカリオンが二人の側近に目配せを送る、二人が携えてきた包みをアエネアスらの前におく。
 『統領、旅の途中で入手したものです。口に会うであろうと思います。どうぞ、笑味してください』
 『おう、それはそれは、喜んでいただく、ありがとう。船長は食して見られたのかな?』
 『いや、それは、まだですが』
 『おう、イリオネス、開いてみんなで馳走になろうではないか』
 『解りました』
 イリオネスが包みを開く、旨そうな匂いが一同の鼻を突いた。