『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY          第4章  船出  18

2011-11-30 17:05:09 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『船出は、天候の具合、風のよき日を選んで、ここ5日くらいの間に砦の浜よりと考えている』
 『なるほど、私としては、この地におとどめしたい気持ちですが、そのようなわけにはいきますまい。壮途の船出の無事をお祈り申し上げます』
 『有難う、トリタス。そのようなわけで、この地に残りたい者、そして、砦のことを、エノゼリアス領主とお前、そして、俺との三者で話し合いたい。それで、エノスの砦に出かけるのだ。判ってくれるか』
 『判りました。それで統領の腹案はいかがでございますか。聞かせていただければ幸いです』
 『俺の腹案か。この地に残る者は、老いた者が三人に乳飲み子までで70人余りだ。それに砦のことだ。砦は残る者たちの住まいにと考えている。なお、トリタスお前が望むようなら、砦の一部をお前が使ってもいいと思っている。お前に頼みたいことは残る70人余りの者たちのことだ。彼らをお前が差配している生活圏の中に入れてやってもらいたいのだ。それが俺の頼みだ。お前としては、主だった浜衆や集落の者たちに計りたいところだと思うが、どうか、そのことをよろしく頼む』
 『統領のお気持ちはよく判りました。浜衆、集落の者たちにはかって善処することをお約束いたします』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY          第4章  船出  17

2011-11-29 08:03:09 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『トリタス、これで人払いが出来た。ここでは多くは語らん。いいな』
 『はい、いいですとも』
 『統領、よろしゅうございます』
 アエネアスは、話し始めた。
 『トリタス、急な話だ。俺たち、建国のために船出する。いいか。今日これから、エノスの砦を訪ねる。そこで領主とお前を交えて話し合いをする』
 『判りました。同道いたします』
 『道中において要点について話す。腹が落ち着き次第、出かけようか』
 『判りました。私は、いつ何どきでもよろしいです』
 浜衆たちが戻ってきた。
 『馬の準備が出来ました。お頭』
 『では、統領、出かけましょう』
 『うん、出発するとしよう。トリタス、旨かった。ご馳走になった。有難う』
 四人は馬上の人となり浜をあとにした。頭上を覆う色づいた木々の葉の小道を通り抜けて、やや広めに踏みならされた往還道に出た。アエネアスとトリタスはくつわを並べて先頭を歩んで行く、
 アエネアスはトリタスに話しかけた。
 『お~お、トリタス、お前には大変世話になった。それとともに浜衆や集落の者たちにも世話になった。心から礼を言う、有難う。トロイをあとにして、突然、お前たちの浜に来て、上陸のあのときの争いだ。さぞ、驚いたことだろうと思う。そのような俺たちを快く受け入れて、この土地に住まわせてくれた。厚く礼を言う、有難う』
 『そのように丁寧に言われて、私どものほうこそ、痛み入ります。それで、船出のご予定は?』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第4章  船出  16

2011-11-28 07:06:35 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスは、感極まって口を開いた。
 『お~い!トリタス、これはたまらん、いい匂いだ。浜で焼く魚の匂いはたまらん。すきっ腹にしみる』
 『そうでしょう、そうでしょう。この匂いが一番目のご馳走です。次に一献かたむける。魚のほほげたの肉を塩あんばいで口に運ぶ。あごが外れそうになる、そして、舌つづみです。思わず『うまいっ!』と吼える、これが醍醐味です』
 四人は、席に着き旬の初めの脂がのりはじめた魚を味わった。
 『うっう~ん、うまいっ!』アエネアスが吼える。続いてイリオネスも吼える、トリタスがこだまよろしく声をあげた。同席している浜衆も旬に向かいつつある焼き魚を味わって、そのうまさと歓びを共有した。
 アエネアスら三人の感慨は、ひとしお、身に溢れた。トリタスが声をかけてきた。
 『イリオネスどの、統領は、この私に何か用事があったのでは?』
 トリタスの慎重な問いかけに、イリオネスは答えた。
 『それはある。話は統領が話されるまで待て。それよりトリタス、浜衆に言いつけて、お前が乗る馬を用意させておけ。今日これから、お前を連れて、エノスの砦にエノゼリアス領主を四人で訪ねる』
 『判りました』
 トリタスは、浜衆に馬の準備を指示した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY          第4章  船出  15

