『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  835  

2016-07-30 16:28:59 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼ら三人は三つ巴で撃剣を交わした。汗も存分に流した。荒野に等しい野原を流れる小川で汗を拭った。
 『おう、リナウス、ありがとう。いい汗を流した。ことに対峙する、事を制する、打ち込み、気合とタイミングだ』
 『言われる通りです』
 『統領、行きましょう。たまには、アレテスの小島も覗いてみませんか。そして、建造の場へと』
 『そうだな、イリオネス、毎日の巡回コースを決めておくのも悪くないな』
 二人は撃剣の訓練場をあとにした。リナウスは、二人を丁寧に見送った。
 歩く、行きかう、すれ違う者たちに元気があふれてきている。進水の催事を終えて、集落全体に意欲的な雰囲気が満ちてきていた。アヱネアスが顔を合わせる者たちから尊敬の念を含めた期待の眼差しが向けられた。
 そのようなアヱネアスの脳裏に決断しなければならない事項が鎮座している。避けて過ごすことのできない大切な重要な事項である。『このことについては、父親のアンキセスと対峙しなければならない事項なのだ』
 彼の脳裏をかすめて通る思いがある。父親と話し合う実行精神要諦である。
 『始計綿密、積極果敢、大胆実行、そして、その天の時は?』であった。
 朝晩、顔を合わせる父アンキセスの変化を感じ取っている。アヱネアスは、そろそろ来るなと気配を感じ取り、なんとなく身構える己自身に気づいていた。父と話することは、今は避けたい思いがある。彼の想いでは、新艇をあと2艇は販売してしまいたい、クレタにおける農作物の収穫状態を知りたい、クレタの人的状況を詳しく知りたい、そして、政治的状況を知りたかった。
 彼が静かに思考に時を過ごすときには、イデー山山頂で過ごした時の想い出に没頭した。山頂より目にした世界、その世界のかなたに世界が存在するのか、否かに大いなる疑問抱いている。彼は、このクレタにいてその疑問の答えを引き出せるのか、否かに及んだ。思考の時を過ごすたびに、三度も四度もその思考を繰り返した。どうしても突き破れない壁に阻まれるところで思考の原点に戻る。
 彼は、立ち止まった、その時に気づいた。
 『この壁を突き破る、それには、建国の道程の解析とその道の未来を展望し描く、条件満足の位置にスタンスしなければ未来が見えない。その位置はクレタの地なのか、またはそうではないのか。あらゆる位置にスタンスして見極めなければならない。世界をさまよう勇気がいるのか』と自分に言い聞かせた。
 『迷っていては、正解を得ることはできない、立ち止まっていてもその地が見えない。未来は足許ではない、脚下ではない。遠くを見つめろ、遠くても考えられる展望を見極めて、決断を下し、それから脚下照顧しろ。正しい一歩を踏み出すためにだ』
 アヱネアスの心は定まった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  834

2016-07-28 15:02:01 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 建造の場では、オキテスとドックスが各艇の担当責任者ら15名を集めてミーテングの真っ最中である、
 アヱネアスとイリオネスは、その様子を眺める、ミーテングは終盤に到っている、オキテスが終わりの言葉を告げた。
 『一同!よく理解したな。細心の注意をおこたらず、欠点のない仕上げを心掛けてくれ。ミーテングを終わる』
 一同は現場へと散っていく。アヱネアスがオキテスとドックスに声をかけた。
 『オキテス、ドックス、ごくろう。もの造りをやっていくうえで細心の注意をして欠点のない仕上げをしていく!ベストな心掛けだな』
 オキテスが声をかけた。
 『お二人は、早くから来てらしたのですか?』
