『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  666

2015-11-30 06:45:29 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 場がきりっとしまった。ハニタスがおもむろに口を開く。
 『挨拶を申し上げます。私はこの集散所で副支配を担当しているハニタスです。新艇のトレードを責任担当しています。宜しくお願いいたします。こちらは当集散所で魚類の売り場を営んでいるスダヌス浜頭、新艇のトレードにもかかわっています。また、こちらは当集散所でパンの売り場を営んでいるオロンテスです。このたびの新艇建造事業を行っている一族の一員でもあり、新艇のトレードを担当しています。何卒宜しくお願いいたします』
 『それはそれは、丁寧な紹介ありがとうございます。私ら三人は、ともにイラクリオンで浜頭をしています。私がエドモン、こちらがクレデアス浜頭、ブラナオス浜頭です。宜しく願います』
 一同の紹介が終わった。
 『お三方の用件は、新艇に乗ってみたい、試乗がお望みでございましたですな。只今、船だまりの方で準備いたしております。もう、連絡が来るはずです』
 『そうですか、急な要請をいたしましてーーー』
 『いえいえ、気になさらないでください』
 『ハニタス殿、そして、お二方。新しい船の噂を耳にいたしましてな。少しばかり変わった船らしいと仲間内の話題になっております。それではちょっと見に行こうかということになったわけです。そのようなわけで三人で語らって、こちらへ来たわけです。聞くところによれば、試乗もできるというじゃありませんか、それではということでまいったわけです』
 『そうですか。それはそれは、大歓迎です。本当に、ようこそ、おいでいただき誠にありがとうございます。あ~あ、来ました来ました。お待たせいたしました』
 パン売り場のスタッフの一人が、オロンテスに連絡すべく姿を見せた。オロンテスがハニタスに伝える。
 『ハニタス殿、準備ができたそうです』
 『おう、そうか』
 『エドモン浜頭殿、準備が整いました、船だまりに係留しています。行きましょうか、私どもが案内いたします』
 ハニタスはテミトスと二言三言打ち合わせて、一行を案内して船だまりに向かった。
 ヘルメスの艇上では、ギアスが四方を見廻して風を読んでいる。
 『おう、いい西風が来ている。万事うまくいく。一同、頼むぞ!』
 『おう!』と返事が返る。
 一行が船だまりに到着する。エドモン浜頭がスダヌスに話しかけた。
 『スダヌス、頼みだ』
 『何でしょう?』
 『うちの船の若衆だが、二人乗せてほしいのだが』
 『どうぞどうぞ、乗ってください』
 エドモン浜頭たちの船も船溜まりに係留している。エドモン浜頭が、その連中を呼びに向かった。
 オロンテスがギアスと打ち合わせている。頷くギアス。
 浜頭たち、ハニタスたち、一同がヘルメスに乗り込んだ。
 オロンテスが、艇上の一同に挨拶の口上を告げる、あと二か月後には新艇5艇が完成すると言って話を結んだ。
 『ほっほう!』
 一同が感嘆の声をあげた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  665