2011-11-25 08:53:28 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『お~お、それはいいな。イリオネス、どうだ。ご馳走になろう。時などどうでもよい』
 イリオネスはうなづいた。
 『では、言葉にあまえて、トリタス、ご馳走になる。いいのか』
 『よろしいですとも、よろしいですとも、直ぐ準備いたします』
 トリタスは二人の浜衆に言いつけて、小屋うちに昼めしの準備をさせた。
 トリタスを加えた四人が一列に並び、しげしげとエノスの浜の沖を眺めていた。三人にとって、この浜には、懐かしさがあった。
 この浜に上陸した日がふつふつと思い起こされた。建国の壮途につく船出の日が近いばかりに、あの日の事の感慨が深かった。
 トリタスは、統領の目にじい~っと見入った。彼は、統領の目に潤みを見た。そして、ふと感じた。
 『おや、これは何かあるな』
 彼は、それを言葉にせず、感じたことを心に閉じ込めた。
 昼めしの準備に取り掛かっていた浜衆から声がかかった。
 『統領、イリオネスどの、ギアスさんも、どうぞどうぞ、昼めしの準備が出来ました。席のほうへ、、、』
 四人はきびすを返して、トリタスの浜小屋に歩を運んだ。焼けた魚の香ばしい匂いが戸口に立った彼らを誘った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY          第4章  船出  14

2011-11-24 08:24:23 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『心得ました』
 ギアスは低い声で答え、二人は目配せでうなづきあった。
 程なく、彼らはトリタスの浜小屋の戸口に立った。浜小屋の戸は開け放たれたままである。
 『お~いっ!トリタス。トリタスはいるか。俺だ、イリオネスだ』
 イリオネスは大声で呼びかけた。返事があらぬ方向から来た。遠くからの声が背中でした。
 『イリオネスどの、こっち、こっち、こちらですよ』
 彼は、波打ち際で12~13人の浜衆と舟から魚のかかった網を下ろしていた。
 『おっ!トリタス。お前、忙しそうにしているな。今日はどうだ、大漁か?』
 『いえ、いえ、そんなではありませんが、今日の漁はまずまずです。今の舟は殿りです。直ぐまいります、少々お待ちを、、、』
 彼は波打ち際で手を洗い、浜小屋に向かって歩を運んでいた。アエネアスら三人は彼のほうを、じい~っと見つめていた。
 『あっ、統領もおいでですか。三人さんは馬で、、、』
 トリタスは、三人の姿を認めて、言葉を改めた。
 『統領、イリオネスどの、こちらはギアスさんかな。お久しぶりです。お変わりなくお過ごしでしたか。私はこの通り元気そのものです。そこでですが、今日はなにかご用でも、、。お急ぎでないようでしたら、少々、昼めしどきには早いですが、今朝の漁で獲れた魚でお昼でもと思いますが、、、』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY          第4章  船出  13

2011-11-23 08:37:39 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『そうだな、デロス島での逗留を除いて8回くらいかな。風待ち、嵐、避難寄港は含めていない』
 パリヌルスの声が響いた。オロンテスは戸口に立って、この光景に見入った。
 『統領、デロスへの寄港だけですね、逗留予定は何日くらいの予定でしょう?』
 『そうだな、逗留は長くて7日ぐらいの予定だ』
 『判りました。航海日程の組み立ては、お任せください。明朝、統領と軍団長に目を通してもらいます。それで承認頂ければ結構です』
 『パリヌルス、俺たちは、もう出かけていいか』
 『よろしいです。日程と航路、途中寄港等については、オキテスと充分に検討します。この季節です、いい航海日和が続く保障がありません。お任せください。クレタ島に無事に着くことをお約束します』
 『判った。パリヌルス、オキテスよろしく頼む。では、イリオネス、ギアス出かけよう』
 イリオネスがそこに同座している一同に告げた。
 『おう、では、俺たちはいって来る。夜はおそくなろうとも砦に帰る。トリタスはここに泊める。明朝のアサイチは会議だ、議事は、お前に任せる。頼んだぞ』
 彼ら三人は、西門前に用意されている馬に乗って出かけた。
 トリタスの浜に向かう道中で、イリオネスはギアスに下命した。
 『ギアス、今日これからトリタスを連れて、エノスの砦へ行くのだが、道中どのような危険が潜んでいるか判らん。統領を身を挺して護ってほしい。いいな。統領は理由があって帯刀していない。統領の身の安全は、俺とお前で護らなければならない。判ったな』
 イリオネスは短く低い声で強く、ギアスに告げた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY         第4章  船出  12

2011-11-22 09:11:40 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おうっ、アンテウス。俺は今から、そう長い時間ではないが打ち合わせにいって来る。お前が全てを仕切って、この作業をやってくれ。二人の副長、そして、市民の男たちを連れて行って、食糧の貯蔵庫の整理をやってほしい。品目別にきちんと整理をするのだ。それを終えたら、量だ、麦がどれだけあるか。アーモンドがどれだけあるか。魚の干物が、はたまた、肉の塩漬けがどれだけあるか、などなど、食糧の品目と量だ。正確にその量を集計してくれ。それの何故は、この土地に残る者たちが不安なく、春が来るまで、またまた、麦の収穫までの必要相当分を残し、我々が積み出せる食糧がどれだけあるかを詳しく知りたいのだ。判ったか』
 『いつまでにやり終えればいいですか』
 『うっう~ん、そうだな、太陽がこの高さに来るまでに終わってくれ』
 オロンテスが腕をさしのばして見当の空間を指差した。
 『判りました。では』
 『アンテウス、頼んだぞ。質問はないな。俺は手がすき次第そちらへ行く。今夜は四人で仕事の段取りを打ち合わせやるからな。夕めしを終えたら広間のほうへ二人を連れてきてくれ。いいな』
 『判りました』
 アンテウスが大声をあげて指示を発している。その声を背中に受けて、オロンテスはその場を去った。
 広間では、アエネアスが皆と話し合っている。彼らの話題は、航路の決定とクレタ島に行くつくまでに『陽の出』を何回見るかについて話し合われていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY         第4章  船出  11