 『統領も俺も少し前にここへ来た。ミーテングの光景を見せてもらった』
 『何か用件でも?』
 『いや、統領がな、新艇の建造の場を見ようといわれてな、ここへ来たわけだ』
 『そうですか。見られるようでしたら、案内しますが』
 『君らの一所懸命を目にするだけで充分だ。これからは毎日ここへ足を運ぼうと考えている。それとオキテス、君に話しておきたいことがあってな。昨日のことだ、言いそびれていたことがある』
 『はて、なんでしょうか?』
 『昨日は進水披露催行に迎えた客人たちの送迎、はなはだご苦労であった。気骨が折れたことであったろう。そして、進水披露催行を無事に終えてくれてありがとう、礼を言う。進水は新艇建造の句読点である。句読点を超えた。君らの日々の精進があったればこそと喜んでいる。まだまだ道半ばである。事業は目標を達成してこそ充実感がある。完成と完売を成果としてくれ』
 『解りました』
 オキテスはしっかりした口調で答えた。
 アヱネアスもイリオネスも、進水披露を終えた造船事業が新しい局面を迎えて展開していく、いかなる困難があるやもしれない、それをクリアして目的を達していってもらいたい。二人は口にこそしないが、心の中では強く望み、祈った。
 『イリオネス、どうだ、リナウスのところへ汗を流しに行かないか?』
 『いいですね!多忙を重ねると気合の入れるタイミングがくるってきます。行きましょう』
 二人は撃剣の訓練場へと足を向けた。
 『おう、リナウス!どうだ?』
 『昨日は、新艇の進水披露で大変だったでしょう。催事の一切を終えられ、ご苦労様でした。今日はさわやかな日です。本格的な夏はすぐそこに来ています。今日は汗を流すのに気持ちのいい日です』
 『いやな、イリオネスがこの前の借りを返したいという。リナウス、お前もやるか?』
 三人は防具を身に着ける。
 『統領、武器はなんでいかれますか?』
 『おう、剣でいく!』
 三人は木剣を手にとった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  833

2016-07-28 05:14:51 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 新艇5艇の進水披露催行を終えて一夜が過ぎた。浜において作業する者たちの興奮がさめていない。
 アヱネアスは、浜に立っている、眼前に広がるクレタ海を眺めている、傍らにはイリオネスが立っていた。
 アヱネアスの胸にこみ上げてくる感慨は、海のかなたに存在するであろう世界のことである。
 去りし日にイデー山山頂から目にした世界のことであった。
 彼は、しばしの間、胸の想いについて考えた。イデー山山頂から目にした世界と異なる世界が存在しているのか、思考はいつもそこで停止する。
 彼はイリオネスと目を合わせる、イリオネスが声をかけてくる。
 『統領、何か考え事でもーーー』
 『おう、少々想いにふけっている。イデー山山頂で目にした世界が、この海の向こうに展開している。その世界の四方八方にも、世界が存在するとすれば、どのように存在しているのか?それを気にしてのもの想いだ』
 『私の考えの及ばないことですね』
 『イリオネスが考えない世界か』
 『そういうことになります』
 『そうか、お前の今日の予定は?』
 『別にこれといって予定は立てていません』
 『新艇建造の場に行かないか、彼らが額に汗して艇の建造にに励む、その光景を目にする。俺の最も好きな光景のひとつなのだ』
 『判りました。一緒します』
 二人はさんさんと降り注ぐ陽の光を身にうけて、浜の砂地に足あとを残して歩んだ。
 新艇5艇を建造、進水させた。それはアヱネアスが率いる一族の快挙である。一族のメモリアルとして進水披露を催行した。その実感を一族総員が共有する、一族を統べる者として喜びの催事であった。
 我らはこのようにして生きている、その充実感と生の喜びを一族総員でうたいあげた。また、実のある成果として、新艇1艇の売約をもしたのである。アヱネアスは新艇進水披露催行の万事をふりかえった。
