『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

[Remembrance of Aeneis] Ⅳ To founding land of nation  『建国の地へ』 第2章  プトロトウムにて  51

2020-03-17 06:36:48 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスが朝行事を終えて時を待つ、黎明がおとずれる、待ちわびた暁天の時である。
 時がきた、起ちあがる。
 少し早いと思うがイリオネスに朝明けの声をかける。
 『軍団長、軍団長、いい風が来ています』
 『おう、パリヌルス、どうした?』
 『軍団長、おはようございます、いい風が来ています』
 『なにっ!出航の風が来ていると?』
 声をあげてはね起きる。
 『者どもを起こせ!』
 イリオネスが暁の空を見あげる、断崖に視野がさえぎられて全天が見えない、空が狭い、一面に雲が垂れ込めている、暁の空はまだ薄くらい。
 『出航の準備だ!一同を起こせ!派手に音を立ててやれ!いいな』 
 『解りました!はい!』
 パリヌルスは一番船の者らを大声で起こす、出航の準備の指示をする。
 イリオネスは、アエネアスに伝えに向かう。
 『統領、統領、おはようございます、待っていたいい風です!出航を決断してください』
 『なにっ!いい風だと!オキテス、起きろ!』
 アエネアスの身近かに横になっているオキテスが統領の大声にとび起きる、イリオネスがオキテスに指示する。
 『おう、オキテス、いい風だ。出航の準備を整えろ!三番船のアレテスにこの件を伝えろ。オロンテスにも連絡するのだ』
 『了解しました』
 オキテスがアレテスを探す、探し当てる、用件を伝える、その足で四番船に向かう、オロンテスは、四番船内に寝をとっている。
 『おう、オロンテス!起きろ!出航だ!いいな』
 船団の者らは簡単に朝行事をすませる、時間をかけることなく出航準備を整える。
 一番船は、帆張りを終えて船首を入江の入口に向け微速で進んでいる、船団の船列の整うを待ち受けている。
 朝が明けきっている、空一面が雲に覆われている、いい風が西より来ている、航海に適した海の状態と見てとる。
 船列が整う、イリオネスが一番船上のおいて出航の令を下す、風が船団を押す、操櫂なしで全船が海を割る、船団が入江を出ていく、行き交う他船の姿がない、左手はるか遠くにケルキラの島影を望みながら船団が航走する。
 ケルキラの島影が遠のいていく、船団は、大海原に進み出ている、進行方向の前面に広がる大海洋の先を望みながら、うねる波を割って航走する。
 イリオネスは、例の方角時板を手にして進行方向をチエックしている。パリヌルスが声をかける。
 『軍団長、進行方向にくるいはないですね』
 『この方向でいいはずだ。そう信じている』
 二番船上アエネアスは、何事かに想いを凝らして、舳先に起って進行方向前方に目を凝らしている。
 プトロトウムを出航する際に、ぺリオスことヘレノスの言った言葉を思い起こしている。
 『アエネアス、お前と俺が建てる都市国家、二つが一つになってトロイを建てる。我々の子孫もこれを目標にして努めさせる!そうありたい!それが俺の望みでもある』
 ヘレノスの言った言葉をかみしめる、アエネアスは、己の信条に照らし合わせる。
 『脚下照顧!一歩、前へ!だ。二歩三歩と欲張らない、俺は至誠と謙虚に勤めて国を建てる!』
 彼は、炎上する欲張る想いに水をかける、消える、前方を心して見つめる、志が海の上を駆けていく。
 風にあおられる、波立つ海洋、風を帆にはらみ、波濤を割る、航走する船団。
 アエネアスは、海路図をまぶた裏に想い浮かべる、今日の航海は長途に及ぶ、無事の航海を念じた。

                             
                            第2章 プトロトウムにて 完
 
 
 
 

