『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第3章  踏み出す  70

2011-04-29 06:57:31 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼らは、狩場から引き揚げた。交替で大鹿を担ぐのだが重かった。ユールスは、父の背中にあり、感じる体温が心地よかった。帰途にある彼らは、途中において一泊の野宿を過ごし、翌日の昼頃になって砦についた。

 狩の一行を出迎えたイリオネス、パリヌルス、ほかの面々は、狩の獲物の大きさに驚きの声を上げて迎えた。
 『統領、お帰りなさい。それにしてもでっかい鹿ですね。それと小鹿が一頭、狩の結果が重畳でしたね』
 『おう、申し分のない、いい狩であった。イリオネス、交易はどうであった。ひと言で言ってくれ』
 『ご安心ください。こちらも重畳の結果です。詳細は後ほど』
 『判った、ご苦労であった。皆にもそう伝えてくれ。今夜は砦の者たち皆であの鹿を食べよう。旨いぞ!小鹿の一匹は、我々5人で食べてしまった。久しぶりだった。旨かった、そのひと言だ』
 『それは良かったですね。交易の結果もはなはだ、いい結果でした』
 砦は、統領のアエネアスが無事に帰ってきたことで皆は安堵していた。
 西門前の広場に食事の場が設営された。今日の献立は鹿の焼肉と鹿の内臓と野菜たっぷりの鍋である。砦の皆に、いきわたらないのではと考えられ、他の食材も準備して開催された。一同は料理と酒に舌鼓を打った。
 空に月の冴える秋の一夜が更けていった。

第3章  踏み出す  69

2011-04-28 07:06:13 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼らは、昨夜の野営地に戻ってきた。アエネアスは、従者たちに指示をした。
 『お~い、皆、昼めしにこの小鹿を食べよう。さばいてくれるか』
 彼らは二つ返事で作業に取り掛かった。小鹿をさばく者、火おこし、食事場作りと分担して作業を進めた。ユールスは薪あつめにいそしんだ。
 秋の陽の光のしたで展開した狩の様子、獲物を処理して胃におさめる、その営みに連れてこられたユールスは、体験と営みの風景を目にした。彼らと共歓することも出来た。歓びをともにすることの大切さを子供なりに理解した。
 昼めしの準備が出来あがった。
 『さあ~、始めるぞ!まずは天に感謝だ。次は、このときを皆で力を合わせて、俺たちのものにした。皆、よくやった。おい、肉は焼けたか』
 従者が香ばしい匂いを放つ、焼けた鹿肉の串を皆に配った。酒杯には酒も満たされていた。
 アエネアスが焼肉に噛みついた。皆も一斉に焼肉に噛みつく、ユールスも小さい口をあけて噛みついた。
 『お~お、こいつはうまい!』
 皆も鹿肉のうまさをほめる言葉を口にした。ユールスも心から、これは旨いと思った。朝に食べた野ウサギとは、格段に違う鹿肉の旨さに感じ入った。
 『へえ~、肉といっても、それぞれにそれぞれの味があるものだ。それにしてもこの鹿肉はうまい!』
 文句なしに旨かった。彼は大人たちに混じって、『うまい、うまい!』 と味わって胃におさめた。
 『いやあ~、統領、旨いですね』
 『うん、旨い!』
 『この旨さ、感動!感動!』
 彼らは、旨い、旨いを連発して、焼けた鹿肉を口に運んだ。酒を飲むのは二の次にして鹿肉を食した。彼らは肉の旨さを堪能した。

第3章  踏み出す  68

2011-04-27 06:59:00 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスは皆を集めて話し合った。
 『おう、皆、良くやった。結果として重畳である。納得のいく狩であった。俺の考えだが、今回の狩はこれで終わろう。昨日の宿営地に引き揚げる。水はあそこにしかない。いいな。そこで、獲物の運び方だが、大鹿は足を縛って、丸太ん棒で担いでいこう。小鹿は一頭づつ担ごう。それでいいかな』
 『統領の言われるとおりでいいと思います』
 一同は狩場から引き揚げの準備に取り掛かった。
 『この大鹿かなり重いぜ』
 『重いが、俺たちが誇りに思える獲物だ』
 従者の一人が丸太ん棒に使える木の枝を準備してきて、大鹿の運搬に使えるように整えた。小鹿は背負い袋に入れた。小鹿はこの季節、準備してきた背負い袋に入りきらないくらいの大きさに成長していた。
 一同は狩場から引き揚げた。
 彼ら一同の表情は陽光の下で誇らしげに輝いていた。ユールスは小鹿とともに父アエネアスの背中にあった。

