A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

自由への憧憬と自我同一性~きゃりーぱみゅぱみゅ「ファッションモンスター」

2012年10月18日 00時28分20秒 | ガールズ・アーティストの華麗な世界


ヨーロッパの配信チャートでTop5になったり各国のアーティストがカヴァーやリミックスしたり、国境を越えて世界的なムーヴメント(現象)になりつつある若干19歳のきゃりーぱみゅぱみゅのニュー・シングル「ファッションモンスター」がリリースされた。ハロウィーンに因んでジャケットや宣伝写真はお化けや魔女に扮したポートレート、カワイイ怪物達が登場するPVも秀逸で今までの"青文字系アイドル"のイメージをさらに推し進めた強烈な印象を与える。直訳すれば「流行お化け」だが、ここで歌われるメッセージの鋭さに"テン世代のカウンターカルチャーアイコン"としてのきゃりーの本質が凝縮されている。

この現象の仕掛け人の中田ヤスタカ氏によるアップテンポのデジロック・ビートに乗せて歌われる歌詞は単純明瞭な言葉をリズム良く並べたもので何気なく聴くと素通りしてしまうが、ここに込められた意味は人類7000年の命題を引き継いだ限りなく深遠なものである。キーワードは「FREE=自由」。

♪このせまいこころの檻もこわして自由になりたいの♪(「ファッションモンスター」より)

「だれかの ルールに しばられたくないの」と直前に歌われるが、"世間の常識"や"他人が決めた規則"だけではなく"自分の心の牢獄"からも自由になりたい、と言っていることに注目してほしい。「自由を求める闘い」はローマ帝国の内乱、蒙古の滅亡、一向一揆、黒人解放運動、反アパルトヘイト、ラスタファリ運動、大学紛争など世界闘争史の根幹を為す流れである。現代社会では一部の特殊国家は別にしてあまり深刻な問題ではないと思われるかもしれないが、生きている限り人間ひとりひとりの周囲および内面には確固たる束縛が魑魅魍魎のように跋扈し、そこから抜け出そうと抗うのが思春期の胎動であり人間としての尊厳なのである。「I'm Free=私は自由だ」という内容の文学や音楽が如何に多いことか。きゃりーは「I wanna be free=自由になりたい」と歌う。彼女の言う「自由」とは何か。それは2曲目の「100%のじぶんに」で明らかにされる。

♪100%のじぶんを じぶんらしいと言えるようになーる♪(「100%のじぶんに」より)

アメリカの精神分析家エリク・ホーンブルガー・エリクソンが提唱した「Self Identity=自我同一性」の概念そのものである。青春期に自我同一性がうまく達成されないと「自分が何者なのか、何をしたいのかわからない」という同一性拡散の危機に陥る。同一性拡散のあらわれとして、エリクソンは対人的かかわりの失調(対人不安)、否定的同一性の選択(非行)、選択の回避と麻痺(アパシー)などをあげている。またこの時期は精神病や神経症が発症する頃として知られており、同一性拡散の結果として、これらの病理が表面に出てくる事もある。中田氏ときゃりーは誰でも口ずさめるキャンディ・ポップのオブラードに包んでこの存在論的命題を万人に向けて提示しているのだ。

中田氏ときゃりーの「POP=大衆性」と「AVANT-GARDE=前衛性」を融合した曼荼羅宇宙に関してはデビューアルバム「ぱみゅぱみゅレボリューション」に関して考察した通りである。二人がさらに人間性の本質に踏み込んで導き出した解放宣言がこのシングルに他ならない。この狂気と混沌に満ちた世界を如何に生き抜くべきか、ここにひとつの可能性が示された。次は我々自身の力で自らの行動によって答えを出すべき時である。



実存と
非在の世界に
わたしだけ?

奇しくも翌週にはもうひとりの"思索するテロリスト"=松永天馬氏率いるアーバンギャルドから"生き残るための音楽"「ガイガーカウンターカルチャー」という新たなる福音が発表される。2012年10月は地球人類にとっての記念碑として未来の歴史書に記されるかもしれない。

<参考映像:観るか観ないかは、あなたの自由です>


(インドネシアのパンクバンドPee Wee Gaskinsによるカヴァー)



(邦題「自由になりたい」)



(邦題「僕は自由だ」)



(1965年の5thアルバム「ディセンバーズ・チルドレン」収録曲。1990年にグラスゴーのスープ・ドラゴンズがアシッドハウス・カヴァーでリバイバル・ヒットさせた)



(ボブ・ディラン作。トム・ロビンソンはゲイであることを公言したパワーポップ・シンガー)



(1981年のデビュー・アルバム「わたしだけ?」収録)


●きゃりーのデビューミニアルバム「もしもし原宿」が第2回「ミュージック・ジャケット大賞2012」で大賞に選出されたが、43年前の伝説的ロック・アルバムのジャケットに酷似していることが指摘されないのは何故だろう。


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