『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1505

2019-03-30 07:11:04 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスとの打ち合わせを終える、彼が場を去る、イリオネスに声をかける。
 『おう、イリオネス、武闘訓練場へ行こう』
 『解りました。行きましょう』
 二人は腰をあげる、武闘訓練場へと歩を向ける。
 イリオネスは、アエネアスの心情を計りかねている、訓練と称して武闘訓練場において剣を合わせるのが今日で6日目になる。
 二人の剣合は互角である、剣の技はよく似た水準である、イリオネスが滅多打ちされる日があれば、アエネアスをたたきのめす日もある、汗を流して心さわやかなる日もある、そうでない日もある、アエネアスの心が乱れている日の彼の剣さばきは、やぶれかぶれで力まかせの打ち込みである。
 イリオネスが同道できない日は、アエネアスがひとりで武闘訓練場に出向き、リナウスを相手に剣を合わせるのだが、アエネアスの心が平静でない日は、リナウスも彼との剣合に手をやいた。
 武闘訓練場には、パリヌルスの配下の者らがかわるがわる来場して、5~6人がグループになり剣合を楽しんでいる、そのような場のアエネアスの剣合風景は、異様でもあった。
 
 今日は、オキテスが営業航海に出航する日である、アエネアスらが浜に出て彼らを見送る、試乗用試作戦闘艇とヘルメス艇が引き渡し納入艇を1艇づつ曳航しながら、いい西風に押されて浜を離れていく、船影が見えなくなるまで、彼らの航海を安じて見送った。
 出航の見送りを終えたアエネアスとイリオネス、二人の姿が武闘訓練場にある。
 今日のアエネアスは飢えている、心に飢餓感を感じている、剣を交える、剣は木剣である、イリオネスに声をかける。
 『今日は真剣に打ち合う!いいな!』
 アエネアスのクレタ島離脱の知的作業が完結していない、いらついている、揺るがない決心、自願自誓、想起する困難を考える、行動を共にする者らの命を危機にさらす、それに耐えれるかどうかを自分に問う、万難を排することができるのか、自分を問い詰める。
 彼がこみあげる想いの中に沈んでいく、浮かびあがろうともがく、『困難を退けてこそ、望みの達成がある』己を叱咤する。 
 打ち込む剣さばきが乱れる、イリオネスの打ち込みが決まる。
 続けてイリオネスが打ち込んでくる、この打ち込みを乱れた剣さばきで逃れる、イリオネスのすきを目にする、かろうじて打ち込みを果たす。
 『統領!今の打ち込み、いい打ち込みでした』
 『そうか!』
 己自身を終局の場に追い詰めて、心身を練ることに発意して、無我夢中でイリオネスとリナウスを相手に剣を合わせて自分を練る『心中の自信を育む』 そして、『頼る』『すがる』を捨てていく。
 自分で願い、自分に誓う、自願自誓で成果を獲得する自信を培う、『願う』が『成る』に転じていく。
 その時こそ、イリオネスにクレタ島離脱の意志を表明する、計画を告げると心に決めた。
 『おう、イリオネス、今日の剣合、ありがとう!』
 アエネアスは、イリオネスに礼を述べる、それを耳にしたイリオネスは、礼を述べるアエネアスの態度に首をかしげた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1504