2011-11-21 07:10:28 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 そして、彼は、話し続けた。
 『この私が船長であり、副長がセレストスである。これから五番船及び六番船に君たちを割り振る。私の指示通りに動いてもらう。判ったな。君たちの中で家族を構成している者は、家族ぐるみでかたまってくれ。夫婦は、カップルになってくれ』
 彼らは、オロンテスの指示通りに動いた。彼は、市民たちを二つに分けて各船に割り振った。
 『よしっ!このグループは五番船、このグループは六番船だ。いいか、君たちは、各船の船長及び副長の指示によって行動すること、いいな、判ったな。ところで、各船には、君たちと軍団の者が50人くらい乗り込むことになっている。尚、出航するまでに我々がやらなければならない役務を君たちに伝えておく。心して聞くのだ』
 彼は、一息入れた。
 『俺たちがやる役務は、食糧に関することだ、食糧を整えて船に積み込むこと、航海中、全員の食事とその配布をやることだ。判ったか、判ったな』
 彼は、ここで彼らを強い眼差しで見回し指示をした。一同は声を出して、それに答えた。
 『ところで、今日、これからだが男性の諸君は、アンテウスらとともに砦の食糧貯蔵庫で作業に当たってくれ、要領はアンテウスらが説明のうえ指示をする。仕事は丁寧にやること、以上だ』
 話を終えた彼はアンテウスを呼んだ。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY         第4章  船出  10

2011-11-18 08:32:01 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オロンテスは、パリヌルスから申し渡された大きな任務について、いっときの間、思案した。
 忙しく立ち回っていたアンテウス、セレストス、リュウクスの三人がオロンテスの許にやってきた。セレストスがオロンテスに声をかけた。
 『オロンテス船長、全員の配属に関する業務が終わりました。ところで、市民たちを2隻の船に割り振らなければなりません。これは、オロンテス船長に差配していただかねばなりません。即刻、やってしまいましょう』
 『お~っ!よし、判った。直ぐやろう。ところでだ、三人ともよ~く聞くのだ。今、パルヌルス隊長と打ち合わせを終えたところだが、大任を引き受けることになった。食糧の件だ。君たち三人と市民の連中、全員で取り組む。判ったな。いいな。ぬかるんじゃないぞ。全員、心してかかろう。いいな』
 オロンテスはちょっと、気負った言い方をした。
 『判りました。入念実行です。やりましょう』
 『出港準備完了までの時間が多いとはいえない。改造交易船の2隻は、この俺の管理下にある。君たち三人の手を借りる。頼むぞ。では、市民たちの割り振りにかかろう』
 オロンテスは、市民たちを親しさをたたえた眼差しで見つめ、おもむろに声をかけた。市民たちはオロンテスを知りすぎるくらいに知っている。彼らは、やさしい目で彼の口許を見つめた。
 『君たちの乗る改造交易船は私の管理下にある。ここにいるアンテウスが六番船の船長であり、このリュウクスが副長を務める。そして、五番船は、、、、』 と言ったところで言葉をきり皆を見渡した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY         第4章  船出  9

2011-11-17 13:19:36 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『ところで、オロンテス、お前にやってもらいたいことがある』
 『は、はい、何でしょう?』
 『食糧に関することについてやってもらいたいのだが、引き受けてもらいたい。ひとつは、積み出す食糧を2隻の改造交易船に積み込んでもらいたい。ふたつ目は、残る者たちの食糧も充分と思えるくらい残してやりたい。また、航海中の食事計画、調理と配布、その他、食に関する一切をお前に任せる。2隻の船をお前の管理下におく、市民の連中を指揮してやってもらいたい』
 『判りました、引き受けましょう。ところで航海の日程は、どうなっていますか。それが判らないと計画と段取りがつきませんが』
 『判った。それについては、今日、午前中におおよそのところがわかる。その打ち合わせにお前も出席してほしい』
 『判りました。やりましょう』
 『頼むぞ。しかしだな、我々の考えているだけの必要量の食糧があるのか。オロンテス、そのことについても打ち合わせのときにお前から具申してほしい。そのことについて調べた上で打ち合わせに出てくれ』
 『分かりました。しかし、これは大変な案件です。船長のアンテウス、副長のセレストス、リュウクスは、私の指示で動かしたいのですが、よろしいですね』
 『判った。その件、了承した』
 パリヌルスは、オロンテスに食糧の件の一切を任せる約束をして、その場を去った。