2015-11-28 05:35:37 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おい!遅いな、オロンテス隊長がまだ来ないとは。何やってんだい?』
 『もう来るとは思いますが、来たらすぐ、スダヌス浜頭の方へ伺わせます』
 『俺がここで待っているということは、急ぎの用事なのだ。誰か様子を見て来い!もう少し待ってみる。おう、その小ぶりのパンは、例の堅パンか。そこにあるのはウス塩か、羊乳蜂蜜か?何でもいい、一つくれ』
 『はい!どうぞ』と言ってスダヌスに堅パンを渡した。売り場のスタッフの一人がオロンテスの様子を見に出かけていく、時を待たずしてオロンテスが売り場に姿を見せた。
 『おう、オロンテス、待ったぜ。何やってたんだい。朝の挨拶抜きでいい、すぐ行こう、ハニタスが待っている、新艇の客だ。試乗要請だ、イラクリオンからの客だ。行くぞ!』
 『何っ!試乗要請だと、解った。おう、誰か、船だまりに行ってくれ。ギアス艇長に試乗の準備をするようにと伝えてくれ、急げ!』
 『判りました』
 売り場スタッフの一人が船だまりへと走る。
 『おう、スダヌス、行こう』
 二人は早足でハニタスのところへと向かった。
 『おう、ご両人、おはよう。新艇のお客様だ、イラクリオンからの遠路から見えている。突然だが試乗の希望だ。オロンテス殿、出来ますかな?』
 『はい、出来ます。もう準備の方は出来ています』
 『おう、それは心強い。行きましょう、客人のところへ』
 三人は客人を待たせている部屋へと向かう。
 客は三人である。彼らは早朝からの船旅である。ハニタスら三人は、その点を思いやった。
 ハニタスが部屋の戸口に立って、部屋中の三人に声をかけた。
 『今日はようこそ、おいでいただき誠にありがとうございます。ご足労でございます』
 声をかけて部屋に入るハニタス。部屋の入り口に立ってスダヌスは驚いた。大声を上げる。どきっと身構えるハニタスとオロンテス。
 『あ~っ!エドモン浜頭!』
 『お~っ!スダヌス浜頭!』
 二人は驚きの声を上げた。歩み寄る二人、手を握り合う、肩に手を駆ける、二人は互いの肩を抱いた。身を離す、じい~っと見つめ合う、二人は心を通じ合わせた。
 『今日はようこそ、このキドニアにおいでくださいましたな。イラクリオンに行きました、その折りには、たいへんお世話になりました。ありがとうございました。イリオネスも私も感謝いたしております』
 『いやいや、こんなカタチで、ここで浜頭にお会いするとは考えてはいませんでしたな。のちほどに売り場を訪ねようと考えていましたが』
 『そうですか、積もる話もあります。のちほどくつろいだ時に語り合いましょう』
 『そうしましょう』
 エドモン浜頭とスダヌスの邂逅の挨拶が終わった。
 イラクリオンからの客を迎えて、話し合いの場が改まった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  664

2015-11-26 04:46:28 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オロンテスは、笑みを浮かべて応じている。
 『褒められるとうれしい。悪い気がしませんな』
 テカリオンの褒め言葉に気勢がそがれるオロンテス、鎧ったアタックマインドが萎える、動じるはずのない心が揺れる、受ける言葉に対峙する、心中に防壁を築く、それを見て取るテカリオン。
 『そう固くならずともオロンテス殿、気楽にいきましょうや』
 彼がオロンテスの心をつかんでもみほぐす、話し合い、ラポートする、テカリオンの交渉テクニックに舌を巻くオロンテス、テカリオンがひっかく、乱してくる。
 耐えるオロンテスは、ここは押すより引こうとした。オロンテスは引く、テカリオンの心をつかんで一歩引く、押すテカリオン、倒れこんできた、丁々発止が止んだ。
 『オロンテス殿、解りました。焼きてまの煩雑、容器の箱の事もある。木札11枚ということでどうです』
 『了解しました。それで決着です。ありがとう、テカリオンどの』
 『オロンテス殿、いい価格で決まりました。貴方歓ぶ、私はうれしい!それで販売する末端価格も決めておきましょうや、如何がですかな』
 『いいですね、解りました、そうしましょう。テカリオンどの、貴方の考える価格はいかほどですかな?』
 『堅パン60枚入り1箱、木札20枚ということで如何がです』
 『それが妥当といったところでしょう。了解しました。それでいきましょう。それから、ミックス堅パンは、今後、製造は考えないことにしようと思っています』
 『解りました。いいでしょう』
 『私らも、客から注文があっても製造はしません。これは了解しておいてもらいたい事項です』
 『いいでしょう、解りました』
 二人は手を差し伸べる、力を込めて握り合った。
 『明日、商品を受け取ると同時に決済いたします』
 『ありがとうございます。船だまりにおいて商品をお渡しいたします』
 価格決めに渡り合った二人は、連れ立って集散所へと向かった。
 オロンテスは、歩きながら明朝の納品の段取りを頭中でまとめた。
 意中で決めていた価格の1割高で決着した価格に満足していた。
 『木札総数1500枚が1650枚か、これが5日間の仕事の成果か。充実した5日間であったな。重畳といったところか』
 彼は心うちで叫んだ。集散所に着いた。
 『では、よろしくな、オロンテス殿』
 『ありがとう。テカリオンどの、では』
 アサイチの仕事を終えた二人、彼らは次なる仕事へと足を向けて歩き始めた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  663