2019-03-28 05:44:58 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 歩を進める、アエネアスは、歩を運びながら考える。
 クレタ島を離脱して、波を割って進む先は、ただ漠然と『西へ』である、『西に何がある?』である。
 見えてはいない行く先への進路である、意を決するが、闇夜に大海をさすらう様である。
 東西南北に目を向けて考える、目指す方向は、四者択一である、目指す方向を消去法で考える、取捨選択する、行く着く先の状況を考える、イデー山で目にした世界を想い起す、決める先が西しかないと自認する。
 心がゆれまくる、ゆれてたゆとう、己を責める、己をさいなむ心の叫びを受け止める、進む先は西のみであることをさとる、それでいいのか、思考が止まる、歩行も止まる。
 歩みを止めて思考の端緒をつかむ、歩み始める。
 彼は、現実を考え、思い浮かべる、クレタ島における一族の生業はおちついている。だが、クレタ島離脱を意に決めた、成し遂げねばならない建国の使命を考える。
 この二項対立の狭間で心がゆれる、アエネアスは、自分の思考習慣で考える、彼の感性の中に『悩む』がない、だが、『迷う』がある、彼は悩まない故に『悩む』という語彙を持っていない。
 また、アエネアスの生きているこの時代、ギリシアのアテネの地で哲学的思考が生まれようとしている、また一方では、宗教が人々の生活に根付いていない故に祈りというカタチが確立していない、だが、人々の心の中に『祈る』というカタチができつつあったと推考される。
 何かに『願う』『頼る』『すがる』といった心の気が『祈り』の先駆的思考としてできつつあったのではなかろうかと考えられる。
 アエネアスは、そのような心の気で考え、心を決め望みの達成を願ったであろうと考えられる。
 『俺は己を信ずることによって望みを達成する』と自願自誓する、実行を決断し、断行したであろうと考えられる。
 現時点での思考を終えようとしている。
 アエネアスが朝行事の浜に着く、波が足を洗う、波打ち際に立っている自分に気が付く、海に身を浸す、この時節の海の冷たさを肌に感じとる、朝行事を終える、自分にかえっている自分を確信した。
 朝行事を終えた者らと朝の挨拶を交わす、今日を過ごす覇気が体にみなぎってくる、決断思考のカオスを忘れる、ゆれる心、ゆるがぬ決心を自覚して会所へ足を運ぶ。
 朝食は会所で済ます、彼の業務がスタートする。
 オキテスが顔を見せる、当月の営業活動と12月に受注した艇の引き渡し納入に関する打ち合わせを終える、航海の無事を約束する、オキテスは、出航の頃合いを伝えて打ち合わせを終えた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1503

2019-03-27 07:07:04 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 散会に及んでアエネアスがパリヌルスら三人に声をかける。
 『おう、どうだ!午後のことだが、武闘訓練場に出向いて手合わせしないか?』
 『あ~っ!それはいいですね。やりましょう』とパリヌルスが声をあげる。
 『俺と軍団長は、訓練場にいる。手がすき次第来ればいい。待っている』
 パリヌルスら三人が各自の持ち場へと向かう、アエネアスとイリオネスは、会所で昼食時を過ごす。
 昼食を終えて二人は、武闘訓練場へに向かう、剣合の身支度を整える。
 アエネアスがリナウスに声をかける。
 『おう、リナウス、お前も防具を身につけろ!ひと汗流そう』
 彼ら三人は、かわるがわる1対2の剣合を楽しむ。、
 パリヌルスとオキテスが来る、パリヌルスは配下の一隊を連れてきている、オロンテスは多忙らしく姿を見せない。
 パリヌルスとオキテスは、身支度を整える、アエネアスらの剣合の仲間入りをする。
 彼らは、かわるがわる、いれかわりたちかわりして、2対3で対峙して剣合のつば競り合いを楽しんだ。
 アエネアスは、我を忘れて剣合に熱中する、彼の剣さばきが鋭く打ち込まれる、何かを振り切りたい衝動の剣さばきが動きの中にある。
 イリオネスは、アエネアスの熱中の剣さばきが日ごろのアエネアスにはない異様さを感じ取っていた。

 アエネアスが夢を見ている、夢の中で誰かがアエネアスに声をかける。
 『アエネアスよ、いらつくな!クレタの離脱、建国の地の探査の壮図に就くのは、1か月半も先のことだ』
 アエネアスは答えている。
 『いや、時日の経つのは早い、時は俺を待たない。今の俺の有り様では、迫りくる壮途に就く勇気が持てないでいる』
 夢の中、対峙する、対手が押してくる、一歩退く、壁が背にあたる、身を引けない、追い詰められている自分を感じて身構えをあらためる。
 自問自答している。
 事の正否が脅かされている、逃げは許されない、自縛で身が動かせない、己自身と闘っている。
 『降りかかる火の粉を振り払え!恐れず一歩を踏み出せ!』
 誰かが背中を押す、その一歩が踏み出せない自分がいる。
 夢の中でそのような自分を見る、情けない、『起ちあがろう』で覚醒する、目が覚める。
 起床の頃合いである、夜がまだ明けてはいない、真っ暗闇である、朝のはずである、夜の明けるのがおそい、アエネアスは明ける朝の明るさを待ち焦がれる。
 アエネアスは、明ける朝の明るさがカオスの雲霧を吹き消すと信じている。
 襲い掛かる疑心暗鬼の妄想、我退かずを心して身構える、床を蹴って起き上がる、戸外へ出る、黎明の朝がおとずれていた。
 朝行事の浜へと歩を進めた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1502