[Remembrance of Aeneis] Ⅳ To founding land of nation  『建国の地へ』 第2章  プトロトウムにて  50

2020-03-16 06:40:39 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスから狭い浜の実情を聞いたイリオネスが漕ぎかたらに指示をする、四番船の右舷に船を横づける、オロンテスに声をかける。
 『おう、オロンテス!聞きたい。食糧の準備状況と飲料水の件だ、どうなっている?』
 『はい、パンの準備は、向こう2日分は準備しています。飲料水もそれに準じて用意しています』
 『了解、解った!』
 イリオネスはふたたび漕ぎかたらに指示をする。
 統領が座乗している二番船に横づける。
 イリオネスは、状況を統領に告げ、対処かたを話し合う。
 『おう、軍団長!事情はよく理解した。これを我が航海の定めと受けとめる。この入江の浜で西への風を待つ、状況をふまえて、安全第一につとめて上陸せよ!そして、風を待つ!以上だ』
 イリオネスは、統領と話し終えて、かたわらにいるオキテスに声をかける。
 オキテスに浜の状況を伝える、安全第一につとめ上陸せよと指示を伝える。
 『オキテス、解ったな!三番船にこの指示を伝えてくれ。なお、四番船にこの旨を伝えるよう指示をしてくれ』
 『解りました』
 イリオネスが狭い入江の浜への上陸要領を伝え終える。
 一番船が浜へ船首をつける、それにならって二番船が浜に船首をつける、三番船、四番船がそれにならう、船団の者ら一同が浜に上陸する、夕食を終える、今日を終える、疲れた四肢をいたわり眠りについた。

 両側を断崖に囲まれた入江は広くはない、広い海洋を旅する者にとって小さな入江としか目にうつらない。
 入り江口が2分の1スタジオン(100メートル弱)、浜までの奥行きが3分の2スタジオン(約130メートル)くらい、浜といえば崖が両側に迫り、船を寄せる浜の幅が8分の1スタジオン(30メートル弱)と狭い。
 船団は、この狭い入江の浜に停留して宿営を営んだのである。

 期待する風の訪れがない、この浜で二日二晩を過ごす。
 二日目である、オロンテスの動物的な勘はたらきがパン焼きを促す、船団の者らを総動員して、パン焼きかまどを浜に設けてパン焼き作業をする、都合三日分のパンを焼きあげる。
 『なあ~、パリヌルス、不思議だ。勘の虫が俺にパンを焼けとかりたてる。わけが解らんがパンを焼いたということだ。まあ~それだけのことだ』
 『そうか、そういうことか』
 『断崖をつたって流れる水も飲料水として集めた。いつ何時、出航のチャンスが来ても大丈夫だ』
 パリヌルスは、オロンテスの話を聞いて、何とはなしに首をかしげてその場を去る。
 船団の者らが夕食を終えて寝につく、パリヌルスの眠りは深くはならない、少々もどかしい、目を閉じる、まどろむ。
 夜半に到る、断崖にまばらに生えている樹々のざわめきに目を覚ます。
 風が来ている、月明かりがない、星も見えない、暗い、『空に雲か』とつぶやく。
 断崖の上の空を闇をすかして見あげる、木々がゆれている、小枝が入江の入口に向けてなびいている。
 西に向けて風が来ている、彼は暁天を待ちわびた。

[Remembrance of Aeneis] Ⅳ To founding land of nation  『建国の地へ』  第2章  プトロトウムにて  49

2020-03-14 07:22:00 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスが航海しているこの時代、ヨーロッパ大陸からのびてでた、でっかい石を蹴飛ばそうとしているブーツ状の半島の地名はまだない。
 この物語でイタリアと書いているのは便宜上であることと思っていただければ幸いです。
 イタリアなる地名の発祥は、紀元前6世紀の頃ではないかといわれている。
 イタリアの南部カラブリ地方に仔牛をトーテム像として崇拝している原住の民がいたらしい。この部族が仔牛のことを『ピタリ』と呼んでいた。
 彼らは、そのいわれから[ピタリ人]と呼ばれていたのである。
 その『ピタリ』がイタリとなり、イタリアに変化していったと考えられ、その呼称がローマ人に引き継がれ、イタリア半島にすむ人々をさすようになり、この地名がイタリアと呼ばれるようになったらしい。
 後世に至って、政治的に統一された国家として、最初にイタリアの名が使われたのは、ナポレオン支配時代のイタリア共和国(1802年~1805年)(1803年イタリアの国名を使用)である。
 これが改変されてイタリア王国(1805年~1814年)となり、1861年サボイア家による統一によって、ほぼ現在の地理的範囲を持つイタリア国が成立に至ったといわれている。(出典はフリー百科事典ウイーキペデアです)