2015-11-25 05:36:15 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『オロンテス、それはニケでは心もとなかろう。アレテスに言って舟艇を使えばいい。明後日の事だ、話をしておく』
 『パリヌルス、そうしてくれるか、それはありがたい。頼む!第二便の出発時間までには帰す』
 パリヌルスは請け合った。
 『おう、オキテス、箱作りの件だが、世話をかけたな、ありがとう。マクロスチーフにありがとうを伝えておいてくれ』
 『おう、満足のいく仕上りだったか?』
 『おう、大満足だ!ところでオキテス、ハニタスから言ってきたのだが、新艇の価格決定会議の事前打ち合わせを明日の午後にやりたいと言ってきている。お前、どうする?』
 『ほう、そうか。今、新艇建造が技術的にむつかしいところに差し掛かっている。オロンテス、その事前打ち合わせにお前だけ出席してくれ。詳細はお前から聞く』
 『判った。そうする』
 打ち合わせは終わった。三人は、『じゃあ~な』で別れた。
 オロンテスは、久々に西の海に沈みゆく夕陽を見つめた。空と海を灼いて輝く茜が目にしみた。

 朝が来る、今日一日の生がある。オロンテスはヘルメスの艇上で思案している。このところ穏やかな日が続いている。ヘルメスを係留する船だまりが見えてきた。
 埠頭にテカリオンの姿を見とめた。二人の目が合う、互いに手を振る、テカリオンの意図を感じる、オロンテスは身構えた。
 『お~、今日は、アサイチから堅パンの価格交渉か、よっしゃ!』
 ヘルメスを船だまりの所定の位置につける。
 テカリオンが走り寄ってくる、朝のあいさつを交わす、手を握る。オロンテスがスタッフたちと二言三言、言葉を交わす、スタッフたちが行動を起こした。
 『オロンテス殿、昨日はありがとう。立ち話も落ち着かん、俺の船に行こう』テカリオンが誘ってくる。
 『おう、そうしよう』
 二人は、テカリオンの船に向かう、互いに大切な客であるとの認識である。互いに互いを打っての共鳴といった風情である。
 『オロンテス殿、商いというものは微妙なものですな』
 『と、言いますと??』
 『いや、このたびの堅パンの事です。一言二言つぶやくと三言目には、それが出来あがる。オロンテス殿、貴方の機敏さに対しての驚きです。そのうえ、堅パンの一箱に詰められる数の事です。あれが40枚では少々少なすぎるのではないかと感じられるし、80枚、100枚では、多すぎるといった感じがします。60枚とは、本当に適当な数字です。全く恐れ入っています。オロンテス殿の配慮には、、、』
 『いやいや、朝からほめられるとはーーー、テカリオンどの、ほめ殺しはいけませんな』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  662

