『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY  第二編完結しました、御礼申し上げます。

2019-10-27 06:07:43 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
             
                   *謹んで御礼申し上げます。

       『トロイからの落人』にアクセスいただき、お読みいただき誠にありがとうございました。
       ようやく、『アエネアス’ズ物語』の第二編を完結させることができました。
       続けて第三編の執筆を考えています。その説には何卒よろしくお願い申し上げます。

              令和元年11月27日       山田 秀雄

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱   エピローグ

2019-10-26 06:19:59 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ピユロスの浜に朝が来る。星がきらめいている、薄明の頃合いである。
 一夜を過ごした船団の者らが起きだしてくる、他国の海に身を浸してでやる朝行事である。
 アエネアスがユールスとともに朝行事をする、船団の者らが海に身を浸し、朝の挨拶を交わしている。
 朝行事を終える、出航を控えて緊張が高まる、船長役担当の声が飛び交う、出航の準備にとりかかる。
 
 アエネアスが波打ち際に起つ、西の海に目をやる、身体を反転させる、背にしていた陸地のはるかに向けて思いをはせる。
 クレタに浜を出て今日が四日目の朝である、ギリシア本土の西南端部ピユロスの浜から東南の空をのぞむ、陽が顔を見せる空が明るんでいる。
 彼は、この頃合いのニューキドニアの浜の情景を沸々と思い浮かべる、浜のみんなが溌溂の朝を迎えているだろうか、朝行事をしているだろうか。
 アエネアスが瞼を閉じる、クレタを託した彼らが事に携わる姿を瞼の裏に描く。
 
 この頃合いのニューキドニアの浜の波打ち際にドックスが立っている、ドックスは、超多忙の三日間を過ごしやり、アエネアスら船団の者らのことを思いやる。
 ドックスが北西の空をうかがう、そして、つぶやく。
 『アエネアス統領、うまくやれそうです、使命を全うします。統領の目的成就を祈っています』
 ドックスは、今、彼らがいずこの浜で朝を迎えているかに思いをはせる。
 遠い北西の空に一朶の雷雲、雷光のきらめきを目にする。

 船団一同が朝食を終える、イリオネスの檄が飛ぶ。
 『ピユロスを出航する!』
 『おうっ!』
 喊声をあげる、乗船する、位置に就く、船を停船位置から後退させて、船列を整える。
 一番船上でパリヌルスが咆哮する、
 『出航!漕ぎかたはじめ!』漕ぎかたが海面を泡だてる、船首が海づらを割る、今日の目的地を目指して船団が進み始める。
 浜に居並ぶ、トーバル浜頭と配下の者らが北に向けて、凪いだ海を割って進みゆく船団を見送ってくれていた。

               海洋を進む 舳先に起つ 西のはるかを望む
               船は 北へと波頭を割る
               大いなる希望を抱いて 超えていく荒れる海
               背を押す日輪 船を押す風
               我は行く 君とともに 心の命ずるままに
               俺には率いる民がいる
               信じたこの道をただひたすらに 俺は行くひたすらに
               我が民とともに いつに日にか 必ず踏んで立つ大地 建国の地

                            完

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  150

2019-10-25 04:44:20 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 浜頭とイタケ島への航海の話を終えたアエネアスが戻ってくる。
 アエネアスの戻るのをイリオネスが待っている。
 『あ~、統領、長かったですね。何かいい話ありましたか?』
 『おう、いい話があった。明日の航海について詳しく聞いてきた。ほれッ!』と言って、持ってかえってきた3枚の木板をイリオネスに手渡す、受け取った木板に見いるイリオネス。
 『軍団長、それでどうだ!明日の航海の不安がない』
 『統領、これはありがたいですね。私が預かっておいてよろしいですね』
 『おう、いいとも!明日からの航海に役立ててくれ』
 『これだけの情報があれば、明日から二日間の航海が安心です。早速、航海の打ち合わせをやります』