 船団は、アルバニアの海岸に沿って北上する、進行方向左手のケルキラ島を過ぎる、左手前方は大いなる海洋である。
 右手に見ていた山脈が海に落ちる、断崖である、断崖を過ぎて入江を見る、広くはない浜に船を寄せていく。
 『おう、パリヌルス、この浜だが、人気がない浜だな。入江もなんとなく深そうな海だ』
 船団の船を洋上に停船させる、船上から浜の様子を探る。
 パリヌルスは舵座の担当に水深を計らせる、報告が来る。
 『人の身の丈の4人分あります』
 『軍団長、深いですな。浜からこの距離で身の丈の4倍とは深い。崖に囲まれた入江の浜のようです。船をもう少し浜へ寄せてみます』
 パリヌルスが漕ぎの者らに指示して船を静かに浜に寄せていく、船首の船底が海底に接地する。部下の者を三人引き連れて浜に降り立つ、部下の一人に綱を結びつけて海底の状況を探らせる。
 水深に深みのある入江の浜らしい、海に入って7歩くらい進んだところから急に深くなっていると海に入った者が告げてくる、浜の近辺には人のすまいらしきものがない、崖に囲まれた小さな浜であるらしい。
 船に戻ったパリヌルスは軍団長に実情を報告する。
 陽は、海原の西の果てにさしかかっていた。

[Remembrance of Aeneis] Ⅳ To founding land of nation  『建国の地へ』 第2章  プトロトウムにて  48

2020-03-11 10:36:24 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアス暦8月13日、出航を控えた停留の浜の朝が明ける。
 船団の者らが一斉に起きてくる、朝行事をする、一同の面持ちが出航を控えて緊張している。
 イリオネス、パリヌルスらがアエネアスを囲んで浜に立つ、空模様と風を読む、今日の出航を危ぶむ、イリオネスが各船の責任者である彼らに告げる。
 『昼頃になって状況をみないと解らないが、今日の出航はないと考えられる。待つ風は、南からの風である。それを待つ!以上だ』
 その言葉を聞き終えて、一同が各船に戻って行く、その旨を船上の一同に伝える。
 朝食を終えたイリオネスが各船を見て廻る、各船の責任者らと言葉を交わす。
 『おう、このままでは、今日一日が長いぞ!久しぶりだ、武闘の訓練をしろ!』
 『それイイですね!久しくやっていません、やりますやります。者どものその感覚がにぶっているかもです。やります!』
 彼らは午前の時いっぱい、武闘の訓練をやる、彼らは、武闘の心機、対手との討ち合い感覚をとり戻している。
 汗ばんだ身体を海で洗い流す、昼食の時を過ごす、肌を撫でて過ぎる風は北からの風である、彼らは午後も武闘の訓練で過ごす。
 出航予定の一日目が暮れていく。
 二日目の朝を迎える、朝凪の時が過ぎる、微風が南から来ている。
 午前半ばになって、イリオネスが浜に立つ、各船の責任担当らが彼を囲む、アエネアスが来る。
 『おう、軍団長!』
 『あっ!統領!』
 『今日の具合はどうだ?』
 『統領、具合の如何んを問うことはありません。今日、早めに昼食済ませて午後には出航しましょう』
 『これで決まりだな。航走要領を一同と打ち合わせてくれ。出航する!アエネアス暦8月14日、プトロトウムを出航する!』
 『了解しました。ぺリオス領主に連絡します』
 『おう、連絡してくれ!この頃合いだ、港の幕舎にいると思う』
 イリオネスは、パリヌルスにぺリオス領主への連絡を用命する、オロンテスは昼食の準備を整える、停留の浜は、一瞬にして緊張状態となる。
 パリヌルスが連絡を終えて戻ってくる、ぺリオス領主には港の幕舎にて出航の旨を伝えたことを報告する。
 南からの風が強さを増してきている、出航の好条件である。
 ぺリオスがアンドロマケをともなって姿を見せる、アエネアスがぺリオス夫妻に別れを告げる、二番船に乗る。
 イリオネスが各船の状態を確認して一番船に乗る、出航の令を下す各船の櫂が海を泡立てる、一番船が浜を離れる、船上のイリオネスがぺリオス夫妻にむけて手を振る、二番船が出る、アエネアスが手を振る、三番船、四番船と続いて浜を離れる、ぺリオス夫妻、港湾担当の者らが手を振る。
 船団は、航跡を引いてプトロトウムの浜を港をあとにする、北に向けて波を割る。
 いい風が来る、船団は帆張りする、風をはらむ、順風満帆で今日の寄港地ケラニアに向かって快走した。