 アヱネアスひとりの力ではない、イリオネスら幹部スタッフの力が働いている、一族総員の力も働いている、一族以外のプラスアルフアの力の働きもある、そして、限りない多くのプラスアルフアの力、それらの力が束になって、成し遂げた成果である。アヱネアスは、人には言わず、語らず、その感動で胸が熱かった。
 アヱネアスら二人は、建造の場についた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  832

2016-07-26 04:43:20 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『浜頭、それにしても、でっかい魚ですな。これだったら食べごたえがある』
 『お~お、うまい具合に焼けた。上々の出来だ。オロンテス殿、そこの大板を頼む』
 『おう!』
 オロンテスが手にしている大板の上に焼きあがった大魚を乗せる、刺していた串を抜く。
 『お~お、作業完了だ。さあ~、食べようぜ!オロンテス殿、俺の焼いた大魚だ、味わってくれ。塩を多めに振りかける。その方がうまい!』
 スダヌスとオロンテス、そして、スタッフの二人の四人で大魚をつまんで口に運ぶ、酒を飲む、パンをほおばる、彼らは昼めしを堪能した。
 『スダヌス浜頭、馳走になりましたな。うまい魚でした』
 『そうか、うまかったか。それはよかった。たまには、こんな昼めしもいいだろう、オロンテス殿。また、やりましょうや』
 『スダヌス浜頭、試乗会の申し込みが3件来ているといってきている。午後にその打ち合わせをやる。頼みごとができるかもしれない。そのときはよろしく頼む』
 『おう、判った。申し込み先が解ったら知らせてくれ。相手先によっては力になれるやもしれん』
 『判った。また、話に来る』
 『おうっ!』
 昼めしは終わった。オロンテスらは売り場に戻ってくる、売り場にはギアスの姿があった。
 『おう、ギアス、ご苦労。集散所の話では、試乗会の申し込みが3件来ているそうだ。これから打ち合わせに行く、一緒に行こう』
 『判りました』
 『ギアス、木板と木炭ダ、持って行ってくれ』
 二人は打ち合わせの場に向かう、打ち合わせは小半刻で終わった。
 『オロンテス隊長、この日程でよろしいのですね。この日程に従って準備します。万事抜かりない対応で試乗会を行います』
 『よろしく頼む。申し込み先については、スダヌス浜頭にも伝える。相手先によってはスダヌス浜頭が同行する場合もありうる。そういうことだ』
 『了解しました。パリヌルス隊長には私から伝えましょうか』
 『おう、そうしてくれ。試乗会催行の日には、俺もその場に立ち会う。いいな』
 『判りました』
 ギアスは、打ち合わせを終えて、試乗会の申し込み先を記した木板を手にして船だまりに戻った。
 新しいチャンスに向かって歯車が回り始めている。ギアスは、事態が動き始めたことを身に感じた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  831

2016-07-25 05:03:04 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オロンテスはスタッフらに声をかける。
 『俺は、スダヌス浜頭の売り場に行ってくる。誰か手すきの者、いるか?』
 『はいっ、私、手すきです』
 『よしっ、ギアスのところへ伝言をしてくれ!。伝言は、昼は早めに終えて、パン売り場に来るようにと伝えてくれ』
 『判りました』
 『すぐに行くのだ、急げ!』
 スタッフは、速足で船だまりへ向かう。
 オロンテスはスダヌスの売り場に顔を出す、彼は店頭に立って指示を出している、オロンテスを見とめて声をかけてくる。
 『おう、オロンテス殿、いかがされた?』