2015-11-24 05:58:50 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オロンテスがキドニアから戻ってパン工房に姿を見せた。
 『あ~、オロンテス棟梁、お帰りなさい』
 『おう、今、帰った。どんな具合だ?』
 『はい、報告します。まず、堅パンの焼きあげ作業の進捗状態から報告します。只今、山菜ミックス堅パンの焼きあげ作業の真っ最中です。もう、15箱分くらい焼きあげたはずです。今日も焼きあげ作業は順調にいきましたといっていい具合です。箱詰め作業の方は羊乳蜂蜜堅パンの箱詰め作業は完了しました。60箱、製作予定のところ、仕上がりは65箱となりました。また、昨日、焼きあげたウス塩堅パンの箱詰めも終えました。こちらは20箱です』
 『そうか、予定した通りのできあがりかな?』
 『はい!予定した通りです。現場へ案内いたします』
 『よし!見よう』
 二人は箱詰め作業をやっている小屋へと向かった。話しながら歩んでいく、オロンテスは小屋の中にうずたかく積みあげられている堅パンの詰まった箱を見あげた。彼は、上蓋に書かれている文字に目を止める。
 『うまく書いてあるではないか、上等だ!よし、いいだろう』
 『棟梁、このあとの予定では、今日中に堅パンの焼き上げを完了して、明日中に箱詰めを終える段取りで作業が進んでいます。箱の製作は終わりました。予定数の150個に追加26個が仕上がっています』
 『お~!、そうか、判った。セレストス、うまく事が運ばれているようだな。ご苦労』
 『ありがとうございます』
 『念を押す、明日中に全作業の完了ということだな』
 『はい、そうです』
 『この5日間のプロジエクトの4日を終えた、残る明日1日、足元をよく見確かめてプロジエクトの完遂をやることだ。息をつめて、根をつめて、工程を確かな一歩で完遂させるのだ。ちょっとくどかったかな、それくらいにこの俺は、このプロジエクトに心を配っていることを理解してくれ』
 『判りました』
 二人は、パン工房に戻って来た。
 『セレストス、明日の段取りは出来ているのだな。何か聞きたいことがあるか?明日の俺はテカリオンとの価格交渉だ』
 『そうですか。いい決着を祈ります』
 『おう、ありがとう。あと、よろしくたのむぞ!』
 オロンテスは、パリヌルスとオキテスとの打ち合わせに浜へと向かった。
 セレストスは、作業の成り行きを真剣に見ている。最後の1枚を焼き上げるまで、根をつめて、沈着に対応して、今日の作業を終えた。
 彼は、作業にたずさわっている一同をねぎらい、明日の段取りを言い渡した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  661

2015-11-23 05:51:17 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 セレストスは、作業の全体をチエックした。生地練り、焼きあげ、そして、箱詰めまでの一連の作業を綿密にチエックした。ミスの皆無を確認して工房へ戻った。
 彼の算段と段取りである羊乳蜂蜜堅パンの出来あがり個数が予定の60箱を超えて65箱ができていることを確認した。
 今日焼きあげたウス塩堅パンは、明日になって箱に詰めてみなければ焼きあげの確定個数がつかめない。山菜ミックス堅パンの出来上がりも明日の確認とした。
 マクロスチーフが工房に姿を見せた。
 『おう、セレストス班長、箱作りが終わった。追加に製作したの箱の数は26個だ。確認してくれ』
 『おう!』
 二人は肩を並べて箱作りの場へと向かう。セレストスが出来あがっている箱の数を確認した。
 『マクロスチーフ、苦労をかけました。しかと受け取りました。ありがとう』
 『セレストス班長、少し早いが俺たちはこれにて引きあげる。オロンテス隊長によろしく伝えてくれ』
 『了解!』
 マクロスらは広場をあとにして去っていった。セレストスは、手すきの者に出来あがっている箱を小麦の格納庫に運ばせた。
 『おう、これで箱の総数は充分だ。明日、焼きあがった堅パンを箱に詰めて、此のプロジエクトの完了ということか。堅パン焼きのラストスパートだ。仕事をしてしまおう』
 彼は自分自身にムチ打った。
 多忙であるがセレストスは、仕事が楽しかった。ひとつのプロジエクトを任される、作業に取り組む、計画どうりに作業が進む、一挙手一投足が間違うことなく決まる、快感が背筋を走る、満足する。緊張の表情に微笑みが浮かぶ、彼は工房へ戻った。
 一同の作業の姿を見渡す、額に汗して作業に取り組む者たちがいる、組長を手招きで呼ぶ、彼は、訊ねた。
 『おう、山菜ミックス堅パンの焼きあがりの事だが、どんな具合だ?』
 『今、3回目の焼き上げを終えたところです。生地練り、型つくり、焼きあげ、作業工程が順調に流れているか?』
 『はい、順調です』
 『そうか、今日、何としても、入用としている堅パン総数の焼き上げを終えたい!頼むぞ』
 『承知しています』
 『そうでないと、明日、箱詰めにすることができない、熱を冷ましてからの箱詰めだからな。頑張ってくれ』
 『判りました』
 二人は目を合わせた。目は作業の遂行意志を通じ合わせていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  660