[Remembrance of Aeneis] Ⅳ To founding land of  nation  『建国の地へ』 第2章  プトロトウムにて  47

2020-03-10 06:11:24 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 打ち合わせを終えたアエネアスとイリオネスは場を解く、手すきの者らを集める、夕食会の場づくりを行う。
 場の中央に統領が立ってメッセージを述べる場を設けて、円陣状に焚火のシマをつくって場づくりを終える。
 食材が届く、各シマに配る、焚火のシマに火を入れる、酒の樽も配置を終える、夕食会の場が整う。
 各船の責任担当が出航準備の仕上がりの念査を終える。
 一団を引率して夕食会の場に集まり始める、焚火が炎をあげている。
 イリオネスが準備の完了と一同の集まりを確認する、統領を呼びにむかう。
 統領が場の中央の立ち台上に起つ、場に大歓声と拍手が沸く、800に及ぶ目線が台上のアエネアスに注がれる、場がシ~ンと静まる、おもむろに口を開く。
 『おう、一同!ごくろう!』と言って場を見まわす、またもや歓声があがる。
 『このたびはぺリオス方の業務に力を尽くしてくれた。ぺリオス領主から君らの労に対する礼品も受け取った。ご苦労であった。我々は、ここ二、三日の間のよき風のある日にこの港を出航する。ヘスペリアの地のあるイタリアへと出航する』
 アエネアスは一同と目を合わせる、話し続ける。
 『出航初日の航海は、この地の北にあるケラニアに向けての航海である。その地において、我々が西に向けて航海する風を待って出航に及ぶ。出航すれば二日間は陸地に上陸することはない。我々の敵性国ギリシアの植民市が散在している海岸に沿っての航海であるからである。我々がやらねばならない建国の海旅を成功させよう!一同、いいな!』と言葉を結んで一同と目を合わせる。
 『今宵は、ぺリオス方作業終了のねぎらいと出航と航海の無事を祈って、ささやかであるが夕食会を催す。楽しんでくれ!』
 アエネアスは、イリオネスに乾杯の準備をするように指示する、瞬時に準備が整う。
 アエネアスが一同に向けて声をかける。
 『おう、一同!杯に酒を満たしたか?』
 『おうっ!』『おうっ!』と返事が返る。
 『おうっ!乾杯っ!』
 アエネアスの掛け声が場をふるわせる、一同が杯の酒を飲み乾す、夕食会がスタートする。
 串刺し上にしつらえられた食材を火にかざす、塩を振る、口に運ぶ、美味をかみしめる、酒で胃におとしこむ、夕食会が進む。
 アエネアス、イリオネス、隊長らが彼らとの会話を弾ませる、夕食会が和やかに展開する。
 宵がとばりを下ろす、夕食会がマックスの時を過ごす、やがて終宴の時がおとずれる、シマの焚火が燃え尽きる。
 一同が名残りを惜しむ、寝につく時を迎えた。