 『昨日は当方の進水披露の催行に出席していただきありがとうございました。そのうえ、祝いの品をいただき誠にありがとうございました。改めてお礼申し上げます』
 『その丁寧な言い方は?』
 『当方の公式お礼訪問だ。昨日はありがとう。進水披露に来てくれたこと、そして、祝いの品を届けてくれた。いつも大変世話になっている。その礼を言いたくてな。そういうことだ』
 『そうか、こちらこそだ。オロンテス殿に世話をかけて、礼を言わなければならないのはこちらの方だ』と言って顔をほこらばせた。
 『この魚は、おらが浜でアサトレの大魚だ。昼に焼いて食べてくれ。いや!俺が焼いて馳走してやる!俺のささやかな礼だ。広場で昼に一諸に食べようではないか。うまいぞ!』
 『判った!浜頭の言葉に甘える、ありがとう。昼は一緒にやろう。手すきのスタッフを連れてくる、いいな』
 『おう、いいとも!』
 『浜頭、これは俺のところで焼いた、酒のつまみ用の堅パンだ、味わってもらいたい!朝、渡すのを忘れていた。当方の引き出物だ受け取ってくれ』
 『喜んで頂戴する。ありがとよ』
 『では、あとで』と言って、オロンテスは、スダヌスの売り場を去っていく、パン売り場に戻ってくる、ギアスに伝言に出したスタッフはもう帰ってきていた。
 『隊長、ギアス艇長に伝言いたしました。了解とのことです』
 『おう、そうか。よし!』
 オロンテスは、用件を終え、試乗会の件に考えを馳せた。
 またたく間に時間が過ぎて昼となる、彼は二人のスタッフを連れて広場に向かった。
 スダヌスは、焚火を前にして魚を焼いている。
 『スダヌス浜頭、言葉に甘えてきたぞ!パンは持ってきた!浜頭分だ』
 『オロンテス殿、ゆったりいこう。丁寧に魚を焼いている、根性を入れてな』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  830

2016-07-22 09:50:50 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 キドニアの船だまりに着いたオロンテスら一行は意気盛んである、オロンテスは、スダヌスと肩を並べて歩き出した。
 集散所における パン売り場の今日がスタートする、オープンを客が待っている、客と交わす朝トークが楽しげである。
 オロンテススペッシャルパンの売り上げは安定している、売り上げの状況は、その軌跡をたどると微増で今日にいたっている、売り場を開いた頃には、一日100個くらいであったものが、今は一日、200個くらいになっている。スタッフも三人に増やし、オロンテスと四人で運営している。
 数日前から、取扱品目に加わったのが堅パンである。日々、限定個数で販売している、危惧はしたが、なかなかの好評である。種類は2種類だが酒のつまみ用としたものの方が客受けした。
 オロンテスは、昨日の進水披露催行に客人とともに来駕のうえ、新艇1艇の売買が成約した謝礼に出向いた。
 詰め所に一歩足を入れるや、ハニタスの方から声がかかる。
 『おう、オロンテス殿、昨日はありがとう。いろいろと世話になった』
 『いえいえ、どういたしまして。こちらこそ、多忙にもかかわらず進水披露に来駕いただき誠にありがとうございました。そのうえ随伴のキドニス総元締め殿から、新艇の発注を頂戴いたしました。誠にありがとうございました。厚く御礼申し上げます』
 『おう、それそれ、キドニス元締めは、大変に喜んでいたぞ!統領に続いての進水の酒壺割りに感動していたぞ、彼は、まさかこの俺が第二番目に酒壺割りするとは思っていなかったと言っておられた。いろいろと気を配ってくれた。礼を言う。また帰りの道中で新艇仕様のヘルメス艇を操舵したことも喜んでおられた。また、もてなしの丁寧さも一同が感動していた』
 『そうですか、それは何よりでした。ハニタス殿からほめていただいて、ありがとうございます。これは粗品です、お茶の時につまんでください。それから、追加の仕様書きと姿形図、性能についてのメモ書きです。営業に役立ててください』
