A Challenge To Fate

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【Disc Review】渦巻く青の退廃と官能〜『蓮見令麻 Rema Hasumi/Billows of Blue』

2017年05月01日 00時15分15秒 | ガールズ・アーティストの華麗な世界


Rema Hasumi / Billows of Blue

CD Ruweh 004 / 2017

Rema Hasumi (piano, voice)
Masa Kamaguchi (acoustic bass)
Randy Peterson (drums)

1 Vers Libre I(自由へ I)
2 Still or Again(まだ それとも また)
3 Nocturnal(夜の出来事)
4 Vapors of Voices(溜め息の水煙)
5 Keep My Water Still(私の水面は静かなまま)
6 In The Mists of March(三月の霧の中)
7 Billows of Blue(渦巻く青)
8 Vers Libre II(自由へ II)
*邦題は筆者

Recorded June 2016 at Oktaven Audio
Engineered by Ryan Streber
Mixed by Pete Rende
Mastered by Luis Bacque


REMA HASUMI Official Site
Bandcamp:Rema Hasumi - Billows of Blue

渦巻く青の退廃(デカダンス)と官能(エロティシズム)

蓮見令麻(はすみれま)とは実に洒落た名前である。筆者がこの名前から思い出すのはフランス文学者であり東大教授のちの総長・蓮實重彥(はすみしげひこ)である。筆者が東京大学教養学部在籍時(1982~3年)、氏の授業は大変な人気で、特に筆者が在籍していた仏語クラスでは大多数が申し込んでいた。確か定員制で選抜か抽選かがあった気がする。筆者が仏語を選んだのはサルトルやコクトーへの漠然とした憧れでしかなく、入学後に憧れの対象がクルト・ワイルやドイツ歌曲に移行し独語のブレヒト読解ゼミを受講したため、蓮實氏の知己を得る機会はなかったが、画数の多い名字と「重」の入った名前と晦渋な映画評論の内容から、気難しくて真面目一辺倒な人物をイメージした。その印象は昨年の三島由紀夫章受賞時の記者会見で裏付けられた。
蓮實重彦さん、報道陣に「馬鹿な質問はやめていただけますか」 三島由紀夫賞を受賞

音楽サイトJazzTokyoの「Jazz Right Now」で蓮見令麻の連載が始まったとき、前任の吉田野乃子のゆるふわな文章と真逆の硬派で学究的な文才に感心すると同時に畏怖の念に打たれた。その時はまだ蓮見の演奏を聴いたことがなかったが、その文筆と知的なプロフィールからイメージしたのは、ニューヨークのロフトで独り求道的に己の芸術を研ぎ澄まし、あわよくば共演者を洗脳して己の学派に改宗させようと試みる宣教師、もしくは情け容赦ない司法の徒の姿であった。具体的にはナチス強制収容所での好色な拷問行為で知られる女看守イルゼ・コッホ(Ilse Koch)である。



Various ‎– Für Ilse Koch (1982 / Come Organisation ‎– WDC 881021)


そんな妄想をしていたところ、2016年秋に一時帰国した令麻に初めて会った筆者は、思いのほか柔らかな物腰に安堵するとともに切れ味鋭い美貌に見とれてしまい会話の内容を殆ど覚えていない骨抜き状態に陥った。彼女はイルゼ・コッホではなく『愛の嵐』のサスペンダー悩殺娘を演じるシャーロット・ランプリングに違いない。もはや溢れ出る妄想の嵐を留めることは出来なかった。



【TRAILER】The Night Porter/愛の嵐


令麻は故・菊地雅章への敬意をことあるごとに語っている。恥ずかしながら筆者はプーさんと呼ばれるこのピアニストを語れるほどの知識を持っていない。2000年代初頭に息子・菊地雅晃(b)と変拍子ドラマー吉田達也とで結成したSLASH TRIOは何度か観た。ハードコアな演奏は衝撃的だったが、シリアス一辺倒の姿勢に近付き難い『壁』のようなものを感じた。令麻はその壁の内側に入り込めた数少ない演奏家のひとりといっていいだろう。

菊地雅章 The Slash Trio - Slash 1° (Version-A)


『Billows of Blue」は2015年の『UTAZATA』に続く令麻の2枚目のリーダー作。ランディ・ピーターソン(ds)とマサ・カマグチ(b)を迎えて2015年に結成した自己のトリオのデビュー作である。白いシーツの上をネコが歩くような繊細かつ大胆なピアノのせせらぎと、べースとドラムの逸る気持ちを焦らすような気怠いヴォーカルは、聴き手の矜持を正す高潔な美意識に貫かれている。その一方で、凛とした瞳の後ろに漲るエモーションに不埒な妄想を逞しくして、朝日の差し込む部屋の寝乱れたベッドを夢想して法悦に浸るのも良かろう。克服すべき『壁』が高ければ高いほど、征服の歓びは大きい。失いかけた野性のハンターの遺伝子を活性化するのが『渦巻く青』の8編の私小説なのである。ふと気がつけば令麻と過ごした47分の夢の充実感は、心の遥か深く禁断の官能の園まで達していた。

Rema Hasumi - "Billows of Blue" Recording Session


青い波
飲み込まれていく
夢の精

Nocturnal Emissions - Tissue of Lies LP


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