2019-03-26 07:23:55 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスら三人が会議の始まりに気を配る、気を引き締める、身構える。
 アエネアスが声をかける。
 『おう、三人とも、何を身構えている?久しぶりの会議だからか。肩から力を抜け!』
 『私らが会議にあたって、身構えているのが統領に見えるのですか』
 『おう、見える見える。会議は、緊張を解いて闊達にやらねばだ!』
 そのように言うアエネアスの心中はと言うと、心が揺れに揺れている、得体の知れないものの仕業でもって心が揺れている、立案した計画の実行が危ぶまれている、先見を閉ざすカオスの雲霧が見果てぬ壮途の決意を脅かす、何ものかが後ろ髪をを引く、振りきる、自分自身を事態の流れにけしかける。
 アエネアスが一歩、気持ちを退いて、しばし、雑談の時を過ごす、アエネアスが自分自身の緊張を解く、出席者全員の緊張を解きほぐす、彼らの気持ちを会議に方向付ける。
 イリオネスが場の雰囲気をを読む、声をあげる、場の者らと目を合わせる、
 現在の造船事業の状態を把握しているイリオネスは、ゼロからスタートする現状をしっかり認識して一同に話しかける。
 会議開始を告げる。
 『今、我々を、民族一統をけん引しているのは、造船の事業である。そのことを君らは解っているな!』
 イリオネスのまなざしが光を発して、一同の心を突き刺す、イリオネスの目がオキテスの目と合う。
 『オキテス、昨日の打ち合わせを持って、建造の場が動き始めたかな?』
 『はい、稼働開始しました』
 『船舶の営業活動の責任担当のオキテス、当月及び暦の新月の活動計画について説明してくれ。その計画に順じて、我々の計画ができる。また、その計画成果でもって、暦の新月の建造計画が立案できる』
 『そのことは充分に理解しています。まず、当月の計画について申し述べます』と言って、オキテスは、当月の活動計画を述べる。
 次いで、暦の新月の活動計画を述べる。
 アエネアスが口を挟む、声をあげる。
 『暦の新月の月初めに遂行する営業活動には、軍団長がオキテスに同行する予定にしておいてくれ。なお、月初め早くに展示試乗会の開催をするように計画してくれればありがたい。事の次第によっては、変更はありうる。そのように心してくれ』
 『解りました』
 イリオネスがその旨をオキテスに伝える。
 営業の活動計画が一同に了解される、各部署の計画も発表される、一同が共有する。
 オキテスが自分が事業遂行の中心軸にいることを自覚する。
 昼食時がおとずれる頃合いに到っている、会議を終える、一同は散会した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1501

2019-03-25 16:08:46 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 打ち合わせを終えたアエネアスとイリオネスは、緊張を解く。
 『なあ~、イリオネス、お前は軍団長として役務を遂行している。当月、そして、暦の新月における軍団長としての計画を持っているのかな?』
 『いえ、それは、持っていません。パリヌルスとオキテスがどのように計画しているか。それを気にかけています。オロンテスのほうは先月末に打ち合わせていますので気にかけなくて差し支えありません』
 『おっ、そうか、なればいい!暦の新月のことだが、極めて忙しくなるやもしれぬ。オキテスの立案する計画に基づいて、オキテスを急き立てねばならんかもしれん。その時は対処かたよろしく頼む』
 『承知しました』
 二人の雑談が続く終業の頃合いが近づく、キドニアから帰ったオロンテスが会所に姿を見せる。
 彼が今日の報告を終える。イリオネスに会議について進言する。
 『軍団長、明朝のアサイチ会議の件、パリヌルスから聞きました。久しぶりの会議です。朝行事を終えたあと、朝食をとりながらの流れで会議の段取りをしてはどうかと考えています』
 『おう、それはいい!そのようにする。願ってもない段取りだ。それでやる!』
 『ところでオロンテス、テカリオンが来るのは、暦の新月になってからと考えているが、お前はどのように考えている?』
 『私もそのように考えています。小麦の在庫量もそのように予測して準備していますから』
 『おう、了解した。俺の方もその予定で段取りする』
 『明日の打ち合わせもありますから、私はこれで工房のほうへ行きます』
 オロンテスが会所をあとにする、浜は暮れ始めていた。