 イリオネスが船長役担当の者らを召集する。
 『おう、一同、ごくろう!まあ~、そこに腰を下ろせ』といって、一同と目を合わせる。
 場は静まっている、興奮と期待が渦巻いている、また、それと同量の冷静さと不安感が漂っている。
 『統領が浜頭と話し合って、明日、明後日の二日間でイタケ島に到るまでの航海について詳しい情報を持ってこられた。まず、統領の話から聞く!いいな。統領願います』
 アエネアスが浜頭と話し合ったイタケ島までの詳しい話を一同に話す、『しかしだな、浜頭の話によるとだな、この時節、この航路では風があてにならんそうだ』と話す、一同と目を合わせる、アエネアスが話し続ける。
 『ところでだな、クレタにおいてテカリオンと話し合った航海の話を一同に伝えておく。このピユロスからオデッセウスのイタケ島まで二日間の旅程を終え、そして、さらに沿岸に沿って、北へ三日間の海旅でケルキラとかいうでっかい島に着くそうだ。テカリオンの話はそこまでだ。そこで彼が言うのでは、そのケルキラという島から西にむけて一日と半日くらいをかけて海を渡れば大陸の南端の岬に着くそうだ。そこから岸に沿って旅を続ければ、巡り巡って、父アンキセスの言うへスペリアに着くであろうと言っている』
 統領の話が終わる、イリオネスが話し始める。
 『君ら、統領の話、充分に理解したな。一同、戻ったらこの話をみんなに話してやってくれ。では、明日の航海予定について話す。明朝はこの浜において朝食を済ませて、ピユロスを出航する』
 イリオネスは、アエネアスの持ちかえった航海図を一同に見せる。
 『沿岸に沿って北上する。図を見てわかるように、ピルコス沖のサギントス島の浜において停泊しようと考えている。以上だ!質問はあるかな?』
 『質問はありません』
 一同が答える、明日の航海の打ち合わせを終えた。 
 夕陽が海上を、そして、船団の総員が一日を過ごした浜を茜色に照らし染めていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  149

2019-10-24 06:05:02 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 浜頭の問いかけにイリオネスが身構える。
 『浜の一隅でパンを焼きたいのです。これから先も旅を続けるわけですので、三日分くらいのパンを焼きたい。焼き上げには夕刻までかかると思います。燃料には林の枯れ枝を拾います。その燃料代ということで受け取ってください』
 『そうですか、そう言うことで受け取ります。どうぞ使ってください』
 イリオネスがパンを焼く許可を得たことを一同に伝える、オロンテスがパンを焼く場を作る、他の者たちが枯れ枝集めに林に入って行く、枯れ枝を集めてかまどに火が入る、パン焼き作業が始まる、浜頭の配下の者らが見つめる、その手際よさに見とれる。
 浜頭が飛んでくる、イリオネスに声をかける。
 『あの~、軍団長殿、あのもらった礼金ですが、過分です。燃料の薪は、私らが都合します。配下の者らにすぐ運ばせます』
 配下の者らが薪を運んでくる、パン焼き作業の場に積みあげる。
 『存分に使ってください。不足すれば言ってください。直ちに準備します』
 その言葉を残して薪をおいていく。
 オロンテスにとってありがたかった。乾燥したいい薪である、パン焼き作業がはかどる、オロンテスは予定量よりも多くのパンを焼きあげる。
 パン焼き作業を終えたオロンテスがイリオネスに作業の終了を報告する。
 『軍団長、薪をもらったことによって、向こう四日分くらいのパンを焼きました。ついでに今夕の副菜にと考え、塩干魚をも焼きました』
 『ホウ、そうか、うまくいったか。重畳!』
 『スペッシャルパンも少々焼きました。浜頭と配下の連中に渡してやってもいい分を焼いてあります』
 『ホウ、そうか。彼ら口にして、どう言うかな?まあ~心づくしの礼心で渡す』
 浜頭方から燃料用の薪をもらったことでオロンテスの仕事がはかどり、予想外の結果を得ることができたことを喜ぶ。
 アエネアスが焼きあがったスペッシャルパンを持って浜頭のところに行く。
 『おう、浜頭!薪をありがとう。旨いパンが焼けた。食べてみてくれ。どうだ?』
 焼きあがったばかりの熱いパンを感動を隠さずにパンを受け取る浜頭、待ったなしで口に運ぶ。
 『これはうまい!統領、うまいパンですな!こんなうまいパンを口にする、感謝感激です』
 『おう、パンをほめてくれるのか、ありがとう。ところで浜頭、教えてもらいたいことがある。明朝、ここを出てオデッセウスのイタケに向かうのだが、航路について定かではない。イタケまでの航程はどれほどだろうか?』
 『統領、イタケへは、日中の航海で二日がかりですな。このピユロスから、沿岸に沿って北へですな。私の知っている範囲で航海図を書いてあげます。木板と木炭を準備します』
 浜頭が配下の者に言いつけて木板と木炭を準備する、アエネアスに浜頭の親切度がヒシヒシと伝わる。
 『浜頭、世話をかけます』
 『いえいえ、私のほうこそ薪代を過分にもらって、返すことができる、ありがたいと感じています。これくらいのことはさせてください』
 統領と浜頭のイタケへの航海についての話し合いが終わる、浜頭がちょっと待ってくれと言う、アエネアスが待つ、浜頭が航海図と停泊しやすいサギントス島の海岸図とその浜の浜頭あての紹介状を木板に書いてくれる。
 『浜頭、ありがとう!親切をありがたく頂戴する。明朝は、礼を言うことができないかもだ。今、ここで心から浜頭に礼を言います。親切にしてもらった、ありがとう』
 アエネアスが手をさしのべる、手のほこりを払って、アエネアスの手を握る浜頭、二人は目を合わせる、ジイ~ット見つめ合った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  148

