雑誌に連載したものの文庫本である。そのためか稲荷寿司屋台の親父の素性について繰り返しがクドク感じられる、毎回毎回丁寧な紹介があるがこれほど必要かと思う。
他にも気になるのが構成に粗さが感じられることで中段の章に至ってようやくなれたかなと思わせる。
ただいい文章もあり、やはり流行作家だけのことはある。たとえば「人に使われる身の者―とりわけ商家の奉公人などは、主人一家に生殺与奪の権利を奪われて、何をされても手も足も出ない立場にある。だが、身体は従っても、心は生きているものだ。奉公人たちは時として、主人の家の財物をわざと損ねて、それによって積もり積もった鬱憤を晴らすことがある。むろん、わざとと言っても、本人はそれと承知してやっているのではなく、心が勝手にそうするのであるが。」と。介護労働者も職場の待遇の悪さを晴らすために利用者へなんらかのことをしたり、事故になったりすることに通じるのではと、感じさせるものがある。