 『お~お、これこれ、これだ。これが評判でした。大いに役立ちます。それから、試乗会の申し込みが3件来ています。今日、午後にでも打ち合わせしませんか』
 『判りました。ギアスを連れて、午後にこちらへ来ます』
 『いいでしょう。待っています』
 オロンテスは、用件を終えてパン売り場に戻ってきた。
 『隊長!来店するお客さんが昨日の進水披露の話をしていきます。5艇同時進水とはと話していきます。めずらしいことのようですね』
 『そうか、そうだろうな。俺もそう思っている、そんじょそこらにあることではないからな』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  829

2016-07-21 05:27:51 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 浜の朝が明ける、いつもの顔がそろう、声を掛け合う、新たな気が漂う、彼らの目が輝いていた。
 進水の挙行がトリガーとなって、覇気に満ち、新たな活性で人々が動いている。
 彼らの希望がカタチで見えてきている、燃えている、業務に携わる者たちはてきぱきと事を運ぶ。オロンテスは、業務の渦の中で奮闘していた。
 アヱネアスもイリオネスも浜に立っている、ユールスはアカテスと朝行事をしている、アヱネアスの父アンキセスの姿も海の中にある、彼ら一族の朝行事は私語もとんでにぎわっていた。
 パリヌルスとオキテスは、オロンテスと何事かを打ち合わせている、ギアスが忙しく立ちまわっている、ヘルメスは荷積みを終えた。
 スダヌスが姿を見せる、カラスの行水のように朝行事をを済ませて、オロンテスのところへ来る。
 『あ~、オロンテス殿、おはよう。昨夜はありがとう。たいへん世話になりましたな。ヘルメスの出航はすぐですかな?』
 二人の目が合う。
 『俺、統領に挨拶をしてくる、少々待っていてくれ、頼む』と言葉をかける。
 『了解!』と返す。
 スダヌスが浜に立っているアヱネアスの前に立つ、
 『おはようございます、アヱネアス統領。昨日はありがとうございました。たいへん馳走になりました。前途洋々です!統領の喜びは、私の喜びです。何事も皆さんと共有できることを生きがいとしています。今日はこれにて失礼いたします。魚関連事業の報告の件で近々中に伺います。よろしくお願いします』
 『おう、スダヌス浜頭、いろいろありがとう、礼を言う。近々に来る、そうか。待っている』
 二人は手を固く握り合った。
 『イリオネス軍団長おはようございます。昨日は新艇進水の催行おめでとうございました。心から祝っております。いろいろ馳走になりました。ありがとうございました。アサイチのヘルメス便で戻ります。魚事業関連の件で近々中に来ます。今日はこれにて失礼いたします』
 『おう、そうか、多忙にもかかわらず、来てくれてありがとう。そのうえ、祝いの品、ありがとう。これからも浜頭の力を借りることと思う、そのときは、よろしく頼む』
 『判りました。こちらこそです』
 二人は握手を交わした。
 スダヌスはヘルメスに乗る、オロンテスの手を握る、ギアスに声をかける。
 『ギアス艇長、よろしくな!』
 『では、出航します。今日も西からいい風が来ます』
 ギアスが指示を出す、ヘルメスは、キドニアへと波を割り始める。
 浜では、アヱネアスら一同がヘルメスを見送った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  828

2016-07-20 05:42:06 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 人影が闇の中でうなづく、スダヌスは人影の腰に手をかけて抱きよせる。
 スダヌスは、暗闇の中で、唇で彼女の唇を探し求める、互いに求め合う、二人は、求めているものを直ちに手に入れた。
 スダヌスは口吸いをつづけながら、手を女体にはわせる、胸の山をもみしだく、彼女は悶えた。
 『うう~っ!』
