母はふるさとの風

今は忘れられた美しい日本の言葉の響き、リズミカルな抒情詩は味わえば結構楽しい。 
ここはささやかな、ポエムの部屋です。

日本の詩人 佐藤 春夫

2021年05月29日 | Weblog

    少年の日
        
         佐藤 春夫

野ゆき 山ゆき 海辺ゆき
真昼の丘辺花を敷き
つぶら瞳の君ゆえに
憂いは青し空よりも

蔭多き林を辿り
夢深きみ瞳を恋い
悩ましき真昼の丘辺
花を敷き哀れ若き日

君が瞳はつぶらにて
君が心は知り難し
君を離れてただひとり
月夜の海に石を投ぐ

君は夜な夜な毛糸編む
銀の編み棒に編む糸は
かぐろなる糸赤き糸
そのランプ敷き誰がものぞ

五月の猫みどりの庭

2021年05月08日 | 
五月の庭はみどりの庭
黒猫の好きな花の庭
スズランが咲き牡丹が咲き
山吹色に日が暮れて
群青色に山暮れて
窓に明かりが灯るとき
生きものはみな今日の憩いの湯気のなか
安らぎの寝息をたてるのです
ゆらゆら夢の中に落ちるのです

五月の家はみどりの庭
幸せに溢れ
色いっぱいの季節のなかで
黒猫の散歩道風通る
みどりの庭