 朝が明ける、朝行事の浜にアエネアスら会議出席の面々が顔を合わせる。朝の挨拶を交わし終えて会所へと歩を進める。
 イリオネスが声をかける。
 『おう、パリヌルスにオキテス、今朝はだな、オロンテスの配慮で会所のほうに朝食の準備ができている。朝めしを食べながら、その流れで会議をやる!解ったな』
 『了解しました。大歓迎です!』
 二人が答える、程なく会所に着く、焼きあがったばかりのアツアツのパンがテーブル上に配されている、オロンテスが笑みをこぼして、アエネアスら四人を迎える、席に就く、アエネアスがパンを取りあげるのを待って、一同がパンに手を伸ばす、『いただきます』と声をあげて、パンを口に運ぶ、大口をあけてパンをほおばる。
 『お~お、この焼き立てのアツアツのパン!格別のうまさだ!感動!感動!』
 『お前なればこその心遣いのパン、ありがたくいただく!まさしく感動の朝食だ』
 『オロンテス、ありがとう!このようなパンがいただける、年に再々あることではない!礼を言う』
 『おう、オロンテス、焼き立ての旨いパン馳走になった。ありがとう!』とアエネアスが礼を言う。
 一同がこれまでに口にしたことがなかった焼き立てのパンを褒めちぎって朝食を終えた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1500

2019-03-22 08:54:25 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスをおそった寂寥感、『それはなんなのだ?受注残を持っていなければさみしいのか。哀れな奴だな』
 一瞬考える、『受注残がなくなる。それは喜ばしいことではないか』感覚と思考が交錯する。『そうか、そうだ!』と納得する。
 我に返るイリオネス、オキテスとの対話を進める、オキテスが報告に及ぶ。
 『2月期の月初めに1月期に受注した艇を引き渡し納入すれば、当月の在庫保有艇が戦闘艇1艇、新々艇2艇の合計3艇です。次に現在の引き合いの保有は、先日キドニア集散所より3艇のキャンセル連絡を受けてました。差し引き、現在の引き合いの保有艇数が戦闘艇1艇、新々艇6艇の合計7艇です』
 アエネアスが口を開く。
 『この引き合いの保有数から考えると新構造にしてからの新々艇の引き合いが増えているな』
 オキテスが答える。
 『はい、そうです。この状況を見ていただいて、2月期の建造計画艇数をこの席で決めていただければ、ただちに建造の場の準備にとりかかれます』 
 イリオネスが声をかける。
 『オキテス、お前は建造計画の艇数をどのように考えている?言ってみてくれ』
 『はい、私の考えは、戦闘艇1艇、新々艇4艇でいけばと考えています』
 イリオネスがアエネアスに声をかける。
 『統領の意向は、どのように考えてられますか?』
 アエネアスから答が返る。
 『俺の意向を聞かずともいいではないか。軍団長、オキテスと話し合えばいい』
 『オキテス、お前の考えている建造計画艇数が妥当と考えられるが、保有引き合いの艇数を見てもわかると思うが、新々艇に注力した建造を考えたらと考える。この傾向を考えたら、建造5艇を新々艇としたいと俺は考えている』
 『パリヌルス、お前はどのように考える?』
 『私は、新々艇5艇の建造がよろしいように考えます』
 『オキテス、当月の建造計画艇数は新々艇5艇とする。どうしても戦闘艇1艇を建造しなければいけない理由があるかな?』
 『解りました、今、軍団長が言われたように新々艇5艇の建造でいきます』
 『よし!当月の建造計画艇数は、新々艇5艇とする。オキテス、これで建造を進めてくれ』
 『了解しました』
 『明日は、朝より会議を開催する。議題、打ち合わせ事項等案件をまとめておいてくれ。2月期の行動予定、暦の第一の月の予定、各自、各部署の計画等を立案してくれ』
 『解りました』
 『2月期の成果、傾向を見て、暦の新月の建造計画艇数を決める。本日の打ち合わせは、これにて終了とする。ご苦労であった』
 散会する、イリオネスが太陽の位置を確かめる。『おう、太陽は、まだ高みにあるな』とつぶやく、皆と顔を合わせる。
 オキテスは、建造の場へと向かう、パリヌルスは、浜へと歩を進めた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1499