 声を上げる、力を込めてしがみついてくる、スダヌスの左腕に力がこもる、彼女を抱く、右手は彼女の姫どころをなぞる、彼女の右手がスダヌスの男根を握る、しごく、猛ってくる男根、感情が高まってくる、もつれて床に横たわる、姫どころはしとどに濡れている、彼女はスダヌスに訴えた。
 『ねえ~、いれて!ほしい!』
 彼女が喘ぎ声でスダヌスにささやく、答えるスダヌスは、身を重ねる、彼女が男根を姫どころにみちびく、あてがう、互いの腰に力が入る、姫どころにはまり込んでいく、体が律動する、男根が突きこまれる、それに答えてなまめしく腰動で答える彼女、二人は激しく、時には優しく、時間をかけて行為を行った。
 恍惚の時が訪れてくる、律動が激しく、情の高まりに、快感を求めて腰動する、彼女が声をあげる。
 『くる!くる!来た~っ!』
 腹の上のスダヌスも声を出している、二人は互いの体をしっかりと抱く。 
 『あ~あ、いい!俺も来る!行くぞ!いく!いく!』
 スダヌスが声を押し殺して叫ぶ、恍惚の残心の腰動を繰り返す、しばらくして動きが止む、身を引こうとする、はなすまいと身体を密着させて来る彼女。
 なえながらも女体の温かさとぬめりの中にあるスダヌスの男根、時を経て再び屹立して来る男根、それを感じ取る彼女、体全身でスダヌスを受け入れている女体、二度目の恍惚を求めて、二人は体を律動させた。
 情事の終わりの時に到る、身を離す二人、スダヌスが声をかけた。
 『ありがとう、俺がここに来る、お前に会える、密会の時を過ごす、それが俺のこの上ない喜びなのだ。今日は、ありがとう』
 『そのように言ってくれて私はうれしい。私も礼を言う。ありがとう。次に会えるのは、いつ?』
 『いつとは言えないが、そうは遠くない、また会う日がだ』
 彼女は暗闇の中でスダヌスの胸に顔をうずめた。スダヌスも彼女を抱きすくめ、心残りの愛撫をして別れを惜しんだ。
 夜の短いこの季節、東の空が明るみ始めようとしていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  827

2016-07-19 05:28:26 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 統領を頂点に仰ぎ、イリオネスら四人を中心軸として活動している彼らは熱く燃えている。燃焼するエネルギーが事を為していく。目標達成、覗き見る未来、恐怖を消して事に挑んでいく、彼らの行く手を阻むものが無きに等しい感があった。
 宵が待ちかねている、とばりをおろそうとしている、足踏みしている。酒宴が幕を閉じる、集っていた者たちが引きあげていく、宵がとばりをおろし始めた。
 イリオネスがスダヌスに声をかける。
 『おう、スダヌス浜頭、オロンテスが宿舎を整える、それまで、俺の宿舎で積もる話でもしようではないか。統領も見える、パリヌルスらも呼び寄せて、どうだ?』
 『それはいい!やりましょう』
 パリヌルスは、酒宴の後始末をセレストスらに任せて、四人は、イリオネスの宿舎へと足を運ぶ。オロンテスがやってくる、飲酒のつまみにと焼いた堅パンとぶどう酒の壺をもって宿舎へとくる。
 彼らは、それらを飲み、つまみながら話に花を咲かせていく、スダヌスの話す世情に耳を傾けた。
 アヱネアスもイリオネスもスダヌスが運んでくる世間話はありがたかった。彼らは、世の中の移り変わり、世の中の状況に接することの少ないポジションにいるだけにスダヌスの持ち来る情報は入用であった。
 話は、あちらに飛び、こちらに飛んでと、花びらを散らし、花粉を振りまき、落ち着くところに落ち着いた。
 深更に到る、話のタネが尽きる、雑談の時は終わった。
 就寝の挨拶を交わし各人が宿舎へと向かう。オロンテスがスダヌスを宿舎へといざなった。
 スダヌスとあいさつを交わしてオロンテスが去っていく。スダヌスは身を宿舎の暗闇の中に落ち着けるが、心の中はさざ波がざわついている、祝宴の折に話をつけておいた彼女の来訪があるやなきやに気をもんだ。
