『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第1章  トロイからの脱出  17-2

2009-03-31 07:22:04 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『先にも言ったように、ここにいる皆には、帰るトロイは、もうない!私の心のうちを皆に伝える。我々の行うトロイからの脱出は、逃亡ではない。我々の新しい使命に向かっての出発である。いいか!新しい我々の使命は、建国である。この大義名分があれば、いかなる困難も、困難ではない!我々は、はじめは、トラキアに向かう。しかし、いずれは、エーゲ海を南下する。但し、今は、行く先は、定まってはいない。』
 アエネアスの言葉を聞く者の心に、鋭く突き刺さった。
 ギリシア軍の焼討ちの猛攻で打ちひしがれた心、抗することの出来ない、この現実、彼らの心は、新しく手にした希望に心を燃やした。炎上しているトロイに比して、それ以上の炎で胸を燃やした。

第1章  トロイからの脱出  17

2009-03-31 06:20:24 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 側近、腹心の者たちが戻ってきて顔をそろえた。連れて来た市民たちの顔も見える。
 アエネアスは、皆を招き寄せて、口を開いた。皆の顔も定かに見えない闇の中におけるトロイ脱出行の打ち合わせである。
 『皆っ!聞いてくれ。今夜、トロイ城市は、ギリシアの野蛮な者たちによって焼討ちされた。無念である。皆でトロイを脱出しよう。ただ、言えることは、これ以上、人数が増えても助けてやれないことなのだ。それについては、心から深く詫びる。このとおりだ。』
 彼は、皆を見廻して、頭を下げた。ついで、彼は、己の決意について、言葉短く彼らに告げた。

第1章  トロイからの脱出  16

2009-03-30 05:37:00 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『軍団長!アレテスです。3人連れてきました。アミクス、リュクス、ギアスです。』
 『よし!近くに寄れ!アミクス、リュクス、ギアス。お前たち3人は、エレドミドの軍団の軍船の係留地を知っているな。我々に先駆けて、連絡に行くことだ。そこには、パリヌルスがいる。伝言は、全ての軍船の出航準備をせよ。と伝えてくれ。足の速い馬を選んで、すぐに行け!スカマンドロス河の河岸を海に向けて駆け下りて、海岸を目的地に向けて走れ!アレテス、道について、説明してやれ!あ~あ、それから、パリヌルスに食糧の調達も頼むと伝えるのだ。いいな!3人とも判ったな。質問は、あるか。』
 『軍団長!軍団の総員は何人ぐらいかと聞かれたら、、、』
 『軍団の総員は、200人余りと伝えろ。脱出の成否は、お前ら3人の肩の上
だ!いいな、行けっ!』
 アレテスは、3人の背中を成功の念をこめて、力強く押した。

第1章  トロイからの脱出  15

2009-03-27 07:08:21 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『アレテス!お前が信頼のおける部下を3人連れてくるのだ。指示する用件は、エレドミドの我が軍団の軍船の係留地への連絡だ。判ったな、急げ! あ~あ、それに、馬は何頭くらいいるか。全て使える馬か。』
 『馬は、200頭余りです。全ていける馬ばかりです。』
 『よし判った!部下を連れて、早く戻れ!』 アレテスは、闇に姿を消した。
 『イリオネス!アバス!いるか。』
 『はい!ここに。』
 『二人に聞く。市民の中でたよりになる者がいるか?誰がいる、5~6人連れて、ここへ戻れ!いいな、直ぐやるのだ、急げ!判ったな。年寄りはいかんぞ!』
 『アカテス、カピユス、セレストス、ヘレノス、信頼のおける者を3人位づつ連れて来るのだ。アレテス、カピユス、にアバスが戻ったら、脱出計画の説明と打ち合わせと指示をする。いいな。皆、急げ!時間が貴重だ。』
 皆、闇の中に散っていった。

第1章  トロイからの脱出  14

2009-03-26 08:21:17 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスは、焚き火のかすかな炎の光で、馬囲いの地を包んでいる闇を見透かした。そこに彼の見たのは、おびただしい数の人たちであった。軍団の兵、兵たちの家族、そして、トロイ城市から難を逃れてきた人たちであった。
 彼は、その数400人余りと見た。そのうち軍団の兵は300人足らずである。
 彼は、トロイ脱出について考えていた計画が、何にもならないことを知った。彼は、改めて、瞬時に新しい脱出計画を構築し、その実行の意思を固めた。
 集まってきている者たちへの、愛と信頼と期待を裏切ることは、決して許されないことなのである。アエネアスは、脱出の成功を自分自身に深く祈った。
 アエネアスは、手配すべきことを打ち合わせるために、側近、腹心を急ぎ召集することを、アレテスに指示した。

