日本史で面白い時代
1.大正の終わりから昭和のはじめ、太平洋戦争に突入する前
2.幕末
3.60年代から70年代にかけての安保闘争から連合赤軍に至る過程
1は、日本史の試験には(たぶん)あまり出ないし、意外と知られていない時代ではないかと思う。しかし登場人物たちがみな怪しすぎで面白い。
2は言うまでもないが、新撰組のことを「あいつらって極右のテロリストだよね?」と言うと、新撰組ファンはとっても嫌な顔をする。
3についてはまたいつか機会があったら語ってみよう。
「甘粕大尉 増補改訂」角田房子 ちくま文庫 2005年(改訂前の初版は1975年中央公論社)
たしか高校生のときだったろうか、読んで衝撃を受けたことは覚えているのだが、内容を理解できたかというとたぶんできていなかったろう。
ガキの頃に読んで「分かった気になった本」「さっぱり分からなかった本」を大人になって再読してみると、「そうだったのか!」と思うことが多い。
で、再読してみた。増補改訂版だし。
無政府主義者大杉栄を知っている人はもう多くないだろうが、その大杉を殺害したとされていた(いる)のがこの甘粕正彦。憲兵隊の大尉だった。
この本では、その大杉栄事件に詳しく迫り、そしてその後の甘粕についても深く広く追いかけている。
満州に渡り、満州を制する帝王のような存在になるのだが、その過程には何があったのか?東条英機、岸信介など大物から小物まで、様々なエピソードを織り交ぜながら、激動の昭和初期をこれまでかと描きだしてくれる。
甘粕正彦が中心に描かれるが、彼自身がこの時代の中心にいたと言っても過言でない存在であったので、甘粕の動向を知るとこの時代が大体分かってしまう的側面がある。

出典がよく分からないのだが、この時代に描かれた物だろう。当時の甘粕に対するイメージがどんな物だったかよく分かる。 ※追記:通りすがりものさんコメントより、この絵は丸尾末広という、この時代じゃない現代を生きる人が描いたということが分かった。恥ずかしい。
しかし、甘粕の人物像が明らかになるにつれて、「正しい」考え方の持ち主であったように思えてくる。
※ 伝記がやや危険なのは、主人公がどんな人間であれ著者の書き方と読者の感情移入によって、主人公が「よい」人間、「正しい」人間に思えてしまうこと。佐野眞一であれば「旅する巨人」を読むと宮本常一にシンパシーを感じるし、「巨怪伝」を読めば正力松太郎にネガティブなイメージを持つというような例もあるので、書く人間の力量・方法にもよるのではあるが。
戦略の天才と称された石原莞爾も本書の重要人物の一人。彼と甘粕を比較した箇所が面白かった。
甘粕は石原を「あさっての計画はすばらしいが、明日がぬけている」と評し、石原は甘粕を「思想のない実務屋」と呼んだという。これを聞いて思い出されるのは、退役後の石原と護衛の目的で監視につけられていた一憲兵との会話である。憲兵が「閣下(石原のこと)は東条閣下と思想的に対立しておられるそうですが」と質問すると、石原は「それはおかしい。なるほど私には思想があるが、東条には思想がないじゃないか」と答えた - と伝えられている。(267ページより引用、カッコ内は俺の注釈)
どうしてこんな本が出版されてしかも売れたのか分からない「国家の品格」
こんな本を買う人間、読む人間がいることが理解できない「女性の品格」
こんな本よりも、本書のような本が再評価を受けることの方がはるかに嬉しく思う自分は世間のマイノリティなのだろうか?人とは同じでは嫌だと、望んでマイノリティに入ろうとするのは、結局人と同じになるだけだ。自分がマジョリティに入ろうがマイノリティであろうがどっちでもいい。ただ、上記の意味でのマイノリティであれば、むしろマジョリティには決して入りたくないが。
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再評価と言えば、志水辰夫の初期のハードボイルドの傑作が再評価がされているのは微笑ましい。