2015-11-20 04:50:33 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オロンテスは、集散所における今日の用件をやり終えた。彼は売り場に立っている、常連、顔見知りが訪れる、余分に持参してきた堅パンをプレゼントする、受け取る客の顔がほころんだ。
 受け取った彼らは、首をかしげながら、堅パンを見つめる、口に運ぶ、、噛みつく、歯ごたえがある、噛み砕いて、胃に収める。
 オロンテスに言葉をかけてくる、『お~、うまいっ!』『いい味だ、行ける!』二言、三言、言葉を交わす、和んだ売り場の風情を醸し出した。
 オロンテスには、ボワ~っとした感覚で未来が見えてきていた。成り行きを享受するといった心境で状況を受け止めた。
 今日もパンを売り切った、結果に満足し感謝した。帰途に就く頃合いである、一同に声をかけた。
 売り場にハニタスが姿をを見せる。
 『お~っ!ハニタス殿、何か用事でも?』
 『オロンテス殿、あの堅パンの事だが、どのようなカタチで売り出すのか、決まったら教えてほしいと思ってな。あれは保存食に向く、また、ウス塩味の堅パンだが、あれは酒の肴にも向く』
 『売り出すカタチについては、只今のところ思案中といったところです。何かいい方法があったら、ハニタス殿のお知恵を拝借したいですな』
 オロンテスは、謙虚な眼差しでハニタスの顔を見た。
 『そうか、それなら、俺もち~と考えてみる。後日にでも話し合おうではないか』
 『それは楽しみですな。宜しくお願いします』
 ハニタスは売り場を去っていく、オロンテスは売り場の者たちに話しかけた。
 『ほう、仕事とは、結構、楽しいものなのだな。お前らも、もっと仕事を楽しめ!』
 今日も明日への展望を背にして帰途に就いた。
 
 パン工房のセレストスは、てんやわんやと多忙を極めていた。生地練り、堅パンの焼き上げ、そして、堅パンの箱詰めと仕事を追って順序良く仕上げていっている。
 『おう、セレストス、お前、忙しそうだな』
 『おう、マクロスチーフ、今日は最多忙の日だ。明日にはちょっと落ち着く予定だ』
 『箱の仕上がり予定だが、予定通りだ。追加の箱の仕上がり完了もまじかだ。上蓋の釘止めの釘が足りているか、ちょっと気になってな。持ってきたからおいていく』
 『そうか、それはありがたい。いただく。焼きそんじの堅パンだが食べるか?みんなの分に足りるか足りないか、判らんが、これをもっていって口にしてくれ』
 『そんなにくれるのか、充分充分、足りる足りる、遠慮せずいただく、ありがとう』
 マクロスは、受け取った焼きそんじの堅パンをもってパン工房をあとにした。
 セレストスは、箱詰め作業のチエックに小屋に向かう。
 『おう、作業の進み具合はどうだ?』
 『はい、うまく運んでいます。上蓋を止める釘を使い果たしそうです』
 『ちょうどよかった。今、ここへ持って来た』
 『タイミングがいいですね』
 『仕事が調子よくいくときは、こんな具合に進むものだ。太古の昔からそのように決まっている』
 『へえ~、そんなものですかね』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  659