2019-10-23 03:49:54 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 船団の一行がギリシア本土の南端のピユロスの浜で朝食を終える。
 イリオネスが各船の船長役担当を招集する、打ち合わせる。
 『おう、諸君!ごくろう!一同を休ませたな。ここに到るまでの航海が順調であったとはいえ、二日間に及ぶ暴挙と思えるような航海、天候に恵まれた航海であった。なんとか目指したピユロスの地に着いた。大変であったろうと察している。ところでこの地の浜頭の厚意で一日一夜をこの浜で過ごす。各自、思惑があれば言ってくれ。オロンテス、お前が担当している食に関する業務で何かあるかな?特にお前の担当している業務が大変なことだと解っている』
 『はい、ありがとうございます。ついてはパンの件ですが、航海事情によって少々多めに配布したことにより、あと残すところが一食分余りとなっています。パンを焼きたいのですが、この浜、火を使わせてくれるでしょうか?軍団長、当たってみてもらえないでしょうか』
 『おう、やっぱりな、その件か、統領が気にかけている件だな。了解した、即、当たってみる。はかに?』
 『おう、パリヌルス、何だ?』
 『今日、午後半ば過ぎでいいのですが、明日からの航海についての打ち合わせをしてもらえば幸いなのですが』
 『そうだな、その件については、統領のほうで段取りを考えている。対外的な件もある。統領と詳しい話をしてみる。午後半ば過ぎには打ち合わせをやる段取りとする。オロンテスの要請が了承されるようであれば、全員こぞって手伝い方を頼む』
 『了解しました』
 『オロンテス、パンを焼くのに時間はどれくらいかかるかな?』
 『日中いっぱい、一日を要すると考えてください』
 『堅パン3ケースを統領のところに届けてくれ』
 『判りました』
 彼らとの打ち合わせを終えて、イリオネスはアエネアスと打ち合わせる。
 『統領、やっぱりそうでした。オロンテスがパンを焼きたいとそのように言っています。浜頭との交渉かたよろしく願います』
 『心得た!』
 『浜頭方への謝礼の件ですが、ドラクマ銀貨100枚くらいでいいですかね?』
 『おう、そんなところでいいだろう。準備ができたら交渉に行く!軍団長、急ごう』
 『判りました』
 イリオネスが急いで準備にとりかかる、準備を整えてアエネアスの許に来る、二人は浜頭のほうへと出向く。
 『俺は必要ないが、お前は帯剣しろ!』
 『そうですね!』
 二人は、張り番管理をしている浜頭の許へ歩を進める。
 『あ~あ、浜頭殿、今朝ほどはどうもでした。このたび世話になった礼の件で来ました。これは私らのかまどで焼いた保存用の堅パンです。賞味いただければと持参しました。受け取ってください。それから、これは些少ですが、一日一夜使わせてもらう浜の礼金です。受け取ってください。軍団長渡してくれ』
 『浜頭殿、この船団の軍団長役を務めているイリオネスです。よろしく願います。どうぞ!これが最初に言いました私らのかまど焼きあげた堅パンです。これが今回浜頭殿の浜を使わせてもらう礼金です。受納ください』
 『これはこれは、遠慮せずいただきます。しかし、浜使用の礼金は頂戴するわけにはいきません。スダヌス浜頭に知れると、あいつは何こそ言います』
 浜頭は、礼金のほうを受け取ろうとはしない。
 『そう言わずに受け取ってもらえばいいのです。私どもの無理を聞いてもらいたいと考えています』
 『無理とはなんですかな?聞ける無理か、聞けない無理か、どちらですかな?』と浜頭が聞いてきた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  147