2019-03-21 06:58:59 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 姿を見せた二人、パリヌルスとオキテスが声をあげる、オキテスがアエネアスに声をかける。
 『あっ!統領!ここ三日ばかり、顔を合わせていません。変わりなく過ごされていましたか?』
 『おう、元気にしていた。ユールスとミッチリと過ごさせてもらったというところだ』
 『そうでしたか、よろしかったですね!姿を見ない間に少しばかり若返られた感じがします』
 『ほう、そうか。男としての魅力が溢れているかな』
 『はい!ダンデイ統領アエネアスといった風格です』
 『他人を魅了する。他人と合いまみえる時に武器になると考えている』
 『そういうものですか。そうすると俺が営業活動において、客と会う、魅力あふれるオキテスでなければならない!アッハッハ!』
 オキテスが笑い声をあげる、つれて一同が笑う。
 イリオネスが場の雰囲気を読む、一同に声をかける。
 『おう、一同!肩のコリがほぐれたかな。打ち合わせを始める』
 オキテスと目を合わせる。
 『おう、オキテス、朝、浜で言ったことを話してくれ』
 『はい!』と応えて、一同と目を合わせる、一同に気が入る、目つきが変わる、オキテスがおもむろに口を開く。
 『今日をアエネアス暦で言えば、2月期の初日に当たります。当月の活動計画、そして、一か月先の暦の始まりにおける行動計画を立案しておきたい。そのように考えています。それから、建造の場に当月の建造計画を今日、提示してやらないと建造の業務が滞ります』
 『暦なしの期間ということでボオットしていることは許されない。計画を立てる、共有して事に当たる。明日、アサイチから会議を開く、各自、会議の議題、協議する案件を整えてくれ。暦なし1月期の報告もその時にしてくれ。なお、建造の計画を今、この場で決定する』
 『解りました。諸事準備いたします』
 『それからだが、オロンテスに会議開催の旨を君らから伝えてくれ。俺の方からはこれについて触れない。以上だ』
 『解りました。軍団長、当月の建造計画をやりましょう』
 『では、オキテス、お前にたずねる。新しい月に引き渡し納入する艇数、受注保有艇数、引き合い保有艇数等、解っているのか?』
 『それは解っています』
 『よしっ!それを聞く』
 オキテスが携えてきた木板を会所にしつらえてあるテーブルの上に置く、イリオネスが手に取って見入る。
 『オキテス聞く。この2月期に1月期に引き合いから受注に転じた艇を引き渡し納入すれば、これまでに受注した全て艇の引き渡し納入が終わるということだな』
 『はい、そうです』
 それを聞いたイリオネスは、何となく寂寥感におそわれた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1498