 彼自身待つことが得意ではないが、じい~っとこらえて待つ、心のざわつきに身もだえながら体を横たえて待った。酒の酔いがある、眠気に耐えられない、うつら、うつらとした。
 戸をたたく音を耳にする、目を開ける、静かに立ちあがる、戸口に歩み寄る、戸に手をかける、開ける、やわらかい人影が中に入ってくる、スダヌスの心がときめいた。
 『おう、来てくれたのか』
 声を殺して語り掛ける、影がうなずく、身を寄せてくる、影の耳に唇を寄せる。
 『俺は待っていた。来てくれて俺はうれしい。俺はお前が愛おしいのだ。判ってくれるか』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  826

2016-07-18 04:44:53 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『しかし、オキテス殿、新艇は建造を開始してから、約一か月半あまり、この期間に進化しましたな。全く、驚くばかりの、画期的な進化ですな。それまでの新艇はそこいらにある帆船と変わらない船であったのにな。あなたもだが、パリヌルス殿ドックス殿もたいしたもんだ、恐れ入りました。これが今の私の偽らざる心境です』
 『浜頭、そう、ほめなさんな。欠点を除くのに注力して、考えた結果をカタチにした、それだけのことですがな』
 二人の話が絆の結び目を固くしていく。
 『浜頭、明日からは新艇の売り込みに注力していくわけです。力を貸してほしい』
 『判っているって、私としてできる限りの力をお貸しします』
 『お願いします』
 二人は杯を満たして飲み干した。
 みんなが慰労の酒宴を力いっぱい楽しんでいる、彼らは今日を振り返る、表情が明るく輝いている、建造が順調に進んで今日の日を迎えた。そのうえ、新艇1艇の売約も決まった。アヱネアス以下幹部たちも喜びをあらわにしての酒宴であった。
 太陽が西に傾いてきている。黄金茜に燃える夕陽、そのグラデーションが美しく浜を彩る、焚火の炎に灼かれる一同の顔も真っ赤である、舌つづみを打った宴が終りの時を迎えようとしている。
 一同が声をあげて提案する。
 『オキテス隊長、酒も肴も口にするものすべてがうまく、ごちそうさまでした。今日の快挙を祝して、『ズイトー!』(ギリシア語でバンザイ)を叫びたい!『ズイトー!』でしめてください』
 『おう、お前、いいことを言う。お前の言うように『ズイトー!』でしめる!いいな!』
 オキテスはそのことをイリオネスに進言する、うなずくイリオネス。
 『いいだろう、それでいく』
 イリオネスがアヱネアスに伝える、こころよくうけるアヱネアス、一同に告げるオキテス、準備が整う、アヱネアスが口を開いた。
 『おう、諸君!俺も今日はすこぶるうれしい!』
 一同を見渡す。
 『諸君らの働きがあったからこそ、進水の催行、新艇1艇の売約の成立の快挙を成し遂げた!『ズトー!』を三唱をする!』
 『ビバ!ビバ!ズイトー!』
 『ビバ!ビバ!ズイトー!』
 『ビバ!ビバ!ズイトー!』
 一斉唱和の声が浜にこだました。
 これを終えて、イリオネスが一同に提案する、
 『アヱネアス統領に『ズイトー!』をささげる。一同、唱和してくれ』
 『おうっ!』『おうっ!』返事が返る。
 『アヱネアス統領!ビバ!ビバ!ズイト―!』
 『アヱネアス統領、ビバ!ビバ!ズイト―!』
 『ビバ!ビバ!ズイトー!』『ビバ!ビバ!ズイト―!』
 三唱の声が浜にとどろく。 
 『おう、諸君ありがとう!お俺には仕事に取り組んでくれた君らがいる。何事も全てうまくいく。君らに『ズイトー!』を贈る、唱和してくれ』
 『判りました』 一同が身構える。
 『我らが民、諸君!ビバ!ビバ!ズイトー!』
 手にしていた杯の酒を飲み干す、杯を放り上げる、杯が宙に舞う!
 一同が大声をあげて『ズイトー!』を三唱し終えて一同から拍手が沸いた。浜は『ズイトー!』の唱和で沸きに沸いた。
 統領以下一同の一体感が強まった。