2019-10-22 04:22:12 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 浜を照らす朝陽がまぶしい、船から降りて浜に立つアエネアス、控えて立つパリヌルスら三人、オキテスと浜頭が来る。
 アエネアスと浜頭が向かい合って立つ、自己紹介するアエネアス、どのように自分を紹介するかの思案は出来ている。
 『トーバル浜頭殿ですな、知り合いのクレタはスオダの浜のスダヌス浜頭殿からうかがっています』
 アエネアスは知り合って久しい間柄であるニューアンスを漂わせて話しかける。
 『はじめましてですな。私は、今、イタケ島のオデッセウスのもとに向かう海旅をしているアエネアスといいます。船上の者らは、私が統べている者らです』
 『私は、スダヌス浜頭の紹介状にある、この浜を取り仕切っているトーバルです。イタケへの旅の途中といわれましたが、ここでの用件について承りたい』
 『一昨日の朝、クレタ島のキドニアの浜を出航して、二日間、陸に上陸することのない旅を続けてきました。私が統べている者らを陸に揚げて休息をさせてやりたい考えています。出来れば今日一日、今夜一夜、浜を使わせていただければ幸いなのですが』
 『用件は解りました、アエネアス殿。しかし、かなりの人数ですな。どれくらい、いらっしゃいますかな?』
 『総人数は350人余りです』
 トーバル浜頭から即答がない、思案している、トーバル浜頭が口を開く。
 『アエネアス殿、用向きは、一同の休息ですな、歓迎というわけにはいきません。今日一日と言われましたな、休息されるについて、これだけの人数です、この地の者らが不審に思うやもしれません。今日一日、私と私の配下の者らが張り番管理をします。よろしいですね』と念を押してくる。
 アエネアスが即答する。
 『了承します』
 『承知しました。使ってください』
 交渉が成立する。その旨を全員に伝える。一同が喜ぶ、船から降りる、各自が海に身を浸して洗いながら浜にあがってくる。
 彼らにとって二日ぶりの陸地である、陸地に立つ安堵感を味わっている。
 トーバル浜頭と配下の者らが張り番管理に就く。
 アエネアスが長い海岸線の波打ち際に立って海の彼方を見つめる、この浜からの海、西に向けて果てしなく広がっている、果てしない大空と海を眺める。
 島影ひとつない、視野をさえぎる何物もない果てしなく広大な海洋である。
 彼は考える、『未来とは目にすることができない。想像することも許さないものなのかな』である。
 傍らに人気を感じる、イリオネスが立っている。
 『おう、イリオネス、おはよう、いい朝だ。地元の浜頭とは、話がついて、今日一日、今夜をこの浜で過ごす、明朝、日の出の刻に出航する!計画を立ててくれ。向かう先は、イタケ島ということにしてある。行く先については俺が浜頭に直々にたずねる。なお浜頭に浜を使う謝礼について思案してほしい。思案がまとまったら聞かせてくれ』
 『了解しました』
 『浜頭と話し合う段取りもある。それからオロンテスの思案もあろうと考えている。朝食を済ませたら頃合いを計って浜頭と話し合いをする』
 『判りました』
 アエネアスがイリオネスとの打ち合わせを終える。
 オロンテスの配慮で朝食が始まる、彼らは、焼き上げてから三日を経ているパンに噛みついている、配られたぶどう酒で胃に流し込んでいた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  146