[Remembrance of Aeneis] Ⅳ To founding land of nation  『建国の地へ』 第2章  プトロトウムにて  46

2020-03-09 06:01:40 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスを送ってくれたぺリオス方の者らが帰って行く、アエネアスがイリオネスに声をかける。
 『おう、軍団長、俺の想いだが、今夕、ぺリオス方の業務に従事した一同をねぎらいたい。なんとかならないか、オロンテスにはかってみてくれないか?』
 『統領、えらく急ですね。幸い城下の業者がいま、こちらに来ています。オロンテスと打ち合わせをして手配します』
 『おう、頼む。肉をメインにしてささやかでいい!』
 イリオネスが四番船のほうにおもむく、すでに船団の各船が船体を海になじませている、イリオネスがオロンテスと打ち合わせる、オロンテスが業者と打ち合わせる。
 『了解しました。一切を引き受けます。安心して任せてください。酒は、10樽くらいでいいですね』
 『おう、それくらいでいい』と返事して、準備方の手配を終える。
 イリオネスがアエネアスに手配の完了を伝える。
 『統領、手配を終えました』
 『おう、そうか。重畳!夕食会の前に各船の責任者らと打ち合わせをする』
 『解りました』
 イリオネスが空を仰ぐ、陽はまだ高みにある、各船の責任者らを召集する。
 アエネアスは、ぺリオスが準備してくれた複数枚の海路を描いた木板を手にして起ちあがる、イリオネスがアエネアスを呼びに来る。
 『統領、一同が集合しました。場は、例の場所です』
 『おう、そうか。行こう!』
 二人は、一同のいる場に歩を運ぶ、アエネアスが一同に声をかける。
 『おう、一同、ごくろう!心機充実の具合はどうかな?三日間、顔を合わせなかったら、久しぶりといった感じがする。各船、出航の準備が整ったか?』
 声高に言って、一同と目を合わせる。
 『オロンテス、荷積みのほうはどんな具合だ?』
 『はい!先ほど終えました』
 『そうか、完了しているな。パリヌルス、一番船の準備は?』
 『はい!完了しています』
 『おう、オキテス、二番船は?』
 『完了しています』
 『俺は、二番船に乗る、よろしくな。いただきもののあの大釜を積んでおいてくれ』
 『はい、解りました』
 『おう、アレテス、三番船は?』
 『準備万端、整備完了です』
 『おう、よしっ!』と言って、航海の海路図の描かれた木板の一枚を手にする、一同に提示する、一同が顔を寄せ合って描かれた海路図に見入る、一同に声をかけるアエネアス。
 『おう、見て解るかな。では、航海事情を話す。このプトロトウムの前面の対岸の島は、ケルキラ島である。この港を出航して船団は、北へと向かう。北へ進むこと2刻(約4時間)余りで、このケラニア岬に到る。このケラニア岬は何ものも寄せ付けない断崖らしい。この断崖を過ぎた向こうに船を寄せることのできる浜があるとのことである。このケラニアの浜で西に向かう風待ちをする。このケラニアの地がヘスペリアのあるイタリアへ向かう至近の地であるらしい。ここで西に向かう東からの風を待つ、この風を帆にはらみ出航する。ところでイタリアなる地の事情があって、二日間は陸地に上陸することのない航海を続ける。そのように対処してくれ。一日中、航海してイタリアの地の東南端の岬あたりに到るが陸地に寄せて海上停泊とする。明くる朝は星を頭上にして早朝に出航する。このタラント湾は、とてつもないでっかい湾であるらしい、この湾口を横切るのに1日がかりの航海であるそうである。都合二日間の航海で到る岬の地あたりで上陸を考えよう。この航海の何故は、タラント湾の湾岸には我々の敵性国家であるギリシアの植民市の町邑がひしめき合っているそうである。オロンテス、この航海事情に合わせて、食糧の手配をケラニアの浜でしてくれ。尚、ケラニアにての風待ちは二日ないし三日と考えている。以上だ』
 『統領、航海の内容を理解しました。安全なる航海に努めます』
 『おう、理解してくれたか。ところで今日は、この四か月、ぺリオス方の業務に尽くしてくれた一同をねぎらう夕食会をささやかであるが催す。その席で一同に航海に就いての話もする』
 『それを心して夕食会の場づくりをします』
 イリオネスは、夕食会の場づくりを一同に指示した。