どれも傑作だ。

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読んでみたいと感じたの。
エネルギッシュでユニークですよね。
私は伊藤野枝の生き方にかなり興味があって、いろいろ読みましたが、甘粕大尉に対してはどれも冷酷無比な書き方でした。
そういう意味では読んでみたいです。 また別の一面が見れそうですね。
かっこよすぎであったね
対戦前夜の満州事変あたりというのは
さらっとしか教えてくれなかった部分ではないかしら
満州に渡った人たちは多くを語らないし、、、
興味ある人物だと思う
実務屋なんだ。。。
②新撰組は極右 だよね~
③兄貴はど真ん中世代でそりゃもう。。。
大変だった(爆
3はあまり人物が思い浮かばないような気がする。小物はたくさんいたんだろうけど。
その後の歴史を見ても、あの安保世代が日本でどんな役割を果たしたのかがさっぱりわからないんですよね。そのど真ん中を生きた人たちは大変な時代だったと等しく言うんだけれども。
新人類と呼ばれたわたしたちには、正直ちょっと理解できない時代だったような気が…。
甘粕…甘いワナをしかけるカス野郎かと思ってました
日本史より世界史を選択したユウマです
ジェンジェン分かりません(ToT)
あっ3で兄が警察のブラックリストに乗ってたとか(笑)公務員の父から聞きました
今は国外逃亡してタイの駐在員です(爆)
その前に甘粕自体を知ってる人が少なさそう。
大杉栄の事件も大杉の甥っ子を殺しちゃったからかイメージ悪いし。
それにしてもイラストがなんか横溝正史作品の挿絵っぽいわ(笑)
さくさくっと読めるよ。
と言いたいところだが、盧溝橋事件、張作霖爆殺事件など、詳しく説明してくれるわけでないから
最低限の背景知識がないと、さくっとは読めないと思う。
★Nobさん、
伊藤野枝に興味があるとはかなりマニアックですね(笑)
甘粕について、冷酷無比であるという印象を与えているのはなぜか?
ということがこの本に書いてあると思います。
甘粕がどんな人間か一言で言い表せないということも。
★shun-ranさん、
坂本龍一のイメージとは違うと思うけど、
少なくともダサイ人間ではなかったみたい。
学校の歴史の授業はたいてい、第一次大戦まで終わればいい方だったよね(笑)
甘粕以外にもこの時代には怪しいという意味ではキャラてんこ盛りだったね。
③のときには私はもう還暦過ぎてたね(爆)
★あお空さん、
ここでその問いに熱く答えてる場合でもないような気がします(笑)
全共闘世代が現在社会の中枢あるいはそのちょっと上辺りにいること。
当時左(?)へ傾いた時代からのゆり戻しが後の右(?)寄りの時代を生んだ。
ただでさえ左への取り締まりが厳しかったのが、さらに強化されるきっかけとなった。
と今思いつきでてきとーに書きました(笑)
機会があったら記事にするかも知れませんが、私がそのような約束を守らないことはよくご存知でしょう(笑)
★ユウマさん、
そのマンガは知らなかったですね。
甘粕=ずるい奴 という言い方だって正しいと思いますよ。
しかし潔い奴 という言い方もたぶん「あり」なのでしょう。
人間とは一義的に表現できない多面体であるといういい例だと思います。
お兄さんがブラックリストですか(笑)
★エミさん、
なぜ甘粕のイメージが悪いのか?
それは作られたものなのか?それについてはこの本に詳しく書いてありますよ。
このイラスト(?)がどっから出てきたのかさっぱり分からない(PC内に保存されてた)
当時の新青年とかの雑誌の挿絵はだいたいこんな感じだったですよね。
通りすがりに覗いた者です。
出典不明物件のヒントになるかと思いまして。
http://www.maruojigoku.com/
確かに甘粕のイメージが良く解ると思います。
但し「後世の人の」ですが。
出典よく分かりました。
ありがとうございます。
丸尾さんは現存する方だったのですね。
昭和の頭に描かれたと思った私がアホなのか
描いた丸尾さんが凄いのか。
※ このコメントを読まれた方で
当該イラストに興味を持たれた方は
通りすがりさんが貼られたリンクを
見に行くと丸尾ワールドを見る事ができます。
この小説は伝奇SFなんですが、甘粕も重要な役として登場してます。
というか久しぶりにこの絵が見たくなって探したらここがひっかかりました。
3年も前の記事にコメント失礼します。