2019-10-21 06:11:18 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 昨夕は深まりゆく宵のとばりと競って、ピユロスの港の海域に着いたアエネアスの船団は、一夜を過ごし朝を迎える。
 ピユロスの海岸線は、湾曲することなく伸びている、明るくなって浜を見渡す、船から降りて、しばし休息のとれそうな条件の浜を探す。 
 『おう、ギアス、水深を計ってくれ』
 パリヌルスとギアスが水深を計る、パリヌルスはどうするかを思案する。
 ギアスに指示をする。
 『ギアス、船を微速で動かして、浜のあのあたりに船首をつけるのだ。俺が水深を計りながら指示を出す』
 『判りました』
 ギアスが漕ぎかたに指示をする、船がゆっくりと動く、目的に好条件と思われる浜に水深を計りながら船首を近づけていく、衝角が海底に接すると思われるところで船を停める。
 『碇石を下ろせ!』とパリヌルスが指示する。
 パリヌルスが二番船にサインを送る、一番船にならって、二番船が船首を浜に着ける、三番船、四番船も一番船にならって船首をそろえて浜に近づけて船を停める。
 パリヌルスがオキテスを誘って、浜の状況を探りに向かう、海の深さは胸部に到らない深さである、二人は安堵の表情でうなずき交わす、二人は用心を心して帯剣して海中を浜に向けて歩む。
 船と浜との距離は、14~15メートルくらいである、二人は浜にあがる、船に振り向く、ギアスと三番船のアレテスを手で招く、声には出さず帯剣の指示をする。ギアスとアレテスが二人の許に来る。
 四人で話し合う、浜の状況を探る、付近に人の住む家屋が見当たらない、朝が明けたばかりである、浜に人影がない。
 パリヌルスがアレテスに指示する。
 『アレテス、統領のところへ行って、スダヌスからもらってきた地元の浜頭への紹介状をもらってきてくれ』
 『了解!』
 アレテスが統領のところへ走る、紹介状をもらって戻る、パリヌルスとオキテスが打ち合わせる。
 『おう、少々付近を歩き回る、たずねるだな。ギアスとアレテスに浜を見張らせる』
 パリヌルスとオキテスが二手に分かれて訪ね歩く、浜のほど近くに数軒の家屋を見つける、オキテスがたずねいく、三軒目で目指した用件の浜頭の屋敷にたどり着く、浜頭当人に会える、事情を話す、少々の難があるものの言葉が通じる。
 紹介状をとりに引き返す、アレテスとギアスに指示する、アレテスがパリヌルスに連絡に走る、ギアスが統領の許に連絡に向かう、オキテスが間をおくことなく浜頭の許に戻る、紹介状を当人に手渡す、内容を理解したようである。 
 オキテスが浜頭をアエネアスの待つ浜に案内した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  145