[Remembrance of Aeneis] Ⅳ To founding land of nation  『建国の地へ』 第2章  プトロトウムにて  45

2020-03-06 06:01:58 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 三人の昼食が終わる、アエネアスにぺリオスの館を辞去する時がおとずれる。
 ぺリオスがアエネアスに声をかける、避けることのできない時の訪れである。
 三人が立ちあがる。
 『アエネアス!別れの時か。引き止められない。別れか、悲しい、情があふれる』
 アンドロマケがアエネアスの肩を抱く、二人は、互いを抱く、強く抱擁する、アンドロマケの目に涙があふれている、こぶしを握る、アエネアスのぶあつい胸を打ちたたいてつぶやく。
 『こんな時がこなければいいのにーーー』
 アンドロマケがつきあげてくる慟哭にむせぶ、情景に見入るぺリオス、彼は、会った時すでにこの時の来たるを予期していたのである。
 三人は、門前に立つ、別れの言葉を交わす。
 『アエネアス、出航の時が来たれば連絡を頼む。ここ二、三日は、館にいるか、港湾の幕舎に詰めている』
 二人が目線を交わす、胸に感情がこみあげてくる、肩を抱き合う、肩に手をかけたまま言葉を交わす。
 『うちの者が君を浜まで送る。車上のものは、俺からの心づくしだ受け取ってくれ。この大釜は『ドード―ナの大釜』というものだ。まかない作りに使う大釜ではない、天上の神に見えざる手を借りたいときに叩き打ち鳴らして知らせる時に使う大釜だ。お前の危難を救うと心得よ!めったやたらに助けを乞うことはならんと心せよ。また、釜の中の銀塊は、俺からの餞別だ、納めてくれ。お前には本当に世話になった厚く礼を言う、ありがとう。君と船団の者らが力を合わせての成功を祈ってやまない、加えて、航海の無事を祈る』
 『おう、俺もお前の行く末の幸せを祈ってやまない。アンドロマケの幸せもあわせて祈る、尚、腹中の未来を大切に育てよ!お前と俺、生涯において会いまみえることはかなわないと考えている。今生の別れだ、くれぐれも達者でな。俺は行く!』
 アエネアスは、想いを断ち切る、きびすを返す、ぺリオスの館をあとにする、車引くぺリオス配下の者と連れ立って停留の浜へと歩を運び始める。
 ぺリオスの館の門前に漂う、惜別のクラウドを振り返り見た。

 歩きはじめて程なく停留の浜に着く、浜にいる者らが帰ってきた統領を迎える。
 アエネアスにとって情報収集に明け暮れた三日間は長かった。
 軍団長をはじめ一同に迎えられて、一瞬にして己のスタンスにたち戻る。
 『おう、軍団長、戻った、船団の状況はどんな具合だ?』
 『はい、状況は、順調な仕上がりに作業がはかどっています。只今、オロンテスの四番船に荷の積み込みの真っ最中です』
 『ほう、そうか、重畳!安心していいな?』
 『はい、安心してください。全般の作業が終わり次第、各船の責任者を招集します』
 『解った。ぺリオス領主から身に余る選別をもらってきた。受け取ってくれ。車を引いてきてくれた彼らを充分にねぎらってくれ』
 『了解しました』
 イリオネスは、アエネアスが餞別としてもらってきた品々に目を通す。
 『すごくでっかい釜ですな。何かいわれがある釜ですかな?』
 アエネアスを迎えた者らの手を借りて荷を受け取る。
 イリオネスは、車を引いてきてくれたぺリオス方の者らをねぎらった。