2019-03-20 09:23:10 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスがクレタ島離脱の工程表の作成作業を終える、太陽の位置を確かめ頃合いを測る。
 『これで、いいな!』と、もう一度為し終えた作業を振り返る。
 書き記した木板を他人に見られぬ配慮をして自部屋の棚に置く、意思表明までに構想の醸成に努めるとして保存する。
 彼が宿舎をあとにする、会所へと向かう。
 歩を進める、木板に書き記したクレタ島離脱の工程表の一項一項が想い浮かぶ、その実行の光景がまぶたのうらに浮かぶ、その光景を見て結果を想定する。
 うまく事がおさまる、うまく事がおさまらない、懸念が彷彿と浮上する。
 事が考える手順通りに進まない、また、手順通りに決着する事態もある。
 事態収拾の不思議を考える、何となく事の運びの要領について考えている。
 『そうか、事の運びの傾向と対策を充分に考えねばならんな。まとめることに難儀する案件を抽出してよく考える』
 事態の処理要領を慎重に考えることを意に決めた。
 アエネアスは根を詰めて考え続ける、ふと気が付く、事がまとまる不思議もある、思考がその不思議にたどり着く。
 立ち止まる、会所の前に立っている、彼を迎えるイリオネスの声が耳に届く。
 『統領、待っていました。こちらへ!何か考え事をしていられましたな、まとまりましたか?』
 『おう、まとまるではなく、まとめたといった感覚だな。イリオネス、俺が今、考えていたのは、勝つことの不思議を考えていた。また、話がまとまることの不思議を考えていた。俺の心の中のどこかでこの不思議をのぞんでいる』
 『ほう、不思議ですか、不思議だから不思議なのです。昼となっています。昼食としましょう』
 『おう、そうするか。腹を満たせば何とかなるかだな』と声をかけて腰を下ろす。
 二人は雑談を交わしながら昼食を終える。
 『しかし、統領、少しやせられた感じですな』
 『ほう、そうか。少し細めのほうがダンデイだろうが。腹の出たブヨブヨの領主と身の引き締まった精悍さあふれる領主を比べてみろ!』
 『いま、目の前にいる統領はそれに加えて叡智あふれる統率者といったイメージですな。いいことです。ついていきますどこまでもですな』
 『おう、そうかそうか。誉めてくれているのか、人を喜ばせるな、その気になるじゃないか』
 二人がたわいのない話を交わしている、アエネアスは、自分がなすべき案件をまとめ終えた安ど感の中にいた。
 パリヌルスとオキテスが姿を見せた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1497

2019-03-19 09:55:41 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 宿舎に戻ったアエネアスは、父アンキセス、ユールス、アカテスの4人で朝食のテーブルを囲む、笑みほころぶユールスの顔を見て食す朝食が旨い、邪気のない子の微笑みの途絶える日の訪れを気にかける。
 愚痴りかける父の声のかかるを避けるように立ちあがる、庭に降りる、深皿に水をみたす、顔を映す、眺める、ひとりごちる。
 『お~お、これではみぐるしい、むさぐるしい!』
 彼は、腰に帯びている短剣を抜いて手にとる、左手に持ちかえる、右手親指の腹を剣の刃にあてる、静かになぞる、刃の切れ具合を確かめる。
 身構える、深皿の水面に顔を映す、顔をあげる、ヒゲヅラを水でぬらす、短剣の刃をあてる、ヒゲをそり落とす、そり落とし具合を水面に移して確かめる、またもや、水面に顔を映す、そり具合を確かめる、次のそり場所を確かめる、確かめて顔を上げ短剣を当ててブショウのヒゲをそり落とす、幾度かこの作業を繰り返してヒゲソリ作業を終える。
 宿舎の横を流れる小川に向かう、顔を洗う、宿舎に戻る、ひげをそり落とした顔を深皿の水面に移して確かめる、そり残しを手でなぞる、そりのこしをそり落としてヒゲソリをようやくにして終える。
 気が落ち着く、アエネアスが前庭の話し合いの場に歩を向ける、イリオネスがすでに来て待っている。
 イリオネスがアエネアスの姿を見とめて起ちあがる、声をかける。
 『あっ!統領、ブショウなヒゲをそり落とされて、さっぱりされましたな』
 『おう、さわやかだ!身だしなみが整っていないと考えがだらしなくなる』
 『言われる通りです。人間の世過ぎは、所作、始末、そして、資質で決まります』
 『お前、いいことを言う!その通りだ。衣食足りて所作、始末だな、そして、礼節を持って事を成す、腹に一物、背に荷物で遠き道を往くだ』
 二人は軽く言葉の応酬を交わす、話が弾んだところで本題についての話し合いを始めた。
 アエネアスが話しかける、その姿勢は、積極進取にあふれている、気合が横溢している。イリオネスが気圧される。
 『イリオネス、どうだ!暦なしの2月期を終えれば、新しい今年の月が始まる。今日の午後、パリヌルス、オキテスを呼んで打ち合わせをする。明日の朝より会議を開く。オロンテスにその旨を伝えさせてくれ』
 『解りました。会議における議題、打ち合わせ事項等パリヌルスらと話して整えればいいですね』
 『おう、それでいい。この三日間にやった作業の仕上げ作業を今日を持って終える予定でいる』
 『解りました。統領が三日間、根を詰めてやられた作業はなんですかな?私に聞かせていいのであれば聞かせてください』
 『それは、まだ表明する段階に至っていない。まとまり次第、第一番に軍団長であるお前に話す。国家100年の大計だ』
 『了解しました。では、統領、昼食ですが、会所のほうに準備しますか?』
 『おう、それがいい、そのように頼む』
 二人の打ち合わせが終わる、イリオネスは建造の場の会所へと歩を向ける。
 アエネアスは、三日間の作業の仕上げに予定した作業に着手する。
 気を引き締める、クレタ島離脱工程の大筋を構想する、構想を順を追って木板に書いていく。
 3月20日頃の天候、海上状況の良き日に出航と木板に書き留める。
 木板に書き留めた事項を確認する、うなずく、自分の決心を確かめて大きく息を吐いた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1496