第3章  踏み出す  67

2011-04-26 08:37:36 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『うん、立ち上がれる。歩ける大丈夫だよ。おじさんは』
 『おっ!俺か見ての通りだ。先ずは大丈夫と言うところだ。ユールス、来い、鹿を見ろ』
 『おじさんの剣が刺さったままだ』
 『ユールス、見たか。おじさんの剣が大鹿の急所を刺し貫いた。おそらく大鹿の心の臓を刺し貫いたと思う。それで奴は一巻の終わりさ』
 皆がこの情況をつぶさに見ていたのだ。彼は、手を上げて『来い、来い』 のサインを送った。
 『おう、よくやったな!』
 『奴の頭突きの衝撃はどうだった?』
 皆で横たわっている大鹿を眺めながら談じ合った。大鹿は彼らが仕留めた小鹿の親であろうと想像した。彼らは、親鹿の思いを勝手な想像の領域の中で理解につとめた。
 アエネアスはユールスに声をかけた。
 『ユールス、お前も飛ばされたのか。まあ~、立っているところを見ると、先ずは大丈夫のようだな』
 アエネアスは、大鹿と渡り合った従者の方を向いて声をかけた。
 『どうだ。お前の心臓はおちついたか。まだ息づかいが少々荒いな、獲物の体から剣を抜いて来いよ』

第3章  踏み出す  66

2011-04-25 06:54:34 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 鹿は、全体重をかけて突っ込んできた。力をこめて構えていた身体に衝撃が来た。剣は鍔元まで鹿の体を貫いた。彼の身体は、右斜め後方に跳び、はね飛ばされる、衝撃はすこぶる強かった。森中に薄く茂った草の上に身が跳ばされ、もんどりを打って転がった。彼の意識は、鹿に致命の一撃を与えたとの確信があった。
 彼は、背にしていたユールスのことをすっかり忘れていた。草の上に横になっている彼は、木の葉の合間から差し込む強い陽の光で我にかえった。背中が軽い、立ち上がると同時に大声をあげた。
 『ユールス!』 もう一度、大声で『ユールス!』 と呼びかけた。
 小さな声がする。彼は周りを見回した。いたいた、3メートルぐらい後方にいるユールスを見つけてホッとした。次に渡り合った鹿の姿を目が追い求めた。
 剣はしっかり鹿の急所を貫いていた。鮮血を地面に吸い取らせて横たわっていた。即死の状態である。
 彼は、ユールスの無事を確かめるべく走った。立ち上がろうとするユールスの姿を見つけた。
 『おいっ!ユールス、大丈夫か』
 ユールスは強い衝撃でぶっ切れた背負い紐の端を握って立ち上がろうとしていた。

第3章  踏み出す  65

2011-04-22 07:25:09 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ユールスを背負った従者が森へ逃げ込んだ大鹿を眼で追っていた。逃げる鹿たちから大きく遅れている一頭の鹿がいるではないか、彼には、その鹿の苦しい息づかいが聞こえてくるように感じられた。
 鹿は大きな樹の幹に身を寄せるようにして立ち止まった。彼は、その鹿に近づいていく、そろりそろりと早足で接近していった。双方の姿形が確かめられる距離までに近づいた。
 鹿が身構えた。彼は腰の剣の柄を握り鹿に対峙した。鹿の息づかいが荒い、力をふりしぼって燃えている鹿の目が、赤く光った。目と目が合いスパークした。鹿は頭を低くした。
 対峙した彼は一瞬迷った。突くべきか、斬るか。鹿の獣としての勘が彼の迷いを読み取った。
 鹿は、持てる力を出し切って、彼をめがけて突っ込んできた。わき腹に矢をつきたてたまま突進してきた。
 彼の迷いは吹っ切れていた。
 抜剣!構えた。剣は腰の高さに、そして、剣先は鹿の胸部を狙って構えた。
 この緊迫のとき、背中のユールスも緊張していた。先ほど涙がにじんだ両目はすでに乾ききっていた