[Remembrance of Aeneis] Ⅳ To founding land of nation  『建国の地へ』 第2章  プトロトウムにて  44

2020-03-05 14:53:57 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 神託を告げ終えたぺリオスが肩から力を抜く、アエネアスに話しかける。
 『おう、アエネアス、神託の告げるところ全てを伝えた。何か質問はあるかな』
 『いや、それはない。よくぞこれだけのことを神託をもって告げてもらった。航海に余裕をもって対応していける。ありがたい!謹んで礼を言う』
 『神は神託をもって歩むべき道を示している。疑義を持つなかれ!業を為すに誤りに気づきし時は悔い改める。謙虚に勤めよと説いている。摂理の筋書きは至妙である。アポロン神に使える俺の言うことだ。司祭の任を勤める俺を信じて航海してくれ』
 『ぺリオス、お前の気づかい身に沁みる。ありがとう』
 ぺリオスがアンドロマケに声をかける。
 『アンドロマケ、神託の話は終わった。アエネアス殿と話し合っていいぞ』
 『そう、終わったの。アエネアス殿『航海の安全と望む未来』の神託でしたか?』
 『おう、心からこうべを垂れる神託をいただいた。ありがたいことだ。これをもって不安を退けて、航海に挑んでいける!ぺリオスに大感謝だ』
 『それは、よかったわね!私もアエネアス殿が想うところを為して、成功してくれることを心から祈っています。あなたの仁徳のなせる業であると心得ています』
 アンドロマケが姿勢を正す、アエネアスの目にジイ~ッと見入る、改まる、口を開く。
 『アエネアス殿、このたびは、夫ぺリオスが管轄している事業に手を貸して、助けてくれました。この私からも厚く礼を申し述べます。ありがとうございました』
 アンドロマケが息を整える。
 『このような時がおとずれないようにと思っていましたが、そうはならないものですね。とても悲しいことです。別れる事のこのつらさ、胸が張り裂けます、悲しいことです。会うは別れだったのですね。目指している目的地までの航海の安全を力いっぱい祈ります。これは私からの心づくしです。受け取ってください。あなたの父上の上着です。もう一枚はユールスの上着です。夏が過ぎるとすぐ冬の訪れです。二人の日常を気づかってあげてくださいね』
 そのように言って、アンドロマケは、深々とアエネアスに低頭する。
 『おう、アンドロマケ殿、頭をあげてください。私らのことを気づかってくれてありがとう。喜んで頂戴する。私が返すものを持っていないのが残念です。心から詫びます。アンドロマケ殿、心から礼を申し述べます。腹中の子を大切に育ててください!アンドロマケ殿、ありがとう、ありがとう』と言ってアンドロマケの手を力を込めて握る。
 アンドロマケの目から堰をきってあふれ落ちる涙、この情景に見るぺリオスが目を潤ませている。
 『アエネアス、言いそびれていることが一つある。それを伝える。イタリアのクーマエなる地だが私は知ってはいない。航海の途上でたづねてほしい。近々、南から風が来る。次の風待ちにここより北にあるケラニアの岬へ向けて、帆に風をはらんで出航せよ!ケラニアから西を目指すのだ!いいな』
 ぺリオスは、別れの言葉を告げる。
 三人は近き日の出航、航海の安全を祈りながら昼食のテーブルを囲んだ。

[Remembrance of Aeneis] Ⅳ To founding land of nation  『建国の地へ』 第2章  プトロトウムにて  43

2020-03-04 08:27:47 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ぺリオスがアエネアスに神託について話し始める。
 『なあ~、アエネアス、ケルキラ島の対岸の地がヘスペリアがあるイタリアの地である。そうである故にだな、近いと考えるかもしれない。それは考え違いだ。イタリアは、でっかい大陸の半島の地だが、それは想像を超えたでっかい半島なのだ。どっかそこいらの半島と比較にならないでっかい半島なのだ。ヘスペリアへは、遠く長い海岸線を迂回していかねばならんのだ。信託は、それについて詳しく告げている!この俺の考えが及ばない海岸線をつたって、つながる地を経て行きつくところである。それを知ることだ。ヘスペリアは、まだ、誰も手をつけていない大河が流れて通る沃野の地であると耳にしている。先住の民族が割拠している地である。如何なる民族であるか、それについては知ってはいない。いずれにしてもだ、その者らを征服して国を建てなばならない』
 アエネアスがぺリオスの話にうなずく。
 『では神託の説明をする。プトロトウムを出航する。南からの風を帆にはらんで、ケラニアにおもむき東からの風を待つ、イオニアの海を西へと進む、この季節なら一日の航海でイタリアの東南端の岬に到る、上陸はするでない。と神託は告げている。何故であるが、タラントの湾の沿岸に散在している市邑は、ギリシア人の植民による市邑であるゆえにだ。船をつけることは厳に慎めよ。神託は湾内の如何なる地にも船をつけるなと言っている。湾口を横切って西の岬あたりに船をつければいいと考える。シチリア島に到るまでのイタリアの南岸の市邑は、ギリシアの植民市と考えていいだろう。船を着岸させ上陸するには心して気を配ることだ。解るかな、俺からの注意事項だ』
 ぺリオスは息をついで話し続ける。
 『イタリアの南岸を進んで行ってたどり着く先は、シチリア島である。ここで航路を北にとってはいけない、北のメッシナ海峡は海流の事もあるが、狭いが故の危険が待っている。海峡の通過はするでない!ヘスペリアへの近き航路より遠き航路を行けと神託は告げている。シチリア島の沿岸に沿って南下し南端の岬を右手と進み島の西北端を目指せよ。櫂を休ませながら行けと諭している。この航路をとるにまさる航路はない!そこに到りて、島の北岸に臨んでとる航路は、シチリア島の北の大海洋を一気に北へと渡る航路をとって進めよ!しかしだ、ここで心すべきは、海難である。ここに到って無事の航海を心を尽くして祈れと言っている。お前の進路を阻む女神の神能をあがめ懇願して船を進めよと告げている!これを忘れてはいけない!』
 根を詰めて聞き止めたアエネアスが口を開いて言う。
 『ぺリオス、ありがとう!神託を正しく理解することは非常の難しいことである。お前なればこそ、難儀な神託の解釈を聞かせてくれる。ありがたい。感謝する』
 『あともう少しだ。心して聞くのだ!航海もここまで来た。鼻の先に目指すヘスぺリアがある、もう、お前の航海を妨げるものは何もない!イタリアのクーマエの地のシピューラが預かっている神託を受け取るのだ!建国の地の委細を記した神託ではないかと考えられる。時をえらび航海の条件を味方につけ、心の命ずるままに船を進めてヘスペリアを目指せと神託は告げている!』
 『おう、ぺリオス、神託の議をもらった。安心の航海を目指す!ありがとう』
 『未来を見通す神託の力、アポロンの真理を告げ渡した!建国は必ず成し遂げられる。お前の信じるを為せ!神意が約束している。何があろうとも恐れることはない。この地を去る時は今である、さあ~、帆をあげて出港せよ!功業を為せトロイの威名を高くあげてくれ!』
 ぺリオスが受けとってきた神託をアエネアスに告げ渡した。