2019-03-18 08:32:39 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスは、この三日間、誰とも顔を合わせていない、おそい朝の明けるを迎える、彼が統領として所有している暦をチエックする。
 『そうか、今日は第2の月の第一日か』
 彼はユールスの手を引いて、丘から浜へ降りていく、3日ぶりの朝行事へと向かう。
 朝行事の浜へと下っていく、イリオネスと顔を合わせる。
 『あっ!統領、おはようございます、いい朝です。三日ぶりですね、変わりはありませんか?』
 『変わりなしだ!いい朝だ、おはよう。ここで待っていてくれ!朝行事を済ませてくる』
 アエネアスがヒゲののびた顔をなでながらイリオネスと言葉を交わす。
 『わかりました』
 アエネアスはユールスと三日ぶりの朝行事を行う。
 ユールスが父アエネアスに、肌を刺す海の冷たさと寒さを訴える、アエネアスは『こらえろ!』とユールスを諭す、渋面をつくって従うユールス、そのような一幕も過ごす。
 朝行事を終えてイリオネスの傍らに立つアエネアス、アカテスがユールスを迎えに来る、アエネアスがイリオネスと目を合わせる。
 イリオネスが周りを見廻す、パリヌルスとオキテスがまだ海の中にいる、アエネアスがイリオネスに声をかける。
 『イリオネス、内々の話がある。朝の打ち合わせを終えたら、宿舎のほうへ来てくれ。待っている』
 『解りました』
 アエネアスが言い渡す、彼が早々に場を去っていく、イリオネスがアエネアスの姿を目で送る。
 『統領の頬がこけていたな。血色はいい、目の輝きは冴えていたな。何があったかだな』
 久しぶりに顔を合わせたアエネアスの印象をチエックして考える。
 パリヌルスとオキテスが肩を並べてイリオネスと顔を合わせる。
 『軍団長、おはようございます。いい朝です』 
 二人が朝の挨拶を唱和する、オキテスが話しかける。
 『軍団長、ここ数日、統領の姿を見ませんが、今日は統領の暦の2月期の初日に当たります。12月に受注した艇の引き渡い納入の件、当月の建造に関する件、暦が始まる次月の件などなど、会議を開いて諸事の打ち合わせをやらないとと考えています』
 『おう、そうだな、始計第一だ。今日、頃合いを見て、統領と打ち合わせに行ってくる』
 『そう、願います』
 『心得た。あとから会所で会おう』
 パリヌルスとオキテスが去っていく、イリオネスが思案しながら自分の宿舎へ向かう。
 『先月期の建造の出来あがり報告をまだ聞いていない。気になる、1月期の建造出来あがり艇数と受注艇の引き渡し納入の報告の件もある。当月期の建造計画等、また、当月の予定を打ち合わせなければならんな』
 イリオネスは今日と明日のやるべき事を決める、宿舎に着く、宿舎には朝食が届いていた。