2015-11-19 05:11:55 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『いい具合に進んでいます。今日は別件です』
 『ほう、何です?』
 『これです』
 オロンテスは持参してきた小袋をハニタスに手渡した。
 『オロンテス殿、見ますよ』
 ハニタスは、おもむろに袋を開く、手を入れる、堅パンを取り出す、しげしげと見た。
 『ほっほう、これはこれは』
 『食べてみてください』
 『歯ごたえ、噛み応えのあるパンですな』ハニタスは、一口二口と噛み砕いて喉を通す。
 『これは香ばしくて、うまい!』
 『保存食として作ってみました。皆さんにも食べていただいて、感想と意見をいただければ幸いです。堅パンは二種類、羊乳蜂蜜堅パン、ウス塩味堅パンです。宜しく願います』
 『判りました。それからですな、オロンテス殿、新艇の価格の件ですが、明日の午後にでも、スダヌス殿にも来ていただいて、会議事前の打ち合わせをと考えています。時間をとってください』
 『判りました。そのように予定します。では、これにて』
 オロンテスは売り場に戻っていく。彼は、売り場に戻る途中、スダヌスの売り場に立ち寄った。ここでも、持参してきた小袋をスダヌスに手渡した。
 『おう、オロンテス、これは何だ?』
 『まあ~、袋を開けて、食べて見てくれ。評価はあとでいい』
 『おつ!そうか。いただく』
 彼は、軽い気持ちで受け取った。
 オロンテスは、戻ってきた。売り場にはテカリオンが姿を見せて待っていた。
 『おうおう、オロンテス殿、品物は受け取った。よくぞ、あすこまで仕上げてくれましたな、上等です』
 『作った堅パンは『保存』が売りの商品です。狙いは『保存一カ月』を目標に作り上げた堅パンです。それなりのことをせねばなりません』
 『いいですね。力いっぱいの価格で引き取らせていただきます』
 『宜しくお願いします』
 『ところで製品の総数はどうなっていますかな?』
 『納品する総数は、150箱です。内訳は、羊乳蜂蜜堅パンが60箱、ウス塩味堅パンが60箱、山菜ミックス堅パンが30箱です。1箱には堅パンが60個入りです』
 『ほう、そんなに作ってくれたのですか、それはそれは、商いになります。ありがとう。価格の決定は明日やりましょう、いいですね。それで納入は?』
 『明後日、第一便で積んできます。船だまりで荷渡しいたします』
 『そうですか、それで結構です。宜しく頼みます』
 『判りました。価格決めは、明日ということでーーー』
 オロンテスにとって、納得いくまで価格を検討する時間ができたことがうれしかった。
 テカリオンは驚いていた。堅パンの納入がまさかの150箱である。たいへんな納入数である。
 『あいつら、何をさせてもやりおる。奴らのジエネレーションパワーが恐ろしい!』
 テカリオンは、すこしばかりの恐怖を覚えた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  658

2015-11-18 04:50:23 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オロンテスは話しながら頭の中では、キドニアへの荷運びについて考えていた。朝の第1便に荷積みして運べるか否かについて考えた。
 『まあ~、いいか、荷物の総量を見てだな』とした。
 彼は、この堅パンのプロジエクトの品づくり完了までを打ち合わせて、その遂行を指示したことで肩の荷を半分降ろした気分に浸った。
 『これでテカリオンとの取引に集中できる!』
 彼は、取引価格について思考を巡らせた。答えは簡単に出そうでない。納品完了までに都合三日の日にちがある、余裕をもって価格を決め、交渉の展開を考えるとした。
 夜は更けていった。

