母はふるさとの風

今は忘れられた美しい日本の言葉の響き、リズミカルな抒情詩は味わえば結構楽しい。 
ここはささやかな、ポエムの部屋です。

冬の詩 高村光太郎「冬が来た」

2022年12月31日 | 季節


    冬 が 来 た

        
                高村光太郎


きっぱりと冬が来た
八つ手の白い花も消え
いちょうの木も箒になった
きりきりともみこむような冬が来た
人にいやがられる冬
草木に背かれ、虫類に逃げられる冬がきた
       
冬よ 
僕に来い、僕に来い
僕は冬の力、冬は僕の餌食だ
しみ透れ、つきぬけ
火事を出せ、雪で埋めろ
刃物のような冬が来た

食パン

2022年12月23日 | Weblog
2つめの停留所でバスを降りると
そのパン屋がある
グーチョキパン
という名の店ではないが
郊外の農家の隣のコロッケやの
その隣にある小さな建物
週に三日だけ開く店なのだ

1.5斤のずっしり重い食パンを抱いて
私の平凡な午後は嬉しく過ぎる
そばの柿の木に朱色の実が残り
野鳥がそれを見つめている

むかし給食のコッペパンを焼く店の前を通ると
既に焼くパンの香りが流れていた
思い出にあるあのパンの匂い

食べることは生きること
戦いのない平和な国の有難い
おいしい健康食パン


落葉松 高原の晩秋詩

2022年12月01日 | 

    落 葉 松

          北原 白秋

からまつの林を過ぎて 
からまつをしみじみと見き
からまつはさびしかりけり
たびゆくはさびしかりけり

 からまつの林を出でて
 からまつの林にいりぬ
 からまつの林にいりて
 また細く道は続けり

  からまつの林の奥も
  わが通る道はありけり
  霧雨のかかる道なり
  山風のかよう道なり

   からまつの林の道は
   われのみか ひともかよいぬ
   ほそほそと通う道なり  
   さびさびといそぐ道なり

    からまつの林を過ぎて
    ゆえしらず歩みひそめつ
    からまつはさびしかりけり
    からまつとささやきにけり
    
  からまつの林を出でて
  浅間嶺にけぶり立つ見つ
  浅間嶺にけぶり立つ見つ
  からまつのまたそのうえに 
 
   からまつの林の雨は
   さびしけどいよよしずけし
   かんこ鳥鳴けるのみなる
   からまつの濡るるのみなる

    世の中よあわれなりけり
    常なけどうれしかりけり
    山川に山がわの音
    からまつにからまつのかぜ