2019-10-20 08:28:29 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ギリシア本土、ペロポンネソス半島、その半島の南東端部、中央端部、西南端部に存在する三つの岬に挟まれて存在する二つのでっかい湾、南東端部の岬の海峡を隔てて存在するのがキューテラ島である。
 アエネアス船団の今日の航海は、このでっかい二つの湾口を航走しなければならないのである。
 アサイチに航走するのがラコニコスカルパスの湾口である、湾口の航走距離は40キロ余りと想像される、もう一つのメッセニア湾の湾口距離は、60キロくらいと考えられる。
 キシラの海を出航して中央部の岬に到達したのが、約4時間後である。岬の通過に1時間くらいを費やし、メッセニア湾の湾口を渡りきって南西端部の岬の沖に達したのが午後半ばの頃合いである。
 今日も幸いなるかな、昨日と同様の風に恵まれての航海である、東寄りの南風に押されて船団は、順調に航海する。
 二番船に座乗しているアエネアスは、この幸運に喜びをかくせないでいる。
 『おう、オキテス隊長、昨日と今日、いい日和、いい風、このような二日続きの幸運、手放しでよろこんでいいのかな!』
 オキテスは、『もし何かがあればーーー』を胸に抱いて聞いている、航海中の緊張をシッカリ意識している。
 一番船では、イリオネスがパリヌルスに声をかける。
 『おう、パリヌルス、航海が順調だな。この調子だとピユロスを目指す!宵の口にはつけるだろうと考えられる。航海に欲ばりは禁物なのだが、欲ばりたい。今夜の停泊はピユロスとする。やってくれ』
 『了解しました』
 パリヌルスはギアスを呼ぶ、ギアスにスダヌスの航海図を見せながら話す。
 『ギアス、軍団長からの要請だ!ここに二つの島が並んでいる。この二つの島の南の海域を通過した地点で北に向けて進路をとり、沿岸を見て航走してくれ。今夜の停泊予定地はピユロスだ!航走は、島との離れる距離に要注意だ。どのような海であるかは定かではない!岩礁に気をつけて航走してくれ』
 『了解しました』
 『停泊予定のピユロスに着くのは宵の口と考えている』
 『風が弱まってきています。船速の具合が気になります。後続の各船の船速に注意をして航走します』
 『おう、頼んだぞ!』
 ギアスは船尾の舵座に歩を運ぶ、操舵担当のカジタスとこのあとの航海の予定と操船要領を伝える。
 『カジタス、解ったな!俺は舳先にいる』
 『了解です』
 船団は、はじめての航路を進んでいる、帆張り、櫂漕ぎで二つの島の南岸に適度の距離を保って通過する。
 方向転換地点に到達する、北へと進路をとる、沿岸に沿って北上する、島の西岸を通過する頃合いには、夕陽が空を茜にする、風は弱まっている、南からの風を帆にはらむ、船を押してくれている、船団は順風満帆、半島の西南端部のメトニの沖を通過する。
 船団は、宵のとばりが深みに向かうスピードと競って、波を割って進む、ピユロスの港の灯が目に入ってくる。
 船団は計ったように予定時間にピユロスの港の海域に到着した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  144

2019-10-19 06:58:47 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 朝方の空気が肌寒い、船上の者らは肌をくっつけ合って眠っている。
 パリヌルスがうすら寒さを感じて、目を覚ます、見あげた空には降るように星がきらめいている。
 キューテラ島のキシラの港近くの海は凪いでいる、船団を率いて洋上に停泊した彼らが一夜を過ごす。
 パリヌルスは、今日の航海を考える、手元にあるスダヌスの書き記した航海図を手にとる、目を落とす、暗くて線が見えない、見ることをあきらめる、考えることに集中する。
 この地点では、水平線を破って顔を出す太陽を見ることはかなわない。
 出発の頃合いを考える、空を見る、薄明の訪れを感じとる。
 空との境を区切っている島の稜線に目をやる、朝が明け始めている。
 静かに近づく人の気配を感じる、その者がささやく。
 『パリヌルス隊長、朝が明け始めています』
 『おう、そうだな。この明るさでは、スダヌスの航海図の線をはっきり見ることがかなわない。ここに腰を下ろせ。線が見えるようになるまで待て。軍団長を起こして今日の航海について打ち合わせる』
 『判りました』
 島の稜線上の星の光が消えていく。
 パリヌルスが起ちあがる、『ギアス、起て!軍団長はどのあたりか解っているのか?』
 『わかっています。舳先です』
 『わかった、いくぞ!』二人は足音を消して歩む。
 『軍団長、起きていられますか?』
 『おう、起きている』
 『おはようございます、いい朝です。今日の航海を打ち合わせたいのですが、このスダヌスの航海図ですが、かなり正確です。このピュロスまでですが、昨日の航程に比べて、2割がた遠いように考えられます。日が暮れてもピユロスを目指すかを心してください。今日横切ってわたる二つの湾口はかなりの距離があるように思われます』
 『そうか。航海図ではかなりの距離だな。二つの湾口を渡った時点で考える』
 『了解しました。私らは船団でここに停泊しています、島の者らが何事かと勘ぐります。出来るだけ早く船出しようと考えています。よろしいですね!』
 『そうだな、そのようにしろ!』
 空が白々としてくる、明るくなってきつつある。
 『ギアス、二番船の張り番の姿は?』
 『こちらをうかがっています』
 『船出を伝えろ!』
 ギアスが船出のサインを送る、三番船、四番船にと瞬時に伝わる、四番船から、『出船、暫時、待ってくれ!』のサインが届く、『了解!』のサインを返す、四番船が三番船によりつき今日の食糧を渡している、四番船が各船に寄りつき食糧を配り終える。
 オロンテスがパリヌルスに声をかける。
 『おう、パリヌルス、食糧を配り終えた!業務完了!出船、OK!』
 船団は、海中に沈めていた碇石を上げる、海面を泡だてる、凪いでる海面を割り船が進み始める。
 キシラの浜に人影がチラリホラリと見てとれる。
 島の稜線上に今日の太陽が顔を見せはじめる。
 静かなる湾口の海を船団が航跡を残して、ペロポンネソス半島の南端の海域を進んでいった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  143