 朝だ、夜明けだ。水平線を裂いて昇る朝陽がまぶしい。朝行事を終えての清々しさ、オロンテスは、焼きあげて箱詰めにした堅パンの箱を持って、足取りも軽く、ヘルメスの方へ歩を進めていく。
 テカリオンに渡す堅パンの見本品として携行していく品である。
 彼の今日の大事な一件は、テカリオンとの価格交渉である。波を割って揺れるヘルメスに身をゆだねて脳漿を搾って考えた。
 計算の基礎をパン1個木札1枚において考えた。パン6個分に加算要素が使ったオリーブ油、堅パン焼きあげの手数、そして、堅パンを入れる木箱、パン工房の全員が四日間この仕事に集中した、その積算結果はこうでなければいけないと決めて、総計を算出した総額と照合した。
 彼は堅パン1箱木札9枚~10枚と決めた。その価格、その価値をパン10個と天秤にかけて評価、検討した。
 『まあ~、妥当といったところか』これでテカリオンとの価格交渉をすると意に決めた。
 ヘルメスの進む前方にキドニアの船だまりが見えてきていた。
 船だまりに着く、仕事の手配を済ませ、オロンテスは船だまりに碇泊しているテカリオンの船に向かう。
 テカリオンの所在を問う、彼は不在であった。オロンテスは、乗り組みの者に堅パンの箱を託して引きあげた。
 用件を終えたオロンテスは集散所に向かう。売り場に着く。場を見渡す、今日も客の出足がいいことを確認した。
 彼は、準備してきた小袋を携えて、ハニタスのところを訪ねた。
 笑顔で彼を迎えるハニタス、心は通じている、確信した。
 『おう、オロンテス殿、いかがですかな?新艇建造の方の仕事の進み具合は?』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  657

2015-11-17 05:05:09 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 セレストスは、魚ミックス、肉ミックス、山菜ミックスの堅パン各種を2,3枚づつを各自に配った。オロンテスは、想像されるコスト面の説明をした。
 『この堅パンについては、その様なわけもあるということだ。それを念頭にもって検討することだ』
 彼らは堅パンを手にして、眺める、匂いをかぐ、おもむろに口に運んだ。首をかしげる者、目を閉じて味を聞くといった風情の者、オロンテスは6人の対応を見ながら堅パンを鼻の先に持っていき匂いを嗅いだ。
 『魚と肉、この匂いはいかんな、ううう~ん、味よりも印象だ!』
 山菜ミックスの堅パンは、薄茶に焼けたパンに山菜の緑が美しかった。『これはいい!』としげしげと見て口に入れた。
 彼は、一同に意見と賛意を求めた。
 『お前たち、どうだ?三種のうちどれがいい、決めたか?』
 一同がうなづく、オロンテスが問いかける。
 『魚がいいと思った者は、手を上げろ!』誰も手を上げない。
 『肉がいいと思った者は?』二人が手を上げる。
 『山菜がいいと思った者は?』セレストスと三人が手を上げた。
 『やはりな、そうか』
 オロンテスはうなづいて、口を開く。
 『魚も肉も堅パン向きに処理したうえでなければ使えない。この際、山菜ミックスで堅パンを焼く、味付けはウス塩味で行く。セレストス、それで手配して堅パンを焼き上げてくれ』
 『判りました』
 『次は仕事を進める段取りについて説明する。ウス塩味堅パン、山菜ミックス堅パンの焼き上げは明日中に完了の事。明日午後から、焼きあがっている堅パンの箱詰めを開始する、セレストス、堅パンの状態を見て、丁寧に仕事をするのだぞ!上蓋の釘付けは、釘数少なくして釘付けする、判ったな。明日焼きあげた堅パンは、明後日の箱詰めとしてくれ。解ったか』
 オロンテスは一拍の間をおいて話を続けた。
 『箱詰めが完了した堅パンは、夕刻までに浜に運んで、夜露の事を考えて、一夜の保管場所を決め、積んでおいてくれ。あ~あ、それから堅パンの種類、内容量は、上蓋に書き記しておくこと。以上だ』
 『判りました』
 『セレストス、今、行ったこと遺漏なく事を完了させること。しかとやってくれ!』と念押しを忘れなかった。
 セレストスは、オロンテスの目を見て了解の意を伝えた。
 計画し、綿密に段取りして遂行していく。仕事遂行の確かさで、彼らは仕事と取り組んだ。