第3章  踏み出す  64

2011-04-21 06:36:39 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 一同は、じりっ、じりっと鹿の群れに接近していく、森の中の草地はかなりの広さであった。樹木の幹に身を隠しながら近づいていく、小獣の吼える声に似た声が届く、草を食んでいるしか鹿たちも反応した。射程距離はまだかなりある、これでは獲物に逃げられる、あと少し近づきたい。
 反応した獲物たちが緊張を解いて、また草を食べ始めた。従者からのサインがとどく、一同は身をかがめて接近を開始した。適当な射程距離までに来たようである。止まれ!伏せ!のサインで腹ばいの体勢をとる、ひと呼吸おいて、撃ち方用意!のどかであった一帯の気配が一瞬にして、緊張の気配に変わった。一同は、息を殺して半弓を引き絞った。
 撃て!のサインがきた。
 4本の矢は、獲物をめがけて、一斉に弦を離れた。矢が空気を裂いて走る、狙いは確かであった。命中した。矢は各個体に一本づつ突き刺さっていた。
 二頭の子鹿は、痙攣を起こしてその場にうずくまっている、大鹿はもんどりをうって森の中へ逃げ込んだ。二人の従者は、棍棒を手にして、うずくまっている小鹿を殴った。鋭い衝撃を頭部にうけた小鹿は、身をひきつらせてこときれた。一同は逃げた獲物を追わなかった。
 目の前に展開した、この一瞬の鹿たちの地獄を見たユールスは、見張った目に涙をにじませていた。

第3章  踏み出す  63

2011-04-20 07:26:44 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『統領、あれを見てください。望みの獲物が草を食べていますよ』
 『おい、皆、見ろ』
 『うっ、う~ん、鹿じゃないですか。家族かな?7~8匹いますね』
 『あそこまで、まだ、かなりあるな』
 『散会して、奴らに接近しよう。気づかれないように近づくのだ。いいな』
 アエネアスは、従者のひとりに声をかけた。
 『お前、狩について、なかなか、いい勘を持っている。一同、お前の指示で動く、皆に指図をするのだ』
 『判りました。では、こうしてください。私が指図を出すとき、獣の鳴き声を出します。声のするほうを見てください。私が手信号で止まれ、進め、かがめ、構えろ、撃ての指図をします。それに従ってください』
 『よし、判った。皆、いいな』
 『あ~あ、統領、半弓は横方向の狙いはつけやすいのですが、縦方向、上下の照準が難しい。朝の狩では、それがあったのです。それに気をつければどうってことありません。狙いどころに命中しますよ』
 『そうか、判った。今度はしくじらない』
 一同はあごでうなづいた。
 獲物たちに気づかれないように足音を忍ばせて、じりじりと散開、前進歩行を開始した。

第3章  踏み出す  62

2011-04-19 07:26:37 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『奴は体格がでっかい!鹿や猪と違う、とにかく、会えば闘う以外にない。全員でかかれば倒せると思う。統領も力を貸してください』
 『判った、そのときはそのときだ。闘う以外に方法はない、みんなはそのように覚悟していてほしい。俺たちが語っているようにうまくはいかん、そう覚悟しておくことだ。とにかく、会わないことを祈ろう』
 休憩に終止符を打って、彼らは準備よろしく、腰をあげ歩き始めた。
 『それにしてもだな狩をやる!と決まったら、身がぞくぞくする。さあ~、行こうぜ』
 一行は、獲物との遭遇に胸を膨らませて森の奥へと歩を進めた。
 ユールスは、従者の背中にいて、彼らの思いとは関係なく、目にする風景と頬をなで吹きすぎていく風を楽しんでいた。彼の思いは、背負われることは窮屈この上ないと思いながら、できることなら、父の背中にいたかった。そのような思いにかられながら現状に甘んじていた。彼は、自分の思いは叶えることは無理だと知りながら、訴えることも許されない自分の立場を自覚していた。
 彼らは、森の中の道なき道を黙して歩んだ。従者のひとりがアエネアスに声をかけた。彼は、森の中に樹木のない草地を見つけて指差した。

第3章  踏み出す  61

2011-04-18 07:15:53 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 朝の狩猟の結果はまずまずであった。野ウサギ五羽である。そのうちの一羽はアエネアスが仕留めたものであった。従者たちの狩猟の腕の方が優っている結果であった。
 引き揚げてきた彼らは、即、獲物を裁いて朝食にした。昼食分も塩を振りかけて作った。
 ユールスといえば、大人たちのやっていることを、じぃ~と見つめて過ごした。彼は、『焼いた野ウサギの肉の味は、このようなものかな』 と『しれっととした』感じをもって胃におさめた。
 朝の食事を終えた一同は、今日の行動を打ち合わせた。
 『この森での猟は、昼までがやまだと思われる、午後の猟は期待することは出来ないと考えられます。統領、いかがなもんでしょう』
 『おう、そうだな。お前のいうとおりかもしれないな。俺は、鹿をやりたいと思っている。果たせるかなの望みだ。鹿に出会えたうえでの話になる』
 『俺は手こずるかもしれないが猪と会いたい。こいつをやってみたい』
 従者の一人が言う。
 『大変が考えられるが熊とあったらどうしようかと考えている。ギアスの話を聞いたとき身に震えが来たよ』
 『もし、会ったらどうするのだ』