[Remembrance of Aeneis] Ⅳ To founding land of nation  『建国の地へ』  第2章  プトロトウムにて  42

2020-03-03 06:28:48 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスがぺリオスの口もとを見つめる、ぺリオスが姿勢を改める、話し始める。
 『アエネアス、神託は告げている!神の告げるところをおろそかにすることはいかん!神託を正しく行う者だけに神は、見えざる手でその者の行く先々に手をさしのべる。それが摂理の至妙であると心得ることだ』
 ぺリオスが息を整える。
 アエネアスは、ぺリオスが座している空間に見えざるものの存在を感じる、アンドロマケがその場にいるのにその存在を感じない。
 ぺリオスは、日常のぺリオスではない雰囲気を呈している、アエネアスは不思議を感じながらぺリオスの言葉を待つ。
 ぺリオスが口を開く。
 『アエネアスよ、神はこう告げている。お前が行こうとしているヘスペリアなる地はイタリアの地にある、このプトロトウムの対岸のケルキラ島の対岸がそのイタリアの地である。神は、お前の航海に就いて、お前がヘスペリアの地に着くまでを告げている。ケルキラ島の対岸の地といえば近いが、ヘスペリアへ至る道ははなはだ遠いと心すべきである。お前が海を渡り『建国の地』を目指す、それは神意であると告げている。それを避けて他を志すことは許されないとも告げている。しかと心すべきことである。しかし、それをよしとしない神能を有するものの存在を忘れてはならない、謙虚に敬い奉ずべきと諭している、心せよと告げている』
 ぺリオスがアエネアスの目をジイ~ッと見つめる、見つめ返すアエネアス、ぺリオスが息を整える。
 『神が告げていることは、お前がどのように海路をたどって『建国の地』に行きつくことができるかを告げている。海路を行くについて、避けがたい海難、また、戦いに明け暮れる日が続くだろうが、見えざる手を信ぜよと告げている。それは、お前に対して神が約束してくれている。お前の想いは、必ず実現するであろうと神託を受けながら俺は感じたことだ。神もお前の未来に真剣だなと感じた一瞬であった』
 ぺリオスがテーブルの上の飲み物に手をのばす、喉を潤す、聞き手であるアエネアスも喉の渇きを感じている、喉の渇きをいやす、二人はうなずき合う。
 ぺリオスは考える、アエネアスがプトロトウムを出航してからの航海のたどる海路の実情をいかにして神託として、アエネアスに伝えるかに脳漿を搾る。
 ぺリオスは、それらについて、伝える神託の重みを増幅してアエネアスに伝えることにした。