第1章  トロイからの脱出  13

2009-03-25 07:49:46 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスの一行は、馬囲いの地に着いた。馬囲いの地の真ん中には、目立たないように焚き火が焚かれている。そのあたりだけに、ほのかな光があるだけで、そこは、寸前暗黒の空間であった。
 アレテスが、駆け寄って迎えてくれた。馬囲い地の広さは、現代の児童500人くらいの小学校の運動場くらいの広さである。
 アレテスは、アエネアスの姿を見て、声をかけた。
 『軍団長、どうされたのですか。奥さんじゃありませんか。』
 『アレテス、兵4~5人に言いつけて、家内を埋める穴を掘ってほしい。こちらへ向かう途中で敵にやられた。葬ってやりたい。場所を選んで、穴を掘り、適当な石を準備しておいてくれ。』 アエネアスは、妻のクレウサを背から降ろし、足元の草の上に横たえた。このときになって、アエネアスの目に涙が溢れた。涙は、とめどなく頬をつたった。声を上げることだけは、何とか抑えた。
 妻のクレウサの元気な姿とは、もう二度と会うことのかなわない別れであった。

第1章  トロイからの脱出  12

2009-03-24 07:02:11 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 兵の声が届いた。妻を抱いた兵が近づいてくる。
 駆け寄るアエネアス、もの言わぬ妻クレウサをじ~っと見つめた。突き上げてくる慟哭をかろうじて抑えた彼は、『ありがとう。』 礼を述べて、妻を抱きとった。妻の屍は、左胸乳房の下を、剣で刺し貫かれた傷であった。クレウサの身体をゆすった、彼女は事切れていた。アエネアスは、妻の瞳を見つめた。彼は、妻が生きていたときの優しさに溢れたまなざしを認めた。妻の魂が身体を抜けていく、彼は、妻の魂との別れのときを噛みしめるとともに、涙をじっとこらえた。
 アエネアスは、兵ら皆に指示を発した。
 『ここでのことは終わった。皆の者!集結地の馬囲いへ急げ!』
 彼ら一行は、馬囲いへ速歩で進んだ。
 父と息子アスカニオスは、兵の背中にいる。アエネアスは、いまだに血の流れのとまらない妻クレウサを背中に、愛をこめて背負っていた。振り切るには、あまりにも重い胸の思いであった。
 彼の心は、軍団の将兵たちと、その家族たちのことに思いを馳せた。彼らの家族も俺の家族であると心の中での思いを強めた。

第1章  トロイからの脱出  11

2009-03-23 06:51:05 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『イリオネス、そして、その部下たち、応援に駆けつけてくれた者たち、ありがとう。君たちに深く感謝する。ありがとう。手傷を負っている、そこの2人、大丈夫か、集結地に着いたら、すぐ手当てをするのだ。いいな。父と息子を護ってくれた者たち、、、』
 このとき、1人の兵が大声をあげた。
 『軍団長!後ろです。危ない!』
 アエネアスは、右へ身体を廻し、後ろから襲い掛かる剣を避け、振り返りざま背中を見せた彼の剣は、襲撃者の右脇胴から、左脇胴へと突き貫かれていた。腕を虚空に伸ばし、倒れ行く襲撃者、脇胴から流れ出る血は、闇の中、黒い大地に吸い込まれていった。
 アエネアスは、大きく息をついた。突如の襲撃で、彼の動悸は、激しかった。彼は、妻のクレウサがいないことに気がついた。気持ちの急いている道中である。全員総がかりで、アエネアスの妻クレウサを捜した。

第1章  トロイからの脱出  10

2009-03-20 11:50:02 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 敵も味方も死にものぐるいでの闘いである。その時である、突如、敵の背後に一群の兵が、声をころして襲い掛かってきた。アレテスの命を受けて、アエネアスたちを迎えに来てくれた自軍の兵たちの一群であった。統べている隊長の檄が飛んだ。
 『俺たちの大事が漏れてはならん!一人も残さず、倒せ!討ち取れ。』
 敵を圧倒した。襲ってくる敵をことごとく、討ち倒したらしい。闇の中に、血の匂いが漂った。味方の損傷も少なからずあると思われるが、兵らは、息のある敵兵の止めを刺してまわった。
 味方の損傷は、応援隊の2人、イリオネスの部下3人を失っていた。
 アエネアスの一群は、駆けつけてくれた応援隊の活躍で、闇の中で展開した、敵との死闘が終わった。兵たちは、イリオネスを真ん中にして、円陣を組んだ。アエネアスは、森の闇を背にして、円陣に加わっていた。

第1章  トロイからの脱出  9

2009-03-19 08:59:24 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスの一群は、新しい手勢も加わり、30人余りになっている。腹心のイリオネスは、手際よくアエネアスの家族を護衛する隊形に兵を配置して、軍団の待っている馬囲いの地に向けて急いだ。彼らの一群は、持てる力の全てを出して疾駆した。
 急ぐ前方の闇の中から、剣の抜き身を手にした、敵と思われる兵の一群が現れ、彼らの行く手をさえぎった。一瞬、彼らの肝が凍った。だが、心は決まっている。進むことが全てなのである。彼らは、闇の中の敵の一群と剣を抜いて対峙した。
 たちまち、撃剣の絡み合う響きが闇の中に沸きあがった。アエネアスは、背負っている父を、一人の兵にゆだね、闘いの渦の中にとびこみ、敵の一人を横薙ぎに斬り倒した。兵の絶叫は、尾をひいて闇に消えていく。イリオネスの剣さばきも、見事である。正面から打ち込んでくる斬撃をさけて、相手の胴を斬り裂き、一歩踏み出して、味方と斬り合っている敵の背を袈裟懸けに斬り下げて相手の命を絶った。