2019-10-17 07:22:02 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ドックスの今日は多忙を極めている、業務に携わる人手が今日から昨日の半数になっているのである、多忙が当然といえる状態である。
 当月の建造艇数が4艇としているものの、残日数が10日である、何としても今月中にこの4艇を完成させたい、完成を来月にズりこませたくないが本音である。
 彼は、船台の場の進捗を念査して10日間の工程を明日中にやり直すことにする。
 会議の開催の時が迫ってくる、遅刻はしたくない、急務以外は明日の処理ということにする。
 今日の業務を切りあげる、会所に向かう、一同の顔がそろっている、遅れたことを一同に詫びる。
 彼らはドックスが座すところを決めていた。
 セレストスが立ちあがる。
 『ドックス領長殿、こちらに座してください。その席がニューキドニア領長殿の席です』
 ドックスが一同と目を合わせて席に就く、拍手が沸く、恐縮する風情を漂わせて腰を下ろすドックス、セレストスが立ちあがりドックスに話しかける。
 『ドックス領長殿、我ら5人がドックス棟梁をどう呼べばいいかを話し合った結果、ドックス領長と呼ぶことに決めた次第です。ドックス領長、納得してください。以上です』
 『う~~ん、領長か、意味が解らんでもない。それにしてもチョッピリ照れる。ニューキドニア初代領長か。一同、ありがとう。呼称に恥じないよう、日々のワークに努めていくことを約束する。諸君!この俺を認めてくれて、ありがとう』と言って一同と目を合わせる、ドックスが話し続ける。
 『会議を開く前に領長として、一同に報告しておきたい件がある。昨日であるが、引継ぎの最終業務を終えた。引き継いだのは、思いもかけない多くの資産である。ドラクマ銀貨及び集散所の木札である。それからアエネアス統領の宿舎とイリオネス軍団長の宿舎である。二人の宿舎をそのままで受け取った。引き継いだ資産である財貨はイリオネス軍団長の宿舎に収蔵している。一同でそれらを確認してもらいたい。またアエネアス統領の宿舎及びイリオネス軍団長宿舎の使用について会議にはかりたい。以上である』
 『今日の会議の議題とします。会議を進めるうえで会議の議長を誰がするかを決めて会議に入りたいと考えてます。会議の議長役は誰がいいかを言ってもらいたい』とセレストスが一同に問いかける。
 『おう、今日の議長はセレストス、お前がやれ』とジッタとダッカスから声がかかる、拍手が起こる。
 『賛同を得て、今日の会議の議長は、私がつとめていいですね』と一同に念を押す、拍手が起こる、セレストスが一同と目を合わせる。
 『ドックス領長、領長からこれといった議題があれば言っていただきたい』
 『私からの議題ですかな、いいでしょう。提議します。ポリス建設に関して必要なのは、建設と運営に関する基本的な理念だと考えています。人はいる、場がある、事業がある、これらをもっていて、必要とするのは、建設と運営に関する基本とする理念です。次に未来に向けての計画です。次はと言うと現在の我々がスタンスしている現状だと考えています。そして体制を整えていかねばなりません。そのスタンスに如何なる心構えで事を遂行していくかが大切と考えています』
 ドックスが述べた言葉、思考している考えに感動する、一同が力強く手を打ち鳴らす。
 ドックスの語った言葉、その真意が場に会している一同のの心を打った。
 ドックスへの求心力を確かなものにする彼の言葉であった。