『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  81

2019-08-05 04:39:17 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
          船団はただただひたすらに西へと波を割る
          広い海洋を向こう先のあてもなく進む
          頼るのは空の星 荷車座(こぐま座)の一つ星
          彼らの造った方角時板が海旅の先を示す*注
          突如襲いかかる天変 風おこり荒れ狂う波
          地図がない 天変から逃れる術がない
          ない ない
          これでは民族全員が海の藻屑となる。
 
 イリオネスは、船団が新天地を目指して航海する海洋は、エーゲ海とは違う。
 平穏なる航海ののぞめる海洋ではないと想像している、先立つ心配で憂慮していたのである。
 『解った!軍団長、これから充分に考えを尽くす』
 イリオネスの苦慮していることが解ったのか解らないのか、ひらきなおりのようなアエネアスの返事を聞きとる。
 『まあ~、それでもいい、航海に出る危機感を共有したであろう』とイリオネスは感じとっている。

 この時代に生きている人類は、まだ世界地図を持っていない。土地に住む有識者の者が手前で描いたであろう自分の生活圏の線図を粘土板に刻み込み、持っていたであろうと推察される。
 クレタ島各地の集散所、地図なるものを入用とする名だたる土地の名士、キドニアにおいては、キドニス、スダヌスら浜頭レテムノンにおいてはテムノス浜頭、イラクリオンにおいてはエドモン浜頭らが持っていたであろうであって持っていたではない。
 彼らが生きたこの時代から400~500年後になって人類が世界地図なるものを持つにいたる。バビロニア(現在のイラクの南部地方)において粘土板で造られた現在知られている最も古い世界地図なるものである。
 バビロニアに住んでいる人間が、その時代のバビロニアにおけるバビロニア人の世界観でもって作成した世界地図なるものである。が、バビロニア近辺地図といった方が適正表現と考えられる。
 この地図の現代に到る地図作成に関する普遍的な原則である『北』が地図上部として造られていることである。現代にいたっては必ずしも地図の上部が北ではなく、上部が東の地図があったり、南が上部、西が上部の地図がある。
 ところがそのバビロニアでつくられた地図がなぜ『北』を上部にしたかの理由を地図の上部に文言として、その粘土板に刻み込まれているのであるそうである。読解されているか否かについては私の不明とするところである。
 しかしである、彼らが言う荷車座(こぐま座)のひとつの星が動かない不動の星であることを知っていたことである。
 
 アエネアスの考えは、イリオネスの考えるところとは違っている、地図なるものの入手は不可能であろうといったスタンスに立って方策を考えていた。

 私が書いている物語の中では、『地図』なる言葉を使って書いているが、果たしてこの時代『地図』なろ言葉があったかどうかは定かではない。
 私の推察では『地図』なる言葉はなかったであろうと考えている。

 注(方角時板は西アジアアナトリア地方で採掘された希少なる磁鉄鉱を精錬してパリヌルスらが造った鉄の棒を使用して造った日時計)