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CMと情報

2014-02-27 19:57:18 | CMウォッチ

一部の新聞での報道なのだが、あるテレビCMに対して医療関係者が疑問を呈している。
そのCMとは、「HBOC」という遺伝性のがんの検査を勧めると言う内容のモノ。
youtube:ファルコバイオシステムズ
このCMを何気なく見る限り、何も問題がないように見える。
しかし、医療関係者が疑問を呈している理由が「何も問題がないように見える」ことなのだ。

「遺伝性乳がん」については、昨年米国の女優・Aジョリーさんが「遺伝性乳がんに罹患する確率が高い」という理由で、「予防的乳房切除」をおこない公表した。
公表したことで、日本でも一時期話題となった。
ただ、日本の医療関係者、特に乳がん治療に携わる乳腺外科の医療者からは、「予防的乳房切除」に関して、余り積極的な意見が出ていない。
「積極的意見」と言うよりも、むしろ「乳がん」というがんの理解が深まることが最優先で、その先に「遺伝性乳がん、卵巣がん」の情報を伝えることが重要、と言う意見が多いようだ。

では、なぜこのCMが問題なのか?と言うと、実は「遺伝性乳がん・卵巣がん」の遺伝子検査には、「事前に遺伝子カウンセリングを受ける」と言う条件があり、「遺伝子カンセリング」ができる「カウンセラー」は、全国でも200名ほどしかいない。
それだけではなく、「遺伝子検査」によって、「検査を受けた人(や家族)が受ける不利益」等の議論がしっかりできていない、と言う点もある。
「遺伝性乳がん・卵巣がんの発症リスクが高い」と言うことがわかるコトで、検査を受けた女性だけではなく、その姉妹・兄弟にも大きな影響を与えることになる。
(男性であっても、乳がんや卵巣がんが発症するリスクのある遺伝子を受け継いでいると考えられるため、男兄弟であっても結婚などに影響があるのでは?と、考えられるため)。

もう一つは、現在この検査ができる企業が、このCMを流しているファルコバイオシステムズ1社だけ、と言う点がある。
確かに、生活者に情報を流すと言う意味においては、例え1社の独占であっても、意味があることだが、遺伝子カウンセリングができる病院からの紹介が無い限り検査ができない、と言う状況で、CMを流す必要があるのだろうか?と言う、疑問だ。

何よりも医療関係者が、困惑している理由は「遺伝子検査が絶対である」と、考える生活者がいるかもしれない、と言う懸念だ。
「遺伝子検査」そのものは、ある意味「確率」の問題で、「陽性」になったから「絶対乳がんや卵巣がんになる」とは言い切れないし、また逆に「陰性」だからと言って、「乳がんや卵巣がんにならない」と言う確証もないのだ(遺伝性乳がんの患者さんは、乳がん患者の5%程度)。

テレビCMは、不特定多数の人が見る。
だからこそ伝える情報は、正確でなくてはならないし、不安を煽るモノであってはならない。
そのような基本的なコトが、テレビCMには重要、と言うことをこのCMの問題は教えている様な気がする。